リベンジ・牙!
場所は王都へと続いている道、そこを馬車よりも速い速度で走っている人影がある。俺である。
ちくしょう、院長の奴め、あの顔で何頬を赤くしてんだよ、お前の適齢期は既に過ぎてんじゃねぇか。
それに七三、馬車の趣味同様に女の趣味まで絶望的じゃないか。そもそもあれは女と言える代物じゃないぞバカ野郎。
後、孤児院に来たのは指示で大体は上が勝手にやったことで七三自体はアピールするために孤児院に来てただと? ふざけやがって、さんざん振り回しておいてそのオチはないだろう。
ここはシンプルな答えだ。
「腹立つ」
木っ端微塵作戦は中止にするとしても七三は1回殴る。八つ当たり? 当たり前じゃないか。
あんな勘違いを生む性格のせいでどれ程の人が苦しんできたかアイツには分からないんだ。
俺が分かることでも無いけどな、つーか知らん。毛ほども興味はない、俺は今、八つ当たりをするためだけに走っているのだ。
走り出して数時間、俺は街道と呼ばれているわりと道のようになっているところの少し横を走っている。
この街道は、馬車がちゃんと走れるように整備された道だが、俺が走ると勢いで地面がボロボロになるから止めた。
この街道は王都に直通なので道沿いに進めばつくだろう。
ぶっちゃけ俺の足って結構速い、馬車よりも早いのでそろそろ七三の馬車が見えてもおかしくはない。
「あ、いた」
趣味の悪い死ぬほどダサい馬車がそこにはある。周りには馬車から降りて魔物と戦っている護衛達がいる。
「あちゃー、牙達がもう襲ってるな。どうしよう、猛烈に帰りたくなった」
グラスウルフの群れに囲まれている馬車。護衛の奴等は何とか頑張ってはいるらしいが攻撃は一切当たっていない。
流石は牙率いるグラスウルフだ。良く訓練されているな、だがしかし、俺の事情もあるのでここで退散してもらおう。
俺はその場を跳躍し牙の目の前に勢い良く着地する。
「な、なんだ!?」
護衛の1人が叫ぶ、グラスウルフの群れや牙も驚いた様子だ。まぁ、雰囲気なので詳しくは見えない。勢い良く着地したせいか、砂煙で前が見えないからだ。
「あ、思ったより多い。目眩ましには丁度良いかな?」
俺も見えないけどな、少しは落ち着くだろう。
砂煙が時間と共に散っていき、辺りの景色は鮮明に見えてくる。
誰1人としてその場から動いていないようだ。牙達も警戒をして不用意に動くことはなかった。
「な、貴様は!?」
後ろから七三貴族が俺を見て驚く。すると目の前にいた牙もが目を見開いた。
「ランド殿!? 何故ここへ!?」
「悪いな牙、作戦は中止だ。コイツに死なれては困る……らしい」
「なんのことだかさっぱりでは有るが、ぬぅ……しかし我らもそう易々と引き下がる訳にはいかぬ故」
まぁ、俺1人が現れただけで逃げるとか意味分からんからな。仕方ない、ある程度演技して撤退してもらうか。
「なら少しだけ手合わせしてお前達が逃げる。それで良いか?」
「うむ、まぁそれなら辻褄が合うのであろう。皆、これよりランド殿を狙う、攻撃しろ!」
雄叫びを上げた牙に答えて周りのグラスウルフは俺のもとへと襲いかかる。
それを間を縫って馬車の方へと下がると七三に下がるように促す。
「ここは俺が何とかするから自分の身だけ守ってろ」
「しかし! 何故貴様がここにいる! 守って貰う必要などない!」
「院長の頼みでな、大人しく聞いてろ」
「分かった」
変わり身が早すぎる。本当に、院長の事を想ってるのか……世も末だな。
警戒しつつも後ろに下がっていく七三達、護衛の奴等は俺を睨んでいたものの、護衛の任務のためにやむを得ず下がっていく。
「ランド殿、いくら演技と言えど我らはそう簡単にやられる訳にはいかぬ。それに加え、ついでに全力で挑ませて貰うぞ!」
「何それ面倒……」
軽くで済ませるつもりだったのに思いの外やる気があるので逆に此方のやる気が削れていく。そんな予定じゃ無かったんだがな……。
俺の言葉を待つことなくグラスウルフは俺に襲いかかる。
うーん、面倒だがやられたい訳でもないしな。よし、ボロカスにしてやろう。
後方から襲い掛かってくる1匹に回し蹴りを加え吹き飛ばすとそれを皮切りに次々とグラスウルフが群がって、連携して襲いかかる。
俺はその場から動くことなく拳、足を使って対処していく。その様子を見ていたのか七三貴族の護衛達は驚いている様だった。
「な、なんなんだアイツは!」
「あの群れを難なく対処してるのかよ!」
五月蝿い奴等だな。そんなにボーッと突っ立ってるとグラスウルフか行くぞ。
俺はグラスウルフを1匹鷲掴みにすると護衛達の方に投げる。
突然の事に慌てた護衛達だが、グラスウルフの1匹もマジで驚いていた。牙も同様に。
「何をしてるのだ、ランド殿!?」
「ほら、危機感が足りないと思って。それにこの程度の腕のやつらに負けないだろ」
「それはそうだが……やるならちゃんと言ってくれ」
「戦いは何が起こるのか分からないからな、油断する奴が悪い」
ぬう……と唸る牙だが、正直正論なので異論は認めません聞きません。
「ならば我らも本気で相手をしよう」
さっきから割りとマジだったのに今度は殺す気で来るんですかね? 非常に面倒だ。[回転]使おうかな……でも馬車が邪魔なんだよな。
普段なら気にせず使うんだが、馬車を壊すとコイツらが帰れないしそのついでに魔物に襲われたら終わりだしな。
条件が多すぎて怠い。
遠吠えをした牙、それに続くように他のグラスウルフも俺を囲みつつ遠吠えをする。
その訳の分からない事に首を傾げていると後方から先程よりも速く突進してくるグラスウルフがいた。
「む、速いな」
寸での所で交わし、すれ違い様に拳を振るおうとすると波状に際限なく他のグラスウルフがフォローと攻撃を繰り返してくる。
さっきと同じ戦法だが速さの段階が明らかに上がっている。
最初からこうすれば七三の乗っている馬車はすぐに壊されていただろうな。
弱冠見辛くなってきたが、まぁ、捉えられるから大丈夫だろう、ここ最近森の連中は強くなりすぎじゃないかな? どのくらい強いのかは分からないが俺と良い勝負をするようになってる。
まぁ、俺の場合は元々あった防御力とかスキルのお陰だが、努力とかでここまで来たのなら俺なんて話にもならなさそうだな。
「ぬぅ、これも防ぐか……だが、この攻撃を受けながらも耐えられるだろうか!」
新しい攻撃か? 牙君、そういうの言っちゃダメだと思うよ、黙ってやらなきゃ。
人間相手なら言葉が通じないから問題ないけど、俺は一応魔物だからね、何するか分からんが警戒するくらいなら出来る。
──アオォォォォォン!
今までで一番大きな咆哮を上げた牙。その咆哮は衝撃波を纏い俺の体に打ち付けられる。
なかなかの威力に少しだけバランスん崩すと畳み掛ける様にグラスウルフ達が群がる。
だがその数は少ない、まるで前衛と後衛に別れているような気がする……まさか、遠距離攻撃か?
──アオォォォォォン!
次々と咆哮をあげるグラスウルフ達、そしてやって来るのは衝撃波の嵐、四方八方から近距離、遠距離問わず飛んでくる攻撃の対処に追われる。
「なるほどこれはキツイな」
大変だぞ、体力は無限に有るが手数が足りないな。
……やっぱり素の身体能力じゃ限界がありそうだな、尤も、体は石で出来てるから石にそんな希望を持ってはダメか。
「よし、俺もスキル使うぞ」
『付与』[速度小up]×3を使い、今までよりもおよそ2倍近くは速度が上がっただろう、これなら手数も倍だ、余裕で対処が出来る。
それと、ずっと捌いて攻撃は加えてなかったし、余裕の出来た今ならついでに攻撃も出来るだろう。
……終わらせるとしようか。
1匹を交わし、首筋に手刀を当てた後に鷲掴み、咆哮をあげているグラスウルフに投げつける。怯んだ隙に、空いた場所から離脱し遠距離攻撃を繰り出すグラスウルフを叩きのめす。
それを人数分繰り返し、連携をとれなくしていくと、時間の問題で瓦解はもうすぐそこまで迫っていた。
──アオォォォォォン!
指示を出していた牙もまた、咆哮をあげ、自身を強化すると俺に飛びかかる。
その速度はどのグラスウルフでも到達できないような速さだ、素の状態なら俺でも厳しいかも。今は関係ないけど。
大体今の俺と同じ速度か少し速い位かな、その突進の威力なら俺の体にも傷は入りそうだ、受け止めるのは止しておくか。
「ぐほぉあ!」
俺は牙を受け流し、腹に拳をめり込ませて1発KOを、決めた。
ダウン寸前で体を捻って着地した牙だがダメージは大きいようだ。血を吐き出した。
「ぬぅ、流石はランド殿……今回は我らの敗けで良いだろう。次こそ勝つ!」
一吠えすると、仲間を連れて去っていった。
……なんだ今の負け犬感、お前狼だろ。
「よし、終わったな。んじゃ、俺は帰るから後は頑張れよ」
馬車の方に歩みより、七三に告げるとその場を去るべく俺は駆け出す事にする。
「待ってくれ! 流石にお礼がしたい。ぜひ王都まて来てくれないか!?」
突然の王都誘いである。
なるほど、行く機会も訪れなさそうだからな、これは良い機会では無いだろうか。
「お断りします」




