床を直すことには意味がある。
「……と言うわけでこのお兄さんが壊してしまった扉を直したんですよ」
「すっげぇ! あんなボロボロだったのに! 兄ちゃんやるな!」
孤児院の子供にキラキラとした目で見られる。
眩しい、浄化される! ……気がする。
エマと共に院長、孤児達に扉を直したことをなんとか説明し、落ち着いてもらうことに成功した。
俺としては特に何て事ない事だし、こんなこと出来る奴なんていくらでもいると思うんだけどな。
「院長、それにしても何故こんなに老朽化が進んでいるんだ? こんなになるまで放置した理由はなんだ」
そう、この無駄に老朽化の進んでいる孤児院。
本来なら進んでると分かり始めたら建て直すとまでは行かないが少し改善することだって出来た筈だ。
「そうね、貴族に関係が有るかは分からないのだけれど、大分前から急に腐食が進んでね。それに支援金の方も少なくなって行ってるの」
「この事を領主には話したのか?」
「えぇ、あの人は皆の話を聞いてはくれるし、ありがたいのだけれど、証拠がなくて糾弾するのも厳しいらしくて。頭まで下げてくれたわ」
領主。まぁアイツは街の事を第一に考えているのは初代面の時に少しだけ分かっていたが、孤児院の事までも考えて頭まで下げるとはな。
「なるほど、話を聞く限り、ここに押し掛けてくる貴族が怪しいと言うことだな」
「まぁ、そうね」
と言うか、こんなに如何にも私がやってますな雰囲気を出して怪しまれて無いとでも思っているのだろうか。
それならば実にアホだな。
いや、お偉い貴族様の事だし余程崇高かつ素晴らしい算段があっての試みだろう。
こんなバレバレの行動はとらない筈だ。
「もしかして解決してもらえるのかしら?」
「安心してくれ、そんなことは無い」
面倒事には関わらないのが1番だ。
俺にはやるべき事が沢山有るからな、例えばのんびりするとか、だらけるとか、横になるとか。
幸い、エマの奴は子供と一緒でこの話を聞いている訳が無いので、さっさと依頼を済ませてその場を立ち去りたい。
「さて、依頼の内容をどうする?」
「そうね、ならこの件を……」
「却下だ。そんな事をすれば依頼料はバカにならんぞ、そんな金無いだろうに」
「確かにそうね。今回の依頼料は殆どボランティアみたいな値段だもの」
銅貨7枚だからな。
貨幣の価値は分からないがかなり安い方だと思う。
ゴブリン狩りの方が高くつくし、いっそのこと森から持ってきた果実を売った方が高い。
俺は別に金はいらないんだけど、ちゃんと人間っぽい事してないと殺されるかもしれないじゃないか。
嫌だぞ、街1つ相手なんて負ける要素しかない。
「じゃあ、仕方ないわ、子供達と遊んで上げてくれる?」
「まぁそれくらいなら構わないだろ」
依頼の内容は理解したので、エマにも教えて野郎と振り替える。
「はっはっは~! こっちですよ! 捕まえてご覧なさい!」
「なんだあのねぇちゃん! 速いぞ! 囲め囲め!」
……既に意気投合しており、かなり遊んでいる。
凄いな、10人以上の子供相手に逃げているのも凄いが、かなり大人気ない速度で逃げていると言うのが一番凄い。
これは俺は必要ないだろう。
微妙に気分も乗ってきたし、ソファーと床も破壊してしまったからな、俺はそっちも直しておこう。
幸い、薪も余ってるし、足りないなら外から持ってくるとしよう。
「俺は床を直させてもらうぞ、壊してしまったからな」
「助かるわ、良ければ他も見てくれないかしら」
「それくらいなら構わん」
俺は院長と共に孤児院へと入り、ちょこちょこ補習をしていく。
子供達が踏んでしまうと抜けたりして怪我をされると困ると言うことで床を重点的に直していく。
俺のやることなすことにいちいち反応してくる院長。
別に凄いことをやってる訳じゃないんだ、いちいち驚かなくても良いのでは?
「いや、結構凄い事よ。自覚ないの?」
「いや全く? 俺からしてみれば大した事はしていない……っと、ヤバいな補強に使える木が無くなった」
「あら、じゃあ今日はこの辺にしておこうかしら?」
「いや、まだ時間は有るからな。街の外から木を取ってくる。床位ならもうすぐ終わるからな」
「悪いわね……じゃあ、お願いしても良いかしら?」
「あぁ、早速行ってくる」
孤児院から出て、門の方に向かおうと言うところでエマが来る。
「どちらに?」
「孤児院の修繕をするために木を何本かな、お前は子供と遊んでいろ」
「分かりました、お気を付けて」
手を振って見送るエマを背に、特に何事もなく外へ行けた。
途中にこの街では俺は初めてみる飾りつけをした趣味の悪い馬車が通って行ったが、あんな馬車に乗れるとは相当美的センスが欠如しているに違いない。
街の外から大木を2、3本なんとか引き摺りながら戻る。
その途中で色んな人に見られていた気がするが、多分気のせいだろう。
孤児院に戻ると孤児院の前にはあのダサい馬車が止めており、何やら玄関辺りが騒がしい。
……俺の直した扉が何らかの話題を呼んだのだろうか。
ちょっとワクワクするな。
ワクワクドキドキしながら扉の方へと歩くと背の低いヒョロっとした男が5人程のガタイの良い男達と共に院長と話をしていた。
……エマと子供達がいないな、院の中に入っているのだろうか。
あそこはまだ床の修繕が終わってないので勘弁してほしい。
院の庭のその辺に木を置いて、修繕に使える様に加工をする。
そのままだと中に持っていけないもんな、面倒だがこういう作業が後々良い結果に繋がるのだ。
職人としてはここは大事なのだ。
加工をし終え、床を直すために院の中へと入りたいのだが、如何せん男どもが邪魔だ。
しかし、知らない人へと話しかけるのはどうしたら良いものか。
1、「少々失礼」
2、「どけ、醜い豚どもが」
3、いっそのこと無視して入る。
さて、どれが良いだろうか。
個人的にはユーモア溢れる2を選びたい所だが、あんな馬車の趣味だ、通じないだろうなこの面白さは。
……よし、決めた。
俺は今必要な素材だけを手に、扉へと向かう。
院長は此方へ気付き、首を微かに左右へ振っているが何がしたいのだろうか。
気にしないで行こう。
男達を通りすぎ、恐らく一番偉いかも知れないヒョロい男を通りすぎた所で肩を捕まれる。
ふっ、バカめ、その程度じゃ俺は止めらんねぇぜ。
気にせず歩くとしよう。
今は床が一番大事でこいつらに構ってる暇は無いんだ。
「ちょ! 止まれ! 私が誰だか分からないのか!」
「新聞の勧誘なら要りません。え? 洗剤が付いてくるって? ……10箱用意してから来いや」
「なんの話だ! 新聞とは何だ!」
本当に何だろうな、浮かんだから言ってみただけなんだけど妙に押し売り感の強そうなこの男にピッタリだと俺は思う。
そのまま男を引き摺り、俺は目的の直す場所へと向かい加工した木材を床へと置く。
さて、後はここら一帯の床を補強とかして寝室辺りでもやろうかな……。
「貴様! この私を無視して何をしようと言うのだ!」
ヒョロい男は俺の前に立ち塞がろうとする。
あ、そこはまだ補強してない。
案の定、男は床を踏み抜き、背が低いせいで胸の辺りまで埋まっていた。
「おい、邪魔するなら帰れよ。ここは素人がいて良い場所じゃないし。勝手に踏み抜きやがって、修繕費請求するからな。お前だれだ」
「そんなことより私をここから出せ! こんな汚い場所に居たくなど無い!」
ギャーギャー騒ぐ男。
人が話しているのに聞かないとは、人としていけないことだろう。
今は俺の番だ。
「おい、俺の質問に答えろピッチリ七三分け。このまま床と同化させてやろうか」
俺の必殺技、アイアンクローをぶちかます。
万力の如くキリキリと威力をあげていくと比例して悲鳴が上がる。
「イタタタタタ! 分かった! ここから出せば答えるから!」
アイアンクローを続行したまま持ち上げて床へと下ろすと七三分けは威張り散らした様に名乗る。
「私はかの有名なブンシャ家の当主、シン・ブンシャだ!」
ババーンと胸を張る七三分け。
ふむ、貴族か……どうでも良いな、床直そ。
そうして俺は男を無視して床の修繕に取りかかった。




