57話 足下にも及ばない
遅すぎる参上。
アリスは息絶えた。
海はおそらく心が死んでるだろう。
「失礼します」
白愛が俺の鎖を切り自由の身になる。
俺は夜桜に目を向ける。
もう既に再生してるようだ。
「どうしてここが分かった?」
「手を明かす馬鹿がどこにいますか?」
そう白愛が言うと夜桜の手足が落ちた。
白愛が目にも留まらぬ速さで切ったのだ。
「見たところ再生能力持ちですか。なら棺桶に入れて生き埋めにしましょう」
「……おぞ」
しかし言い終わる前に再び切れる。
白愛は夜桜に立ち上がる隙すら与えないつもりだ。
「再生するのに若干の時間があります。なら完全に再生する前に切り落とすのがセオリーというものでしょう」
ここまで本気の白愛は初めて見た。
今まで見てた白愛とは圧倒的に違う。
「この化け物が!」
しかし夜桜は影移動で白愛の背後に回る。
やはり能力が多すぎるな。
「……遅い」
そう言うと夜桜の身体は千切りにされて落ちた。
白愛は動く素振りすら見せなかった。
「空様を傷つけた罪。この程度で精算できるとは思わない事ですね」
たしかに夜桜がさっき言ってた通りだ。
白愛の前で再生なんて無意味だ。
「まさか……ここ」
喋ろうとした瞬間に身体をバラバラにする。
「発言を許した覚えはありませんよ」
白愛は再生を終えたのを確認すると頭を掴んだ。
夜桜は必死に抵抗するも無力だ。
「貴方は再生の意味を間違えてますね。再生は死なないんじゃなくて死ねないんです」
白愛は夜桜の頭を壁に叩きつける。
その瞬間、夜桜の頭が水風船を叩きつけたみたいに弾け飛ぶ。
しかし、すぐに再生してまう。
「溺死に焼死にショック死に圧死など色々とありますが。次は何がお好みですか?」
もう白愛は戦う姿勢ではない。
一方的に殺す姿勢だ。
「それにしても再生の能力を持っててホントに良かったです。何度でも殺せますから」
夜桜がまるで玩具だ。
白愛がどのくらい規格外だったのか改めて思い知らされた。
「いい事を教えてやるよ」
「結構です」
その瞬間、白愛が素手で夜桜の胸を貫く。
そして心臓を引っこ抜いた。
「貴方の発言は私の怒りを逆撫でするだけですから」
白愛はそう言うと心臓を後ろに投げ捨てた。
心臓は宿る身を無くしてもドクンドクンと動いている。
「どうやら心臓の方は抜かれた事にすら気づいてないようですね。それと空様」
「……なんだ?」
「私も彼にはかなりイラついてます。もう少し遊んでもよろしいでしょうか?」
「構わん」
「ありがとうございます」
その後に白愛は夜桜を真上に放り投げて落ちてきたところを手刀で半分に切った。
「そういえば“さけるチーズ”って知ってますか。それを貴方で再現してもよろしいでしょうか?」
「……やめろ!」
「よろしいのですね。ありがとうございます」
白愛は夜桜の右足と左足を掴み思いっきり体を引き裂いた。
彼の内蔵が思いっきりこぼれ落ちる。
しかし、それでも再生する。
「そういえば再生って体積の大きい方から再生するんでしょうか? それとも頭を中心に再生するんでしょうか?」
「……何を!?」
「少し興味があります。まぁやってみれば分かりますよね」
白愛は夜桜の頭と胴体を手刀で分けて生首を持つ。
そして深々と胴体を見つめている。
「なるほど。再生するのは頭の方ですか」
白愛が持ってた生首からは徐々に体が形成されていく。
その様は異様に気持ち悪い。
「それじゃあその頭を崩しましょう」
持っていた生首を押し潰す。
もう彼女のメイド服は返り血で真っ赤だ。
「そういえば汚れてしまいました。あとで洗わないといけませんね」
そんなになっても死なない夜桜。
もうこれは白愛の言う通り死ねないの方が正しいな。
再生して夜桜はすぐに影移動を使って逃げようとするもすぐに白愛に蹴り飛ばされ部屋に戻される。
「逃げられるとは思わない事ですね」
その言葉と共に夜桜の爪が全て剥がれる。
白愛の手にはペンチが握られていた。
「一通り遊び尽くしましたしそろそろ拷問といきましょうか」
なんていう早業だ。
それにしてもこの一瞬で白愛は何度夜桜を殺したのだろうか。
「そういえば手元に硫酸がありました。これを目に入れたらとっても愉快な光景が見れるとは思えませんか?」
白愛は夜桜の返答を待たず目に硫酸をドバドバと入れ始める。
あまりにも勢いよく傾けるものだから目だけではなく顔の半分が溶けている。
「あら、少しミスりました。まぁこれはこれで愉快なので許すとしましょう」
そんな光景を見ても俺はなんとも思わなかった。
むしろ“もっとやれ”と思ってしまう。
そして突然、目の前にヤツが現れた。
「……痛み分けだな」
そう海を拉致したとデマを吹き白愛と俺を引き離した仮面だ。
「今度は殺します」
白愛の動きはとても早く気づいた時には仮面の背後にいた。
そしてナイフで仮面の首を切ろうとするも見えない壁に遮られた。
「……」
夜桜のバリアだ。
まさか夜桜にそんな気力が残っているとは。
「また近いうちに会おう」
そして仮面は夜桜を拾って消えていった。
「何が痛み分けですかッッ!」
その通りだ。
もう既に色々と失った。
それに対して相手は無傷だ。
淡ゆくば夜桜が白愛恐怖症になってくれる事を祈るしかない。
「そういえば白愛はどうしてここが分かった?」
「全て海様のおかげです。海様が携帯の位置情報をオンにして常に場所を伝えてくれました」
「なるほど」
結局は海のおかげか。
感謝しないとな。
「海様の現状はどうか分かりますか?」
「それが……」
俺は夜桜が話していた内容をそのまま話した。
白愛は黙ってそれを聞いていた。
そして話し終えると白愛は思いっきり壁を殴った。
「……夜桜は次にあったら必ず殺します。良いですね?」
「あぁ」
それにしてもこれからどうするか。
とりあえずあそこまでボコボコにしたらこっちを攻めに来ることはないだろう。
「そういえば親父はどうした?」
「死にましたよ」
「……え?」
「仮面は私達を連れてったあとにお父様を銃で撃ち抜きお得意の転移で逃げました」
こんなにあっさり殺られるとは思わないがおそらく真実だろう。
「この気持ちは本物でしょうか?」
「どうした急に?」
「いえ、なんでもありません」
“この気持ち”って言われても俺には何のことか分からん。
それに今は自分の事で精一杯だ。
冷たいが白愛の事まで気にかける余裕はない。
「……空様は私が作られた物だと知っても傍にいてくれますか?」
「知るか。白愛は白愛だろ」
「そうですよね……」
白愛の戦闘能力は高かった。
彼女一人で国を滅ぼせそうなぐらいだ。
「そんな白愛でも負けるんだよな」
「私は逃がした事はあっても負けた事ありませんよ」
「いや、前の世界の話だ」
前の世界で白愛は桃花に負けている。
白愛は圧倒的な力だ。
それに対し桃花は無限に悪魔を出して魔法を制限無く使えるだけだ。
たったそれだけの桃花が白愛に勝てるとは思えない。
一体どうやって桃花は白愛を倒したのだろうか。
「前の世界の私は人を殺す覚悟が決められなかった。だから負けたんだと思います」
「なるほどな」
だとしても桃花が異様だった事には変わりない。
本調子じゃないとは言え白愛に勝ったのだから。
「そういえば空様は無事に使徒になれたのですね」
「あぁ」
しかしそこで話題が逸れた。
そういえば白愛に使徒になった事は言ってなかったな。
「なんの能力か聞かないんだな」
「えぇ。私が近くにいる限り空様は戦わないので関係ありませんから」
たしかにその通りだ。
白愛がいれば俺は出る幕なく終わる。
「とりあえず終わりましたね」
「そうだな」
俺は改めて夜桜との対決が一旦終わった事を噛み締めた。