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世界調整  作者: 虹某氏
2章【知】
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48話 葛藤

「やぁ来たね」


 一面真っ暗な空間。

 しかし見慣れ場所だ。

 目の前にいるのは知の神。

 恥ずかしながら俺は電車で寝落ちしたのだ。


「早速だけど試練を始めようか」


 その言葉と共に試練が始まった。

 残された回数はこれ入れて二回だ。


「試練に使うから水を満たした水槽を出してくれ。そしてそこに一匹魚を入れてくれ。それと箸も一つ頼む」

「わかった」


 知の神は頷くと指を鳴らしてすぐにそれらを出した。

 やはりこの程度は造作もない。


「さて、問題だ。この水槽に泳いでる魚。それを箸だけを使って取れ」


 俺は早速、白愛に教えてもらった問題をそっくりそのまま出した。

 おそらくこれはクリア出来ないはずだ。


「面白いね。ならまず最初に水を抜こう」

「おっと。それはダメだ。“泳いでる”という条件に反するからな」


 そこら辺の対策はしっかりとしてある。

 あくまで泳いでるという前提条件で相手を縛っていく。


「それなら魚を殺して浮いてから掴もう」

「……それを泳いでるって言えるのか?」


 知の神が頭を抱える。

 こんな展開は初めてだ。

 俺は初めて長考に追い込んだ。


「もうこうするしかないじゃん!」


 知の神はやけになったように箸を水槽にぶち込んだ。

 そして魚を掴もうとするが逃げられる。

 しかしめげる事なく挑み続ける。

 そんなことを十分前後続けてようやく掴むことが出来た。


「答えは物理的に掴むだ」


 正直ホントに掴むとは予想外だった。

 でも知の神の追い詰め方はなんとなく掴めた。


「私の場合は力技だったけど君だったらこの問題どうするのかな?」


 そして知の神が新たな魚を出して水槽に入れる。

 しかし俺の答えも一つだ。


「普通に掴むだけだが?」


 俺は眉一つ動かさず魚を掴む。

 これはただの反射神経でやってる。

 脳筋プレイだ。


「……なんという運動神経の高さ」

「それじゃあ次の問題いくぞ」


 そして俺は畳み掛ける。

 今回で試練は終わりにしたい。


「クマに素手で勝つ方法は?」


 もちろん攻略方法は普通にだ。

 それしかないだろう。

 しかし知の神にそれが出来るかどうかは別問題だ。


「なんという鬼畜! なんという悪魔!」

「やれやれ。ルールには反してないんだから別にいいだろ」

「こんな攻略方法は君が初めてだ!」


 それから知の神は三十分ぐらいかけてなんとか熊を倒した。

 しかし生憎時間切れだ。

 次は時間制限も付けるとしよう。


「まぁ面白かったからいいとしよう。一ついい事を教えよう」

「なんだ?」

「この形式の問題じゃ私には勝てない。たしかに難しいが時間さえかければ解ける。それに一つの問題が時間かかりすぎだ。次に同じようなのを出したら私は普通にクリアする。そしたら君は時間切れで試練は失敗だ」


 ぐぅの音も出ない。

 たしかに彼女の言う通りだ。

 これになんかひと工夫せねばならない。

 時間制限でいいだろうがこれで彼女が拗ねて合格にしてもらえなかったら最悪だ。


「それに今回のは君が考えた策ではないだろ?」

「気づいてたか」

「まぁね。でも私が敢えて用意した他人の手を借りてもいいという抜け道に気づいたのは君だ。誇ってもいい」


 でも疑問点は残る。

 知の神は俺の知恵を見てるはずだ。

 今回のは白愛の知恵であって俺の知恵ではない。

 しかし彼女はそれを受け入れた。

 一体何故だろうか?


「私は過程なんかどうでもいい。ただ私が正解出来ない問題に出会いたいだけだから」


 俺は思わず絶句しそうになった。

 それはつまり彼女の私利私欲を満たすために試練をやってるだけじゃないか。

 俺はずっと正しい器かどうかの確認のために試練があるのだと思ってた。

 しかしそれは違った。


「君の思ってるほど神って言うのは高貴なものじゃない。私達にとって人間とはなんだと思う?」


 突然出された問題。

 それは簡単なのに凄く難しかった。

 答えは喉まで出ている。

 しかし言葉にはならない。


「この際だからハッキリ言っておく。君達はただの駒だよ」


 分かっていた。

 そんなのは理解していた。

 しかしその事実が突き刺さる。

 俺はもっと俺という存在を神はしっかりと見てるのかと思ってたのだろう。

 でもそれは思い上がりだ。


「もっと言えば君達のいる世界だって私達にとっては遊びみたいなもの。誰かが適当に使徒を作り使徒同士がどう干渉しあうのかを見るために過ぎない」


 この世界はゲームだといいたいのか。

 プレイヤーは神様。

 キャラクターは俺達。

 今思えば使徒同士が分かるっていうのもゲームを盛り上げるための設定に過ぎないのだろう。


「それと神はみんな葛藤や苦悩が大好きだ。私だって例外じゃない」


 その瞬間世界が揺らいだ。

 いや、違う。

 僕がそう思っただけだ。

 実際は揺らいでいないだろう。

 多分、揺らいだのは僕の方だ。


「今の君の感じは最っ高だよ! ホントに君は最高だよ! 前もたった一つの駒を破壊しただけで凄く葛藤してくれた! ああいうのが私達は大好きなんだ! 愛してる!」


 “たった一つの駒”

 それは桃花の事だ。


「私は君を見て思った。君なら必ず面白いものを見せてくれるとね。君の心は脆い! なのに運命は君に休む間を与えずに襲ってくる! だから君はより葛藤して苦悩する。実に良いと私は思うよ」


 先程から口調も変わってくる。

 これが彼女の本心。

 しかし疑問も出来た。


「……お前ら神は何を基準に使徒に選定している?」

「それは神によって様々だよ。ただ単純に気が合うからっていう神もいれば努力が報われないのは可哀想だの精神で使徒にする神もいる。ちなみに私の場合は葛藤が多いかどうかだ」

「なら、俺じゃなくてもいいはずだ」


 葛藤だけなら俺以外の人もするはずだ。

 正直、俺はそこまで葛藤してるとは思えない。

 たしかに悩み苦しんでいる。

 でも、もっと葛藤してる人はいるはずだ。


「たしかにごもっともだ。でも、私はこれから君が一番葛藤すると判断した。それでは不満なのかい?」


 彼女は言っている。

 俺がこれから先も葛藤を続けると。


「君は時間逆行した事であったかも世界の情報を持っている。そしてその君とルークしか持っていない情報により君は葛藤する」


 考えてみればあの世界を見なければ桃花を殺すなんて案は出なかっただろう。

 俺は殺した事で葛藤している。

 だってこの世界の彼女は罪を犯していないのだから。

 時間逆行した事による葛藤と言ってもいいだろう。


「それに本番はこれからだよ」

「待ってくれ!」

「どうしたんだい?」


 なら、疑問が残る。

 葛藤を見たいだけなら俺を使徒にする必要はないはずだ。

 なのに何故、使徒の試練を受けさせた?


「あぁ試練を受けさせせる理由か。正直に言うと暇潰しだね。最近、神々の間で使徒を作るのがブームで乗り遅れた感があってね」

「……なんで俺なんだ?」

「それは葛藤するから。葛藤しないで力を振り回す人間を使徒にするなんて私は御免だね。ちなみに私の試練は最終確認といったところだ」


 なんなんだこいつは。

 ただの身勝手ではないか。

 いや、よくよく考えたらこれにより俺は不利益を受けていない。

 それどころか利益でしかない。

 思考は最悪この上ないが結果を見れば損はしていない。

 俺がキレるのは筋違いではないか?


「そうそう。そういう事。分かったらさっさと行くんだね」


 そして空間の崩壊が始まった。

 雑談がとても多かった二回目の試練はこれで終わったらしい。


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