表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界調整  作者: 虹某氏
2章【知】
45/305

45話 仮面

 白愛に呼ばれて居酒屋に行くとそこには血溜まりが一つあった。

 死体はおそらく白愛が収納したのだろう。


「……突如現れた吸血鬼に殺された。少し会話は出来たが僕が触れる前に殺された」


 やはりここに向かっていたか。

 敵については分からずじまいだ。


「目撃者は気絶させといて記憶消去しといたから心配するな」


 親父は見た感じ無傷だ。

 流石に白愛がいれば傷つかないか。


「空様。相手の能力は触れた者と人格を入れ替えるというものでした」


 思ったより凶悪じゃなかったな。

 それなら対処は簡単だろう。


「それと使徒も反応はありませんでした」

「それっておかしくないか?」

「はい」


 敵は入れ替わる能力を持っていた。

 しかし使徒ではない。

 能力持ちなのに使徒ではないとはどういう事だ?


「あとでエニグマに死体を渡して成分解析するがあれが神の血を引いてるとは思えねぇな」


 謎は深まるばかりだ。

 俺達の素性を知ってたり吸血鬼が出てきたりと今回の事件は俺達が思ってるより大きな何かが絡んでいるのかもしれない。

 いや、間違いなく絡んでる。


「それと空様。腕、大丈夫ですか?」


 アルカードとの戦いでの傷だ。

 少なくない出血量。

 心配されないわけがないな。


「……ぶっちゃけかなり痛い」

「とりあえず応急処置しときますね」


 白愛が止血をして包帯巻く。

 先程より痛みも幾分かマシになった。


「少し生活しにくいかもしれませが時間が経てばある程度は回復するのでご安心ください」

「ありがとな」

「お気になさらず」


 前の世界みたいに弾丸が練り込んだりしてないから処置は止血だけで楽だな。

 少し血を流し過ぎたが問題はあまりないだろう。


「空様はやはり吸血鬼と戦ったのですか?」

「あぁ。やっぱりこっちに来たか?」

「はい。かなり強くかったです。正直、空様が生きてたのが不思議なくらいです」


 そう言うが白愛には戦闘の痕跡は見えない。

 強いと言うが実際は軽くあしらわれたのだろう。

 やっぱり吸血鬼ぐらいじゃ白愛に適わないか。


「ごめんなさい。もし私が躊躇わず行動出来れば確実に殺せましたのに……」


 そういえば白愛は前に人を殺したくないと言っていたな。

 吸血鬼は知能もあるし人と言っても過言ではないだろう。


「気にするな」


 しかし今後このような事も増えるだろう。

 白愛が人を殺せないというのが想像以上に厄介だ。


「次は必ず殺します。私が馬鹿でした。もし早く私が動ければ空様も無事だった。私が迷えば次は空様が死んでもおかしくないかもしれません。私はもう迷いません」


 白愛がそう宣言する。

 どうやら覚悟を決めたらしい。

 白愛はもう人を殺したくないと言っていた。

 しかし俺を守るためには殺すしかない局面も増えるだろう。

 だから白愛は再び人を殺す道を選んだ。

 俺が弱いばかりにそんな事に……

 本当に自分が情けない。


「空様に害なす者にはこの暗殺姫が等しく死を与えましょう。それで貴方様を守れるなら」


 たった今、暗殺姫が復活した。

 親父は無事に救えて桃花の狂気化も防げた。

 一周目に起こった問題は全て解決した。

 しかしまだ問題は残ってる。

 アルカードは“同僚”と言っていた。

 つまり親父を襲ったのはどこかの組織だ。

 そしてその組織は暗殺姫である白愛も掌中に収めようとしている。

 絶対にまた襲ってくるはずだ。


「少しモヤモヤするがこの一件は解決だな」


 今回の事件は親父の言う通り解決だ。

 敵は逃したが親父も生きてるし乗っ取られてもいない。

 合格点と考えても問題ないだろう。


「とりあえず家に帰るか」

「そうだな」


 早く今後どうするか決めよう。

 そうしなければなにも始まらない。

 そして俺達はこの現場を後にした。

 外は嘘のように静かだ。

 まるで何事も無かったかのように。


「空様!」


 しかしこの沈黙は白愛によって破られた。

 一体どうしたのだろうか。


「今すぐ家に帰ります!」

「いや、だから家に向かってるだろ」

「違います! 私達の家にです」


 白愛はそんなに焦ってどうするのだろう。

 家に帰るのは明日でも遅くはないはずだ。

 それに今からあの山を登る気力はない。


「相手が私達の素性を知ってるとなると海様が危険です!」

「それってどういう事だ?」

「もしも海様が人質にでも取られたれたら」


 そう言われて事の重大さを理解した。

 たしかにヤツらがなにもしないとは思えない。

 海に魔の手が及んでもおかしくない。

 海はたしかに強いがアルカードに勝てるとはとても思えない。


「それにあの街には夜桜もいるんだろ?」


 親父に言われて思い出す。

 完全に忘れていたがアリスが夜桜がいると言っていた。


「下手したら今の連中は夜桜とグルかもしれねぇ」


 夜桜。

 それは白愛と同格と前に海は言っていた。

 もしその通りなら海は絶対に勝てない。

 アルカードに夜桜。

 今、この段階で海が確実に勝てない相手が二人といるのだ。

 でも前の世界では海が襲われるなんてことはなかったはずだ。


「空様。多分前の世界で海様が襲われなかったのは私が近くにいたからです。敵は想像以上に私を警戒してます。でも今回は私が近くにいません」


 たしかにあの時は海の近くには白愛がいた。

 それは襲わない理由には十分だ。

 でもそれが本当なら一つだけおかしな点がある。


「それなら前の世界で俺が襲われてるはずだろ」


 それは俺の近くに白愛がいないにも関わらず襲われなかった点だ。

 俺も十分人質としては機能する。


「お前は僕の体を乗っとた奴に襲われたじゃねぇか」

「……あ」


 完全に忘れていた。

 つまり海の近くに白愛がいないからああいう連中が襲ってくるわけか。

 かなり危険だな。


「とりあえず夜のうちに山を抜けてお前達の街に行くぞ」

「そうですね。それじゃあ手早く山を超えますので少しお入りください」

「入るってどこにだ?」

「私の空間です」


 そして白愛のヒンヤリとした手が俺たちに触れる。

 その瞬間、景色が変わり真っ白で何も無い世界になった。


「……白愛の能力ってそんな使い道もあるのかよ」


 おそらく白愛が俺達を収納したのだろう。

 これなら俺達は体力を消費せずに動ける。

 そんな事出来るなら行きもやってほしかったものだ。


「とりあえず状況を整理するぞ」

「そうだな」


 そして親父と状況整理に入った。

 土曜。すなわち今日は前の世界だと白愛と買い出しに行って帰ったら家に海がいた。

 そして日曜に海とゲームをして負けて白愛を取られた。

 そのため日曜から海は白愛といた。


「……白愛と会えなかった場合の海がどのように動くか分からないのがキツいな」

「とりあえず土曜は前の世界で白愛が近くにいないに関わず襲われなかった。つまり今夜は大丈夫って事が証明されてる。早くても敵が襲ってくるのは日曜の昼だ」


 親父の言う通り襲うとしても日曜の昼からしかない。

 でもそれは希望的観測に過ぎない。

 たしかに前回は土曜の夜に海が一人行動しても襲われなかった。

 もしかしたら敵が海を襲わなかったのは白愛の動きを掴めなかったからかもしれない。

 しかし今回は違う。

 この町で戦ったことにより白愛が海の近くにいないのがバレている。

 電話とかで簡単にこの情報は共有出来るだろう。

 今夜襲われてもおかしくはないのだ。


「親父。今は何時だ?」

「二十三時だな」


 この山は時間の経過が三分の一になる。

 つまり二時間で超えたとしても外では六時間経っている。

 それだと時間は朝の五時。

 そこから電車の移動時間も考えるとどんなに早くても着くのは十時か。


「そういえばルークさんは呼べないのか?」

「彼は今は海外に居てこっちに来れるのは水曜日って言っていた」


 ルークさんの力は借りられないのか。

 これはもう襲撃が今夜ではない事を祈るしかないな。


「とりあえず僕は寝る。空もなるべく早く寝とけ。ここからはいつ寝れるか分からねぇからな」

「そうだな」


 しかし寝るという事は試練を受けるということだ。

 本当にもう試練を受けて大丈夫だろうか?

 もっとしっかりと対策を建てるべきではないだろうか。


「もう着きます」


 そんな事は考えてると白愛の声が聞こえた。

 中と外は会話可能ってわけか。


「早いな!」

「はい。かなり急ぎましたから」


 親父は飛び起きる。

 いや、寝ようとしたらもう着いてしまったって言った方が正しいか。


「今は何時だ?」

「多分夜の一時ですね」


 行きは俺のペースに合わせてたから四時間もかかったが白愛一人あの山を四十分で超えられるのか。

 改めて白愛の凄すぎるスペックを実感させられた。


「今、外に出しますね」


 そして俺達は白愛の世界から外に出る。

 そこは間違いなく山の外だった。


「本当に超えたんだな」

「だからそうだと言ってるじゃありませんか。それじゃあ急ぎますよ」

「あぁ」


 俺達は全速疾走する。

 あとは獣道だけだ。

 山みたいに魔物が出るわけでもないし比較的楽な道のりのはずだった。


「空様! 止まってください!」


 しかしとつぜん白愛が大声を挙げた。

 すると目の前には黒づくめで仮面を被った人がいた。

 全身覆い隠していて性別すら分からない。


「……あなたは誰ですか」

「知りたいか?」


 声も変声期で変えられてる。


「あなたは使徒ですね?」


 白愛がそう問うが答えは返ってこない。

 そして仮面は話の内容を突然変えて喋り始めた。


「私は君が最も知りたい事について答えられるぞ」


 その瞬間、白愛が少し震えた。

 一体仮面は白愛の何を知っている?


「暗殺姫だけではない。神崎空。貴様の知りたい事も答えられる。私は殆どの質問に答えられるだろう」


 こいつはとても歪だ。

 しかし戦意は見えない。

 俺達に害を加える気はなさそうだ。


「……僕が触れれば全て分かる」

「おっと。陸が触れようとした瞬間に私は毒で自殺するぞ」


 ……親父の対策もしてあるのか。

 それよりヤツの目的はなんだ?


「さて、とりあえず場所を変えようか」


 その言葉と共に何故か仮面は笑った気がした。

 コイツの考えが読めない。

 正体がまったく分からない。


 でも、間違いなく今から状況は悪化していった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ