81話 大惨事
「勘違いなさってるようですから言いますけど私はお兄様への復讐のために行くのですよ」
海はそう言った。
今の海に好意なんてない。
あるのは憎悪のみ……
「それじゃあお話は終わりですね」
電車が到着を告げる音を鳴らす。
目的地へと着いたのだ。
「失礼します」
海が電車から降りていく。
一人で……
早く何とかしないと……
「待ちな。どういう条件だったら手を貸してくれる?」
「どんな条件でも手を貸す気はありませんよ」
海が冷たく言葉を残して去っていく。
間違いなくマズイ。
海がいなければ何も始まらない。
それだったら……
「何ですか?」
「力づくで連れてってやるよ」
無理矢理しかない。
これが最善手だ。
「……くっ」
逃げようと外に駆け出す。
逃げ足はあるようだな。
しかし俺には無意味だ。
俺は影移動を使って海の背後に回る。
そして海の口を手で抑えろ。
「大人しくしてろ」
所詮は餓鬼だ。
拉致るくらいなら容易い。
「は、離してください」
「お前が空を助けるならな」
それにしても良い匂いだ。
やはりそこらの女とは格が違うな。
少しくらい体を堪能してもバチは当たらないだろ……
「……離……して」
海が悔しそうに言葉を漏らした。
中々に唆るではないか。
さて、お楽しみといこう。
そう思い胸元へと手を運んだ時だった。
「……勿体無いですが仕方ありませんね」
その時だった。
眩い光に目が奪われた。
「……うっ」
何処かに閃光弾を持っていたのだ。
俺が来るのを予測してたとは思えなねぇ。
常に携帯してるってわけか。
しかも閃光弾で周囲の影を消して俺の移動手段を消された。
どこかのアニメでやってた影の対処法。
まさかこれを現実でやられるとは想定外……
「真央!」
「無理だね。知っての通り私の転移は座標を指定して行うから追尾は不可だよ」
つまり海を手当り次第に探すしかねぇ。
しかも海は使徒じゃねぇから探知も役に立たない。
「そのうち会えるだろうし焦らなくても大丈夫さ」
たしかに言う通りだ。
でも逃がすのも癪である。
それにあれよりあの体を再び撫でられなくなるのが一番嫌だ。
「熱くなるのは気味の悪いところだよ。まぁ探しても不都合はないだろうし探すがいい。ちなみに私ならあの駅ビルの中に逃げるかな」
そう真央が駅ビルを指差した。
そうか。駅ビルか。
たしかに広く人目も多い。
逃げ場としてはこの上なく理想的。
「そして出入口は一つ。待ち伏せてたら出てくるんじゃないかな?」
つまり待たざるおえないわけか。
今すぐにでも追いかけたいがこれが海の狙い。
恐らく俺が入った瞬間にすれ違いで出る気だ。
「さて、長くなりそうだし私は帰るよ」
「そうか」
真央は転移を使って何処かに行った。
彼女はそれなりに仕事が多いしな……
「早く来いよ」
俺はまだかまだかと待つ。
あれから一時間近くが経った。
未だに海は出てこない。
かなり辛抱強い。
もしかして裏口から出たのか?
今思えばあそこは一般人は立ち入る不可だが海なら警備員くらい気絶させて出るのは容易い。
「……何してんですか?」
そんな時に誰かが背後から話しかける。
女性の声だ。
「今は忙しいんだよ。あとにしろ……」
俺は振り向きながら文句を言った。
しかしその瞬間、ありえない事が起きた。
「え?」
俺の首がポトリと落ちた。
再生があるから問題はないがこんな昼間というよりこの平和な国で日常的にに起きる出来事ではない。
「キャーーーーーーー」
近くの人が悲鳴を上げ始める。
そして大惨事となった。
全員が我こそが先にと遠ざかる。
「……何のつもりだ?」
「それは私のセリフです。夜桜百鬼」
俺の首を落とした人物を視認した。
いや、再確認したと言った方が正しいな。
こんな芸当が出来るのはたった一人しか知らない。
「暗殺姫か。どうもこうも俺は空を助けようとしてるだけだ」
「そうですか。でも、海様を襲う必要はありませんよね?」
襲ったなんて人聞きが悪いな。
ちょっと応じなかったから拉致して空の元へと連れてこうとしただけだ。
その時に少しだけ体を弄ぼうとしただけ。
減るもんじゃないから別に問題ないだろ。
そう白愛に弁明しようと瞬間、何かに背後から心臓が貫かれた。
「白愛。助けに来てくれてありがとね」
海が俺の心臓にナイフを投げたのか。
コイツは遠慮なく殺してくるのを忘れていた。
「海様から電話があった時は驚きましたよ」
暗殺姫がいるのは海が助けを呼んだからか。
小癪な事を……
「白愛。夜桜を殺しなさい」
「分かりました」
その瞬間、俺の体は粉微塵になった。
前の世界でも体感したが圧倒的すぎる。
動きがまったく目に追えない……
「再生だって限度があるはずよ。死ぬまで殺しなさい」
残念だが俺の再生は無制限。
つまり死なない。
「貴方はどうして次も再生するって言い切れるの?」
今まで再生してるんだからそうならない道理がない。
コイツは馬鹿なのか?
「一万回再生出来たとしても一万一回目が再生するとは限らないのよ」
そして最悪な場面だ。
暗殺姫との敵対……
さて、どうしたものか。
「海様はとりあえずこの場から逃げてください」
「そうね。それとこんな派手にやったら警察が来るわよ?」
「その時はエニグマに任せますよ」
警察は確かに面倒だ。
まぁ来たら皆殺しにすればいいか。
俺は基本的に無能力者は殺さない主義だがこういう局面になったら仕方ないだろう。
それより問題は目の前にいる暗殺姫。
真央が騒ぎに気付き俺を助けにくれば逃げられるだろうな。
「死ぬ覚悟は出来ましたか?」
「俺はまだ死なねぇよ」
さて、耐久戦といこうか。
そして俺と暗殺姫の勝負が幕を開けた。