88話 襲来
「お兄様。焼けましたよ」
「ありがとな」
あれからすぐに日は落ちて夜になり何故かバーベキューをする事になった。
白愛が大量の魚を持っていたため肉というより魚がメインだが……
「海! これフグじゃねぇか!」
「すみません。うっかりしてました」
本当に困った妹だ。
もしかしたら今までの嫌がらせって全てドジをしてただけではないか?
「とりあえず毒は抜いてますから大丈夫ですよ」
「それは知ってるよ。俺はフグが嫌いなんだよ」
白愛が補足する。
先程食べたが味がイマイチ舌に合わなかった。
あんまり好きな方ではない。
「それにしてもフグの良さが分からないとは……」
「海。パイナップル焼けたぞ」
「私が果物嫌いなことを知っての発言ですか? 絶対そうですよね?」
俺は笑って誤魔化す。
それにしても外は夜桜により大惨事。
こんな事をしてていいのだろうか……
些か不謹慎な気もするが……
「空君。楽しめる時は楽しまなきゃ損だよ」
「そうだな」
死者は世界のどこかで常に出てるものだ。
不謹慎とか気にしても仕方ないか。
「酒〜」
「アリス様。この場にいるのは全員未成年なんですから場を弁えてください」
「でも……」
もし大人だったら酒を飲んでたんだろうな。
酒は一体どんな味なんだろうか……
「燻製チーズ焼けてるよ」
「……そうだな」
俺は燻製チーズを真央から受け取る。
……あれ?
ちょっと待て!
「お前がどうしてここにいるんだよ!」
思わず身構える。
この場にいる全員が戦闘態勢に入っていた。
あまりにも自然過ぎて……
「楽しそうな雰囲気だから来ただけじゃないか。今日くらいは休戦といこうよ」
「……本気で言ってるのか?」
「もちろん!」
今この場で殺せるか?
いや、何の対策もしてないとは思えない……
間違いなく何かある。
「殺されるとは考えなかったのか?」
「まぁ少しは考えたよ。でも君達は無抵抗の人を殺すほど黒に染まってはいないだろ?」
「どうしてそう思ったのかな?」
真央が喋ってる間に桃花が喉にナイフを突き立てていた。
間違いなく今なら殺れる……
「お魚。焦げてるけどいいのかな?」
毎回思ってたがどうして真央はそんな顔出し出来る。
コイツは自分が死なないとでも思ってるのではないか?
「……今はそれどころじゃないって感じか」
そして魚が七輪から消えた。
真央の仕業か?
「あっつつつつ!」
気づいた時には真央の手に焼けた魚が握られていた。
しかし熱さのあまり落としたようだ。
「今どうやって取った?」
「転移の応用だよ」
なるほど……
魚の下に転移門を作り自分の手の中に転移させたわけか。
「それで殺すのかな?」
「……桃花。ナイフを下ろせ」
「でも!」
コイツは何考えてるか分からねぇ。
こんな所に来るなんて殺されに来てるようなものだ。
それだったら考えられる事は一つ。
殺される事が計画の内……
「やっぱり殺せないよね」
悔しいがその通りだ。
真央に限っては考えが読めなすぎる。
「良い判断だけど悪い判断でもあると思うよ」
「どういうことだ?」
「後ろの方なら分かってるんじゃないかな?」
桃花なら分かってる?
どういうことだ?
「……お兄様。今この場で殺すのは相手の頭を奪う良い手ではあります。しかし真央は今までの感じを見ると温厚です。もしそんな真央を殺したら……」
海に言われて察した。
真央を殺せば頭が代わる。
その場合、もっと大惨事になる可能性だってあるといいたいのだ。
簡単に言うと相手の頭が真央だからこの程度の被害で済んでいる……
「桃花ちゃんだけじゃなくて海ちゃんも分かったか~」
「あまり舐めないでください」
一手を打つのは簡単だ。
しかし打った手は間違いである可能性もある。
そして一度間違えたら取り返しがつかない事になる。
「さて、話も終わったし君も来るといい」
真央が手を翳して空間を歪める。
その瞬間、夜桜が出てきた。
「大体八時間ぶりくらいかな?」
「俺に言われても知らん」
どの面下げて来てやがる……
コイツらは本当に何を考えて……
「海。大丈夫か?」
「……はい」
ダメだ。
強がってるだけで海の声は震えてる。
完全に夜桜がトラウマになってやがる。
「桃花」
「分かってる。警戒を緩めてないよ」
それで良い。
夜桜は爆弾のような存在。
何時虐殺を初めてもおかしくない。
「白愛。どうする?」
「そうですね。今は考えても仕方ないですしこのままバーベキューを続けましょう」
この状況で……?
たしかに夜桜達は今は敵対しようとしてない。
そもそも真央が来たのはバーベキューに参加しに来たという話だ。
「ちゃんと参加費としてお酒も持ってきたから」
そう言う真央の手に握られてる酒。
間違いなくコイツは俺達を殺しに来た。
握られてる酒の銘柄がそう言ってる。
「このお酒を知ってるんだね!」
「……煉獄龍姫。度が高すぎて一口飲めば確実に死ぬ。それ故に製造停止。そんな酒を持ってなにしに来た?」
煉獄龍姫を飲むなんて冗談は通用しないぞ。
アレは酒と見てはダメだ。
一言で言うなら毒。
「そう言うけど美味しいよ〜」
その瞬間、真央は目を疑う事をした。
なんと煉獄龍姫をラッパ飲みしたのだ。
ゴクゴクと飲んでいく……
「やっぱりお酒はこれに限るねぇ」
「……化け物」
どうして煉獄龍姫を飲んで生きている?
まさか本当に煉獄龍姫を酒として嗜んでいるのか?
「真央様。空様はまだ未成年ですから酒を勧めるのはやめてください」
「釣れないねぇ。法に縛られて生きて楽しい?」
つまらなくても法を守るのは当たり前だろ。
いや、考えてみたら夜桜は笑いながら人を殺す。
そんな夜桜とつるんでいる連中に良識を問うのは間違いか。
「最後に聞きます。貴方達は本当に楽しみに来ただけですか?」
「もちろん!」
それと共に楽しかったはずのバーベキューは一瞬の緩みすら許さないものへと変貌した。




