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世界調整  作者: 虹某氏
2章【知】
55/305

55話 VS夜桜

 俺は殴りかかる。

 しかし意図も簡単に簡単に回避された。


「遅い遅い遅い遅い遅い!」


 そして夜桜が顔面に右ストレートをぶち込み俺を吹き飛ばす。


「早く超能力を使えよ?」

「やっぱり一筋縄じゃいかねぇか」


 あのスペックなら魔法を使っても回避されそうだ。

 しかし接近戦で勝てる相手でもない。


「そろそろこちらから行くよ」


 そう言うと彼は何かを投げつけてきた。

 とても細い何かだ。


「……クッ」


 気づいた時には体中が切られていた。

 道具を出す素振りはなかった。

 今のは一体なんだ?


「能力の一つで“血の固体化”っていうのがあってな。それで血の針を大量に作りお前に投げつけたってわけよ」


 言われてなんとなく理解した。

 しかし彼が作ったのは針だ。

 こんなに早く投げるなんて間違いなく異常。


「俺の体には常に身体能力強化がかかってるからこそ出来る芸当ってもんよ」


 彼は少なくとも三つの能力を使った。

 決闘開始前に俺の足を掴んだ茨。

 さっき使った血の個体化。

 そして身体能力強化。

 どれか一つでも十分厄介な能力だ。

 しかも厄介な事にどれも再現出来ないものだ。


 そして、間違いなくこれだけということはないだろう。


「お前の能力数はいくつだ?」

「それは言えねぇよ」


 まぁそうだろう。

 そろそろこちらも魔法を使おう。

 それしかない。


「準備運動は終わりだ」


 そう言うと突然背後から夜桜が現れた。

 まったく目に見えなかった。


「オラッ!」


 そして蹴り飛ばされた。

 今のは一体なんなんだ。


「反応が遅ぇよ。今のは“影移動”だ。まぁ影と影を移動するって簡単なものだ」


 そんなの勝てるわけがない。

 強すぎる。


「おっともう戦意喪失か?」

「……そんなわけないだろ」


 対抗策は無し。

 距離を置こうとしても詰められる。

 相手はまだ手札の一割も見せてない。

 しかし勝つしかない。


「切り刻まれろ!」


 俺は全方位に風の刃を飛ばした。

 一つ一つがとても鋭利で手や足くらいなら簡単に切れる。

 これなら避けられないはずだ。


「バーリーアー」


 夜桜は馬鹿にするようにそう言った。

 もちろん彼は無傷だ。


「今回の能力は言わなくても分かるよな?」


 おそらく見えない壁を作るだけの能力。

 言葉通りバリアだろう。


「いやぁ盛り上がってきたねぇ」


 俺が使えるのは火と風と雷だけ。

 どれもバリアを砕けるとは思えない。

 しかし相手に攻撃の隙を与えたらダメだ。

 俺はリンゴサイズの火球を作る。

 そして夜桜に正面からぶつける。


「だからバリアだって」


 もちろんバリアに阻まれて届かない。

 しかし煙は出た。

 それが俺の狙いだ。


「もらった!」


 俺は煙幕に紛れて夜桜に近づき顔を殴った。

 鈍い音が響き渡る。


「いいねぇ」


 俺の拳が夜桜の頬に練り込む。

 これで終わった。


「この決闘は俺の勝ちだ」

「は? 決闘っていうのはどっちか死ぬまでだろ?」


 そして夜桜が俺を殴り飛ばした。

 俺の体は吹き飛びどこかの家の壁にぶつかる。


「なにぬるい事言ってんだよ」

「俺は誰も殺したくない!」

「いやいや。もうお前は桃花殺して人殺しじゃん」


 たしかに殺した。

 だからこれ以上殺したくないって思うことのなにが悪い!


「あ、俺がどうしてそれを知ってるか聞かないのね」

「……聞いたら教えてくれるのか?」

「もちろん! ちなみになんで知ってるかって言うと現場を見てたからです!」


 あの場面を見られてたからか。

 しかしそれなら疑問が残る。


「どうしてその時に俺を殺さなかった?」

「近くに暗殺姫がいたからっていうのとお前が能力持ってなかったからかな」


 なんて理由だ。

 でも夜桜ですら白愛を恐れるのか。


「俺は能力を持ってない人は頼まれない限り殺さない主義なんだ!」


 こいつは身勝手だ。

 あまりにも身勝手すぎる。


「あ! 今、俺の事を身勝手って思ったっしょ?」

「そうだよ。お前の都合だけで人を殺す。身勝手とはお前のためにあるような言葉じゃないか」


 そんなの許されるわけがない。

 能力が欲しいから殺すなんてことはあってはならない。


「ブーメランだねぇ」

「どういう意味だ!」

「人殺しなんてすべて身勝手でしかない。殺される側にとっては理由なんて関係ないんだからな」


 その通りかもしれない。

 でも、お前のは……


「俺は悪くない。仕方なかったんだって罪から目を背けて言い訳するお前の方がよっぽど身勝手じゃないか?」

「これ以上言うな!」


 俺は殴りかかった。

 火を拳に纏わせる。

 前から考えてた技の一つだ。

 殴る時に火を纏う事で相手により高いダメージを与える。


「だから学習しろって」


 しかし再びバリアに阻まれる。

 これ以上は手が持たない。

 俺は火を解除する。

 この技の弱点は長時間使えない事だ。

 長時間使えば火で手が焼き切れて使い物にならなくなってしまう。


「茨の舞」


 そして足元から茨が生えてきて俺の手足に纒わり付き動けなくする。


「心底ガッカリだ。こんなに手札を見せて丁寧に解説までしてやってるのにお前は対策すらしない」


 もう負けた。

 そもそも彼は間違いなく本気じゃない。

 やっぱり俺が夜桜と戦うなんて無理だったんだ。


「そういえばお前はどうして桃花を殺したの?」

「……誰が言うか」


 こいつには知られたくない。

 もう俺のやったことを否定されたくない。


「まぁいいや。もうワンチャンスといこうか」


 そして茨が解けて俺の体が落ちる。

 俺はなんとか立ち上がる。


「ほら、かかって来いよ」


 俺はフラフラと歩く。

 夜桜に向かって。


「舐めてんのか!」


 夜桜の蹴りが腹に入り思いっきり吹き飛ぶ。


「ちゃんと戦えよ」


 そういえばまだあれが残ってた。

 あれなら効くかもしれない。


「……落ちろ」


 俺は夜桜に雷を落とした。

 夜桜は上にバリアを展開させなかった。

 その必要がなかっただけだろうが上に展開出来ない事に賭ける価値は十分にあった。


「……馬鹿なの?」


 しかし夜桜は無傷。

 もう完全に手詰まりだ。


「なんで俺ばっかりこんな目に……」


 もう嫌だ。

 傷つきたくない。

 戦いたくない。


「……つまんねぇ。もう死んでいいよ」


 そして背後に現れる。

 先程見せた影移動だろう。

 俺は手で払おうとするが逆手に取られて掴まれてしまった。


「背負い投げ〜」


 こんな陽気な声で夜桜は俺を思いっきり地面に叩きつけた。


「死んでもいいって言ったけどボスが殺すなって言ったの思い出したから悪いけどまだ生きてて」


 なんて身勝手なやつだ。

 しかし反論する気力もない。


「まぁ今度こそ寝な」


 夜桜は俺の腹に足を置く。

 そして思いっきり踏みつけた。

 内蔵がグチャグチャに混ざる。

 骨がボキボキに折れる。


「……死んでないよな?」


 その言葉を最後に俺の意識は遠のいた。


 ――――――――――――――――――――――――


「……お兄様は無事に家に帰れたでしょうか?」

「心配なの?」

「えぇ。あれでも私の大切な人ですから」


 この時、空は既に海の大切な人になっていたのだ。

 海が死んでほしくないと思える人に……


「空に苦しんで欲しくないから帰したの?」

「想像に任せます」


 そして海達は再びアペティの情報を集め始める。

 本来、海はこの件に関わる必要はない。

 しかし海は関わっている。

 彼女は空を殺したくないのだ。

 海は初めて頼られた。

 自分の力が必要だと言われた。

 彼女はとても嬉しかった。

 その時から空は彼女の数少ない守りたい人物に入ってしまったのだ。


「……口は悪いけど海ちゃんってかなり優しいんだね」

「馬鹿ですか?」


 海は自分に素直になれない。

 また、自分の思った事をそのまま言うのが大の苦手だ。

 これは生まれながらの性質である。


「……百合! まさしく百合! 良いねぇ!」

「女性二人でいるだけで百合なんて思う人がまだこの世界にいるとは思わなかったわ」


 目の前には青い髪の赤い目の男が現れた。

 それに対し海は無言でナイフを出した。


「そして夜桜が百合厨だってことも予想外よ」

「あれ、初対面じゃないですか?」

「ええ。でもこんな不気味な雰囲気を出せるのは夜桜ぐらいだと思うわ」

「まぁ俺が夜桜なんですけどねぇぇぇぇ!」


 そこからの海の動きはとても早かった。

 彼に接近してナイフで首を切り裂いた。

 彼の首から血が噴水のように溢れる。

 海の綺麗な黒髪は返り血に染まった。

 それから彼女は滅多刺しにする。

 この程度で夜桜が死ぬとは思ってないからだ。


「……化け物」

「いやいや、迷わずこんなに出来るお前の方がよっぽど化け物だろ」


 夜桜は普通に立ち上がる。

 まるで何事も無かったかのように。


「アリス! エクスカリバーを出して!」


 アリスは能力を使い“アーサー王伝説”を展開した。

 海は迷わずエクスカリバーを抜き夜桜に向ける。


「……俺はこっちの黒髪のお嬢さんと戦う気はねぇよ。俺の目当てはこっちの金髪のお嬢さん。金色の方は使徒だろ?」

「その通りよ。私は【物語】の使徒。アリス・ローズベリーよ」

「それじゃあ能力貰うよ」


 夜桜は影を移動して背後に現れる。

 ナイフを血で作りそれをアリスの心臓に突き刺そうとした。


「まさか、させるとでも?」


 しかし海が夜桜より早く動きエクスカリバーの腹で血のナイフを受け止めた。

 アリスは尻餅をついてるが無傷だ。


「そういえばお前って誰なの?」

「名乗り忘れて申し訳ありません。私は神崎海。あなたが皆殺しにした神崎家の生き残りです」

「まだ神崎家いたんだ。でもこの歳だと持ってないんじゃない?」


 夜桜は神崎家について知っている。

 だからこそ海が能力を持っていないことを知っている。


「それを言う必要はないわ」


 海がナイフを投擲して夜桜の心臓を貫く。

 しかし倒れない。


「血の固体化と再生能力。そして影移動。一体どのくらい能力あるのかしら?」

「それは言わねぇよ」


 海は必死に考えていた。

 ここから逃げる方法を。

 海は気づいている。

 絶対に夜桜は殺せない。

 しかし海は賭けている。


「……アリス。私が合図したら結界を解除してください」

「分かったわ」


 おそらく殺されるのは時間の問題だろう。

 海もそれを理解している。

 だからこそこの作戦が失敗したら逃げられるようにしている。


「逃げるの?」

「そうですよ。私達じゃあなたには勝てませんからね」


 海はエクスカリバーを夜桜の胸に突き刺した。

 海は神器なら再生しない可能性に賭けたのだ。

 しかし夜桜は息耐えない。

 海は殺せないと判断してアリスを抱き抱えて解除させた。


「……とりあえず距離を取りましょう」


 海は塀をトントンと登り民家の屋根の上に立つ。

 それから軽やかなステップで屋根の上から上へと移動を繰り返す。


「……どんなに距離を取ろうが影移動があるから無駄なんだよねぇ」


 しかし夜桜にすぐに追いつかれる。


「すみません」


 海は軽く謝るとアリスの体を投げた。

 アリスは地面にバウンドするもすぐに立ち上がりそのまま駆け出した。

 海は夜桜の手を掴み思いっきり地面に投げ飛ばした。

 屋根の上から地面に叩きつけるのだ。

 鈍い音が街中に響く。

 でも、夜桜は普通に立ち上がる。


「クッソ。なんて身体能力の高さだよ」


 海は何も返さない。

 もうそんな余裕はない、

 そして夜桜はニヤリと笑って消えた。


「……しまった!」


 夜桜はアリスの方へと影移動したのだ。

 そして血で剣を作った。


「……え?」


 アリスは状況が飲み込めなかった。

 そして夜桜の剣がアリスの首を落とした。

 驚くぐらい綺麗に切れる。

 それこそ切断面が綺麗に見えるくらい……


「……能力は物語の具現化。これなら姫を殺せるかもしれねぇ」


 そんな時に夜桜の胸にナイフが刺さる。

 海が突き刺したのだ。

 海は大切な人が目の前で殺されて黙ってる程弱くはない。


「そろそろお前の相手もしねぇとな。生き残り」

「……お前を空の元へは行かせないッ!」


 そして馬鹿ではない。

 海はここで死を覚悟した。

 今の突撃だってただの自殺ではない。

 空を逃がすための時間稼ぎに自分の命を使うつもりなのだ。


「お前ってまさか空の妹かよ! おいおいアイツ妹までいたのかよ」

「お兄様を知ってるのですか?」

「そりゃ友達だからな。ちなみにその空はさっき倒してきた。まぁ生け捕りだけどな」

「……死ね」


 このあと海が夜桜に秒殺されたのは言うまでもないだろう。


 つまり完全な全滅となった。

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