61話 残した物
一からやりなおす?
何を言うんだ?
そんのの……
「空様は前に誰も死なないために時間逆行をしたんですよね」
「……そうだよ! その結果がこれだ!」
「なら、また時間逆行をすればいいじゃないですか! なんでそれをしないで諦めるんですか!」
そうだ。
ルークさんがいれば全てやり直せる。
まだやり直せる。
「気に入った状況になるまでやり直す。その何がいけないんですか!」
悪いわけがない。
俺の選択肢から抜け落ちてただけだ。
「……そうだよな」
全てやり直そう。
次に全て託そう。
「空様。私の手を取ってください。次の世界ではきっと私がなんとかしてみせます!」
「……信じていいんだな?」
「はい! 二人で絶対に海様を助けましょう!」
あぁそうだ。
失ったなら失う前に戻ればいい。
どうしてそんな簡単な事に気づかなかった。
「……そういう事だったのか」
海は最初から次の世界に賭けていたのだ。
次の世界でもしかしたら人を殺す場面に直面するかもしれない。
その時に迷わないように俺に自分を殺させたんだ。
自分を俺の経験値にしたのだ。
「海も海なりに俺を信じてくれていたんだな」
立ち止まるな。
まだ勝負は終わってない。
むしろこれからだ。
「たしかルークさんが来るのは火曜日の夜でしたよね?」
「そうだな」
そういえば今は何曜日なのだろう?
俺が夜桜に負けたのは日曜日だ。
あれから監禁されていた。
日付はそこそこ経ってるだろう。
「今は月曜日ですね。それと夜です」
来るのは明日か。
白愛が近くにいる以上、夜桜が攻めてくる事はないだろう。
「……来るまで何をするか」
「流石に学校ってわけにもいきませんしね」
「とりあえず家に帰ろう」
「そうですね」
俺達は海を抱き抱えてこの場を後にした。
先程来た道をなぞるように戻る。
「そういえば分かってるだけで敵はどの位いるんですか?」
「あの仮面に夜桜。それに吸血鬼と食人鬼だ」
「……食人鬼ですか?」
そういえばあの場に白愛はいなかったな。
食人鬼について知らないのか。
「中華包丁を両手に持った奴でそこまで強くはなかった」
「そうですか」
あの程度なら間違いなく白愛は秒殺出来る。
あのメンツな中で不自然なくらい弱い。
「でもあそこに特筆した何かが無い人がいるとは思えません」
「何かあるって事か?」
「そのつもりで動いた方が良いでしょう」
警戒する事に越した事は無いな。
何かあっても深追いはしないようにしよう。
俺達はそのまま施設を抜けて外に出た。
外は森林だった。
ここは森の中にあったのか。
月が俺達を照らす。
「ウマい肉!」
そして目の前には見知った顔がいる。
しかし味方ではない。
先程、話してた食人鬼だ。
「お前ガ抱き抱えてる肉! ウマい肉!」
「……まさか」
こいつは海の足と手を食ったのか。
だとしたら……殺す。
「このオンナ。旨かった!」
やっぱりそうなのかよ。
どこまでもお前らは俺の怒りを逆撫でするな。
「白愛。海を持っててくれ」
「……大丈夫ですか?」
「あぁ。俺も鬱憤が溜まってるんだ。こいつは俺が殺る」
俺はナイフを向ける。
気を抜かなければコイツ程度なら死ぬことはない。
「……死に晒せ」
俺はアペティに近づき脇腹にナイフを突き刺した。
痛みで呻くがお構い無しだ。
俺はこいつを蹴り飛ばす。
木が壁となってそこまで遠くまでは吹き飛ばなかったな。
まぁいい。殺すのに問題はないからな。
「知ってるか? 肉は焼いて食うものなんだぜ?」
俺は火の玉を出す。
海が俺に覚えさせるために叩き込んだ火球。
これでお前を焼いてやるよ
他人の肉じゃなくて自分の肉でも食ってろ豚野郎。
「……オラの能力ハ“触れた物を分解してオラのエネルギーに変える事”が出来る」
こいつは使徒じゃない。
それなのに能力を持ってるのか。
おかしな事もあるもんだな。
「触れられなきゃ何も出来ねぇ雑魚能力か」
「雑魚ってユウナ!」
そして食人鬼は自分の脂肪に触れた。
その瞬間、驚く程にスリムになる。
「クッテヤル!」
先程とは比べ物にならない速さで俺に接近してきた。
前に見せた急な加速はこういう種か。
敢えて避けないで受け止めてやろう。
「空様!」
「……心配するな」
思ったより衝撃が大きいな。
それにヌルヌルする。
「オトコの肉ハ硬いカラ嫌いだケド仕方ないネ!」
そして醜悪な口を俺に向けて開いた。
ヤツの口臭がキツいな。
こんな中に海の手足が入ったのか。
考えただけで吐き気がする。
「……かなり遅いクリスマスプレゼントだ」
俺は火球をヤツの口の中にぶち込んだ。
その瞬間、ヤツは思いっきり転倒して転げ回った。
「……刺激は好きか? 嫌いでもくれてやるよ」
そう呟き俺はヤツに雷を落とす。
それと共にヤツは黒焦げになり動きが止まった。
「空様も成長しましたね」
「そうか?」
「はい。でもちょっと詰めが甘いです」
白愛が後ろにナイフを投げた。
後ろには俺が焼いた食人鬼がいた。
よく見ると手がピクピク動いていた。
でも、白愛の一撃で動きは止まった。
「……悪いな」
「このくらいなら大した手間じゃありませんので大丈夫ですよ」
俺達は食人鬼を倒した。
本当に大した事ない奴だったな。
どうしていたのか不思議なくらいだ。
「能力は強いのに中身が残念でしたね」
「そうだな」
触れた物を分解して自分のエネルギーにする。
それは使う人によっては強かった。
相手に触れて分解させれば確実に致命傷を負わせて自分は強くなる。
もしこの能力を夜桜が持ってたらえげつない事になってたな。
「海を持ってくれてありがとな」
「このくらい当然です」
そして俺は白愛から海を受け取る。
海はとても軽いな。
まぁ手足がないので当然だが……
「帰ったらしっかりと埋葬してやらないとな」
「そうですね」
場所はどこがいいだろうか?
ここら辺に良いところはない。
かと言って海の地元まで行く時間はない。
そもそも地元に良い思い出があるのだろうか。
「……ここはやめといた方がいいよな?」
「そうですね。あんまり良い思い出は無いと思いますから」
何処か良いところはないものか……
「私の中はどうでしょう?」
「ずっと収納するのか?」
「はい。あの中で物は時間経過しませんので腐る事はないでしょう」
海は白愛の事が好きだったし場所としては良いだろうな。
ずっと白愛と一緒にいられるのだから。
「お願いするよ」
「分かりました」
もう海の死体を見るのはこれが最後だ。
次は必ず助ける。
「そういえば今回の殺しはなんとも思わなかったな。これも海のおかげか」
俺は白愛と家に帰った。
家に着くとそこは数日しか空けなかったはずなのにとっても懐かしく感じられた。