95話 死闘
「くそッ!」
俺は地面を殴る。
いつもそうだ!
また人が死んだ!
虫けらのように殺された!
誰のせいだ!
全部俺のせいだ!
俺が真央と共有なんてされなければ……
「共有されたのは恐らくバーベキューの時でしょう」
「……まさか!?」
「はい。あの時の乱入は共有するのが目的だったんです」
始まる前に終わっていたのか…とは
あの時に殺しておけば……
「今回は少しばかし疲れたな」
絶望に打ち萎れていた時だった。
背後から更に強い絶望が襲ってくる。
「……アルカード!」
「如何にも」
吸血鬼のアルカード。
二週目で親父襲撃の時にいた人物で強さは折り紙付き。
そんな彼を恐る恐る見ると返り血に染まっていた。
さらに片手には薙刀を持っていて完全な戦闘態勢だ。
「私のお父さん達はどうしたの!?」
「聞くまでもなかろう。吾輩がここにいる以上答えは明白であろう」
殺されたのか。
彼等は負けたのか……
「お兄様。立ち上がってください」
「……今更どうするんだよ」
「とりあえず今を生きるんです! これからの事は生き延びてから考えましょう!」
なんて前向きな考えだ。
でも夜桜が残ってる……
もし彼が追ってきたら。
「そう。私のお父さんとお母さんを殺したのね」
「如何にも。恨む権利ぐらいなら娘であるお前にはあるであろう」
「恨みはしないよ。二人ともそうなるのを承知してたはずだから。でも空君だけは殺らせない」
なんで二人はそんな強いんだよ。
どうして前を向けるんだよ……
「空君は逃げて。ここは私達で抑えるから」
「多分三分は稼げます。なのでお兄様はなるべく遠くへ行ってください。そこで私の分も幸せに暮らしてくださいね」
ふざけるなよ。
逃げられるわけないだろ。
桃花と海の二人を見殺しに出来るわけないだろ……
それに戦わないなんて誰も言ってねぇだろ!
「何をしてるんですか!?」
「逆だろ。お前らが逃げろ。俺がここで食い止めるから」
もう終わりにしよう。
二人は逃げて幸せに暮らしました。
それでいいじゃないか。
そう思った時だった。
「「馬鹿言わないでくさい!」」
二人に俺は弾圧されたのだ。
何が間違ってるというのだ……
「空君。君がいない世界なんて私は嫌だよ」
「……海は……どうして?」
「一人が楽しいわけないじゃないですか。白愛もお兄様もいない世界でどうやって生きろって言うんですか?」
答えは決まりだな。
やる事は一つだ。
三人で勝てるかなんて分からない。
そのくらいの化け物だ。
桃花と海もそれは分かっている。
だから俺だけでも逃がそうとした。
しかしそれは間違えだ。
「海。桃花。とりあえずアルカードを倒すぞ。話はそれからだ」
「鼻っからそのつもりだよ!」
桃花がサファイアにルビーにエメラルド。
様々な宝石を撒き散らした。
「陣地作成完了。私がしっかり殺してあげるね」
「なるほど。考えたものだな」
そういう事か。
もし少しでも血を流せば宝石に血が触れて魔法が発動する。
ここは桃花の城になったのだ。
「接近戦は私がやります。桃花とお兄様は私の援護をお願いします」
「了解」
海がアルカードに突っ込んでいった。
ナイフと薙刀のぶつかり合う音が響く。
当然だが海の方が劣勢だ。
それに海は強化をかけて戦ってるから長くは持たない。
殺されるのも時間の問題……
しかしそれは海が一人の場合。
今は俺達三人が相手だ。
「空君。相手は再生するから」
「夜桜と同等かよ」
「再生というより再構築かな。その代わり吸血鬼は日光に当たったら死ぬよ」
裏返せば日光に当てなきゃ死なない。
なんて厄介な。
「夜明けまで耐えろってか?」
「それは違うよ。吸血鬼は夜桜みたいに無限の再生じゃないの。個体差は激しいけど殺し続ければいつかは死ぬ」
なるほど。
蘇生というより再構築。
そしてこれには限度がある。
心臓を貫くより右手を跳ねた方がダメージは大きいか。
普通に考えれば心臓だけを再生させるより手を一つ再生させる方が消耗は激しい。
つまり戦い方がかなり変わってくる。
しかし問題はそこじゃない。
一番の問題は夜桜だ。
途中で夜桜の乱入も十分に考えられる。
出来る限りの早期決着。
「海! 下がれ」
「はい!」
俺はアルカードに雷を落とす。
少しだけ焦げるがすぐに再生する。
俺は深々と観察する。
見た感じ灰が散ってそれが集まって再構築された感じだな。
やはり殺す一手より体を削る一手を打った方が良さそうだ。
夜桜の再生とは根本的に違う。
「……お兄様」
「恐らくお前と同じ事を思った」
多分こいつの再生には限度は体の全損を八回させるくらいか?
いや、もう少しだけ少ないかもしれない……
「海! 攻守交代だ!」
「はい!」
海がバックステップをして俺と入れ替わる。
殺すだけなら海の方が向いている。
でも体を欠損させるなら俺の方が向いている!
「ほう。面白い」
「随分と余裕だな」
俺は再び雷を落とす。
しかしアルカードはそれを難無く回避。
吸血鬼だけあって運動神経も人より高いか!
「脇が甘いわ!」
「桃花!」
俺の合図と共に桃花が氷の柱を地面から突き出す。
アルカードはそれを体を逸らして回避。
しかし俺はその隙を見逃さない。
「加速!」
ナイフを腰から取り相手の首を目掛けて刈る!
アルカードは擦りこそするもののそれを回避。
しかし詰めは俺じゃない。
「海。任せたぞ」
「はい!」
海が急接近する。
再び強化を使い脅威的な速さ。
その勢いを殺さずそのままナイフを心臓に突き刺し蹴り飛ばす。
それと共に血が舞い踊った。
海はそのままとんぼ返りで俺の元へ戻る。
かなり息切れをしてるが今は無理を強いるしかない。
「愉快! 愉快! 本当に今日は良い日だ!」
「随分と余裕だな」
「余裕ではないから楽しいのだよ」
さて、どう殺すか。
こちらは殺せば殺すほど手が割れる。
アルカードはそれを活かしてくる……
「空君と私で今から一回。そのあとに私が二回殺す」
「わかった」
桃花が目で合図する。
あれをやるんだな。
「強化」
相変わらず凄い消耗だ。
流石に最大出力とはいかないけどな。
「行くぞ! アルカード!」
「来い! 若造」
ナイフを右から下に下ろす。
アルカードはそれをギリギリで回避。
しかし風の刃がアルカードの右腕を落とした。
桃花の援護だ。
それにより怯んだ瞬間を突き雷を落とす。
「ゴホッ」
追撃をやめるな。
再び加速を使い体を思いっきりナイフで切り裂く。
しかしその瞬間、俺の体から力がガクンと抜けた。
完全に体力切れだ……
「……桃花」
「ありがと。今から少し時間稼ぐから空君と海ちゃんは休んでて」
ダメだ。
体が重すぎて起き上がれすらしねぇ。
「あるのは瞬間火力だけ。持続性はないな」
「百も承知よ。でも私は殆ど体力を消耗してないよ」
たしかに俺の体は動かない。
でも援護は問題ない。
俺は桃花の体を軽くした。
少しは動きやすいだろ。
「ありがと」
「最大限の補助はするさ」
アルカードの体は先程から重くしている。
しかし彼はそれをものともしない。
なんて筋力だ。
「さて、そろそろお前らも体力を消費し切ったみたいだし能力を使うとしよう」
「化け物蝙蝠か」
生憎コイツの能力は二週目で把握済みだ。
電柱すら噛み砕く蝙蝠を弾丸のように発射してくる。
「如何にも」
その言葉と共に蝙蝠が辺り一面に舞った。
完全に図られたな。
今の動くのがやっとの俺と海じゃ蝙蝠の対処が出来ない。
「空君!?」
桃花は問題なく自分の身を守っている。
しかしギリギリで俺達の方を助ける余裕はなさそうだ。
俺は風の刃を作り蝙蝠を落としているが数が多すぎり。
完全に詰んだな……
「遅れてすまん!」
そう思った矢先だった。
蝙蝠が全て焼き払われた。
後ろの方から右足を引きずりながら男性が歩いてくる。
頭から血も出ておりかなりの重症だ。
「ほう。ビルの六階から一階まで突き落としても生きてるとはな」
現れた人物は桃花の父親だ。
まさか生きているとは……
「桃花。あとは……」
「お父さんは空君達を守って。こんな大怪我じゃその程度の仕事しか出来ないでしょ?」
「フッ。そうだな」
飛んでくる蝙蝠は全て焼き払われていく。
かなり楽になった。
「空。もう立てるであろう?」
「……なんとかな」
海はまだ限界そうだな。
俺は何とか立ち上がる。
そして桃花の方を見る。
蝙蝠の対処をしながら夜桜と戦っている。
氷で作った剣を持ち薙刀を受け止めたり叩いたりとかなりの攻防。
それに隙を見ては火柱も起こしている。
「右ポケットにあるソレでアルカードの頭を撃ち抜いてやれ」
右ポケットにあるソレ。
間違いなく銃のことだな。
念の為に貰っておいて幸いしたな。
俺はアルカードを狙う。
よし、射線に入った。
「桃花! しゃがめ!」
桃花がしゃがんだのを確認して発砲。
弾丸は何かに遮られることなく無事にアルカードに届く。
そして綺麗に打ち抜いた。
しかしすぐに傷は塞がり立ち上がる。
「……引き頃だな」
「逃げるのか!?」
「それはそうよ。吾輩の再生も限界に近いしな」
アルカードは跳躍して家の屋根に乗るりそこから屋根と屋根を飛び移動する。
気づいた時には彼の姿は点になっていた。
「逃げられたな」
「生き延びただけ良しだよ」
桃花がそう呟いた。
よくよく見ると彼女もかなり消耗している。
「桃花。頑張ったな」
お父さんがそんな言葉をかける。
桃花がニッコリと笑った。
「私。がんばったよ」
「そうだな」
その瞬間、智之さんは倒れた。
恐らく最後の力を振り絞っていたのだろう。
彼がいなければ俺達は死んでいた。
感謝してもしきれないくらいだ。
「お父さん。ゆっくり休んでね」
俺達は何とかアルカードを退ける事に成功したのだった。
死闘と言っても過言ではない戦い。
しかしそこに喜びはなかった……




