67話 本名とワサビと助けたい人
「そもそも“王”ってなんなんだよ」
俺は華恋に怒鳴った。
何もわからない。
コイツらの目的も俺の現状も……
白愛は死んだ。
でも止まってる場合じゃない。
やるのは現状整理。
「それは言えない。それを知ってしまったら君は王の器になれなくなる」
「……そうかよ」
一体、彼女等は俺に何をさせるつもりだ。
全く想像がつかない。
それこそ……
「飯はまだかな?」
結局それか。
ていうか自分で作れよ。
「俺の分も頼むわー」
そして夜桜が陽気な声で追加オーダーする。
コイツらは本当に頭が逝ってるのか。
しかし今はコイツらに話を聞くしかない。
怒りを押し殺せ。
冷静を振るおえ。
「そうだね。料理の代金の先払いとして私の本名を伝えよう」
「……やっぱり西園寺華恋は偽名なんだな」
「もちろん」
なんとなく予想はついていた。
しかし俺は彼女の名前なんて何でもいい。
「そう睨むなって。私の本名は……」
そして彼女が口を開いた。
そこから出た名前は意外な物だった。
「神崎真央だよ」
「……は?」
なんなんだよ。
つまりどういう事だよ。
「詳しい事を聞きたければ対価を払え」
「……何をすればいい?」
「飯を作れと何度も言っている」
疑惑は確信へと変わる。
彼女には聞かなきゃならない事が山ほどありそうだ。
「分かった」
「楽しみに待ってるよ」
俺はとりあえず台所に行った。
相変わらず桃花の家は食材や機材が整っている。
「ステーキでいいか」
俺は冷蔵庫から霜降り肉を取り出す。
おそらくこれだけで万はするんだろうな。
流石、桃花の家だ。
「……冷蔵庫だから解凍が出来てるな。今日食べるつもりだったのだろうかさ」
運が良かった。
俺はフライパンを熱する。
焼き方はレアでいいか。
肉をフライパンに置いた瞬間、ジュゥゥゥと音が響いた。
それと共に肉の香ばしい匂いがする。
味付けはシンプルに塩と胡椒。
お皿の端に少しだけワサビを置いて完成だ。
「……出来たぞ」
「おぉ! ステーキだ!」
真央は目を輝かせてそう言った。
夜桜には至ってはもう食べている。
「さて、全て話してもらおうか」
「いいよー」
なんとも平和な光景。
だが、忘れてはならない。
コイツらは俺の大切な人を何人も殺している。
隙あらば殺す。
「さて、まずは私の立場から。私は神崎家の生き残りだよ」
この場で神崎の名字を出したんだ。
そういう意味なのは想定内。
おそらく先程のハートキャッチ。
あれは神崎の血によるもの。
そして転移は使徒の能力。
能力二つ持ちなのも説明がついた。
「というより神崎家当主の隠し子だ。神崎家の当主は周りに女児殺しを強要しながら自分の子供。すなわち私だけは隠したんだ」
「……当主」
名前からして神崎家の一番偉いやつだ。
おそらくもういないだろ。
あれ。何かがおかしい。
「待て。神崎家を皆殺しにしたのはそこにいる夜桜なんだよな! どうして神崎家であるお前が仲良くしてるんだよ」
そうだ。
どうして殺した本人と仲良くしている。
真央は隠してでも生かされていたわけだし親からしっかりと愛情を受けていたはずだ。
そんな父親を殺した夜桜とどうして仲良く出来る?
「まぁあの事件は私が主犯だし」
「……は?」
じゃあ動機はなんだ。
夜桜が能力欲しさに殺したんじゃないのか。
真央の考えが読めない。
「殺したのは特に深い理由はないよ。君だって自分で自分の父親を殺してたじゃないか」
「俺の場合はしっかりとした理由がある!」
「まぁなんでもいいけどね」
そう言うと彼女はナイフでステーキを切りワサビを付けて口に放り込んだ。
その瞬間、顔が歪む。
「ワ、ワサビを付けすぎた……」
真央はこの場のシリアスには最も似合わない行為をした。
ホントに真央という人物が掴めなくなる。
「……馬鹿やってんじゃねぇよ。ほら、水だ」
「ありがと」
そして真央は夜桜から水を受け取りガバガバ飲む。
「でも美味しいね」
「御託はいい。さっさと話を進めろ」
「おぉ! 美味しいのは当たり前っていうわけか! なんという自信だ」
もう誤解を解くのも面倒だ。
それに真央には聞かねばならぬ事がたくさんある。
「さて、少し重い話ね。私が神崎家を皆殺しにした本当の理由」
「深い理由はないんじゃないのか?」
「最初は言わないつもりだったけど折角あんな美味しい物を食べさせてもらったんだ。しっかり語るよ」
考えてみたらコイツは海を拉致したというホラを吹いた前科持ちだった。
コイツの言葉を鵜呑みにした俺が馬鹿だった。
「私は他の神崎家にバレないために能力に目覚めるまでずっと外の世界を知らず監禁されて生きてました」
「……それで?」
目覚めたのはハートキャッチじゃなくて転移か。
それで世界をこの目で見たって話か。
「まぁ想像通り転移に目覚めて脱走。そして夜桜と会って一緒に旅をして色々な人達を見てきたの」
「それがどうして神崎家皆殺しに繋がった?」
「世界はとっても美しかった。そんな良い物を隠すなんて許せなかったの。だから殺したの」
ホントに大したことない理由だな。
しかし旅か。
そして予想では目覚めたのはハートキャッチだと思ったが逆だったか。
「おい。夜桜」
「どうした?」
「お前は何故、彼女と旅をした?」
真央については理解した。
しかし夜桜については不明だ。
そもそも夜桜は何が目的だ?
「お前の目的は白愛を殺す事だったはずだ。しかし白愛を殺したのは真央。お前は何がしたいんだ?」
「……」
ここで黙るか。
夜桜には言いたくない何かがあるな。
「実はお前は戦闘狂を演じてるだけだろ」
少しばかり今までの行動が謎だ。
戦闘狂の癖に白愛を恐れた。
その理由は負けるのが怖いから。
普通、戦闘狂がそんな事を考えるだろうか。
たしかに負けるのは嫌だ。
でも、夜桜に限って接戦より虐殺を楽しんでる気がしてならない。
それに今回のでハッキリした。
ルークさんを殺す時。
彼は笑っていたわけじゃない。
どこか悲しそうな顔をしていた。
「……お前は誰を助けたいんだ?」
コイツは私利私欲じゃない。
間違いなく誰かのために動いてる。
俺はそれを知らないとダメな気がしてならなかった。




