78話 看病
「私がいる必要性が見えないんだけど」
全て語り終えた俺に待ってたのはその言葉だった。
たしかに彼女の言う通りかもしれない。
でも、何が影響するか分からない以上は彼女も連れていきたい。
「たしかに空って人が困ってるのも分かったし私がそこに行ってもいい」
「だったら!」
「でも、空は私の助けを必要としてるのかな?」
たしかにその通りだ。
でも、何もしないよりは……
「空が今一番と必要とされてるのは海ちゃんじゃないかしら。今の空は多分、罪に苛まれてるんだと思う。桃花という人を殺した罪に実の妹をその手に掛けた罪」
たしかにそうかもしれない。
「空が求めるてるのは“許し”。許す事は被害者にしか出来ない」
「……被害者か」
許しなんて考えた事が無かった。
罪とは一生背負うものだと思っていたから。
空が何で苦しんでるかなんて考えた事がなかった。
空を助けられるならなんでも良かった……いや、神器が手に入るならなんでも良かったから。
俺は結果ばかり見て過程を疎かにしていたのだ。
「とりあえず私は一緒に行く。だけど行ったからといって解決するとは思わないことね」
「……え?」
「目の前に助けを求めてる人がいたら手を差し伸べる。そんなの当たり前でしょ?」
当たり前。
たしかにその通りだ。
でも、その当たり前を実行出来る人がこの世界に何人いるだろうか。
「場所はどこ? 早く行くよ」
アリスは立ち上がりジャンバーを羽織る。
それから鍵や財布などもって支度をする。
「もちろん交通費は夜桜の奢りよね?」
「……分かったよ。奢りでいいよ」
「それと報酬は貰うよ」
そう言うと彼女は俺の持ってる袋を指差す。
その中身は駅弁。
暗殺姫用に買っていらないと言われて余ってしまったやつだ。
「……マジかよ。今夜の楽しみだったのによう」
「当たり前よ。私も駅弁は好きなんだから」
まぁとりあえず空の元へ行こう。
俺は外に出て暗殺姫を呼ぶ。
「終わった。行くぞ」
「は、はい」
そして暗殺姫が俺の元へ来る。
そう言えばあれがないな。
「お前、魚はどうした?」
「亜空間の中に入れさせていただきました」
「何匹釣れた?」
「二百と五十六匹ですね」
釣りすぎだろ。
この短時間でなんでそんな釣れるんだよ。
「問題はもうないみたいだね」
「……何時からいたんだよ」
そして突然、真央が現れる。
お前はあんまり顔出しするなと言っただろ。
「……あなたは?」
アリスと暗殺姫は思いっきり警戒している。
まぁ突然現れた無理もない。
しかもご丁寧にいつもの仮面も付けて……
「世界の悪役とでも……」
「誤解を招く言い方するな。まぁ俺の相棒みたいなもんだ」
真央はちょくちょく口を滑らせるから危ないったらありゃしない。
「ていうか何しにきたんだよ?」
「……私の駅弁が危ない気がした」
「また買ってやるよ」
そして何処か子供っぽい所がある。
それが真央という人間だ。
「私の能力は転移。今から空の元へ送れるがどうする?」
「……お願いします」
真央は手を翳して空間をねじ曲げる。
そこに飛び込めば空の元へ行ける。
「じゃあ行くよ」
「そうかよ」
俺達はそこに飛び込む。
そして暗殺姫達も恐る恐る飛び込んだ。
しかし、空の元へ行った瞬間に予想外の事態が起きた。
「……突然現れないで。もし、空君に何かあったらどうするの?」
俺の首元には包丁が突きつけられている。
犯人は桃花だ。
「空君ならさっきよりはマシになった。だけどまだ苦しそう」
桃花は何処からともなくタオルを出して空の汗を拭っている。
「それと微熱もある。白愛さんは氷持ってきて」
「……はい」
白愛は冷蔵庫に行き氷を出してそれをタオルに巻いて桃花に手渡す。
「空君。頑張って」
桃花は氷を受け取って空の額に置くと必死に空の手を握っている。
何度も何度も“頑張れ”と応援する。
「ていうか貴方達は空君がこんな重体の時に何をしてるの?」
「……空を助けれそうな人を連れてきた」
「ふーん」
完全にこの部屋の主が桃花と化している。
今の彼女には逆らえそうにない。
「……彼が夜桜の言ってた空?」
「そうだ」
アリスが空に少しだけ近づく。
それから空の顔をジロジロと見る。
「……私はどうすればいいの?」
「それは……」
連れてきたはいいが何も考えてなかった。
アリスに何をさせればいいのか。
「アリスさんはとりあえず応援してください。今の空君は何かと戦ってる。だから応援が一番大事」
「分かった」
そしてアリスは何処かぎこちなく“フレーフレー”と耳元で応援し始める。
恐らくこういうのに慣れてないのだろう。
「白愛さん。寝てても食べれる何かを作って。今の空君はお腹を空かせてるはず」
「……はい」
白愛は食材を出すとミキサーに入れる。
たしかに寝たきりでも飲めるのは液体か。
「それでそこの仮面は?」
「彼女は華恋だ。空との接点はそこまでない」
「そう」
今の桃花には空の事しか頭にないらしい。
なんて洗練された空信者だ。
「とりあえず邪魔。帰っていいわ」
「言われなくてもそうするよ」
俺は真央に軽く合図する。
真央が空間を再度ねじ曲げ転移用の窓を作る。
そして俺達はその場を後にした。
いや、せざるおえなかった……
俺達だけ明らかに場違いだったのだ。




