41話 作戦会議
一年中雪が降る村“ジュネー”
そこはイメージしてたのとかなり違った。
俺は家が三つあるかないくらいの小さなだと思っていた。
しかしそれは違った。
家の作りは俺のところと対して変わりはなく普通のコンクリート製だ。
道路もしっかりとあり喫茶店とかもある。
流石にチェーン店はないが生活には困らないレベルの施設はあるだろう。
なんというか感動を覚える。
「ようやく着きましたね」
「そうだな」
俺にはここまで来るのに疲れたせいもありこの町が輝いてみえた。
そもそもこんな山奥にしっかりとした町がある事が凄いと思う。
「とりあえずお父様を探しましょう」
「そうだな」
敵は必ず親父に近づいてくる。
なら親父の近くにいれば必ず会えるはずだ。
だったら敵を探すより親父と合流するべきだ。
「とりあえず親父の家に行こう」
「そうですね」
俺達はとりあえず道なりに歩いていく。
町は雪は降っているもののそこまで積もっていないため歩きにくくはない。
「そういえば親父の家はどこなんだ?」
「あちらの角を右に曲がって真っ直ぐ行って突き当りを左に行ってそこから二つ目の交差点を曲がったところです」
「分かった」
俺は白愛に言われたとおりに動く。
俺が歩くたびに雪に足跡が残る。
「しかしお腹空いたな」
「そうですもんね。山を超えるのに必死で何も食べてませんから」
「そうだよな」
「それに空様。朝だってバタバタしてて結局、朝食を食べないで学校に行ったではありませんか」
言われて思いだす。
そういえば俺は朝食も食べていなかった。
まぁ昼食は食べたから山に登る前はそこまでお腹空いていなかったが。
「あの日はどうやったら空様に驚いてもらうか必死に頭を悩ませて作ったのに酷いです」
「……悪い」
そんなことを話していると親父の家に着いた。
そこは赤い屋根の一軒家で何処にでもある普通の家だ。
桃花の家みたいな豪邸をイメージしてたからかなり意外だ。
「呼び鈴を鳴らしますね」
「頼む」
白愛が呼び鈴を鳴らすと共にガタイのいい男性が出てきた。
間違いなく親父だ。
「……空?」
「あぁ」
「はいはい」
親父は俺が来た事にかなり驚いてるようだ。
親父はそのまま白愛の方に目を向ける。
「……何故ここに来た?」
「お前を助けるためだ」
「どういう事だ?」
親父は急に真剣な表情になる。
急に助けるなんて言ったらそうなるだろう。
「俺に触れて記憶を見ろ。これで全てわかるはずだ」
「……僕の能力のことまで知ってるのか」
親父は俺の頭に優しくゴツイ手を置いた。
それと同時に親父は少しだけ険しい顔をした後に悲しい顔をした。
知ったら不味い記憶でもあったろだろうか。
「僕は一度だけ君の記憶を消したのは知っての通りだ。それは魔法について知ってしまったからだ。僕は空にはこういう世界を知らずに生きてほしかった」
そういうことだったのか。
俺は全てを察した。
親父が今まで神崎家の秘密や自分について隠してたのは俺にそういう世界を知ってしまったからだ。
あの世界では簡単に人が死ぬし殺される。
俺はそれを身をもって知っている。
もし魔法とか神崎家に関わらなかった俺は桃花を殺すこともなく平和に暮らしていただろう。
もしそういう方面を知らなければ今とはかなり違ったはずだ。
しかし俺はもう知ってしまっている。
「守れなくてすまない」
「なんで親父が謝るんだよ……」
別に親父の責任ではないはずだ。
「そう言えば今は何時ですか?」
「朝の八時だったと思うぞ」
「ありがとうございます」
朝の八時か。
つまりもう土曜の朝というわけか。
それで親父もどきが俺を襲撃したのは月曜。
移動時間も含めておそらく今日には来るだろう。
「さて、空様。食事としましょう」
そういえば何も食べてないからお腹がペコペコだ。
道のりがキツすぎてそれどころじゃなかったから自分の状態にも気づかなかった。
「とりあえず僕の家に入りな」
「ありがとうございます」
そして俺達は親父の家に招かれた。
中は特に変哲のないものだった。
「まぁなんもないがのんびりしていってくれ」
「そうするよ」
そういえば海は親父と暮らしてたって言ってたよな。
ならここに海もいたのか。
「それと二階の奥の部屋には入るなよ」
「どうしてだ」
「そこが海の部屋だからだ」
「なるほど」
海の部屋には少し興味があるが入ったら殺されそうだな。
「よし、お前らも疲れてるだろうし飯は僕が作るよ」
そう言って親父が台所に立った。
一体何を作るつもりだろうか?
親父は冷蔵庫から卵やひき肉を出していく。
それに加え事前に炊いてあったのか米も出していく。
「炒飯でいいよな?」
「私はなんでもいいですよ」
「わかった」
そういえば海は料理出来ないって言ってたな。
ならずっと親父が作ってたのか。
「出来たぞ」
そう言うと親父は皿に炒飯を盛り付けて俺達の前に置いていった。
匂いは普通に良いな。
「空様。それでは食べましょうか」
「そうだな」
俺達はその後に“いただきます”をして食べ始めた。
料理は白愛が作ったものほどではないがそこそこ美味しかった。
「そういえば空様」
「どうした?」
「お父様を襲う敵の情報はもう少しありませんか?」
たしかに情報は欲しいな。
そういえば一つ重要な事を忘れていた。
「銃を使ってきた事ぐらいだな」
今思うとあの銃はどこから手に入れたのだろうか。
なんとなくそれが手がかりになる気がする。
「この銃だったよな?」
そう言って親父がどこからともなく銃を俺に見せた。
その銃は親父もどきが使ってきたものと瓜二つだった。
間違いなく同じ銃だ。
「あぁ」
「つまり親父もどきは親父の銃を使ったって事か」
「それにしても弾丸を普通のにしといてよかったよ」
「どういう事だ?」
「僕の弾丸は少し加工してるんだ。術式が書かれていて打った相手の血を利用して内部から燃やすというもか色々あるんだ」
その話を聞いて俺はゾッとした。
もし親父がその弾丸をセットしていたら前の世界で太ももを打ち抜かれた時に俺は足を焼かれていただろう。
そしたら間違いなく負けていた。
「僕は魔法使い相手の戦闘が得意でね」
親父は笑ってそう言うが異様に恐ろしい。
考えてみたら親父は元だがエニグマの一人だ。
この程度の戦闘能力は当たり前ってわけか。
「ちなみにこの銃はサブに過ぎない。僕のメイン武器は超電磁砲だ」
超電磁砲。
それは物体を電磁誘導により加速して打ち出す武器だ。
レールガンと言えば分かるだろうか。
速さは音の七倍とも言われる次世代の兵器だ。
しかし問題点が多くまだ実用段階まで開発は進んでないはずだ。
「超電磁砲の問題点は魔法により全て解決させてもらった。例えば摩擦や電流にプラズマに晒されて砲身の消耗が激しくなる所は砲身がすり減ったりするのを魔法で解決したのよ。まぁなんとか実用レベルまでもっていったけどそれでも一発打ったら二時間は使い物にならないけどな」
聞いて思わず唖然とする。
そんな事が可能なのか。
たしかに理論上は出来るかもしれない。
しかしそんなのがあるなら何故ルークさんは所持していなかった。
あの時に電磁加速砲を使えば狂気化桃花にだって簡単に勝てたはずだ。
「ちなみにこの銃が出来たのは偶然の重なりで二度と同じのは出来ない」
「量産化は不可能ってわけか」
「そういう事だ」
つまりこの銃は親父以外が使う事は無い。
それにしてもなんとか量産出来ないものか……
「超電磁加速砲の話はそこら辺にしてとりあえず敵の対策考えるぞ」
「そうだな」
話は本題である親父もどきの対策に戻る。
電磁加速砲もあり白愛もいて相手の能力も割れている。
普通に考えれば負ける要素はないだろう。
でもだからと言って対策しないわけにはいかない。
「とりあえず現時点の情報だと分かってるのは能力だけですか?」
「あぁ」
「しかも入れ替わりか憑依のどっちかって事ぐらい。それじゃあ対策が難しいですね」
考えてみれば情報が曖昧すぎる。
相手の能力にしても発動条件が不透明だ。
もしも目が合った相手と入れ替わるみたいな初見殺しだったら最悪だ。
「そういえば相手の狙いは私でしたっけ?」
「そうだ」
前に親父もどきは白愛を使って世界を征服するって言っていた。
たしか俺から白愛の記憶を消して白愛が動揺したところで白愛に触れて白愛の記憶を奪い自分に都合の良いことだけ残すとか。
でもそれはおかしな話だ。
そもそも親父じゃなくて最初から白愛を狙えばいいのだ。
しかしそれをしなかった。
つまりそれは白愛の体は乗っ取れないと考えるべきだ。
例えば殺した相手に憑依するとかなら親父を選ぶのも理に適っている。
白愛を殺せるとはとても思えないしな。
「空様。なんか思いついたんですね」
「あぁ」
俺は今思った事を全て話していく。
そして二人からも反論はない。
「つまり相手はお父様は倒す戦力があるけど私には勝てないと考えていいのですね」
「俺の推測通りならな」
それは中々に厄介だ。
親父はこれでも元エニグマ職員。
その親父を倒せるとなればそこそこ強いはずだ。
「僕に作戦があるんだけどいいかな?」
「どうぞ」
「白愛がこの街の人を全員を気絶させて僕がこの街の人の記憶を全部見て該当者を捕縛するっていうのはどうだろうか?」
親父がぶっ飛んだ提案をする。
しかし理には適っているしおそらく最も確実な手だ。
既にこの街にいないと親父を襲撃出来ないだろう。
つまり親父を乗っ取た奴はこの街にいるはずだ。
「却下です」
「どうしてだい?」
「無実の人はあまり巻き込みたくないからです」
まぁそうだよな。
それにトラウマになる可能性もある。
いきなり襲われるなんて… …
「そういえば空様はお父様の身体を乗っとた相手に善戦したんでしたよね」
「そうだな」
「お父様の体はかなり鍛えられています。相手がお父様の体に慣れていないとは言え空様が善戦出来るとはとても思えません」
「酷い言い様だな」
でもそれは事実だ。
現に俺は親父の膝蹴り一発で動けなくなった。
しかし相手が頭が回るとは思えない。
頭が回るなら俺の煽りで銃を捨てる事もなかったはずだ。
それに俺が最初に親父に一発入れた時。
あの時に親父は膝蹴りを入れようとした。
戦いなれたプロが一度見せた手を再度使用するようなヘマをするだろうか?
「つまり相手は戦いに関しては素人の可能性が高いです。前の世界で空様と善戦出来たのはお父様のスペックに頼ったに過ぎないと思います」
「たしかに白愛の言う事も一理あるな」
なら親父はどうやって乗っ取られた。
疑問は増えるばかりだ。
「僕が思った事を一つ言っていいか?」
「どうぞ」
「もしかして相手が体を乗っ取れる相手は殺すとかではなく同性とか血液型が同じなら問答無用で乗っ取れるって事も考えられないか?」
「なるほど」
たしかにその可能性もあるな。
それなら白愛の体を乗っ取らないのも納得いく。
「それじゃあとりあえず血液型を確認します。私はAB型で空様はA型でしたね。お父様は何でしたっけ?」
「僕もAB型だな」
「それなら血液型である可能性はなくなりましたね」
今あるのは条件が難しいケースと同性しか乗っ取れないケースか。
どっちかだと仮定して作戦を立てるべきか。
いや、まてよ。
そもそも同性を乗っ取るなんて事はありえないじゃないか。
同性を乗っ取れるなら親父より適任がいるではないか。
「もし同性なら対策の難易度が段違いになりますね」
「いや、同性の可能性はゼロだと思うぞ」
「どうしてですか?」
「もしも同性なら親父じゃなくて俺の体を乗っ取ればいい話だ 」
最初から俺を乗っ取ればその時点で終わるのだ。
敵は俺が白愛に命じればなんでもやるって思い込んでる可能性が高いはずだ。
だって俺から白愛の記憶を消せば動揺するのを知ってるぐらいだからな。
「……空様」
急に白愛が震えながら俺の名前を呼んだ。
一体どうしたのだろうか。
「敵はどうして私達の関係性を知ってたのでしょうか?」
よくよく考えたらおかしな話だ。
俺と白愛の関係を知るにはかなり近くにいないと不可能だ。
たしかルークさんとかは知っていた。
つまりエニグマは知っているわけだ。
「……敵は俺達の傍にいるって事か?」
「はい」
この件は俺が考えてたより厄介な事になった。
これから俺達は身内を疑わねければならないのだから。