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そのゴーレム、元人間につき  作者: HIGH
勇者
109/120

あれから少し


「グギャァァァ!!」


 とても人とは思えない断末魔を上げて、その生物は地に倒れ付した。

 断末魔をあげたのは魔物、体格はしっかりとしており体の構造も人間のそれだが、頭髪はなく、皮膚は緑色、腰簑1つで手には錆び付いた剣しか持っていない。

 これはゴブリンの上位種であるホブゴブリンだ。


 倒れた地面にはホブゴブリンの胸元を大きく切り裂かれ、飛び出た血飛沫によって赤く染まっていく。


「ふぅ、これで最後かな」


 ホブゴブリンの息の根を止めた少年は自らが持つ剣についた血を1振りで落としきると剣を鞘へと納め、息を吐く。

 生き物の命を狩る事は未だになれない様子で、体力よりも精神面に来るようだ。


「天馬君! お疲れ! はい、これ」 


 すると少年の背後から汗を吹くための布を手渡しながら近づいてくる少女がいた。

 彼女もすぐ近くで他の魔物との戦闘を終えて戻ってきたのだ。


「あぁ、ありがとう、アゲハ」

「へへ、どういたしましてっ!」


 共に爽やかな笑みを浮かべ、場は多少和む。


「だが、ここはダンジョンだ。気を引き締めよう」

「そ、そうね! まずは生き残らなきゃ!」


 勇者死亡の報告から、実に1ヶ月が経過している。その期間中、例えハブられていたとしてもクラスメイトが死んだと言うことに動揺を隠せず、今度は自分達がと考えてしまった大半の生徒は引きこもったり、元々臆病な生徒はヒステリックを起こしたりと問題が起きていた。


 その中でも天馬とアゲハ筆頭のパーティーはそれでも突き進むために早々に立ち上がり、現在はダンジョンの攻略に出向いていた。


 プラウド王国にはダンジョンが豊富にある。そこから手に入る資源により、大国へと上り詰めたと言っても過言ではない程に。


 初心者向けのダンジョンが10、中級者向けのダンジョンが5つ。そして、上級者向けのダンジョンが2つ存在している。


 天馬一向は初級、中級ダンジョンをこの1ヶ月で全踏破を果たして、今現在、上級ダンジョンの1つである、サルサ大迷宮の踏破を目指している。


 サルサ大迷宮は未だに踏破者がおらず、その階層も15層程しか進んでいない。

 そして現在、天馬達のパーティーは25層を散策している最中だ。


「ねぇ、さっさと素材を回収しませんこと?」

「そうだな、私達にはもっと強くなる義務がある。こんなところで油を売っている暇などないよ」


 そう天馬に語りかけたのは天馬と同じパーティーで異世界から来たクラスメイトの1人、桐ヶ崎(きりがさき)ルーチェと斎藤玲華さいとうれいかの二人だ。


 明らかにお嬢様口調の方が桐ヶ崎ルーチェ。アメリカ人の父と日本人の母を持つハーフで、帰国子女。才色兼備でスタイルも良いがその性格がキツい。

 転校してきたときには、美しい金髪の地毛をもった姫様カットで話題になったが当たりがキツいので割りと恐れられ、孤立したところで天馬が優しくし、コロッと落ちた金持ちだ。


 そして二人目の斎藤玲華。こちらは元の世界では空手、ボクシング、レスリング、柔道、その他多数の格闘技においてそれぞれに優勝、連覇経験のある猛者であり、それでいてモデル並みのスタイルに引き締まった筋肉、そして人目を引く程の美貌を持つ、武道家だ。

 その家系で厳しく育てられた故にか、多少男臭い所があり、サバサバしている。しかし、天馬は玲華を女性として扱ったことによりこれまたアッサリと落ちた。


 なおこの二人、天馬の『剣聖』のスキルと並ぶように『賢者』『覇王』のスキルを持っていた。

 ちなみにアゲハは『聖女』だ。


「悪い悪い。だけどそろそろ食料が尽きそうだし、戻る準備をした方が良いかもしれないな」

「確かに、行ったり来たりしている速度は早くはなっているがそれでも思いっきり探索するのは難しいからね。今回でどのくらい進んだか分かるかい?」

「そうですわね……ざっと2層程ですわね。今回はここらで打ち切るしかありませんか」

「そうと決まったらさっさと移動しようよ! こんなところに居たら他の魔物が来ちゃうよ」


 4人は帰還を選択し、さっさと切り上げる事にした。ダンジョンは止めどなく広いので、どこで探索を終えるかの判断が重要だ。


 天馬達の場合、10日程かけてこの階層までやって来ており、食料の分を考えるとわりとギリギリだったりする。

 当初はそんな事を考えずに突き進んでいたためにかなり危なかったことから反省し、その判断を誤らないように心掛けている。

 最も、現代社会で山籠りをする高校生など殆どおらず、知識もなかったのでこのザマだったが、今では脅威的な学習能力によって何とかなっている。





 天馬パーティーが帰還を開始して8日目のこと。


「やっぱりお風呂に入れないのは辛いねー」

「一理ありますわ、早く城に戻りたいところですわね」

「うん、やはり汗は流しておかないとな……不潔に思われるのも嫌だし」


 女子3人は、不潔、と思考した後に自分の臭いを、そして他の面子の臭いを嗅いで、HWXと天馬を見る。

 3人は強いが女子、それも美女だ。異性がいれば多少は気にかけるし、それが意中の相手ともなれば気にせずにはいられない。


 一方の天馬はと言えば、現在は休憩所として使っている所より少し離れた所で剣を振って少しでも強くなろうとしており、女子の視線には全く気がついていなかった。


「うん、天馬君の事だから気にしなさそうだね……」

「明らかに此方に興味を示してませんもの……」

「少し位は気にかけて欲しいものだけどね……」


 女子3人組の視線はジト目になっていく。流石の天馬もその視線には気がつき、訓練を中断しつつ3人の元へと歩み寄っていく。


「うん? どうしたんだ、何かあったか?」


 突然接近を開始する天馬に3人は逆に後退していく。やはり自分達の臭いを気にしているようで、なるべく近くには寄せたくないらしい。


 天馬はなぜ逃げるのか本当に分かっていないのでどんどんずいずい近寄っていく。


 すると突然天馬は残像を残す程の早さで3人に接近した。


 3人は驚愕する。そこまでして臭いを嗅ぎたいのかと、流石に好意を持ってるけどいきなりそれはハードルが高いのではと! 若干引きぎみだが、それは勘違いだと気がつく。


「ブゴォォォォォ!?」


 振り向いた先には断末魔をあげ、血飛沫を散らす豚の頭をもった筋骨隆々で、槍をもった魔物である、オークが今にもアゲハ達を襲う寸前だったのだ。

 それを察知した天馬は残像を残しつつオークを一薙ぎで命を断つ。


「あー、危なかったな。皆、だいじょう……ぶっ!?」


 突如天馬に群がるアゲハ達、流石に突拍子すぎて天馬も持ちこたえることはできずに尻餅をついた。


「なんだなんだ!? どうした!?」

「天馬君! ありがとう!」

「ありがとうございます。心から感謝しますわ」

「助かったよ天馬、君は命の恩人だ」


 先程までは自らの臭いを気にして、近寄らなかった筈なのに手のひらを返したかのようにグイグイと来る3人に戸惑う天馬だが、本人は何で離れたりくっついたりするのかが分からなかった。


「仲間の事を守るのは当然だろ? でも、お前達もあまり油断しないようにな」


 天馬はそう微笑むと立ち上がって何処かへ行ってしまう。

 残されたアゲハ達は、天馬の微笑みの余韻に浸り続けていた。


「やっぱりカッコいいな、天馬君は」

「当たり前ですわ、私が見込んだのですから」

「これは負けていられないな」


 3人は互いに視線を合わせると火花を散らしていた。





 アゲハ、ルーチェ、玲華から離れた天馬は踞っていた。


「ヤバいヤバいヤバい! あの3人がこんなに近くまで接近するとは思わなかった!」


 顔は赤く、心臓はずっと大きな鼓動をならしている。確かに女性は好きだし、咄嗟にカッコつけてしまう癖があるものの、実際には女性に対するコミュニケーション能力と言うものは些か低レベルだったのだ。


 これでも健全な男子高校生だ。1人1人なら兎も角、3人の美女がこんなに接近すれば緊張しまくる。

 咄嗟に誤魔化せはしたものの、下手すると危ない所だった。


「ふぅ、やってけるのかな……このパーティー」


 天馬のためいきと愚痴は誰にも聞こえることはなかった。

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