街の危機
初めて街に訪れて2日目に突入した。
寝ることが必要のない俺は夜な夜な出歩こうと思ったのだが、止められた。
「そんなことしてたら絶対見回りの兵士に捕まりますからね!」
と言うことらしい、そりゃあ、夜に見回る奴が居なかったら治安維持は大変だもんな、そんな暇でやることもなかった俺はかなり退屈な時間を過ごすのだった。
こうなったら次の日は街の外に待機しよう。
そうすれば宿代も浮くだろう、そうしよう。
長かった夜も終わり、宿から出た俺らの前に1人の男が立ち塞がる。
……だれだコイツ。
「おい! 貴様! なぜ来なかった! いや、違う! お前しか居ないだろ! 後ろには誰もいない!」
やっぱり俺か、もしかして俺の後ろに誰かいるのかと思ったのだが。
あー、ダメだ、やっぱり思い出せないな。
「え、ランドさん、本気ですか?」
「あぁ、だれだアイツ」
「あれですよ、えーと、済みません私も忘れました」
「おい! 聞こえてるんだよ! お前の依頼を取った男だ!」
「そうか、わざわざ謝りに来てくれたのか、悪いな」
「そう、その節は本当に……違うわ!」
うわ、ノリツッコミって奴じゃん。
本当にいるんだな、女冒険者を見ろドン引きだぞ。
どうしてくれるんだこの雰囲気。
「それよりも! 何故来なかった?」
「何がだ?」
「ギルドの訓練所に呼び出しただろうが!」
「全然知らない」
「なんだと!? ……俺は何時間も待っていたと言うのに」
本当に何なんだコイツ、迷惑な奴だ、無視して依頼を受けにいくか。
「ちょ、ちょっと待てよ! どこに行くつもりだ!」
「ギルドで依頼を受ける、冒険者として当たり前だろ」
「済みません、私達忙しいので後にしてください」
遂に女冒険者に迄邪魔者扱いされたな、哀れだ。
一瞬何を言われたのか理解していなかったらしいがこちらの都合には関係ないので無視だ無視。
女冒険者は情報と必要なものを買いに行くらしい。
俺は1人で依頼を受けるとする。
*
ギルドはそこまで混んでは居なかった。
朝早くには沢山の冒険者が集まるものだと思っていたのだが。
どうやら田舎なので冒険者もあまり多くは無いそうだ、早起きして損すると言う奴だ。
俺としては辺境だからこそ危険な魔物が出ると思ったんだがな。
ギルドに入ると昨日の受付嬢がいた。
軽く会釈してギルドの依頼書を見る事にしよう。
何か良い依頼は無いものか。
すると急に入り口が慌ただしくなる。
そこに視線を向けると1人の兵士が慌てた様子でギルドに入ってきているのが分かる。
「た、大変だ! アラブルベアが出た!」
その言葉でギルドは余計にざわついた。
さて、どの依頼を受けようか。
ほう、イノーゴスの依頼はまた出ているな。
今度は俺が倒そうか。
「この依頼を受注してくれ」
「え?」
普通に依頼を受けようとしたら驚かれた、何故だ、どの依頼を受けようとも俺の自由だろう?
もしや同じ依頼は連続では無理と言うことか……?
それならば残念だが他の依頼を選ぶとしよう。
「あの、聞いてましたか?」
「何をだ?」
「アラブルベアが現れたんですよ?」
「それがどうかしたか?」
その魔物が何だって言うんだ。
俺に関係あるのか、答えはない、依頼を受けさせろ。
唖然とする受付嬢。
兵士も他の冒険者も同様だ。
「この緊急事態に何も思うことはありませんか?」
「うーん、……特にはないが?」
「え、えと、今はそのアラブルベアの対処のために忙しくなるんですが……」
「そうか、ならばこれだけでも受けさせてくれ」
受ける事の手続き位なら直ぐ終わるだろう?
はよはよ。
「冒険者殿、実はですね、今出てきているアラブルベアと言うBランクの魔物が辺りを彷徨いていまして、門を完全に閉めており中からは出られないようにしているのです」
なんだと……、つまりあれかソイツが消えるまで依頼が受けられないと?
……今日はゆっくり出来るな、公園辺りでのんびりするか。
「事情はわかった、では依頼は受けずに今日は休むとしよう」
俺はさっさと出ることにした、早く行って終わらせてのんびりするつもりだったのだが、ただの休暇になったな。
「まてい!」
今度は知らないところから声が響く。
さて、公園は何処だろうな。
「えぇ!? いや、ちょっと待て!」
すると怪我をしているハゲたおっさんが俺の前に立ち塞がる。
「だれだお前」
「え? マジでかお前、俺をこんな目に会わしておいてか」
「質問に答えろよ」
「あぁ、俺は昨日お前の冒険者登録の試験官だったダガシカシだ、人の名前位覚えろ」
「わかった、おいハゲ、どけ、邪魔」
ギルドがかなりざわついた、面倒だな、俺はギルドに用はないんだよ。
すると受付嬢と兵士が俺に詰め寄ってくる。
「ちょっと! ランドさん! その言い方はあんまりですよ!」
「そうですよ、ダガシカシさんはこの辺境でも有名な方です。侮辱はよしてもらいたい」
「なぁ、帰りたいんだが」
「まぁ、俺の話を聞け、ランドと言ったか? 俺は今この様だ、そんでもって動けない、そしてアラブルベアは俺くらい強くなけりゃ倒せない。そして俺をこんなにしちまったのはお前…言いたいこと分かるよな?」
「さっぱりだ」
「用は、アラブルベアの対処をお前がやってくれって話だ」
「そ、そうです! ダガシカシさんを倒したランドさんなら!」
ギルド内はまた違ったざわつきが始まる。
「アイツが……」「マジかよ、そんなに強ぇのか」
などと言っている。
「お前さんが俺をこんなにしてくれたからな、落とし前の意味も込めて、アラブルベアを討伐してくれや」
キリッとカッコつけて言ってくるハゲ、
「お断りします」
「は?」
「お断りします」
「話を聞いていたのか? お前さんのお陰で街が困るわけだぞ?」
「何を言っている、街が困るのはその魔物のせいで俺じゃない。それに、あんたがそんな姿になったのは自己責任と手加減をしない戦いをしたからだろ? 自業自得だろ」
「う、かなり正論だ、俺は折れてしまいそうだ」
「何なら骨もついでに砕くか?」
責任転嫁甚だしい。
何のメリットがあって俺が出なきゃならんのだ。
「だが、この街のために、頼む!」
「お前はバカか?」
「え?」
「俺は冒険者だぞ、街の事なんざ知らん。それに、頼み方の問題だ、俺らは慈善事業じゃない、それに、街が滅ぼうが国が滅ぼうがどうでも良いからな」
「……なるほど、確かに俺はこの街に長く居すぎたからな、勝手に力を貸してくれると思っていたぜ、受付嬢ちゃん! ランドに指名依頼だ銀貨報酬は銀貨5枚!」
「断る、もっと出せるだろ、足元みてんじゃねぇぞ」
「お前さん、鬼だな、なら10枚だ」
「わかった」
鬼? はは、それは家の近くにいる呑んだくれの話だろ、俺はゴーレムだ。
「依頼書の作成が終わりました。目を通してください」
「……うん、承った、この金額が適正でなかった場合はマジで覚悟しておけよ」
俺はそのまま門へと向かっていく。
*
ギルドに残った連中は緊張の糸をほどいて一息ついた。
「ふぅ、なんだ、アイツは図太すぎる」
「全くです、緊急事態に普通に依頼を受ける人なんて見たことないですよ」
「恐らく彼には正義感と言うものはありませんね」
「あぁ、Bランク冒険者の俺を脅すってそんなやつ見たことがねぇよ」
「しかし、ダガシカシさん、適正じゃなければ覚悟しておけよって言われてますがどうしますか? 正直、アラブルベアの適正報酬は素材売却を抜いても銀貨5枚は足りてません」
「やべえ、マジで死ぬかも知れねぇな」
*
さて、アラブルベアとやらはどこにいるだろうか、この辺りを彷徨いているらしいが。
兵士が言うには街の周りを回っているらしいな。
……あれだろうか、一見ただの熊にしか見えないな、熊知らんけど。
遠目でも分かる程デカイ、5メートルは、あるんじゃないかな。
俺が初期ゴーレムの時よりも大きいわけだ、勝てるかなぁ。
まぁ負けたら負けたで森に帰ろう。
この街に来たときの速度でアラブルベアへと接近していく、すると向こうも気づいたのか、二本足で立ち、威嚇をしている。
そこで面白いものを見た、アラブルベアは腹の辺りにある模様が骸骨の様な模様だった、いかにも「おれ、暴れるんで」って感じだ。
距離が詰まれば詰まるほどデカく感じる。
その距離は残り数歩だ、俺は速度を落とすことなく勢いに任せて拳を振るう。
するとその巨体に見会わぬ程の俊敏な動きで横へ回避された。
カウンター狙いだったのかもしれないが、俺も直ぐには止まれないからな、そのままある程度距離を離した。
「貴様、俺様に何のようだ」
「喋るのかよ」
多分、人だと吠えてるだけにしか聞こえていないのだろうな。
俺は魔物だから分かるんだがな。
「俺様の言葉が分かるのか、まぁ、関係ない、ここで死んで俺様の餌さとなれ!」
「断る」
大振りの腕を避け、空いた脇腹に拳を埋め込む。
苦しそうに唸って後退する、それで態勢が整うまで待ってやるほどお人好しじゃない。
追撃とばかりに詰めよりその骸骨の模様をした腹へと再度拳を埋める、すると吹き飛ぶと同時に振り下ろした拳が俺の脳天を直撃し、俺も顔面から地面に埋まる。
「ぐふっ、なかなかやるじゃないか、人間の癖に俺様に拳で挑むとはな、だが所詮人間、今の一撃で……」
「何か言った?」
衝撃は凄かったけどな、大したダメージはなかった。
いや、油断してたわ、ちょっと強いからって調子に乗ってたな、よし、真剣にやろう。
アラブルベアは荒ぶった、名前の由来通りに怒り任せに暴れだす。
そこに『付与』[速度小down]をアラブルベアに、それで多少遅くなった。
うん、見えるな、そのままアラブルベアの懐に入り今度は[攻撃小up]を俺へと付与、全力で上へと殴り付ける。
「ごが!?」
勢いを殺すことのできない空中に放り出され、そのまま重力に逆らうこともできずに地面へと衝突し、動かなくなった。
「さすがはBランク、強いのも頷けるな」
事切れたアラブルベアを引きずりながら、俺は街へと戻っていく。




