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そのゴーレム、元人間につき  作者: HIGH
勇者
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サルサ大迷宮第100層

 幾度となくダンジョンに挑み、帰還し、休息を取り、再び挑むと言うことを繰り返して4ヶ月が経つ。


 天馬パーティーは下に行くにつれて強力になり、種族によっては巧みな連携をしてくるダンジョンの魔物や階層主に苦戦し、前進と後退を繰り返しながらも攻略に近づいている。


「ふぅ、やっぱり強くなっていくな。一筋縄じゃいかなくなってきている」

「でも私達もどんどん強くなってるから、きっと大丈夫だよ!」

「過信はいけませんわ、慢心なんて100年早いですわよ」

「あぁ、勇者と言えども油断すればあっさりと死ぬ。私達よりも強いものなんていくらでもいる筈だからな」


 流石は武道を極めていた玲華だろう。自分が強くなろうとも慢心することなく、常にどんな相手にも油断せず、傲ることなく真摯に向き合っている。


「玲華の言う通り、油断はしないようにしよう」

「うぅ、私そんなつもりで言ったんじゃ無いのにぃ……」

「ははは、分かってるさ。……じゃあ、行こうか」


 目に涙を浮かべるアゲハをからかいつつ、直ぐに天馬は表情を引き締める。

 先ほどまでの浮わついた空気は一変──これから死闘を繰り広げる歴戦の兵士が纏う空気により周りに緊張が走る。

 

 これから挑むのはサルサ大迷宮──第100層。

 1つの節目であり、誰も到達したことのない前人未到のエリアだ。

 ここから果ては続いているのか、または、ここが終着点かも知る歴史的瞬間に立ち会うのだ。


 当然、緊張もあるが、いつかは魔王を打倒しなければならない勇者達は、こんなところでは止まれない。

 サルサ大迷宮の踏破は有史依頼の快挙ではあるが、天馬達にとってはゴールではなく中間地点ですらないのだ。


「よし、行くぞ!」


 第100層階層主の部屋、その前にある巨大で重厚な扉を押し開き、中へと踏み込む。


 ──それと同時に巨大な物体が天馬達のすぐ横にある壁へと打ち付けられる。


「は?」


 呆気にとられた天馬、ゆっくりと通過した物体を見ると、巨大な魔物の様だった。

 だが皮膚は焼け爛れ、原型は留めておらず、どういった魔物なのかすらわからなかった。


「っ!? 天馬君、あれ!」


 アゲハが叫び、指差す方向を見ると、煙が上がっており、うっすらとだが人影が見える。

 恐らく煙の向こうの人物がやったのだろうと言うことは察する事ができた。


 だが問題はその人影が1つしかないことに恐怖を覚える。

 相手はダンジョンの魔物、階層主かダンジョンボスかは分からないが第100層の魔物だ。


 天馬達は、自らのスキルや試行錯誤の末に辿り着いた連携、そして短期間だが濃い戦闘経験で培ってきた技量等を総動員してこのダンジョンで戦っていた。


 それなのに目の前の人影はたった1人でこの場に来て横に倒れている魔物を葬ったと言う事実。


 天馬達は、どんな攻撃が来ても反応できるように身構える。


 そして煙は晴れていき──。


「うーん意外と弱かったなー。第100層だからって楽しみにしてたのにさー、どうしてくれんだよこの気持ち……ってアレ? ニンゲン?」


 煙から出てきたのは少し小柄な少年だった。

 しかし異常なのはその見た目だ。

 青い髪は手入れをしていないのかボサボサで、その瞳は爬虫類のそれと同じ、非常にダルそうにはしているが。


 そして目を惹くのはそのボサボサ髪と額の間に生えている1本の角と薄紫の肌だった。


 それは初めて目にする人間以外の種族、だがそれは天馬達の脳に、知識として蓄えていたある種族との合致。


 ──魔族。


 目の前の欠伸をしている、やる気の無さそうな少年は人間の外敵とされている魔族だったのだ。


「おかしいなぁ、ニンゲンは来ないって聞いてたんだけどな」


 「面倒だなぁ」と呟く魔族の少年に、我に返った天馬は冷静に質問を投げ掛ける。


「この魔物は君が?」

「ん? あーうん、そうだよ。強そうだと思ったけどとんだ期待外れだったけどね。お兄さん達は何しに来たの?」


 どうやら向こうは敵意を示していない様だった。もしかすると敵意をかけるほど相手にもしていない可能性もあるが……。


 だが努めて冷静になっている天馬はここで事を荒立てようとは思っておらず、それは他の3人も同じだった。


 ──勝てない。


 そう瞬時に判断してしまったからだ。


「俺達はこのダンジョンを攻略しに来たんだ」

「あぁーなるほどね、そりゃ悪いことをしてしまった。先取りしちゃってごめんね」

「いや、こう言うのは早い者勝ちだと思ってる。気にしないでくれ」


 「お兄さん優しいねぇ」と呟く魔族の少年に天馬は安堵する。

 意外と素直で物分かりの良い魔族だと感心した。

 てっきり人を平気で虐げたりするのだと思っていた自分を殴りたくなるくらいには魔族の少年に好感は持てた。


「まぁ、少し経てばリホップすると思うしそこで頑張ってねぇ」

「あぁ、そうするよ」


 少年はうんうんと頷くと何かを思い出した様に手を叩き、天馬達を眺め呟いた。


「お兄さん達ってさ……勇者かな」

「っ!?」


 少年の呟きに反応してしまい天馬パーティーは戦闘体勢に入る。

 少年は特に思うところはないようで、依然として立ち尽くしたままだ。


「あー、安心してよ。敵対するつもりはないし、ダルいし」

「…………」

「はぁ、まぁそのままでも良いや」


 武器を収める気配がない天馬達に対して少年は溜め息を吐き、頭を掻いた後、諦めたのか話を進める。


「敵対するつもりは無いのは本当だよ。争ったって何も産まないし。まぁ僕としては勇者さんにお近づきになれたから良いかな」

「……ダンジョンに来たのは俺達に会いにって事かな?」

「いーや、違うよ。このダンジョンにあるお宝を取りに来たんだよ、情報だとここにあるらしいし」

「……聖剣の事で良いのか?」


 聖剣、それはかつて、万物を切り裂き。天にまで昇る砲撃をも可能とした伝説の武器。

 それをかつての勇者はこの地に納め、その後、自然発生したサルサ大迷宮が大地ごと聖剣を呑み込み、聖剣の力にてここまでの規模となったと伝承されている。


 その聖剣を天馬達は力をつけると同時に、探していたのだ。


「聖剣は興味がないかな~、僕がお願いされたのは魔盾の方だし」

「またて?」

「そう、魔の盾って書いて『またて』だよ。変な名前だよね、言いにくいったらありゃしない」

「それはどんなものなんだ?」

「……如何なる大魔法、スキルであろうと防ぎ天からの断罪をも防ぐとされている盾だね。それがあるって聞いたんだよ」

「それを俺達に教えても良いのか?」

「んー、口止めされてないし良いんじゃないかな」


 魔族の少年に頼んだ者は流石に勇者に出会うとは思ってもいなかったので、口止めしなかっただけであり、実際にはかなりの重要機密だったりする。


「……魔族はそれを手に入れたらどうするつもりなのかな?」

「んー、そこは教えられないかな。今知っちゃうとややこしくなっちゃうし。最悪世界が荒れるよ? おっと、こうしちゃいられない。宝箱宝箱」


 少年は困った様な顔をしながらも、踵を返して部屋の奥へと軽快な足取りで走っていった。

 その場に残された天馬達も互いの顔を見合わせて少年の走った方向へと向かう。


 部屋の奥へと進むと、少しだけ広い空間に出る。

 そして、奥にある台座にはこれでもかと言うほどありふれた感じで聖剣らしきものが突き刺さっていた。


「これが、聖剣……」

「ねぇ、私達ってボス倒してないのに良いのかな?」

「取れるときに取っておいた方が良いのでは無いかな」

「そうですわ、下らないプライドなんて何の価値もありませんもの」


 天馬は頷いた後、台座へと足を運び緊張な面持ちで台座から聖剣を引き抜く。


「……おぉ!」


 するとたちまち、ダンジョンに潜ってからあまり着替えていなかった服や、煤で汚れた顔や体などが清潔になっていき、体の奥からは力がみなぎる感覚を天馬は感じる。


 そしてそれは周りにも影響を及ぼした。


「わぁ、服が綺麗になっていくよ!」

「お肌も艶々になりましたわ」

「活力が戻った感じかする……これが聖剣の力」


 どうやら聖剣は自分以外の周囲にも恩恵を授けるらしい。


「あれ、お兄さん達綺麗になったね。聖剣の力かな」


 壁の向こうから現れた魔族の少年に天馬達は驚いた。


「隠し部屋だよ、そこから魔盾をとってきたんだよ」

「何処にも無いようだけど……」

「異空間に閉まったからね。見せびらかす物でも無いし、じゃあ、ここに様は無いし、帰るよ」

「あ、ああ、そうか」

「良かったら送ろうか?」

「え?」

「外までならついでだし送るよ? 早く報告した方が良いでしょ?」


 突然の誘いに戸惑った天馬達は相談を開始する。


「どうする?」

「私としては反対だな。友好的とは言え敵対しているのだから」

「当然ですわね。もし魔族の領域にでも連れ去られたら生存は厳しいですわ」

「私はあの子はそんな事しないと思うけどなぁ」

「天馬はどう思うのかな?」

「俺も彼は信用出来ると思う。友好を深めれば魔族との争いはしなくて済むかもしれない」

「橋係りって事ですわね」


 ルーチェの言葉に頷いた天馬に、他の面子も筋は通っていると判断し、提案を受け入れることにした。


「お願いしても良いかな?」

「ダルいけど任せなよ」

「魔族領にいくのは止めてくれよ?」

「そんなのは僕が怒られるからやらないよ。じゃあ、行くよ」


 ダルいダルいと良いながらもなんだかんだ色々と世話をやく彼はきっと根は良いやつなのだろうと天馬は感じる。


 そして一方で、まだ少ししか接してはいないがこんな魔族が人間を滅ぼすために動いているのかも疑問に思っている。


 魔族の少年が指をならすと、天馬達の足元に魔法陣が出現し光に包まれる。

 咄嗟に天馬達は目を瞑ってしまう、そして光が収まったと思えばそこは既に外であった。


「凄い」

「このくらい朝飯前だよ」

「移動が楽で良いね!」

「まぁね!」


 フフンと自分のオモチャを見せつけるように胸を張る魔族の少年に天馬達は頬が緩む。


「じゃあ、他のニンゲンに見つかると不味いから僕はこの辺で……」

「待ってくれ、名前を教えてくれないか? 俺の名前は三神天馬!」


 足元へと魔法陣を出現させ消える直前の魔族の少年に名を告げる。


「僕の名前はギリィ。──魔王だよ」


 そうして魔族の少年、そして魔王であるギリィは消えていった。

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