8話 海の初手
僕は無事に家に着いた。
しかし“ただいま“と言っても返事はない。
分かってはいたがすこしだけ寂しい。
とりあえず夕食を作ろうとするもやる気が出ない。
仕方ないからコンビニに買いに行こう。
そんな事なら帰りに買えばよかったと少しだけ後悔した。
それにしても白愛は元気にしてるだろうか。
正直言うと海の事はあまり信用ならない。
白愛に好意を向けてるから問題はないだろうがそれでも不安はある。
「それよりコンビニ行くか」
そうボソッと呟き僕は家の鍵を閉め再び外に出た。
外はもうすっかり真っ暗だ。
電柱がぼんやりと照らしており静けさがある。
まるで通り魔でも出そうな雰囲気。
中々に不気味だ。
そんな事を考えてると突然肩が誰かにぶつかった。
そういう時はとりあえず謝るべきだろう。
「すみま……」
しかし周りを見渡してすぐに察した。
チャラチャラした人に囲まれていた。
相手は故意的にぶつかったのだ。
「おいおい兄ちゃん謝罪に金置いとけよ。それと何発か殴らせろ」
こいつらはいわゆる不良というやつか。
そして人数は十人くらいか。
「断る」
「そうかじゃあ死ね」
一人がいきなり金属バットで頭を狙って殴りかかってきた。
手加減も迷いもない本気の一撃。
しかし、とても遅い。
金属バットを避けて手刀で不良の首を叩き気絶させる。
そして、それを見た他の人達は後ずさっている。
「……ビビるくらいなら最初からやるなよ」
「お、お前ら殺っちまえ!」
リーダーっぽいやつがそう言うと周りは雄叫びを上げて我を忘れて僕に飛びかかってくる。
それにしても動きが雑だ。
何も考えてないのが透けて分かる。
すべて避けて足をかけて転ばせるが数が多い。
しかしいつかは終わるだろう。
そして気づいた時には立ってるのはリーダー格の男だけになっていた。
「おいお前」
「ご、ごめんなさい」
「とりあえず最初のヤツを除き転ばせるだけにしといたけど念のため病院には連れていけ。打ちどころによっては危ないからな」
「わ、分かりました」
さっきまでの威勢はどこにいったのやら……
まぁどうでもいいが。
コンビニに向かおうとした瞬間電話がなった。
ブーブー
どうやら不良の電話が鳴っているらしい。
喧嘩が終わった瞬間に電話が鳴るなんてアニメみたいだ。
「……おい。電話鳴ってるけど出なくていいのか?」
「い、今出ます」
リーダー格の男は完全に声が震えている。
そんなにビビらなくていいのだが……
「……あの」
「なんだ?」
「姉御があなたと変われだそうで……」
姉御……?
こいつらの親玉は僕を知っているのか?
とりあえず電話に出よう。
「どう? 元気してる?」
その声はとても馴染みのある声だった。
まさかこれはこいつの差金だったのか……
「何のつもりだ海」
電話の主は僕がよく知る人の一人。
妹の海だった。
それにしても一体どうしてそんな事を?
「言ったでしょ? お兄様の全てを奪うってもちろんそれには命も含まれるんですよ?」
なるほど。
もしも僕が護身術を覚えてなければ多少は怪我。
運が悪ければ死んでいたかもしれない。
「まぁ白愛に教育を受けてるだけあります。とりあえず頭の弱そうな方を集めたんですがまったく相手になりませんね」
口調から察するに今回のが成功するとは思ってなかったようだ。
おそらく小手調べ感覚でやったのだろう。
でもそんな事はどうでといい。
「……白愛は元気か?」
「とっても元気ですよ。さて、今回のでお兄様を物理的に殺すのは困難だとハッキリしました。それなら他の方法を考えるしかなさそうです」
はたしてどこまで信じていいのか。
しかし他の方法を考えるとはまた何か仕掛けてくるという事か。
当分は警戒しないとな。
「……お前は何故そこまで僕を目の敵にする?」
「それは明日学校で話しましょう。それでは白愛のお料理がもうそろそろ出来そうなので失礼させていただきます」
「おい!待て――」
そう叫ぶがその声は海に届かない。
電話が切られてしまった。
それにしても本当に学校で話す気なのだろうか。
まさかここまで恨んでるとは思いもしなかった。
「あ、あっしはもう行ってよろしいでしょうか?」
そういえばすっかりこの不良の存在を忘れてた。
それと”あっし”なんて珍しい一人称だな。
「電話借りてて悪かったな。それと行く前にこいつらは病院に連れてけよ」
「も、もちろんです」
そして不良は周りの人達の頬を軽く叩いて起こすと走り去っていった。
推測だが今日はもう海がなんか仕掛けて来る事もないだろう。
さて、結構時間をかけてしまった。
おかげでお腹はペコペコだ。
早くコンビニに行って夕飯を買って帰るとしよう。
僕はそのままコンビニへと向かった。