74話 夜桜*動く
本日から三章の開幕とさせていただきます。
それと三章で一段落つきます。
どうぞお楽しみください。
俺は夜桜百鬼。
不覚にも完全に忘れていた……
時間逆行させると時間逆行させた人も釣られてループしてしまう事を。
そのため俺もループしている……
おそらく空が廃人になったのはループ直前に自分が神器を使える事を自覚したからだ。
神器は神崎家の血を引いていてなおかつ使徒なら扱う事が出来る。
真央が神器を扱えるように……
「とりあえず軽く説明ね。空は現在三週目のループ。以上」
「待ってください! 意味が分かりません!」
「いや、俺も華恋に空は神器の選定に巻き込まれた可能性があるから確認に行ってくれとしか言われていないから」
真央の名前は出さない。
とりあえず華恋だ。
真央の事を知る人物は少ない方がいい。
「そもそも夜桜と空様はどういう関係ですか?」
「うーん。友達かな」
まぁ実際はもっとややこしいけどいいか。
とりあえず拓也だった頃は友達だったわけだし。
真央は言っていた。
神器は生半可な覚悟で手に入るものではないと。
だからこそ殺しに抵抗を持ってる空に人を殺させて罪の意識を無くそうとしたが裏目に出たな。
神器は間違いなく王に必要なのだ。
さて、この空をどう治すか……
姫を助けるためにはなんとしてでも空に神器を取ってきてもわねぇとダメだしな。
「……海なら治せるか?」
「どうして貴方がその名を!」
説明する必要はないだろ。
空は海の事になると凄く熱くなっていた。
妹だし仕方ないだろう。
そして俺が海を襲ったのは日曜。
一日前にはいると仮定して来るのは土曜か。
「ま、とりあえず空が自殺しないように白愛さんは抑えといてよ。俺は学校に行ってくるから」
「……ふざけないでください」
「今回ばかりは姫の命もかかってるから俺も真面目だ。学校に空を治せる人がいるかもだからな」
とりあえず今行くのは学校だ。
空を助けるためにはどうするか。
まずは仲の良かった桃花に話そう。
「お邪魔しましたー」
俺は空の家を後にする。
家を出た瞬間、電話が鳴り響いた。
相手は真央だ。
「どうしたの?」
「君と会って会話がしたい。君は私に電話で丁寧にループする前の世界を教えてくれた。仮にそれを前の世界と呼ぶとしてその話をもっと詳しく聞きたい」
「今日の夜な。とりあえずこれから学校だから」
「まだ茶番を続けてるのか。とりあえず夜にはとっておきの酒を持っていこう」
真央の存在は誰にも知られない方が好ましい。
今回も隠しながら行こう。
俺は真央との電話を切った。
そういえば前の世界で空は桃花を殺していた。
一体それはどうしてなんだ。
俺はなにか重要な見落としをしてないか?
考えろ。
空はどうして桃花を殺した。
そもそも空は一周目の世界で何があった?
ループする要因があるはずだ。
「鈴木君!」
「……竹林か」
竹林は俺のオタク友達。
魔法とかとはまったく関係ない者だ。
俺がアニメ等の足を踏み入れたのは彼のせいだと言っても過言ではない……
それにしてもこの国のアニメは凄いクオリティだ。
アニメがあるからここを拠点にしてると言っても過言ではない。
「難しい顔してどうしたんだよ?」
「今日の朝、ガチャで十連引いたら爆死したんだよ」
「ドンマイ」
もちろん嘘だ。
難しい顔をしてるのは空をどうやって戻すかを考えてるからだ。
しかしそれを詳しく言う必要はない。
そして一つだけ重要な事を思い出した。
コイツは桃花のストーカーだった。
「竹林。桃花について知ってるか?」
「もちろん。桃花ちゃんが後ろの方の席なのは実は授業中に神崎の野郎を見るためで授業はそっちのけで神崎の野郎を見てるんだ」
「お、おう」
空はこのくらいされても恋愛感情に気づかないのか。
お前、本当は鈍感じゃねぇか。
「それでクラス内というか学校内で女子が空の悪口を言うと桃花ちゃんが一瞬で制裁に……」
「ウチの学校って闇深すぎね?」
ていうか竹林。
よく今日まで生きてたな。
桃花に制裁されてない事に俺は驚きを隠せねぇよ。
「制裁っていうのは?」
「腹にアイロン押し付けたり、足の爪と肉の間を針でグリグリと……」
「殆ど拷問じゃねぇか」
所詮は噂だ。
おそらく桃花はそんな事をしてないだろ。
「桃花の好きな物とかは?」
「神崎の野郎が好きな物に等しい」
「聞いた俺が馬鹿だった」
もしかしたらヤンデレの素質があるのではないだろうか。
俺はそう思わずにはいられなかった。
「それで普段、桃花ちゃんはこの道をこの時間に通るから……」
「なるほど。ここに居れば会えるわけか」
そんな事を考えてると桃花がやってきた。
茶髪のツインテールに豊満な胸。
胸は学校内で一番あると言っても過言ではない。
その胸は制服を押し出し圧倒的な存在感を誇っている。
「お、桃花」
「鈴木君。どうしたの?」
「おいおい。その名はやめろよ。俺は夜桜だ」
その瞬間、桃花が驚いた表情をした。
実は夜桜の名を告げた時の反応を見るのが凄く好きなのだ。
「もちろん君がエニグマの関係者だって事は知ってる」
「す、鈴木君?」
あ、竹林の事を忘れてた。
とりあえず気絶させとけ。
俺は首をトンと叩き竹林の意識を奪う。
「夜桜だったんだね。とりあえず世界のために死んでくれる?」
「な!」
桃花はすぐに我に返ったようだ、
いや、現実を受け入れたのか……
なんていう理解の早さだ。
桃花の手には既に宝石が握られている。
「このくらいじゃ死なないよね?」
その言葉と共に俺の体が焼かれた。
握られた宝石はルビー。
適正は炎……
しかし俺は再生能力持ちだ。
彼女の言う通りこのくらいじゃ死なない。
「俺は戦いに来たわけじゃねぇんよ」
「そんなの関係ないよ。あなたが夜桜って事だけで殺すには十分な理由なの」
それにしてもなんて動きの速さだ……
空なんて目じゃねぇ。
ていうか下手したらこいつの父である智之よりよっぽど強い。
今まで実力を隠していたのか。
「でも話くらいは聞いてあげる。何の用?」
「神崎についての話だ」
その瞬間、桃花の目が変わった。
恋する乙女の目だ。
「神崎君! 私の神崎君がどうしたの! やっと私に心を開いて……」
「いいから黙って聞け」
俺は所々はぐらかして話した。
空が使徒である事に廃人になった事は話した。
隠したのは王についてと魔神についてだ。
「なるほど。神崎君はこちら側の人だったのね」
「名字で察しろよ」
「神崎なんてありふれた名字だから普通はあの神崎家なんて思わないよ。それに神崎君の近くで暗殺姫がメイドをやってるねぇ」
先程の凄まじい殺気は消えていた。
間違いなく桃花と戦えば互いに無傷では済まなかっただろう。
「でも、夜桜が言った話が本当だって証拠はあるの?」
「気になるなら空を見てこいよ」
「そうするよ。それじゃあ私は学校休むって伝えといてね」
「……は?」
俺は呆気にとられるしかなかった……