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世界調整  作者: 虹某氏
2章【知】
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47話 正体

「さて、陸は無事に救出した出来たかな?」

「それが……」


 そして俺はありのままを話した。

 あの西園寺華恋について。


「……ここに来てアイツも来るのか!」

「知ってるんですか?」

「あぁ」


 ルークさんも知ってるのか。

 つまりエニグマにマークされてる人物なのだろう。


「彼女は証拠こそないが大きな事件について調べると必ずと言っていいほど名前が出てくる」


 裏のボスって言ったところか。

 かなり厄介なやつだな。


「彼女と夜桜が絡んでるは間違いない。そして前の世界で夜桜の居場所をエニグマに伝えたのも彼女と見ていいだろう」


 それで夜桜が動くのに白愛がいると厄介だから拉致したってわけか。

 ことごとく先手を打たれてる。


「しかし放置するわけにもいかないな」


 それもそうだ。

 もしも夜桜を放置してたらどうなるか分からない。


「こちらの戦力は僕とアリスに佐倉夫婦の二人に君を加えた五人だ」


 そういえば桃花のお父さんもエニグマ職員だったな。

 そして桃花の母親が戦力として数えられるのが少し意外だ。

 それにしても五人は少ない。

 もし順調にいけばそこに親父と白愛と海を加えて八人になっていたのか。


「そして相手の戦力は不明ときた」


 状況は最悪だ。

 せめて白愛がいればどうにかなるだろう。

 しかしいない。

 敵はそれを分かってて白愛を拉致したのだ。

 白愛をこの場にいさせないために。


「でもやるしかない」

「そうですね」


 はたして出来るのだろうか。

 しかしやらないわけにはいかない。


「そろそろ電車が来るよ」


 アリスにそう言われてもうそんな時間だということに気づく。

 俺は軽く挨拶をして電話を切った。


「それにしても大変な事になったね」

「そうですね」


 しかしここから話は弾まない。

 状況が絶望的すぎるのだ。


「すみません」

「なにかな?」

「貴方の能力は?」


 聞いていなかったのを思い出してここぞとばかりに聞く。

 一緒に戦う以上、仲間の能力は知っておきたい。


「そういえば言ってなかったね。私の能力は世界に刻まれた物語の具現化よ。簡単に言えば固有結界ね」


 いまいちピンと来ない。

 前の世界で参加させられた演劇はその能力なのだろう。


「百聞は一見にしかず。まぁこういうことよ」


 そう言うと彼女はどこからともなく本を出してページをめくって行く。

 そして彼女は目当てのページを見つけてたのか手を止める。

 その瞬間、背景が変わり辺り一面が草原になった。

 それと目の前には異様に高い塔がある。


「今回具現化させたのは“ラプンツェル”よ。私が出来るのは背景と道具だけでキャラクターは生み出せない。でも私は作中のキャラクターになりきることが出来る」


 その瞬間アリスの髪が凄く伸びた。

 おそらくラプンツェルになったのだろう。


「もっと言えば私はなりきったキャラクターの能力を使う事が出来る。例えば“シンデレラ”に出てくる魔女になればカボチャを馬車に出来る」

「……強いな」

「でもなれるのは人だけ。つまりドラゴンとか人魚とかの別種族なれないのよ」


 それでもこの能力は強いと言える。

 アリスは背景と道具を再現出来ると言った。

 つまり“眠り姫”に出てくる永遠に眠らせる針とかも再現出来るという事だ。

 この能力の凡庸性はとても高いと言ってもいい。


「まぁそんなところよ」


 そして背景が元に戻る。

 アリスの能力を知ったことで少し希望が見えた。

 もしかしたらどうにかなるかもしれない。


「それと私は戦闘能力は皆無よ。基本的にはサポートだと思いなさい」


 この能力なら普通に戦闘出来そうな気がするがそこは聞いたらタブーなのだろう。

 そして電車が来た。


「それじゃあ行きましょう」


 俺は特に言葉を返すことなく電車に乗った。

 それから間もなく電車が出発する。


 まるで決戦の地に誘うかのように……


 ◆ ◆ ◆ ◆


「……ここはどこですか?」

「分からねぇ」


 私達は華恋と名乗る仮面の言われるがままに転移した。

 そこは錆び付いた鉄の匂いがするとても気味の悪い部屋だった。

 真ん中にはポツンと机が置かれている。

 そして向かい合うように椅子も置かれてる。


「ようこそ。“ラオベン”のアジトに」

「……ラオベンとはなんだ?」

「知りたければゲームをする事だね」


 ラオベンはおそらく組織名だろう。

 多分、今回の襲撃もラオベンという組織の仕業だろう。


「そのゲームはなんですか?」

「チェスだよ。でもルールは少しばかり加えさせてもらったけどね」


 チェスならなんの問題もない。

 気になるのは仮面がそれに何を加えたかだ。


「今回は追加ルールとしてポーンが取られたら指を一つ。ビジョップが取られたら耳。ナイトなら目。ルークなら足を落として相手に渡す」


 仮面はポーンが取られたら指を切り落としてビジョップなら耳を落としてナイトなら目を抉り取りルークの場合は足を切り落とせと言っているのだ。

 チェスで駒を一つも失わないで勝つのはかなり難しい。

 つまり無傷で勝つのは不可能。


「ちなみにクイーンを取られた場合は神崎海の命を貰う。キングの場合は暗殺姫。すなわち君の命だ」


 考えろ。

 どうすればいい。

 このチェスを受けたらその時点で犠牲は避けられない。

 いや、まだ犠牲を出さない方法がある。

 あまり使いたい手ではないし相手がそれを了承するかも分からない。

 これは相手の好意に甘える形になるが今は犠牲を出さない方が重要だ。


「分かりました。しかしそのなんかの駒を取った場合はどちらが対価を払うことになりますか? もしも私のだと言うならこの場にお父様がいる理由はありませんね」

「私はしっかりと対価を支払えれば誰のでも構わん」


 ちゃんと言質はとった。

 ポーンを取られた時に差し出す指は誰のでもいいという事だ。

 それはナイトやビジョップそしてルークでも然り。


「分かりました。それじゃあ始めましょう」

「……正気か?」

「はい」


 そして私は手を打つ。

 それを見て仮面も打つ。

 そうして血に染められたゲームは幕を開けた。


 何度か打ち合いが続いてようやく私は相手のポーンを手にかけた。


「……これで貴方の指を一つ貰いますね」


 私は仮面のポーンを取ると共にはそう告げる。

 仮面がなんの対策もしてないとは思えない。

 一体どんな対策をしたのだろうか?


「そうだね」


 しかし仮面は躊躇いなく指を切り落とした。

 そこからは火花が出た。

 人間なら指を切ったら火花が出るなんてまずありえない。


「あなたの体はロボットですか」

「正解だ。本物の私は別のところにいる」


 彼か彼女はこのゲームでリスクを背負ってないのだ。

 だからこのような狂ったゲームも行えた。

 しかし謎は残る。

 ロボットなら転移の能力は使えないはずだ。

 しかし仮面は私達を連行する時に間違いなく能力を使用していた。


「……やられましたね」


 なら考えられる事は一つ。

 あの場にはこのロボットと仮面本人がいたのだ。

 つまり仮面は空様の近くにいる可能性が高い。

 状況はかなりまずい。


「やっと気づいたみたいだね」

「でも考えても仕方ありません。ゲームを再開しましょう」


 再び始まる狂気の舞踏。

 駒は盤上を踊り狂う。

 しかしその駒を失えばただでは済まない。


「次は私の番だな」


 私のポーンが取られてしまった。

 中々に強い……

 そして私は指を一本差し出さなければならない。

 もちろん対策はした。

 そのための言質だって先程取った。


「これでどうですか?」


 だから私は死体を出す。

 空様が殺した桃花という女性の死体だ。

 私は彼女を指を切り落として乱暴に仮面に向かって放り投げた。


「あなたは誰のものでも構わないと言いました。なら死体の指でも問題ありませんよね」

「そうだな」


 仮面は特に言う事なくゲームが再開された。

 まるでこれすら計算に入れてたような感じだ。

 とても気味が悪い。

 私は順調に駒をとる。

 あれからかなりの手を打った。

 もうゲームも終盤になる。

 私が取ったのはポーンが六つにルークが二つ。

 それとビジョップが一つとナイトが二つだ。

 それに対して取られたのはポーン三つにナイト一つ。

 たったそれだけだ。


「そういえばクイーンを取ったら貴方は何をしてくれるのでしょう?」

「海が現在いる場所の情報を吐こう」

「分かりました」


 そして私はクイーンを取る。

 これで海の情報は知れた。

 もうこのゲームもおしまいだ。


「さて、教えてもらいますよ」

「そうだな。答え合わせといこうか」


 しかし仮面の口から語られるのは意外でも最も簡単な真実だった。


「最初から私は神崎海は拉致していない」


 私達の努力を嘲笑うかのようにそう告げた。

 私達は仮面の手の上で踊らされただけだったのだ。

 今までのはただの茶番だと仮面は言ったのだ。


「そうですか」


 私はゲームを放棄して仮面を殺す。

 いや、それはロボットだから壊すといった方が正しいだろう。


「とんだ時間の無駄でしたね」

「そうだな」


 私は壁を蹴り壊してそこから脱出しようとする。

 しかし外は青色だった。

 それは海の青色ではない。

 空の青色だ。


「クソっ! アイツ!」


 嫌でも全て理解した。

 私達がいるのは空の上だ。

 おそらくここは飛行船の中とかだろう。

 無人かどうかは分からない。

 仮面の目的は私達を遠ざける事だった。

 ここから空様の元に向かうまでかなり時間がかかる。

 それどころか地上に降りるのすら至難の業だ。


「完全に嵌められましたね」


 私達はこの現実に下唇を噛む。

 しかしまだ手がないわけではない。


「どうにかできねぇのか?」

「もしここから出るなら飛び降りるしかありません。そしてこの高さです。タダでは済まないでしょう」


 それは普通に飛び降りた場合の話だ。

 幸いにも私はパラシュートを作る材料は持っている。

 でもここの真下が地面である保証はない。

 海の上という可能性だって高い。

 もしも太平洋のど真ん中に落ちたりしたら最悪だ。


「そうだな。お前に全て任せる。なんか手はあるんだろ?」

「少し不安ですがあります」


 他に手はない。

 なら、賭けるしかないだろう。

 運良く地上に降りられる可能性に。


「ならその策に乗ろう」

「ありがとうございます」


 私はパラシュートを作り始める。

 ただ黙々と。


「そういえば一つ聞いていいか?」

「なんでしょうか?」

「どうして空に全て言わない?」

「乙女に秘密は付きものですよ。さて、出来ましたし行きましょうか」


 私は適当にはぐらかす。

 私の過去は誰にも言わなくていい。


「お前。空の顔が脳裏から離れないだろ?」

「はい。それがどうかしましたか?」

「空の顔が脳裏から離れないのは体を求めてるから。俺は昔にお前と空を主従契約を無理やりさせてその記憶を消去した」


 やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ。

 これ以上言うな!


「お前は空から一年以上離れると死ぬホムンクルスだ」


 そして私の真実が告げられた。

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