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世界調整  作者: 虹某氏
3章【妹】
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83話 デレデレ

 地獄を見た。

 人々は逃げ惑う。

 それなのに俺は何も出来ない。

 本当に情けない。

 否が応でも俺はどんどん進んでいく。

 意味は特にない。

 外の空気を吸うという名目で出されただけだ。

 そのまま俺は散歩スポットの公園に出た。

 そこでは海とアリスが夜桜に甚振られていた。

 その時、魔法にかかったかのように意識が覚醒した。

 海の状況は絶対絶命。

 なんとしても海を助けねば!


「空君! 目覚めたんだね!」


 俺は車椅子から立ち上がりフラフラと歩く。

 海の元へと向かって……

 海を甚振っている人物を再確認する。

 間違いなく夜桜だ。

 俺はヤツの体を重くする。

 比喩でもなくそのままの意味だ。

 前の世界で桃花の母親である架純が使ってた能力。


「海に手を出すんじゃねぇよ外道」


 今度こそは助ける。

 前みたいな過ちは犯さない。


「桃花。心配かけたな」

「大丈夫だよ」


 俺は知っている。

 今までの事は記憶はある。

 頭の中で発狂こそしてたが彼女の声は届いていた。

 それがどんなに助けになった事か……

 彼女がずっと寄り添って心配してた。

 ずっと応援してくれた。

 だから今の俺はこの場に立っていられる。


「人の妹に手を出した罪をどうやって償うつもりだ?」


 コイツがそんな手段を持ってないのは百も承知だ。

 それでも確認はしておこう。


「全てはお前のためを思ってやったんだよ。神崎空」


 結局それか。

 お前は神器のことしか頭に入ってないだろ。


「やっぱりお前はここで死ね」


 先程の逃げ惑う人々。

 間違いなく夜桜の仕業だ。


「それと一つ言わなきゃ。神器の契約は失敗だ」

「は?」


 あんなの今の俺には耐えられない。

 でもこれから成長すれば出来るようになる。

 俺はそう信じている。


「なんだよそれ! 姫はどうなるんだよ!」


 そう言われると辛い。

 俺だってコイツの妹である姫が無罪なのは知ってるし出来れば救いたい。

 しかし今の俺にそれは出来ない。


「また今度な」

「ふざけるな!」


 夜桜が殴りかかってくる。

 とても早いが回避出来ないほどのものではない。

 俺は首を傾けて回避して回し蹴りする。

 体が吹き飛んだのを確認してズドンと雷を落とす。


「どうせこの位じゃ死なねぇだろ」


 久しぶりに体を動かしたが問題はなさそうだ。


「アリス。エクスカリバーを出してくれ」

「……分かった」


 彼女が無理をして物語を具現化してくれた。

 俺は迷わずエクスカリバーを引き抜く。

 それからすぐにエクスカリバーの光で二人を包む。


「今まで済まなかったな。俺に出来る最低限の謝罪はしたつもりだ」


 エクスカリバーで海が夜桜に受けた傷と虐待を受けた事により一生物となった傷を無くした。

 出来るだけ早く治した方が海にとっても良いだろう。


「……貴方がお兄様ですか?」

「悪いがその通りだ。お前が傷ついてるのにすら気付けない兄貴で済まないな」


 罵倒の一つや二つ飛んでくると思った。

 しかし何も言葉は返ってこない。


「もうすぐ白愛が来るはずです。この中だと白愛が入れないので解除してください」

「分かった。アリス。悪いが解除してもらっていいか?」


 コクリと頷くと不夜公園へと戻った。

 戦いはこれからだな。


「死ね死ね死ね死ね死ね死ね!」


 夜桜が俺の影から飛び出て来る。

 しかし俺がどうこうする必要はない。

 カシャシャシャンと音が聞こえると共に寒気がする。


「空君に手を出さないでくれるかな? クズ」

「悪いな桃花」


 彼女が氷で夜桜を貫いたのだ。

 さすが宝石嬢と言うだけあり魔法を腕はピカイチ。

 夜桜の流れている血まで凍っている。


「お安い御用だよ」

「桃花。あと二分稼ぐぞ」

「りょーかい」


 海の身柄を拾い上げる。

 とりあえず夜桜から遠ざけたい。


「少しの間、このままでいいですか?」

「お前なら文句の一つでも言うと思ったんだけどな」

「そんなマナー知らずじゃありませんよ」


 俺は海をお姫様抱っこしている。

 絶対にいつもの海なら文句を言った後に蹴っている。

 少しばかし俺への対応がおかしいな


「それにこの状態の方が影移動の対策には良いです」

「たしかにその通りだな」

 

 たしかに影が重なって移動場所が縛れる。

 海を気にしながら戦わくて済むな。

 さて、お姫様抱っこをしながら戦えるだろうか。

 まぁ無理ではないが……


「海はしっかり捕まってろよ! それとナイフを一つくれ!」

「分かりました」


 海がナイフを手渡した。

 俺はそれを受け取る。

 今回やるのは足止めだ。


加速(アクセル)!」


 風を使った技だ。

 足元に追い風を起こし言葉の通り加速。

 今思うと風や雷とか使えるようになったのは海のお陰だな。

 ある意味合体技なのか。


「吹き飛べ!」


 そのまま夜桜を木の方向に蹴り飛ばす。

 加速しながらの蹴り。

 威力は折り紙付きだ。


「倒せなくても時間稼ぎ位はできるぞ」


 俺はナイフを夜桜突き立てる。

 ナイフは夜桜貫通して木に突き刺さる。

 抜くのに多少は時間はかかるだろう。


「小癪な!」


 しかし予想外。

 夜桜は木ごと破壊した。

 なんてパワーだ。

 でも、王手だ。


「白愛。あとは任せたぞ」

「任されました」


 白愛が背後から夜桜を切り刻む。

 あと気を付けるのは真央の存在。

 彼女のハートキャッチを食らったら詰みだ。


「……真央。どうせ聞いてるんだろ。夜桜の身を連れて帰れ。その代わり俺達を今は見逃せ」

「分かった」


 白愛が真央に切りかかろうとするが俺はそれを手を翳して抑える。

 真央がこちらを警戒しながら夜桜に近づき、彼を連れて何処かに消えた。


「海。怪我はないか?」

「はい。それともうそろそろこのままで……」

「却下」


 俺は海を降ろす。

 そして海がポカポカと俺を叩いてくる。

 なんなんだこのデレ期は……


「さて、落ち着いたし改めて」


 俺は息を吸う。

 ちゃんとそういうのはやらなきゃダメだからな。


「心配かけてすまん!」


 どんだけ彼女達に迷惑をかけたか。

 それを考えると本当に恥ずかしくなる。


「気にしてないから大丈夫だよ」


 桃花は笑って許す。

 白愛は仕方ありませんねと言いたげにこちらを見る。


「もっと迷惑かけても良いのですよ?」


 そして海は何かがおかしい。

 俺は海のおデコに触れる。


「……熱はないな」

「嬉しさのあまり熱が出そうです」


 あとで病院に連れてくか。

 多分、悪い物でも食べたのだろう。


「とりあえず帰るか」

「はい」


 そして海が俺の右腕にベッタリとくっ付く。

 しかしおかしい。

 絶対に海はこんな事をしたりしない。

 もしかして夜桜に何かされたのだろうか。

 それだったらかなりマズイな。


「アリスはこの後どうする?」

「特に決まってないけど……」


 一人にさせておくのも不安だな。

 だったらやる事は決まってる


「それなら落ち着くまで俺の家に来い」


 まとまって動いた方が安全だ。

 それにハートキャッチの対策も考えたい。

 考える時は人が多いに越した事はないからな。


「……空君。悪いけど君の家じゃ六人も寝る場所ないよ」

「そうか。桃花の家は空けられるか?」

「もちろん!」


 それじゃあ桃花の家に再び泊まりますか。

 桃花の家だと一周目の世界を思い出す。

 あの時も長い間泊まったものだ。


「……お兄様。疲れたので抱っこしてください」


 海が俺の袖を掴んでそう言う。

 もう別人じゃねぇか。


「……ダメですか?」

「いや、ダメではないが……」


 凄く調子が狂う……

 一体どうすればいつもの海に戻るだろうか?


「私がしますよ」

「白愛じゃなくてお兄様が良いです」


 本当に困ったぞ。

 まぁ抱っこくらいなら別に良いか……

 俺は海を抱き上げる。


「ありがとうございます」


 海の考えが読めない。

 一体何をするつもりだ?


「なるほどね」

「桃花は分かったのか?」

「なんとなくだけどね。考えてみればこの上ないピンチの時に助けられる。しかも空君は顔も良いからこうなるも必然だよ」


 いや、分からねぇ。

 助けたとしても海が素直に感謝するとは思えない。


「でも、空君の隣は私のものだからね」

「はいはい」


 桃花は頼むから前みたいに堕ちるなよ。

 ああなったら手が付けられなくなる。


「……そういうば海は昼食とったのか?」


 俺は海に問う。

 でも答えはない。


「おい」

「空様。海様をよく見てください」


 白愛に言われて俺は海を確認する。

 するとそこでは海が俺の腕の中で寝ていた。


「……お兄様」


 寝言でそんな事まで言う。

 なんか悪くない気もしてきた……


「鈍感な空様のために補足しますね。今まで海様は虐待で残った傷跡を凄く気に病んでました。それこそ呪いのように……」


 そういうばそうだった。

 消した時は泣いて喜んだほどだ。


「そして空様は夜桜から華麗に海様を助けてなおかつ過去の呪いも解き第一声が謝罪です」


 たしかに海に謝った。

 でも、それは当たり前だ。

 海が虐待を受けてる時に俺は普通に生きてた。

 兄であるに関わらず。

 守る義務がある人を守らない。

 そんな行為をしたんだ……


「空様の対応が完璧だったんです。海様の心情を考えると惚れる……というより故意的に思うなっていう方が無理な話ですよ」

「いや、兄妹だぞ」

「今日まで会ってなかった人を兄と認識出来るでしょうか?」


 たしかに俺も最初に海と会った時は妹だと認識出来なかった。

 それで無理矢理自分に言い聞かせて妹だと思えるようになったのが現状だ。

 しかし海にとって今の俺はどうだ?

 ピンチの時に現れて永遠だと思ってた呪いを解いた人だ。

 白愛の言う通り故意的に思ってももおかしくない。


「兄妹が恋愛対象を抱かないのはやっぱり生まれた時からずっと一緒に暮らしてるからだと私は思います。でも海様と空様の場合はその時間がありません。しかも海様はそういう経験がないので……」


 理には適っている。

 しかしそれだと問題しかない。

 惚れるのは別にいい。

 怖いのは桃花だ。

 それだといつ爆発して海を殺すか分からない。

 かと言って桃花を殺す気はサラサラない。

 さすがにあそこまで尽くしてくれる人を殺すのには抵抗が生まれる。

 それに雨霧さんや桃花の父親に母親。

 もうあんな悲劇を起こしたくはない。

 あの時の俺はどうかしてたんだ……

 だからこそ同じ過ちは侵さない。


「……すみません。あまりにも気持ち良かったので寝てしまいました」

「気にするな」


 海が目を覚ましたようだ。

 さて、海と桃花。

 どうしたものか……

 もしも海を振ったら傷つくよな。

 海は今までたくさん傷ついてきたんだ。

 肉体的にも精神的にも……

 それなのにさらに傷つくなんてあんまりじゃないだろうか。


「両手に花か……」

「お兄様のお花ですか……嬉しいです」


 零れた独り言が海に拾われる。

 ちなみにもう片方の花は桃花の事だ。


「それと海は食べたいものはあるか?」

「白愛の作ったものが良いですね」


 そこはブレないか。

 海は白愛以外が作った料理なら冷凍食品を食べるのと変わらないと言い切る人物だからな。


「俺の料理は?」

「少し失礼ですけど私の兄である貴方が料理出来るとは思えません」


 いつもの海になってきたぞ。

 まだ毒が足りないがいつもの海だ。


「そういえば海はどのくらい料理出来ないんだ?」


 少し気になった。

 海が塩や砂糖を間違えるとは思えない。

 それに量を計る頭は間違いなくある。

 そう考えていくと疑問が生まれる。

 料理のどこが出来ないのかというものだ。


「……空様は知らないのですね」


 白愛がそう呟いた。

 そんなに酷いのか。


「……少しだけ海の料理が気になるな」

「それだったら今日は私が作りましょうか?」


 そして海からの驚きの提案。

 良い機会だし見てみよう。


「お願いするよ」

「お願いされました」


 しかしその時の俺達は知らない。

 海が絶望をばら撒くことを……

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