71話 選定の剣
「さて、雨霧君。 一つ良い事を教えてあげよう。君の妹もお父さんもお母さんも殺したのはそこにいる神崎空という男が?」
「……本当か?」
否定したいが全て事実だ。
俺はたしかにこの手で三人を殺した。
そして真央はいつの間にか仮面を付けている。
「しかし彼は強い。我々は君のサポートをするとしよう。そこに刺さってる剣を抜け。君の正義の助けとなるだろう」
「……どうして俺にそこまでする?」
「ただの同情さ」
雨霧さんは俺の方をギラりと睨むとエクスカリバーを引き抜いた。
そして俺に剣先を向けた。
「この仮面が言った事は本当か?」
「あぁ」
「大人しく死ね」
雨霧さんが斬り掛かる。
しかし遅いな。
「やっぱりこんなものか」
俺は彼の剣を容易く回避。
そして腹を蹴り飛ばす。
「……グベボッ」
「雑魚が」
しかしなんとか踏みとどまるようだ。
そしてエクスカリバーが光が彼の傷を癒していく。
「持っただけでこの剣の使い道が分かる。俺は何回でも戦える。百回死のうが百一回目で貴様を殺せればいい」
その瞬間、エクスカリバーは先程より強い輝きを魅せた。
あまりの輝きに目がやられる。
「エクスカリバー。選定の剣だ。人が剣を選ぶんじゃない剣が人を選ぶんだ。佐倉雨霧。この名と一族の名誉にかけて貴様を打ち破る!!」
再び斬り掛かってくる。
俺は応戦して風の刃を飛ばすが無意味。
彼には全て当たるが瞬く間にエクスカリバーで回復される。
「その首、貰い受けるッッ!」
エクスカリバーが俺の首に当たりかける。
しかし彼の剣は遅い。
俺はしゃがんで回避。
腹を雷で貫く。
「この程度ッ」
雷で腹が空くがすぐに塞がってしまう。
型落ちとは言え神器なのだ。
その力は別格。
「……往生際が悪いな」
コイツには魔法は無意味だと実感させられた。
やるのは肉弾戦だ。
俺は彼の綺麗な顔を力一杯殴る。
顔が潰れ歯が折れる音がする。
しかし彼はエクスカリバーを離さない。
それどころか再び斬り掛かる。
「クッ」
バックステップを取り回避。
彼の方を見ると傷は既に回復している。
「言っただろ。何回死のうが貴様は殺すと」
「……狂気だな」
彼の姿は狂気だがまるで勇者だ。
エクスカリバーが凄く様になっている。
「今は届かなくても、いつかは届く!」
彼は再び俺に剣を突き出す。
俺は体を逸らして回避した――つもりだった。
「……掠ったな」
脇腹から軽く血が流れる。
コイツ、戦いの中で成長してるのか。
だとしたら早くケリをつけないと……
「あと俺は何回死ねば貴様に俺の剣は届く?」
「その前に俺がお前の剣を折ってやるよ」
起こすは暴風。
風だって切るだけではない。
暴風は彼の行く手を阻み、体力を消費させる。
体力まではエクスカリバーでも戻せないはずだ。
「……搦手か」
そこに火花を散らす。
作るのは熱風。
風に乗った火花が順調に雨霧の肌を焼いていく。
「……この位の痛みは覚悟出来ている。人は何かを犠牲にしなければ何かを成すことなど出来ない」
「……よく吠えるな」
エクスカリバーが更に一層強く輝いた。
それと共に暴風が雨霧の追い風に変わる。
「……まさか!」
「エクスカリバーは事象の巻き戻し。貴様の魔法を巻き戻した」
火花が今度は俺を襲う。
俺だってこの程度の痛みはどうってことない。
「風は俺の力になり俺は悪を切り裂。俺の正義で貴様を倒す!」
暴風に乗り雨霧が飛んでくる。
それと共にエクスカリバーが俺の顔スレスレの所まで来ている。
バックステップで回避しようとするも風が邪魔して上手くとれない。
「貰った!」
縦に振られた聖剣が俺の右目を切り裂いた。
残った左目で血が舞ったのを確認する。
「……クッ」
焼けるような鋭い痛み。
今すぐにでも右目を抑えたいくらいだ。
しかし今は耐えろ。
「……神崎空。お前の罪を数えろ」
「悪いが罪ならとっくのとうに数えたッ!」
負けない。
負けたら全てが無駄になる。
俺は雨霧を殺す。
「白愛。悪いが力を貸してくれ」
何度もお世話になった白愛から貰ったナイフ。
不思議と力が湧いてくる。
彼の懐に潜り込みナイフを喉元に突き出す。
狙うは即死だ。
即死なら再生は不可。
風は止まった。
今が好機だ。
「加速!」
「……ウゥッ」
雨霧が呻く。
ナイフが喉に刺さったのだ。
しかし最悪な事に即死ではない。
光が彼を包みすぐに傷は癒える。
「ホントに厄介だな」
ナイフをクルリと回転させ再び切る。
しかし回復の方が早い。
「……ッ」
そして彼はいつの日か見せた技をする。
今となっては懐かしい。
俺は前の世界でに桃花の友達に相応しいかどうかで雨霧さんと俺は軽く試合をした。
その時に見せた乱舞だ。
前は全て目で追えて対処も楽だった。
でも、今は追えない。
間違いなく戦闘の中で腕を上げている。
「ウォォォォォォォォ!」
体に傷が増える。
中には深いものもある。
でも、まだ立てる。
「……チェックメイトだ」
しかしもう終わり。
俺は彼の懐に再び飛び込み彼の左目を突き刺す。
ナイフを目に突き刺す痛みはよく知っている。
俺が体験した痛みの中で一番だと言っても過言ではないだろう。
雨霧は頑張ってはいるが痛みに慣れていない。
果たしてそんな人物が耐えられるだろうか。
間違いなく不可。
「……この……程度」
彼から一瞬だけ力が抜ける。
声を挙げないだけ凄いものだ。
しかし終わり。
俺はエクスカリバーの思いっきり蹴り飛ばす。
もしも痛みに動じずしっかりと握っていたらそれは不可だっただろう。
「……悪いな」
「最後に一つだけ教えてくれ。どうして桃花を殺した?」
「……今では桃花を殺した事は間違いだったと思ってるよ」
「お前みたいな悪党は制裁されるから覚悟しろよ。俺じゃなくても他の誰かが殺す」
俺は彼の遺言を聞き雷を落とした。
もう終わりだ。
安らかに眠れ。
そして彼は雷の光に包まれた。
◆
「終わったな」
この場に残ったのは夜桜と真央と傷だらけの俺。
そして空間もボヤけて元いた桃花の家に戻る。
足元には五つの死体。
「クッ」
思わずバランスを崩す。
体がボロボロすぎて立ってるのがやっと。
もし放っておいたら俺は死ぬだろう。
「……これで……いいんだろ?」
「見事だよ。いや、予想外と言った方が正しい」
「……予想外ね」
残ったのは空虚感。
完全な空白だ。
「空はどうして神器を使わなかったんだい?」
「俺は神器は使えない」
こいつらは神器が使えると思ったのか?
神器を使えたらもっと上手く立ち回っている。
いや、待て。
前の世界で神器保有者の桃花は言った。
“神の血を引く者が使徒になると使える”
つまり俺は神器を使える。
そして真央も……
なんでそんな事を忘れてたのだろう。
「……単純に知らないだけか。夜桜。彼を過去に送ってあげて」
「了解」
そして夜桜が俺に近づいた。
やっと地獄が終わる。
次こそは必ず……
「じゃあな」
夜桜の手が俺に触れた。
その瞬間、始まった。
再び俺の戦いが。
俺は再び時を超える。
全てを救うために。