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そのゴーレム、元人間につき  作者: HIGH
勇者
116/120

王都ギルドマスター

少し長め


 準備を整え終えた天馬達は馬車に乗り込み、ギルドへと向かっていた。

 国王の言っていた案内役の冒険者と会うためだ。


「ここが冒険者ギルドか、大きいな」

「街中なんて来たこと無いから驚きだね!」

「勇者と言えども観光くらいは許して欲しいですわね」

「少し前なら魔王を倒せば幾らでも出来るさ。と言っていたかもしれないが今となってはね……」


 玲華は苦笑いを浮かべながらそう呟く。

 その言葉には天馬達も同意だった。


 魔王である魔族の少年、ギリィと出会い、少なからずともその本質に触れ、実力差も身に染みて実感しており、実力不足、そして魔族は本当に害悪なのか疑問に感じている。


 そんな天馬達は今はどうすれば良いのか分からなくなっていた。

 以前ならば魔王討伐と言う目標に向かえたが、今となっては目の前の問題に対応すると言う事しか出来なくなっている。


 それだけならまだしも、天馬は、サナと田嶋の企みの様な話を聞いているので余計に迷いが生じており、迂闊に動けない。


「今は勇者として魔物を討伐することを考えよう。その話は後だ」


 視線を合わせた3人は頷き合い、ギルドへと入って行く。


 ギルドの中は酒場と併設されており、昼間から飲んだくれている冒険者も居たりするが、争い事は起こっては居なかった。

 十分騒がしいのではあるが。


 ボーッとしている者、や依頼書で有ろう物が貼られているボードを見つめている者、腕相撲をしている者など、緩い雰囲気だったが、天馬達が入ってきた途端に弛緩仕切った空気が張り詰める。


 だが、入ってきたのが若い少年少女と分かると興味を無くしたり、3人の美女を見て口笛を吹いたりなど、反応は様々だった。

 大方、新人の冒険者だろうと考えたりする輩も居たが、実力を感じ取れるものは天馬達の異常なレベルを察知し驚いていた。


 周囲の目に晒され、少し照れ臭いながらも、天馬達は受付嬢の元へ行き、国王から預かっている手紙を渡す。


「こ、これは! 嘘、まじでかヤベッ!」


 受付嬢の女性は驚いたように天馬達の顔と手紙を交互に何度も見ると頭を下げて何処かへ行ってしまう。


「しょ、少々お待ちください!」


 それから数分、戻ってきた受付嬢は天馬達をカウンターの中へと入れ、案内をすると言う。


 言われるがままについて言った天馬達、酒場でその光景を見ていたもの達は首を傾げる。


「なぁ、アイツら何なんだ? 新人じゃねぇのか?」

「バカお前、新人があんな品質の高い装備なんて持ってる分けねぇだろ」

「貴族とかの倅とかじゃね?」

「でも貴族のガキって基本弱いし護衛付けてくるもんだろ?」

「じゃあ何なんだよ」

「俺にわかるわけ無いだろ」


 カウンターから一番近い席でたむろしていた男二人が話をしている。

 すると依頼ボードに立っていた男が会話へと潜り込む。


「見たところアイツらかなり強いな」

「はぁ? あんなガキどもがか?」

「でもよぉ、コイツの目利きは確かだぜ? ……本当に何者なんだ?」

「俺の予想じゃ勇者だろう」

「はぁ!? 勇者ぁ!?」

「あぁ、そしてあの強さ……多分サルサ大迷宮を攻略した奴等だ」

「あの難攻不落のサルサ大迷宮をかよ……やべぇな」

「ギルドに来たってことは貴族間で噂になった新種の魔物の事だな」

「勇者様が直々に討伐ってか。にしてもよ、お前さんなんでそんなに詳しいんだ?」

「さて、何でだろうな」

「?」


 割り込んできた男は椅子から立ち上がると、そのままギルドから出ていった。





「やぁ、良く来たね手紙は読ませて貰ったよ。宜しくね、勇者様?」


 案内された広い部屋は書斎の様な、何か書類仕事をするために作られた様な部屋だった。

 そして明るく天馬達へと挨拶をした腰までありそうな長い髪をした女性は、自身が座っている椅子から立ち上がる。


 ──そして天馬へと殴りかかってくる。


「っ!?」


 咄嗟に首の動きのみで避けた天馬は体を反転させ、女性の伸びきった腕を掴むと背負い投げの要領で壁へと投げる。


 投げられた女性は空中で体を捻り、何事もなかったかの様に着地を成功させる。


 突然の事に臨戦体制をとる天馬に対し、女性は棒立ちとなる。


「アハハハハ!、いやぁ悪かった悪かった。想像異常だねぇ!」

「……は?」


 豪快に笑い出すその女性の行動に天馬達は最初から今まで着いてこれなかった。





「済まんかった済まんかった。どうしても出会った奴等の実力を少し確認したくなる質なんだよアタイは」


 何が可笑しいのか、女性はずっと笑っており、改めて対面し座っている天馬達は思考が追い付いていない。


「特に勇者様って言うくらいだ。楽しみにしたってバチは当たらないだろ?」


 正直国際問題ものだが、法律の良くわからない天馬は頷くしかなかった。


「あ、あのぉ……それで、貴女は?」

「おっと忘れてたよ! アタイの名前はイトヲカシ。王都ギルドのギルドマスターと現役の冒険者を両立してるしがない輩さ。因みにランクはAだ」


 未だに快活に笑うイトヲカシに天馬は「明るい人だなぁ」と若干引き気味で自己紹介を済ませる。

 それに倣い、アゲハ、ルーチェ、玲華も自己紹介を済ませて話を戻そうと試みる。


「いやぁ、流石は勇者様だ。結構本気だったんだけどね、一体レベルは幾つなんだい?」

「えーと、確か73?だったかと思います」

「……そりゃ凄いね。こんな若いのにそのレベルなんてさ、サルサ大迷宮を攻略する筈だよ」

「なんでそれを?」

「ハッハッハ! そりゃ話題にもなるさ、難攻不落の大迷宮を攻略して情報が出回らない訳がないからね」


 イトヲカシは続ける。


「しかしアタイを投げ飛ばすなんてなかなか出来るもんじゃ無いんだけどね。ここ最近で2番目に驚いたよ」


 その言葉に天馬は少しムッとなる。


「1番は何なんですか?」

「はは、ムキになるねぇ。1番はアタイの顔面に一撃入れやがった冒険者だよ」

「えぇ!? イトヲカシさんって、Aランクですよね!? それを殴るって……」


 アゲハが心底驚いたのか目を見開く、ルーチェと玲華も同様だった。


「てことは、知り合いのAランク冒険者って事ですか?」

「いんや、知らん奴だった。ランクもCとかだったかな」

「そんな人が……イトヲカシさんも油断してたんですか?」

「いや、スタンスは天馬に殴りかかった時と同じだよ。あんたは攻撃を反らしたけどアイツは真正面からカウンターだったね。さすがに驚いていた気絶しちまったよ。ありゃ化け物だ」


 思い出したのか、悔しそうに苦笑いをしつつ「最近の若い奴は良いねぇ!」と愉快そうに笑っていた。

 イトヲカシもわりと若い方の部類なのだが。


「世の中どんな奴が居るか分かったもんじゃ無いからね。くれぐれも油断するんじゃないよ?」

「大丈夫です、俺たちも慢心するつもりはありませんから」


 決意の籠った目をする天馬達に、イトヲカシは口笛を吹いた。


「へぇ、良い目をするじゃないかい。こりゃ一緒に行くのが楽しみだね」

「……へ? イトヲカシさんが付き添い何ですか? お仕事は……」

「そんなもの副ギルドマスターに任せるに決まってるじゃないか」


 何を当たり前な事を? と部下に任せるつもり満々な王都ギルドマスターの態度に苦笑いを浮かべるしかない天馬は、自分が苦笑いばかり浮かべているような気がしてならない。


「俺達がそちらのやり方をとやかく言うのは野暮ですね。任せます」

「天馬君諦めたね」


 アゲハの言葉を無視した天馬。


「さて、時間が惜しいからね、さっさと出発するよ! 馬車は用意してある、乗り込みな!」


 待ち遠しくなったのだろう、イトヲカシが勢い良く立ち上がると天馬の首根っこを掴みギルドへの階段を下りていく。

 1拍置いて意識を取り戻したアゲハ達は慌ててその後を追いかけていく。


 アゲハ達がギルドカウンターへと下りると未だに首根っこを掴まれた天馬とイトヲカシ、そして何故か四つん這いに地面で落ち込んでいる先程の受付嬢と言う奇妙な光景に出くわす。


「ナニコレ!?」

「私に聞かれましても」

「おっと、私にも振らないでくれよ? 理解が出来ないからね」


 この二人は駄目だと理解したアゲハは自分が直接聞くこと決断する。


「マスター!? それ本気で言ってます!?」

「アタイはいつだって本気で大真面目なのは知ってるだろ?」

「知ってますよ! だからよりショックがデカイんですよコンチクショー! 給料上げてください!」

「うーん、駄目だな!」

「なんで!?」


 どうやら割り込める様子がなかったので、アゲハはルーチェ、玲華の元へと戻り見守るだけに努めた。


「イトヲカシさん、そろそろ離してもらっても良いですか?」

「おっと、忘れてた、スマンスマン」


 漸く解放された天馬は服に着いた汚れを落としながら立ち上がる。


「イトヲカシさん、受付嬢の方になんの話を?」

「ん? さっきも言ったろ? 仕事は副ギルドマスターに投げるって」

「でも受付嬢じゃないですか」

「こいつが副ギルドマスターなんだよ」


 え!? と驚いた天馬は受付嬢とイトヲカシを交互に見る。

 

「コイツは変わり者だからな! 紹介しよう、副ギルドマスター兼受付嬢のアンナだ。因みに副ギルドマスターって事は冒険者は誰も知らん」

「宜しくお願いします」


 アンナは赤いボブカットで、緑の制服に身を包んだ美人だった。

 だが先程の言動から大人しい感じではないと天馬は悟る。

 先程手紙を見て慌てていたとは思わないほどに、落ち着いた様子で話すアンナ。


「なんでまた受付嬢を?」

「趣味です。制服可愛くないですか?」


 趣味だった。


「そ、そうですか」

「おや、理解されていないご様子。ちょっとそこらでお話しましょうか」

「コイツは趣味の事になると話が長いし歯止めが効かん、無視しろ。じゃあアンナ、アタイ達はもう出るぞ。後は任せた」

「給料……」

「充分すぎるほど貰ってると思うが」

「私のストレス代です。あと、趣味に使っているので食費がピンチです助けてマスター」


 どうやら多趣味なご様子のアンナ嬢は、結構残念な子なのかもしれない。


「お前は昔から変わらんな……マスター職を代わりにしてもらうんだ、仕方ないから色は着けておく」

「ヒャッホウ! 流石はマスター! さっさと出発しちゃってください! 後は私、アンナが滞りなく進めて見せますよ!」

「お調子者……」


 凄い露骨な態度に逆に清々しさを覚える天馬、イトヲカシですら苦笑い。


「よし、じゃあ行くぞ! 勇者様の実力を見せてもらう良い機会だしな!」

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