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世界調整  作者: 虹某氏
3章【妹】
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96話 予想通りの簡単で単純な展開

「……白愛の元へ行かねぇとな」


 あれから俺達は智之さんの死亡を確認した。

 しかし戦いはまだ終わったわけじゃない。


「行っても無駄死にじゃないですか」

「白愛一人残すわけにはいかねぇだろ」

「そうですが……」


 なんか白愛に連絡する手段があれば良いのだがそんなものはない。

 電話をしても出る余裕なんて間違いなくないだろう。

 そうなると誰かが夜桜の元まで行かないとならない。


「桃花。宝石は残ってるか?」

「さっきので全て。手元には一つも残ってないよ」


 それもそうか。

 それに魔法は打つたびにかなりのイメージが必要だ。

 かなり神経を張り巡らしてたはず。

 間違いなく精神的な消耗が激しい。


「……海は?」

「すみません。立ってるのがやっとです」


 かのはかなり消耗し過ぎた。

 俺は何とか動けるが横になった瞬間に寝てしまいそうな位には疲れている。

 万全な状態ですら夜桜と戦うのは厳しいのに……


「ここで桃花の家に撤退したいが……」

「回復役のアリスは殺さましたしね」


 戻る意味がないのだ。

 白愛と合流したとしても行き場がない。


「ねぇ空君。もう白愛さんを見捨てて逃げよ?」

「何を!?」

「今だって白愛さんが夜桜を抑えてるから生きてるんだよ。もしも白愛さんと一緒に逃げたら夜桜を抑える人がいなくなって……」


 たしかに桃花の言う通りだ。

 白愛を助けに行くのも困難。

 そして助けるのも困難。


「……海は?」

「白愛には悪いけど今は逃げるしかないかと……」


 随分と冷たいんだな。

 俺はもっと泣き叫ぶと思っていた。

 ちょっと待て。

 根本的になにか見落としてたじゃないか。

 どうして気付かなかった!


「……海と桃花も夜桜対策はしてたよな?」


 俺達は別々に作戦建てた。

 真央達に作戦が漏れていたのは共有の能力だとする。

 これが音も共有されたとしよう。

 真央は白愛と俺とのみ共有した。

 そして海と桃花の作戦は俺も白愛も知らない。

 つまり敵にも割れていない。


「したけど多分無理」

「無理?」

「というより実行出来ない。この際だから言うけど私はナパーム弾を使って街ごと夜桜を焼き払おうと思ってた」


 ナパーム弾か。

 水でも消えない火事を起こす。

 これにより周囲の空気を奪って窒息死を狙ったのだろう。


「でも、予想だけど近くには真央がいる。そんな中でナパーム弾なんて落としたら空君が……」


 それだと俺も死ぬな。

 真央が死ねば俺も死ぬのだから。

 それに常人がナパーム弾の雨に耐えられるわけない。


「私も似たような理由です。私の場合は色々と用意してもらい周囲一帯を凍らせて夜桜を凍死させる予定でした」


 それも真央が巻き込まれる。

 二人共用意したのが範囲攻撃だったのだ。

 完全に裏目に出た……


「やるだけやるか?」

「私もそうしたい。でも私がアリスに合図をしたら落とす予定だったから……」


 そういう事かよ。

 アリス達は既に死んだ。

 つまら飛ばせる人物がいないのだ。

 あそこは管制塔の役割も果たしていた……


「他にもあの様を見た感じ相手の能力は洗脳系ですね。全て情報は掴まれてると見て良いでしょう」

「……詰みじゃねぇか」

「はい。完全に詰みです」


 海はどうしてこんな冷静なんだよ!

 悔しくはないのかよ。

 あんなに足掻いて頭を使ってそれでも虫けらを扱うように簡単に対処されたんだぞ!


「今は詰み。でも次は勝ちます。次のために今は撤退するんです」

「まだ勝てる気でいるのかよ!」

「はい。相手の手は着実に割れていきます。ちゃんとそれに基づいた計画を建てれば勝てます」


 よくそんな自信満々に言えるよな!

 相手の手が今回見せたのが全部のはずがない!

 間違いなくもっとある。

 アリス達を殺した能力の詳細だって不明だ。


「それですよね。桃花」

「そうだね。たしかに相手の手が全部割れたとは言わないけど一つ一つ暴いていけばいいと思う。今回みたいな撤退を何度も繰り返しながらね」


 今回だって撤退するのがやっと。

 しかも次は白愛がいない。

 勝てるわけないじゃないか……


「空君。白愛さんはホムンクルスだよ。つまり作られた存在。それなら量産だって出来るんじゃない?」

「……何を!?」


 たしかに出来るかもしれない。

 しかしそんな事が許されるわけ……


「とりあえず今は逃げよ」

「嫌だ。白愛は見捨てられない」


 死にに行くのは分かってる。

 でも白愛を見捨てる事は出来ない。

 それに逃げたって何の解決にもならない。


「私達が万全な状態ならアリかもしれない。でも私はもうそろそろ限界で海ちゃんは限界を超えて無理してる状態だよ」


 たしかにそうかもしれない。

 だからと言って見捨てて良い理由にはならない。


「空君。もうワガママが通用する場面じゃないんだよ」

「助けたいと思うことの何が悪い!」

「それは悪くないよ。私が言いたいのは死ぬのが悪いって話よ」


 死ぬ?

 誰がそんな事決めた!

 やってもないことを……


「悪いけど今の私達だけじゃ夜桜に勝てる可能性は間違いなくゼロだよ」

「どうしてそう言えるんだよ!」

「空君は白愛さんに勝てるの? 勝てないよね。その白愛さんですら苦戦する相手だよ」


 番狂わせがあるかもしれないだろ。

 白愛一人なら不可でも四人なら……


「……お兄様」

「どうした?」

「私が一人で行きます。だから桃花とお兄様の二人でお逃げください」


 それはダメだ。

 間違いなく死者を増やすだけ……


「……海ちゃん。話聞いてた?」

「はい。そうでもしないとお兄様は決断できませんから。私の命懸けの想いを否定する最低ではないと信じてますから」

「やめろ! 俺はそんなつもりで言ったんじゃない! ただ全員揃って……」


 今の海は足で纏いだ。

 戦えるはずない。


「でも一人で白愛さんの元まで行ける? 今の海ちゃんは歩く事すらままならないんじゃない?」

「気合と根性でどうにかしてみますよ」


 やめろ。もうやめてくれ。

 それ以上は……


「それじゃあ空君。ここは海ちゃんに任せて……」

「そんなこと出来るわけないだろ!」


 もう死なないでくれ。

 誰も死なないでくれ。


「お前ら二人で逃げろよ。俺が一人で白愛の元に行くから……」

「お兄様のバカ! まだ分からないんですか! この際だからハッキリ言いますけど私はお兄様に生きてほしいんです! だから死にに行くんですよ!」


 海が声を荒あげた。

 グサリと声が突き刺さる。

 見えないナイフが心臓を貫くように……


「早く逃げてください。せめてお兄様だけでも生きてくださいよ!」


 あぁやっと分かった。

 これはダメだ。

 俺にはその一言がカチンときた。


「海。ふざけるのもいい加減にしろよ?」

「それはこっちのセリフです!」

「俺だって海に生きてほしいよ。お前が俺に生きてほしいようにな」


 おかげで頭が冷めてきた……

 怖いくらいに脳がよく回る。


「考える事をやめて“死”に逃げるなんてズルくないか?」

「そんな言い方ないじゃないですか! 私はただ……」


 海と桃花も見捨てられない。

 白愛も捨てられない。

 だったらやる事は一つ。

 最初から分かりきっている。

 問題は彼女達はどう説得するか……


加速強化(アクセルバースト)。海なら分かるだろ?」

「覚えてません!」


 困ったな。

 夜桜との戦いの時に使ったはずだが……

 まぁいい。


「あれなら夜桜以上の速度を出して逃げられる。お前らはここで待て。白愛を抱えて俺がここに来たら全員で逃げるぞ」

「空君。そんな体力……」

「決まってるだろ。気合と根性でどうにかするんだよ」


 自分を信じろ。

 体を破壊しろ。

 壊れてもいい。

 今だけは頑張れ。

 みんなを救え。


「そんな事を私がさせると思うかね?」


 そう覚悟を決めた時だった。

 突如ある人物が現れたのだ。

 記憶にはある人。

 まさかこの人まで真央の手の者だとは……


「……先生」


 俺達の学校の担任の先生。

 印象に残ってる事と言えばデスゲームの司会者のような喋り方をするくらい。

 名前すら覚えていないような人物。


「やっぱりそうだよね」

「桃花は知ってたのか?」

「知ってたというより予感はしてたよ。夜桜がいる時点で近くに関係者がいてもおかしくはないしね。それに空君の話を聞く限りだと一周目の世界で海ちゃんがあっさりと学校に入ってきてるから……」


 伏線は撒かれていたのか。

 そして先生は使徒じゃない。

 しかしアペティとアルカード。

 彼等は使徒でないに関わらず能力を使った。

 それに真央は三つ持っている。

 一つ目が使徒によるもので二つ目が神崎家のもの。

 それじゃあ三つ目はどこから来た?

 おそらく彼女達には能力を与える何かがある。


「ここはもっと驚いてほしかったんだけどね」

「空君。悪いけど少し手を貸してもらっていい?」

「当たり前だ。コイツを倒して白愛を助けに行くぞ!」


 考えるのはあとだ!

 とりあえず俺達は先生を倒す!

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