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世界調整  作者: 虹某氏
2章【知】
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62話 殺し方

「とっても愉快だったよ!」

「……失せろ」


 顔を見なくても分かる。

 目の前にいるのは【知】の神だ。

 帰ってからすぐに俺は寝た。

 まさか寝る度に出てくるつもりか。


「私だって暇じゃない。出てくるのは気が向いた時だけだよ」


 こいつら絶対、暇だろ。

 もう暇そうな雰囲気が溢れ出てる。


「最近はα世界の秩序を保つのに忙しくね……」

「……α世界ってなんだよ」


 なんかのゲームだろうか。

 こいつらはホントに悩みがなさそうで羨ましいな。


「それで何のようだ?」

「いや、ちょっと面白そうだから君をからかいに来ただけだよ。強いて言うなら“魔神”についてかな」


 そういえば堕ちた神とか言ってたな。

 ならコイツらに関係あるのか。


「魔神はどうやって殺すんだ?」

「えぇー。それ聞いちゃう?」

「もちろんだ」


 あれはもう可哀想だ。

 出来ればあの少女を解放してあげたい。


「魔神は腐っても神だ。人間が殺せるもんじゃない」


 なんとなく予想はしていた。

 しかし魔神だって人に身に宿らされてるんだ。

 本調子だとは思えない。


「まぁ神器を使えば殺せない事はないね」

「……殺せるのは夜桜だけか」

「違うよ。物語の能力で再現した型落ちの模造品じゃなくて本物の神器」


 どういうことだ?

 あのエクスカリバーが偽物だというのか。

 それじゃあ本物の神器とは一体……


「ただの人の身でありながら神器を現界させた化け物がいたじゃないか」

「……化け物?」

「そうだよ! 神器の現界なんて人の身で出来る事じゃない! まさしく化け物じゃないか!」


 そんなに凄い事なのか。

 しかしこんな物をどうやって用意したものか。


「それでその人はどうやって神器を現界させたんだ?」

「君が一番良く知ってるだろ」


 こんな凄い事を出来た人は近くにいない。

 出来たらこんな事態になっていない。


「【愛】の使徒である神崎桃花だよ! 彼女は本当に素晴らしい!」


 言われて思い出した。

 たしか彼女はソロモンの指輪というのを使っていた。

 その時に神器と言っていたな。


「……アイツの名字は“佐倉”だろ?」

「何を言う! 彼女は既に改名したぞ!」

「そんな暇は無かったと思うが……」

「名前なんて自分の認識次第だ。例えば記憶喪失の子にAと名前を付けたらこの子は自分をAと認識して改名された事になる」


 それで桃花は勝手に俺の名字を名乗ってるわけか。

 まぁ彼女らしいと言えば彼女らしいな。

 それはそうと桃花なら魔神を殺せるのか。

 しかし桃花はもういない。


「まぁソロモンの指輪じゃ魔神は殺せないけどね」

「神器なんだろ?」


 彼女は神器なら殺せると言った。

 しかしソロモンの指輪では殺せない。

 矛盾してるじゃないか。


「ソロモンの指輪は戦況を変えたりするのには持ってこいだけど火力が圧倒的に足りないんだよ……」

「なるほど」

「アレを殺すなら“グングニル”とか“グラム”を現界させなきゃダメだよ」


 神器にも色々とあるわけか。

 しかし少しだけ希望が見えたな。

 とりあえず俺は神器を使えれば……


「私も久々に話したから疲れた。早くお帰り」

「いや、久々でもないだろ」

「そうだね」


 そういえば一つだけ聞かねばならない事があった。

 答えによってはかなり面倒な事になる。


「それと時間逆行したらお前から貰った能力はどうなるんだ?」

「正しくは“貸している”だけどね。能力は基本的には魂に刻まれるから時間逆行してもそのまんまだよ」


 そう聞いて安心した。

 それなら俺も次の世界で戦える。


「私はもう眠いんだ。早く帰りたまえ」

「そうだな。子供は寝る時間だもんな」


 俺は皮肉を込めてそう言った。

 感謝こそしてるが正直、こいつの身勝手さは嫌いだ。


「こんな姿なのはちゃんと理由があるんだぞ」

「はいはい。それでその理由は何ですか?」

「それは趣味だよ! やっぱり幼女とは素晴らしいものだよ。この成長してない胸に小さい手。何度見ても心地良い」


 聞かない方が良かったかもしれない。

 ていうか聞かなかった事にしよう。


「それと一つ。君のは皮肉でもなんでもない。皮肉とは骨身にこたえる事を、それとなくいう事でこれじゃあストレートに言ったではないか!」

「そういうのをしっかりと素直に受け止めるのも大切だぞ」


 俺は優しく為になるアドバイスを彼女にしといた。

 彼女の姿が透けていき暗い世界が歪み、景色は色付き始める。

 もうこの戻り方も慣れたものだ。


「“ここでさよなら”と、言いたいがそうもいかない」


 しかし空間の歪みは突然止まった。

 いや、知の神が止めたと言った方が正しいのか。


「あの魔神だけど既に神の意思はないよ」

「どういう事だ?」

「言葉通りだよ。神としての人格はとっくのとうに死んでいる」


 つまりあの少女の人格しかないということか?

 いまいちよく分からねぇな。


「あれは私達の間でも嫌悪される存在。人間が犯したこの上ない大罪だよ」


 初めて感じた。

 知の神の怒りを。

 彼女は少しだけキレている。


「私達は人を使徒にして能力を渡すくらいか話すくらいしか干渉は出来ないんだ」

「そうなのか」


 あんまり万能ではないんだな。

 神と言ってもこの程度の存在か。


「あれを例えるなら“強欲”の使徒かな。とりあえず名称はないから七つの大罪で表しておいたよ」

「……強欲」

「まぁ残りの六つが現れない事を私も心の底から祈ってるよ」


 七つの大罪か。

 たしか“憤怒”“嫉妬”“強欲”“怠惰”“色欲”“暴食”“傲慢”の七種類だったな。


「神って定期的にこの世界に落ちるんだよ。でも普通だったらすぐに戻ってくる。その一瞬を人に捕まってしまったのだろうね」

「……定期的に落ちるなよ」

「落ちるのは世界の理だから仕方ない。割り切ってしまうしかないね」


 しかしコイツは敢えて七つの大罪で例えた。

 まるで七人堕ちるのが最初から決まってるかのように。


「出来れば人間にも魔神と対抗する力を身につけてほしい」

「……神器か?」

「そう。でも神器は普通の人なら使えない。まぁ桃花というイレギュラーが現れたから少しだけ希望は見えたが……」


 それでもまだ足りないというわけか。

 しかしコイツらはなにを恐れている?

 俺には恐れてるようにしか見えない。


「まぁ魔神については頭の片隅にでも置いといてほしいな。私が一番言いたかったのはそれだけ」

「……悪い予感しかしねぇな」

「同感だ。さて、そろそろお開きにしようか」


 その言葉と共に止まっていた歪みは再び動き出した。

 今度こそ本当にお開きだな。

 俺は少しばかしの不安を抱えながら火曜日を迎えた。

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