72話 廃人の過程
「……気づいたみたいだね」
「俺が試練を終えた時にお前が言った“こんな能力より強い武器がある”。これは神器の事か?」
「そうだよ」
目の前にいるのはいつも通り知の神。
俺は問う。
そして知の神はそれを肯定した。
「でも、ほんとに神器と契約するのかい?」
「あぁ」
「分かったよ。神として神器の武器庫へ案内するよ」
そして知の神が指を鳴らす。
その瞬間、俺は飛ばされてたった一人となった。
「……言った通り武器庫だな」
俺が飛ばされたところには剣や斧などの武器が散らばっていた。
まさしく武器庫。
「……これが神器なのか?」
空は足元に落ちてた剣を拾おうとした。
しかし――その瞬間、空俺は発狂した。
「ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
頭の中に声が響く。
許さないや殺してやると言った憤怒を含む声。
「俺が悪かった! 許してくれ!」
思わず謝罪する。
もうやめてくれ。
頭が割れる。
そして俺の手元から武器が勝手に飛んでいった。
いや、知の神が無理矢理飛ばしたのだ。
「自分の器はしっかり見極めないとダメだよ。そうしないと――死ぬよ?」
「あ……あ……ぁ」
雷に打たれたかのように意識が朦朧としている。
まだ頭の中に声が余韻として響いている。
でも、まだ正気をなんとか保っていられる。
「なんだ……これは?」
「魔剣グラム。握った者に世界の憤怒を聞かせる。そして君はその負荷に耐えられなかった」
そういう事かよ。
冗談じゃねぇよ。
「ここにあるのは全て神器だ。どれもそれなりに契約時に負荷はかかる。グラムはこの中だと真ん中位かな」
これで真ん中とか冗談じゃねぇ。
これよりも上があるのかよ……
「……俺に合った武器を教えてくれ」
「それは自分で探すものだよ。ちなみに次は助けない」
俺は再び見渡す。
もし選択を間違えれば……
考えるまでもないな。
「姫を殺せてなおかつ俺が耐えられるのは?」
「そんなものはない。武器として作られた物は負荷は大きい。そして今の君はそらに耐えられない」
そういえばこの中には武器以外の道具もあるな。
足元にある羽衣とか良い例だろう。
どれも強い力を秘めているがそれは多分殺すためのものではない。
つまり魔神は殺せない。
恐らく桃花が付けていたソロモンの指輪もそれだ。
逆に言えば武器でないものでもあの位の力を誇る。
しかし――
「耐えられないと誰が決めた。そんなのは俺が決めることだ」
俺は再び立ち上がる。
そして先程とは違う剣に手をかける。
俺が持ったのは真っ黒な剣。
「――――――」
……全て知の神が言った通りだった。
俺は甲高い悲鳴をあげて泡を吹いて倒れた。
「この武器は握った相手に自分の罪と向き合わせる。君とこの相性は最悪と言っても過言ではないね」
全て見た知の神は冷たく告げる。
まるで興味がないように。
「だから言ったのに。自分の器はしっかりと見極めないとダメだって。さよなら空」
◆
「私を殺した人」
俺がいるのは精神世界。
すなわち自分の心の中。
ここでは能力はもちろん使えない。
そんな中で俺は必死に逃げていた。
「……ハァ……ハァ」
今の俺は体中の至る所に穴が空いていた。
しかし最悪な事に精神世界のため死ぬことはない。
もういっそのこと殺してくれ!
「ふふっお兄様は逃げられると思ってるのですか」
そんな声と共に俺の右足が吹き飛ぶ。
俺は痛みのあまり白目を剥いた。
「さて、どうして私を殺したのですか?」
「それは……」
次に俺の顔が潰れた。
しかし死なない。
肉体はすぐに再構築される。
「早く答えてください」
再び死ぬ。
でも、すぐに再生する。
「お前がぁぁ。お前だけはぁぁぁ」
現れるのは新たな人物。
彼女は俺が殺した一人の架純だ。
架純は俺の喉を食い破る。
俺は再び死ぬ。
俺はまた蘇る。
「もう! やめてくれ!」
これは俺の末路。
廃人への道のりだ。
始まる前から結果が決まってる孤独の戦いはすでに始まっていた。