70話 真央は如何なる時も能天気に過ごす
この部屋には死体が四つ転がっている。
一つはルークさん。
一つは白愛。
そして二つは俺が殺した桃花の親達だ。
「……何度考えても君の戦い方は酷いよ」
「勝てば問題ないだろ」
今さら綺麗事を求めるな。
それよりこれで静かになった。
「早く話の続きをするぞ」
俺は強引に貫通した氷柱から足を引っこ抜く。
そしてそのまま席に着く。
かなり痛いが気にする程ではない。
それより時間逆行はするがその前にコイツらの素性をもう少し知らなければ。
まだ、一つだけ……いや、それ以上に気がかりな点が多い。
「お前らは知らねぇと思うが一周目の世界で親父は乗っ取られた。そして親父の体を乗っ取ったヤツは俺を狙った」
「ふむ」
「それはどうしてだ? アカシックレコードと俺は関係ないはずだ」
「その時に暗殺姫をこちら側に引き込むって言ってなかったかい? 私達だって当初の予定では暗殺姫を引き込む予定だったんだ」
そうか。
でもおかしい。
少なくとも夜桜は白愛を殺して能力を奪うつもりだった。
あぁそうか。
白愛を引き込めば白愛が姫を殺せばいいから全て解決するのか。
「納得はしたかな?」
「とりあえずはな」
「まぁ彼は中身が少しアレだから多少の誤解はあるかもしれないな」
とりあえずそういう事にしておこう。
しかし名前が分からないと次の世界で話題になった時に話にくいな。
「親父を乗っとたヤツの名は? 話がしにくい」
「ラグーンだよ」
「能力は触れた相手と入れ替わるで間違いないな?」
「あぁ」
とりあえず語弊はないな。
そして一番、重要な話。
王についてを聞かねば。
「お前は王とやらを作りどうするつもりだ?」
「完全な世界平和だよ」
世界平和ね。
それは本当に必要なのか。
今でも十分世界は平和だ。
まぁコイツらがいなければだが……
「世界は差別に満ちている。私達はそれを無くしたいのだ。もし、満ちてないと否定したいなら世界を渡り歩くといい」
「……それと王がどうやって繋がる?」
「それを知ったら君は王になれなくなる」
またそれか。
結局、言うつもりは無いってやつか。
「王候補は何人いる?」
とりあえず王について少しでも情報が欲しい。
うっかり口を滑らせないだろうか。
「それは内緒」
まぁそうだよな。
今度、知の神と会った時にダメ元で聞いてみるか。
おそらく彼女なら知ってるだろう。
「今やった試練は俺の何を見た?」
「それも内緒」
またか。
しかし真央はどうして世界平和に拘る?
一体、彼女は何を見た?
「空。私は食事を終えた。だったら君は質問より先にデザートを持ってくるべきだと思うんだよ」
「……俺はコックじゃねぇ。それにデザートなんて時間がかかるぞ」
「そうなのか」
当たり前だ。
まぁ時間がかからないのもあるが大体はかかる。
主にオーブンでの加熱が……
そればかりはどうしようもない。
「とりあえず私はデザートを買ってくるよ。空は欲しいのあるかい?」
「特にない。夜桜はチョコアイスでいいね?」
夜桜はこくりと頷いた。
今から真央は買い物に行く気か?
だとしたらなんて能天気な……
「それじゃあ行ってきます」
真央の背後の空間が歪み、真央はそれに飛び込み消える。
そういえばコイツの能力は転移だったな。
ホントに便利だ。
「あれは時間かかるな」
「黙れ。お前と話す気は無い」
「釣れないねぇ」
逆にどうして話すと思ったんだ。
正直、真央とだって話すのはご免だ。
しかし彼女とは話しざるおえない。
「例えば姫が魔神と融合しなかった世界があったとする。その世界で誰かが姫を拉致して手足を切り落として玩具にする。お前はそいつと話したいと思うか?」
「その例えはやめろ。気分が悪い」
「お前が俺にしたのはそういう事だ」
同じ妹持ちなら分かるだろ。
それで分からないなら……
「まぁそれもそうだな。でも時間逆行したら全て無かったことになるだろ?」
「そうだな。もしその世界線でそいつがどんなに姫の身体を弄んでも時間逆行さえすれば無かったことになるな。つまり時間逆行出来ればそいつが姫に何をして問題ないというわけだ」
明らかに夜桜が顔を怒りに染める。
でもそれでキレるのは筋違いと分かってるようで何も言わない。
そして黙り込む。
夜桜の陽気で人を小馬鹿にするような口調も綺麗さっぱり消えた。
ようやくうるさい奴が黙ってくれた。
それにしてもコイツはどんだけシスコンなんだ。
「戻ったよ〜」
その空気をぶち壊すかのように突然、真央が現れた。
彼女は大きく“7”の数字がプリントされたレジ袋を持っている。
予想通り真緒とは気が合いそうにない。
この国には大きなコンビニが二つある。
一つは7と呼ばれるコンビニ。
もう一つはLと呼ばれるコンビニ。
そして俺はL派だ。
「この国のコンビニスイーツを舐めない方が良いよ。めちゃくちゃ美味しいから」
「そうか」
しかし彼女にはコンビニに対するこだわりがないようだ。
それならその件で大きく敵対する事はないな。
「私はプリン。夜桜はチョコアイス。それで空はいらないって言ってたからこれ」
そして彼女が謎のカードを俺に手渡した。
どこかで見覚えのあるカードだ。
たしか誰かが……
「魔法のカードじゃねぇか!」
「そうそう。これさえあればガチャを引けるよ!」
あぁそうだ。
コイツが拓也だった時に買っていたな。
あれもかなり古い記憶になりそうだ。
「それでどうして俺にこれを?」
「魔法のカードは皆を幸せにするんだ!」
「……そんなわけあるか」
そもそも俺が貰ったところで使い道が皆無だ。
一体どうしろと……
「おぉ! これはハーネスダンツじゃないか!」
「そうだよ! 奮発して買ってあげたんだ。味わって食べなさい」
ハーネスダンツ。
高級アイスの代名詞だ。
そしてそれに大はしゃぎする自称二十八歳ねぇ……
「さて、いただきます」
そして夜桜は大切に少しずつ食べておる。
一口食べる度に転げ回っている。
そんなに好きなら買い占めれば良いものを……
「ていうかお前ら死体が四つも転がってる中でよく呑気に食えるよな」
「たった四つだ。別に動揺する事じゃない」
どうやら価値観が根本的に違うらしい。
ツッコミを入れるのは野暮か。
「ていうか聞きたいこと聞いた。早く俺を時間逆行させろ」
「そう急ぐな。まだ試練は終わってないんだから」
試練が終わってない?
俺は思わず構える。
コイツらは何をするつもりだ。
そもそも今の俺は右腕が使い物にならず、歩く度に貫かれた足が悲鳴を上げてるのが現状だ。
「君は桃花に智之に架純って佐倉家の三人を殺した。まだ一人残ってるじゃないか?」
「まさか……」
「そう。君には雨霧も殺してもらうよ」
……俺が……あの人を?
殺せるのか?
桃花の両親二人はそこまで一周目でも深い関係を持たなかった。
しかし雨霧さんはどうだ?
それなりの関係にはなっている。
頼れる兄のような存在だった。
そんな人を俺が殺せるのか?
いや、殺らなきゃダメだ。
覚悟を決めろ。
実力だけで見たら今の俺なら簡単に勝てるはずだ。
負傷していたとしても。
「ただいま」
そして俺達の誰のでもない声が家に響いた。
雨霧さんの声だ。
「……来たねぇ」
「悪魔が」
「なんとでも言うといい。これは王になるためには必要な事なんだ」
雨霧さんが返事が帰ってこないのを不安に思ったのかこちらに足早に向かってくる。
なにかを察したようだ。
「……これは!」
そして扉が開いた。
雨霧さんが驚愕する。
無理もない。
帰ったら両親二人の死体に見知らぬ人の死体が二つがあるのだ。
誰だって動揺する。
俺だって同じ状況になったら動揺するだろう。
「夜桜。お願い」
「あいよ」
そして景色が変わった。
場所はよく見慣れた場所。
目の前には色々とお世話になった剣がある。
アリスの能力の“物語の具現化”だ。
具現化させた物語はアーサー王伝説。
「さて、追試といこうか」