名前
「ふぅ、ダガシカシさんを運んでいただきありがとうございます」
「気にするな受付嬢」
「では、合格と言うことで、カードを作らせていただきますね、まず、お名前は?」
名前……だと?
そんなもん知らんぞ、今までゴーレムだったからゴーレムでいいか。
「ゴーレ……」
「ちょっと失礼します!」
女冒険者が割り込んできてオレを押してカウンターから離れる。
「ちょっと! なに普通に名乗ろうとしてるんですか!」
「いや、名前無いからな、別に良いんじゃないか?」
「ダメですよ! ……変わったお名前ですねあはは、なんてなりませんからね!?」
「ならどうすると言うんだいっそのこと『ああああ』でも良いぞ?」
「却下です」
おっと却下されてしまった。
名前はそれほど重要だろうか。
まぁ妙な騒動にならなければ良い。
「じゃあ、ランドで」
「どっから来たんですかそれ」
石があるのは地面、地面は知識ではグランドみたいな感じだった、だからランドだ、特に深い意味はない。
そう自分の名前を決めた辺りだろうか、不意に怠くなったが、別に動きに支障はないので気にしないことにする。
よし、戻ろう。
そして受付嬢へと名前を伝えた。
「……はい、ランド様ですね、承りました。はい、こちらがギルドカードです、無くさないようにしてください」
「わかった」
ギルドカードはどうやらステータスと連動しているようだ念じると消えた、もう一度念じると出てくる。
不思議な物だ。
「では、早速依頼を受けてみますか? ランドさんは一番下のFランクなのでEランクまでなら受けられますよ、詳しくはあちらに記載されています」
受付嬢が示した方へと向かう。
何が良いのかさっぱりわからんな。
「ゴーレムさん、ここはお金になる方が良いですよ、宿も取らないと行けないですし、情報含めお酒も買うんですから」
「なら暫くは依頼を受けなければ行けないな、Eランクの依頼で良いんじゃないか?」
そう言ってEランクの依頼を壁から剥がそうとすると横から出てきた腕にとられた。
……その上の依頼をとって受付嬢の元へと向かう。
すると肩を掴まれている様な気がするが無視して進むことにした。
何か引き摺っているが俺には関係ないからな。
「これを頼む、あぁ、女冒険者も同様だ、2人で受けたことにしてくれ」
「は、はい、分かりました」
俺の斜め下をちらちらと見ている受付嬢。
どうした、そんなところには誰もいないぞ。
「受注が完了しました、お気をつけて……」
さて、向かうとしよう、ふむ、イノーゴスの討伐か。
どうやら四足歩行の突進を繰り返す魔物らしい。
討証明となるのは牙……毛皮も素材として買い取り可能か、なかなか美味しい。
それに報酬は銅貨60枚ほどか、高いのか安いのかはわからんな。
「あの、ゴー…じゃなかったランドさん、ずっと引き摺ってますよ」
「ん? 何を……なんだコレ」
「ランドさんが取ろうとした依頼を横取りした人です」
「へぇ、興味ないや、行くぞ」
「いや、待てよ!」
俺の肩に下がっていた男が険しい顔で立ち上がった。
「止まると思って肩を掴んだのに引き摺りやがって! お陰で服が土埃まみれだ! どうしてくれるんだ!」
「それはお前が俺を話せば良かったのでは?」
「うぐっ! 尤もなこと言いやがって……」
「事実だからな、じゃ」
すると今度は俺の前に立ちはだかる。
暇じゃないんだがな。
「まだ何か?」
「当たり前だ! 何故依頼を横取りしたのに何食わぬ顔して他の依頼を受けてるんだ!」
自分で依頼を横取りしたって言うか普通。
ほら、見てみろ周りの冒険者の呆れた顔を。
「別に、取られたのは早い者勝ちなのだろう? なら俺より早く依頼を取ったお前がその依頼を受ける権利がある。だから別の依頼を取った、何の問題がある」
「普通、文句なりなんなり言うだろ!」
「なんだ、言って欲しかったのかこのドMめ」
「ドMじゃねぇ!」
もう面倒だ、無視しよう。
女冒険者に顔を向けて促し、俺は男を脇から持ち上げ横にずらして外へ出た。
あんなのは放置だ、目立つつもりはないのだ。
「良いんですか? 放置して」
「面倒」
俺らは門から外に出て、イノーゴスがいると言う情報のある森(徒歩15分)へと向かった。
「ここだな」
「初依頼ですからね! 緊張しますね」
「初依頼だったのかお前……」
「そうですよ、登録したての時に誘われましたもん、依頼を受けずに特訓の名目であんな森まで来ましたよ、今思えば私は何をしていたのでしょう」
「進むぞ」
森へと踏み入れると、感じたことと言えば、生い茂っているだけだと言うことだ。
俺の居た森はただ生えているだけじゃなく謎の調和がとれていてそれは綺麗だった。
肝心のイノーゴスはどこにいるだろうか、探索を開始する事にした。
「……あ、居ましたよ」
女冒険者の囁きで俺も気づいた。
1メートル以上はあるその体躯に長い牙、情報にあるものと一致するな。
さて、どうやって倒そうか、殴れば終わると思うがそれではつまらん。
「あの、私が行っても良いですか?」
「確かに、奇襲ならお前の方が確実かわかった、頼む」
すると女冒険者はスキル『隠密』の何かを使ったようだ。
見ているはずなのに気配が霞んで見える、なかなか強そうだ。
一気に加速する女冒険者、そんな速度で走っているのに足音が聞こえないとは、優秀なスキルだろう。
一方のイノーゴスは気づく暇もなく首を狩られて終わった。
呆気ないな、楽ができたから良かったと俺は思っている。
イノーゴスの死体に近づいて牙を抜き取り、毛皮も出来る限り丁寧に剥ぎ取った。
まあ、こんなところか、合図をして帰路につく。
*
ギルドに戻った俺たちを出迎えたのは受付嬢ではなかった……
誰だよこいつ。
「おい! 初対面みたいな顔をするな!」
「おい、女冒険者、コイツは誰だ」
「憐れにもランドさんに引き摺られて恥をかいた冒険者ですよ、覚えてないんですか?」
「興味が無いことは覚えない主義なんだ」
小声でひそひそと話している俺らを見て、余計に苛立ちを表した男。
そんなに睨まれる覚えはない。
「お前、ダガシカシさんをぶっ飛ばしたらしいじゃないか、どんな卑怯な手を使いやがった!」
すると周りに居た冒険者も所々にこちらを睨むように見るものもいた。
誰かをぶっ飛ばしたなんて乱暴な真似誰がするんだか。
「人違いじゃないのか?」
「そんな分けねぇだろ! 受付嬢に聞いたぞ! お前がぶっ飛ばしたってな!」
「悪いが身に覚えがない、他を当たってくれ」
面倒だ関わりたくない。
依頼を達成させて宿と情報を入手しよう。
そう思ったのだがこれが中々退いてくれない訳だ。
「なんだ?」
「お前なんかにダガシカシさんが負けるわけがねぇんだ! 俺が証明してやるよ、来い!」
そう言って男はギルドから出ていった。
俺は依頼の達成を報告し、報酬を受けとると宿を探すために街へと繰り出した。




