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世界調整  作者: 虹某氏
3章【妹】
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98話 逆転と絶望と狂気の三重奏

 結果はすぐについた。

 夜桜の初手は透明化。

 桃花はそれに対応出来ず血刀で首を落とされた。

 その為この場にはダランと力が抜けた桃花の胴体。

 それに加え目を見開いた桃花の生首が転がっている。


「思ったより簡単だったわ」

「当たり前だ。桃花はかなり消耗してんだから」

「いやいや。俺もかなり疲れてるんですけど」


 勝負は二戦目に入ろうとしている。

 しかし俺はまともにやるつもりは毛頭ない。

 俺にはまだ最後の切り札がある。

 誰にも言っていない正真正銘の切り札。

 俺だけが知っている切り札だ。

 それは時間逆行。

 神崎家を過去に飛ばす。

 夜桜がルークから奪い俺に使用した。

 そして俺はそれを攻撃と認識。

 それにより俺は神崎家を誰か一人過去に飛ばせるようになった。

 使った場合は俺の意識は分裂。

 この世界に残る俺と過去に行った俺に分かれる。

 つまり俺は否応でもここで死を味わう。

 それと全人類に許された時間逆行回数は残り一回。

 つまり次はない。

 しかしこの局面を変えるにはそれしかない。


「海。応援してくれるか?」

「……お兄様」


 海が俺に抱きついてきた。

 計画通りだ。

 自分自身は過去に飛ばせない。

 飛ばせるのは神崎家のみ。

 そして神崎家で残ってるのは真央と海だけ。

 真央はもちろん論外。

 飛ばすのは海だ。

 俺は海と過去に行く。

 そこからのプランは簡単。

 海は白愛の元へは行かず親父の元へ戻り親父と共にアルカードを打ち破る。

 それから親父と一緒に俺のところに来る。

 俺の動きはというと……


「真央。悪いな」


 海を過去に飛ばす。

 ただそれだけでいい。


「夜桜! すぐに海の首を跳ねて!」


 初めて真央が声を荒あげた。

 やはり想定外か。

 夜桜が驚くぐらい早く俺の元に向かう。

 しかし遅い。

 俺は海の額に触れて過去に飛ばす。

 それと共に海がバタンと倒れた。

 過去に飛ばした場合は飛ばした人は植物状態の抜け殻としてこの場に残るからな。


「……してやられたよ」

「そうかよ」


 空気が震える。

 ドクンドクンと心臓が動くかのように空気が振動する。


「私は凄く怒ってるよ」


 真央がキレてるからだ。

 怒りで空気が震える。

 実際は震えてないだろうがそのような錯覚に陥っているのだ。


「逆ギレ乙だな」


 俺はここで死ぬ。

 俺の意識は複製されて一つは過去に行った。

 つまり過去に行った場合の意識は存在している。

 おそらく俺が海も桃花も救ってくれる。

 強いていうならその世界をこの目で見れないのが残念だな。


「夜桜。今すぐ殺して」

「却下。ちょっとは頭冷やせ。空が死んだら姫はどうなる?」


 仲間割れか?

 それだったら正気は……


「問題ない。そこに転がってる海の抜け殻で神器の現界は出来ると私は踏んでる。それに私は遊戯を壊したそのクソガキを打ち殺したい」

「なるほど。それと空は王候補だが?」

「他を探すから問題ない。それに見つからなかったらまだ問題は多いが当初の予定通りアーサー君を使うよ」


 アーサー君?

 誰だそれは?


「了解。あとで文句言うなよ」

「分かってるよ」


 夜桜が俺の元まで迫る。

 目の前に血で作られた鉄の処女(アイデンメイデン)が俺の元で作られ俺を飲み込もうとする。

 これに喰われて俺は死ぬのか……

 そう思った矢先だった。


「……え?」


 辺り一面が凍り付いた。

 驚くぐらい寒い。

 血すら凍ってる。


「あぁ私の空君! 私だけの空君! やっと会えたよ!大丈夫。もう私が来たからね」


 その瞬間、恐怖が蘇った。

 どうして彼女がここにいるんだよ……


「空君。もう逃がさないよ。一緒に楽園を作ろ?」


 目の前にいるのは佐倉桃花。

 しかし桃花であって桃花ではない。

 俺は彼女の中指を見る。

 そこにはソロモンの指輪があった。


「どうしてお前がここに……」

「簡単な事だよ。【愛】の使徒である私の能力は愛する人の元への転移。それをソロモンの指輪で概念干渉出来るようにして世界線を超えたんだよ!」


 この化け物……

 そう思っていると近くの氷がガタガタと揺れた。


「やってくれたな」


 夜桜が氷漬けにされて自力で砕いたのか。

 俺がまだ生きてるという事は真央は転移で離脱して生きているのか。


「邪魔。消えて」


 その言葉と共にさらに大きい氷が夜桜を氷漬けにした。

 身動きすら取れないぐらいに……


「再生とか不死の能力あってもこれなら動けないよ。やっと私と空君の二人だけの世界になったよ!」


 あの夜桜を意図も簡単に……

 改めて彼女を過小評価してたのを思い知らされた。

 恐らく一周目の世界の桃花の前では夜桜も無力。

 そしてその一周目の桃花。

 すなわち街一つを笑いながらぶち壊した桃花がこの場にいるのだ……


「あ、そういえば空君も使徒になったんだ! これで夫婦お揃いだね」


 恐ろしい。

 恐怖で脳が震える。

 早く逃げないと……


「大丈夫。もう悪い人はいないよ。悪い人がいたら私が全部壊してあげるよ」


 世界が滅びる。

 なんとかしないと……

 俺は無理矢理立ち上がり腰からナイフを出す。


「桃花」

「何?」

「世界のために死んでくれ」


 彼女は俺を殺さない。

 勝機は十分にある。

 俺なら……


「嫌。空君は私がいないと生きていけないもん。だから私は生きるの! 空君のためだけに!」


 だめだ。

 完全に思考回路がぶっ飛んでやがる。

 それでもお構いなく俺は進んでいく。

 そして手を伸ばせば触れられる距離まできた。


「まだ暗殺姫と海ちゃんを処分した事に怒ってるの?」

「当たり前だろ」

「ゴミはゴミ箱にって言葉知らない?」


 とち狂ってやがる。

 コイツ、悪いと微塵も思ってねぇ。


「もしかしてアレって空君にとってゴミじゃなかったの? だったらゴメンね。でも私というものがいながら他の物にも目移りしてるのって如何なものかと妻としては思うのよ。だってそうでしょ? 私と言う完全な物がありながら他の物まで望むなんて可笑しいでしょ? もしそうなら強欲ってものだよ。でもその強欲も空君の良いところだから私は許しちゃう! だって空君の全部が私は大好きなんだもん! これで空君が怒るならそれでもいいよ! だって私は怒ってる空君も大好きなの! 喜んでる空君も悲しんでる空君も傷ついてる空君も全部大好き! でも、私以外の物を見る空君だけは嫌い! だって私が空君にとっては完璧な物なんだもん。空君は私だけに怒って私の為だけに悲しんで私のためだけに喜んでほしいの! そして空君が他に目移りする物がない荒野と化した世界!最高だと思わない?思わないって言うなら一回世界を壊してその素晴らしさを教えてあげるから安心していいよ。絶対にその世界は空君も満足してくれると思うから!」

「長い。もっと要約しろ」


 狂ってるのは間違いない。

 しかしあまりにも早口で喋るものだから悪いが殆ど頭に入ってない。


「無理だよ。だって私の空君の愛を要約するなんて蛮行を私が出来るわけないじゃない! あ、でもそんなドSの空君も大好き! もう大好き!」

「そうかよ」


 俺は無視して桃花に近づく。

 互いの息が当たるくらいの距離まで……

 それから俺は迷わずナイフを突き刺す。

 グサリと柔らかく肉に吸い込まれるように入る。


「あぁ。空君が私を傷つけた! この痛み最高! なんて心地良いの! 愛する人に刺される。本当に最高だよ!」


 間もなく桃花は死ぬだろう。

 それなのにどうして……


「でも少し残念だけど傷付くと同時に治癒魔法を使ってるから死なないの。それどころか傷すら付かない。空君に傷物にしてもらえないなんて不幸過ぎるよ! でも空君に与えられる不幸だから私は許しちゃう」


 つまり夜桜と再生と似たようなものか。

 なんて質の悪い……


「治癒魔法はまだ人類は術式を見つけてなくて使えない。でもソロモンの指輪なら術式を知らなくても魔法が使えるから基本的になんでも出来るんだよ」


 あまりにも化け物すぎる。

 なんていう……


「それと私の処女も治癒出来るから何時でも楽しい夜の営みができるんだよ! 何気に凄いと思わない?」


 ふざけた事ばかり言いやがって。

 もうウンザリだ。

 そう思うと同時に彼女が現れた。


「流石に即死だと死ぬだろ?」


 神崎真央だ。

 彼女は転移して背後から現れてハートキャッチを行った。

 なんとかなった。

 ようやく一周目の世界の桃花も……


「ハートキャッチ。見た感じだと心臓を掴む技だね。でも私はその程度じゃ死なないよ」


 しかし桃花はピンピンしている。

 一体どうして……


「愛の力だよ。愛さえあれば心臓を握られたくらいじゃ死なないんだよ」

「この化け物がぁぁぁぁぁ!」


 真央が叫ぶ。

 喉が張り裂けそうなくらい叫ぶ。


「ゴミはゴミ箱に。それじゃあ空君。捨てるね」


 桃花が指を鳴らして火を起こす。

 おそらく真央を焼き殺すつもりだろう。

 しかし桃花は知らない。

 真央が死ねば俺も死ぬということに……


「あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 真央が焼けていく。

 それと共に俺の体も異様な程に熱くなる。

 地獄の業火に焼かれるかのように……


「空君!?」

「桃花。この女と俺は一心同体。コイツを殺すとおれも死ぬんだよ」

「何それズルい! 私も一心同体になりたかった!」


 そして俺と真央は燃え尽きた。

 この場には桃花一人残して……


「また、空君が私の前から消えちゃったよ。でも少し前に空君は海ちゃんを過去に送ってたよね。だったら空君の意識はもう一つだけ存在する。つまり何の問題もない! 善は急げ! 神崎桃花。急ぐのです!」


 桃花のソロモンの指輪が光る。

 彼女は再び世界を飛ぶつもりだ。

 愛しき空の元へと行くために……

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