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祈りとして  あるいは循環

作者: 古都ノ葉

先達が造った石段を登ると川が見下ろせる



透明に見える空気はどこまでも広く

視界は早くなった水の流れを捕らえることができた

太陽はぼんやりと雲に隠れ 周囲は澄んでいる



石段を登り切ると露を含んだ樹木が伏して (やしろ)に鎮座している神を包んでいた

鳥居をくぐれば

すぐ想い出に会えるのを私は知っている

子供の頃に上を目指した樹は 苔むしたしめ縄が掛かっていた



カナやトシにエイコは今なにをしているのかな

懐かしい名前が口をつく


ここはあの頃と変わらない


葉がざめわいているよ

隆盛を誇った緑が色づき 時にはらはらと舞い踊り 流れるように落ちてゆくよ





五十年先に 私は居ないだろう

百年先には たぶん見知った人も居ないだろう





それでもここに誰かが立ち

しめ縄の樹を見上げ

今日のことをつぶやくのだ

きっと



春に草だらけになり

夏に蝉の殻が

秋は虫の声で

冬は沈黙する


樹の下で誰か歌う

私なんて誰も知らない世界が続いている


愛しているよ

愛しているよ

愛していたよ


私の居なくなった世界で

名も知らぬ人々は何を思っているだろう


腐敗したものに爪を立てて 声なき声で叫んで 空が見えないとつぶやいて

生まれたことを嘆いてはいないか 苦しんではいないか

笑いながら





五十年先に 私は居ないだろう

百年先には たぶん見知った人も居ないだろう





チズにチハヤ みんなで遊んだ境内から

シンにミユキ まだ川の流れが見えるよ



ゆらゆら漂う船はゆき先も知らず

目的地はない



時は逝き

形のあるものは崩れてゆく

季節は巡り 巡ってゆく



まだ見ぬ世界が幸せでありますように

樹の下に立つ者が幸せでありますように

(えにし)が続き皆が幸せでありますように



春に芽吹き

夏に遊び

秋に学び

冬に集えますように



瞬きするほどの時間を生きた者の祈りとして

雨上がりの輝いた風を見た者の祈りとして



 

沈黙と供に

読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 自然の営みの中で、人が生きる時間は短いものですが、実際には、長く険しく感じられる日がありますね。「春に芽吹き」〜「冬に集えますように」の部分に、私も同じ気持ちで祈りたくなりました。 情感溢…
[一言] 世界をありのままに見つめる澄んだ目だけが、世界を愛しく見つめる温かい目になれる。 死と生命の意味を自らの魂に問う言葉を持たない人には、目に見えるものしか見ることができない。 静かな時間…
[一言] 日本は、山の中に神をみて。 イニシエから、祀っていますよね。 変わらぬ場所は、鳥居の奥にあり。 そこで紡がれるひとの縁。 そして、幼少から成人に向かって離れていく。 仲間たち、故郷。 …
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