58話 部屋
「とりあえず海様を探しましょう」
「そうだな」
俺達は虱潰しに探し始めた。
扉を見つけては開き海がいるか確認する。
そんな中で海がいないと壊れた海を見ずに済んで一安心してる自分がいた。
ホントに嫌になる。
「空様。まだ夜桜が言った事が本当であるとは限りません。私達の時みたいにデマの可能性もありますから」
「そうだな」
しかしここまで探していないとなると仮面に一緒に連れてかれたと考えるべきだろうか。
だとしたら海を解放しに殴り込みに行かねばならなくなる。
そんなことを考えてると白愛が急に声を上げた。
「……空様。地下へ続く階段を見つけました」
「いるなら間違いなくこの先だな」
ただでさえジメジメする場所なのに地下があるとは。
ここ以上に不快な場所になりそうだ。
しかし調べないわけにはいかない。
「とりあえず行きましょう」
「そうだな」
互いに顔を見合わせ意思を確認すると白愛から先に地下に降り始めた。
俺も白愛にピッタリとくっ付き階段を下る。
「空様。お下がりください」
「どうした?」
「魔物です」
こんなところにもいるのか。
いや、アイツらが持ってきたのかもしれないな。
「クシヤァァァァァ」
そんな声と共にムカデが現れた。
大きさは俺の三倍くらいだ。
そして所々、体が青色に光っている。
クネクネと動いて気持ち悪い。
「こんな大型魔物を狭い場所に連れてくるなんて何を考えてるのです」
白愛がそう愚痴ると共にムカデが緑色の体液を吹き出す。
体液が出たところを見るとナイフが突き刺さっていた。
おそらく白愛が投擲したのだろう。
「行きますよ」
「お、おう」
そしてムカデが力尽きた。
もしも俺が戦ったら死闘になっていただろうか。
「そういえばここはどこなんだ?」
「昔、戦争で使われた拠点の跡地です。そして空様がいたのは地下一階。今目指してるのが地下二階です」
ここはそんな場所だったのか。
しかし敵はどうしてこんなところを拠点としたのだろうか。
そんな事を考えてると階段が終わり大広間に出た。
「本来はここに先程のムカデを用心棒代わりに置いていたのでしょう」
「……なるほど」
それ以外に特にないので俺はそのまま奥の通路に行こうとした。
しかしそれは白愛に遮られてしまった。
「空様はここで待っていてください」
なんとなく白愛が止める理由も分かる。
でも、足を進めねばならない。
「いや、俺も行くよ」
「そうですか。なにを見ても後悔しないでくださいね」
俺は間違いなく海の凄惨な光景を見るだろう。
白愛はそれを見せないために俺を制止しようとした。
でもここまで来た以上それを見る覚悟は出来ている。
そしてそれを見るのは責任であり義務である。
「それじゃあ行きますよ」
そして歩み始めた。
一歩一歩踏みしめるようにして。
通路は長く続いた。
その通路を終えるとそこは五つの扉があった。
どれも錆が酷く強く握ったら壊れてしまいそうだ。
「扉ですね」
「そうだな」
「……とりあえず片っ端から開けましょうか」
白愛が一番近くの扉を開ける。
そこは血に塗れた部屋だった。
しかし血は既に乾いている。
恐らくかなり前のものだろう。
「……拷問部屋ですね」
「そうなのか?」
「はい。あそこに落ちてるのは“苦悩の梨”と呼ばれる拷問器具。あちらにあるのは“クヌート”ですね。クヌートは見ての通り鞭の一種で肉まで抉れてしまい拷問には不向きです」
「やめてくれ。気分が悪い」
拷問器具についてそこまで知るつもりはない。
それにしてもどうしてこんな部屋がある?
「……それにしてもどれも拷問には向かない即死性の高いものばかり。とても不自然ですね」
「……目的は拷問ではなかったのか?」
「多分そうでしょうね。まるで痛みを集めてたような感じです」
そういえば夜桜は能力を多数持っていた。
痛みをどうこうする能力があってもおかしくないな。
しかし夜桜がこの部屋を使っていたかどうかは不明だ。
「空様。次の部屋に行きますよ」
この部屋は何もないし調べる必要もないだろう。
それより早く海を見つけなければ。
残された部屋は四つだ。
「もしも海様があの時に連れていかれてなければここのどこかにいるでしょう」
一つは拷問部屋だった。
海がいる部屋を除いて三つはなんの部屋だろうか。
どれもあまり良いものではない気がする。
「次の部屋に行きますよ」
そして次の扉を開いた。
そこにも海はいなかった。
変わりにいくつもの薬品が置かれていた。
「人体実験が行われていたようですね」
「ほんとにここはなんなんだ……」
「この薬品はテタノスパスミンですね」
テタノスパスミンは体内に入ると全身が弓なりに反るなどの重篤な症状が引き起こされたりする危険な毒物だ。
死に至るまで激しい苦しみに苛まれることになるだろう。
「……青酸カリやサリンと言った有名な物もありますよ」
背筋がゾッとする。
おそらく他のも同レベルのヤバイ薬品だろう。
ここで行われていたのは毒を注入してこの効果を調べていたという事だろうか。
それとも新たな毒を作る為に調合していたのだろうか。
「どれも珍しい物ばかりです。とりあえず全て貰っておきましょう」
白愛が薬品を亜空間に収納していく。
ほんとに白愛の能力は便利だ。
場所を取らないから質量を考える必要はないし誰かに取られることもない。
それにここにある薬品みたいな持っているだけで捕まりそうな危険物も誰にもバレずに持てる。
「それじゃあ次の部屋にいきましょうか」
この部屋も大した収穫は無かった。
部屋は残り三つだ。
「今あったのは拷問部屋と実験部屋ですね。どれも表舞台では行えるようなものではございません」
「……つまり」
「はい。予想通り他も酷いものでしょう」
しかし他の部屋は検討もつかない。
ただ一つだけ凄く不気味な部屋がある。
そして白愛もそれを分かっていて開けようとしない。
俺はあの部屋に何かがある気がしてならない。
「なぁ白愛」
「空様もやはりあの部屋が気になりますか」
「あぁ」
「……私は開けない方がいいと思います」
たしかに歪だ。
あれは開けたら取り返しのつかない気がする。
「それなら、なおさら開けるべきではないか?」
そんな秘密を敵だけが握ってるのは不味い。
開けたら取り返しがつかない事になる。
しかし開けないともっと不味いだろう。
「……そうですね。でもその前にこちらを開けましょう」
俺達は結局、その部屋を後回しにした。
それから関係ない方の扉を開けた。
それが白愛の隠された秘密を明かすことになるとは知らずに。