97話 俺のために死ね
早く倒さないと白愛が危ない。
それに下手したら白愛が殺されて夜桜も同時に相手しなきゃダメになる可能性すらある。
「今の私は宝石がない。だから肉弾戦になるよ」
桃花が俺の耳元で呟いた。
そういえば桃花は肉弾戦もそこそこ出来たな。
とりあえずは戦えるか。
問題は先生の能力だが……
「……お兄様」
「海は下がってろ。今のお前は何も出来ない」
「でも……」
俺は目で海に合図する。
今のは先生を騙すブラフ。
俺と桃花だけで倒すつもりだがそれがうまく出来なかったら不味い。
だからこその海。
彼女には無理を強いる事になるが俺達が失敗したらすべて海に決めてもらう。
「行くぞ! 桃花」
「いつでも準備は出来てるよ」
俺は桃花の返事と同時に雷を落とす。
ズドトンと相変わらず凄い音と光。
間違いなく直撃だ。
「真央からの情報通りだね。多種多様な能力が伝えるからこそ一つ一つの能力の扱いが雑になっているよ」
しかし先生は無傷。
どういうカラクリだ?
「お兄様。その人の能力は雷です。雷を使ってお兄様の雷を逸らしました」
「そういう事かよ」
だったら雷以外で戦うか。
そう思った矢先だった。
俺の目の前を銀色の光が遮った。
刃によるものだ……
「かなり早い再開となったな」
「……アルカード」
「如何にも。勝てると判断して引き返させてもらった」
先程、目の前を走ったのは彼の薙刀。
間違いなく最悪だ。
アルカード一人ですら手に余るというのに……
「楽しい事になってきたねぇ。いやぁ開戦前に俺も間に合って良かった良かった」
しかし絶望は終わらない。
絶望が絶望を呼ぶ。
それこそ楽器を鳴らせば音が出るように……
「……嘘でしょ」
桃花が両膝を地に着いた。
無理もない。
背後から来たのは夜桜……
「三対三だな」
「お、公平な場面じゃねぇか! それじゃあ俺は海ちゃんで遊ぼうかな」
夜桜が舌なめずりをした。
どうするか……
「それじゃあ私は空を貰いましょう。雷の使い手同士盛り上がるでしょう」
「吾輩は必然的にそこの女か。この中では一番強い。良いではないか」
俺は海の前に走っていき夜桜と海の間に入る。
海は殺らせない。
「話を聞いてなかったのか? お前が戦うのは俺じゃなくて先生。今のお前じゃ悪いがその気になれば五秒で殺せるぜ」
「……白愛はどうした?」
夜桜がここにいる。
すなわち白愛は……
「あぁそういう事かよ。ほらよ」
夜桜が何処からともなく白愛の生首を出した。
コロンコロンと転がり俺の足にぶつかり回転が止まる。
出したのは間違いなく白愛の能力……
「めちゃくちゃ強かったぞ。流石は暗殺姫。でも途中からはバテて動きが鈍くなったからその時にズブリと殺らせてもらいました」
「殺す! コイツだけは絶対に殺してやる!」
海が俺の後ろで叫ぶ。
今にも夜桜に噛みつきそうな勢いだ。
しかし俺は無視して夜桜に話しかける。
「獣化はしなくていいのか?」
「アレは切り札。こんな雑魚三人に使うほどの能力でもないね。しかも獸化なんて本気の八割って言ったところだし」
あれで本気じゃないのかよ……
それより上の何かがある。
「まぁ最終形態は俺一人じゃ使えないけどな」
「夜桜。一つ提案があるんだ」
少しだけ時間が稼げてよかった。
おかげでこの局面を変える手を思いついた。
少しの時間稼ぎでしかないがそれで良い。
「どうした? どうせお前以外は全員殺すが……」
「三対三の勝負を試合形式にしないか?」
そこから俺は簡単にルールを話していく。
基本的に何でもあり。
敗北条件は殺される事。
「俺達が守るメリットが見当たらないなぁ?」
「お祭りみたいなものだ。その方が楽しいだろ?」
この話。
悪いが夜桜に話してない。
俺が話してるのはもっと話の分かる人物だ。
「真央。そう思うだろ?」
彼女と俺は共有している。
つまり今話したことをしっかりと伝わってるはずだ。
「面白そうじゃん。やろうよ」
計画通りに真央は転移でやってきた。
真央はそういう人物だ。
間違いなく乗ってくると思ってた。
「本気か?」
「もちろん! でもルールに一つ追加。先方と中堅と大将の三人に分かれて行うチーム戦。それで先に二人殺した方が勝ちでどう?」
「問題ない」
俺は桃花の元へ向かう。
彼女は未だに膝を着いたままだ。
「桃花。頼みがある」
「……なに?」
「一番最初に戦ってくれ」
先方は桃花。
それでいい。
「三分でいいえら稼いでくれ。あとは俺達に全て任せろ」
「私に死ねって言うの?」
「そうだ。でも……」
俺はそのまま少しだけ倒れる。
真央に聞かれても構わない。
でも他の人には聞かれたくない。
特に夜桜には……
そのまま桃花の小さくて可愛らしい耳に口を近づけて呟く。
とても優しく力強く……
「俺を信じろ。俺が必ずお前を救ってやる。未来の花嫁」
その瞬間、桃花の顔が赤くなった。
少しは冷静になったか。
真央はコチラをニヤニヤしながら見ている。
そのまま俺は海の方を見て海の元へ向かう。
口パクで作戦を伝えながらだ。
角度的に口パクしてるのは確認出来ても何を言ってるのかは分からないだろう。
声にしない理由は一つ。
真央に聞かれるからだ。
「……分かりました」
返事の代わりに海の頭をくしゃくしゃと撫でる。
ちゃんと伝わってるみたいだな。
「本気でやるのか?」
「もちろん! 君なら出来るだろ?」
「はいはい。分かりましたよ」
真央と夜桜が何か話している。
一体何をするつもりだ?
「先生。ここ一帯を平地にしてくれよ」
「ほんとに君達は人遣いが荒いよ」
そうボソクサと呟くと天が青く光った。
それと共に雷が生き物のように辺りを焼き払う。
雷で構成された龍が街を喰らう。
そんな地獄絵図が一分ほど展開され辺りは平地となった。
「はい。夜桜の出番!」
「分かったよ」
すると目の前に巨大なスタジアムが現れた。
いったい何をした?
「夜桜の“創造”って能力。かなり便利でしょ?」
「何でもありだな」
「ちなみに創造は夜桜が一番最初に手にした能力なんだよ」
しかし簡単な造りだ。
ただ塀を作って囲ったような感じ。
それと申し訳程度にベンチがあるぐらいだ。
「それじゃあ一番勝負! 先方の人は前に出てください!」
真央が声を発した。
それと共に桃花が前に出る。
相手の先方は誰だ。
「けっ。俺の相手は桃花かよ。出来れば海ちゃんが良かったぜ」
最悪だ。
相手は夜桜……
桃花はそれを確認すると指で一を表した。
おそらく一分がもって限界という意味だろう。
「さて、行きますか」
「それじゃあ第一試合の“佐倉桃花VS夜桜百鬼”開幕だよ! 不幸な事にポテトもお酒もないけど楽しんでねぇ!」
試合のコング……いや、桃花の公開処刑の開幕を告げる声が静かな街に鳴り響いた。