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世界調整  作者: 虹某氏
2章【知】
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39話 王手

「殺すって!?」


 白愛が声をあげた。

 彼女には俺の口から殺すって言葉が出るのが意外だったのだろう。


「そうしないと待ってるのは地獄だけだからな」


 俺はもう迷わない。

 どんなに手が汚れようが構わない。

 そこに平和があるなら。


「あなたは本当に空様ですか?」


 白愛が再度そう問いかける。

 それはさっき証明しただろうが。


「俺は間違いなく神崎空だ」


 殺すぐらい驚く事だろうか?

 桃花は迷いなく人を殺していた。

 ただ邪魔だから排除する。

 なんの問題があるのだろうか?


 それにお前は暗殺姫としてたくさん殺してきたじゃないか?


「……そうですか」


 白愛が少しだけ悲しそうな目をした。

 もう殺してほしくないがまかり通る局面ではない。

 少しでも迷ったらその瞬間全てが終わってしまうのだ。


「どうぞ」


 白愛が俺にナイフを手渡す。

 運命か必然か何故かそのナイフは俺が前の世界で右目を抉ったやつだ。

 奇妙な縁だ。


「せっかくだしこのナイフ貰っていいか?」

「どうぞ。予備はたくさんあるのでどうぞ」


 改めて持ってみると体によく馴染む。

 これなら大体は切れるだろう。


「それじゃあ学校行ってくる」

「お気をつけて」


 俺はナイフをポケットにしまい家を後にした。

 さて、桃花を殺せるだろうか?

 いや、必ず殺してみせる。

 平和を手にするために。

 殺すタイミングは決まっている。

 桃花が告白するために俺を呼んだ時だ。

 その時にナイフを桃花の心臓に突き立てる。

 しかし死体の処理はどうするか。

 いや、隠さなくてもいいか。

 殺したのが俺だとバレなければいいのだ。

 それにバレても大事にはならないはずだ。

 桃花はエニグマの関係者。

 おそらくエニグマが揉み消してくれる。

 そしたらルークさんに全て説明すればいいのだ。


「よっ! 空!」

「なんだ拓也か」


 家を出ると偶然俺を見つけたのか拓也が話しかけてくる。


「お前なんか変わったか?」

「いや、とくに」

「そうか。なんか雰囲気が変わった気がしたからさ」


 雰囲気が変わったか。

 たしかにあの地獄が俺に与えた影響は計り知れないものだった。

 雰囲気が変わったとしたらその地獄を体験したせいなのかもしれないな。


「もしかしたら変わってるかもな」

「お前! まさか白愛で童貞を!」


 明確な説明をしないせいで拓也が誤解したようだ。

 たしかに俺は童貞ではなくなった。

 でもその相手は白愛ではない。


「想像に任せるよ」


 とりあえず適当にはぐらかせておこう。

 全部説明するのもめんどうだしこいつは魔法とかとは関係の無い人物だからな。

 俺達はそんな話をしながら学校に着いた。

 そして教室に入った瞬間に桃花が話しかけてる。


「か、神崎君これ!」


 そう言って桃花は俺に手紙を押し付ける。

 その瞬間クラスがザワつく。

 内容は知っている。

 ラブレターだ。


「お、おい空。これって……」

「お前の予想通りだよ」


 俺は手紙に目を通す。

 そこには可愛らしい文字で『昼休みに校舎裏で待ってます♡』と書かれた。

 名前はローマ字でかなりお洒落だ。

 それにしても桃花が前回と同じ動きでよかった。

 これなら問題なく殺せる。


「佐倉さんからラブレターとか。ホントに羨ましぜ!」


 俺は異様な目付きでこちらを見てる人物に気づく。

 間違いなく竹林だ。

 そういえば時間を遡ったことで彼が退学してない事になってるのか。


「さて、ホームルーム始めよう」


 そして先生が入ってきた。

 もうこんな時間か。

 俺は慌てて席に着く。

 それと同時に先生が話を始める。

 内容はどうってことないものだ。


「今日は連絡事項は特にないぞ。それともうそろそろテスト週間だからしっかり勉強した方が身のためだ」


 そのまま先生は去っていく。

 こんなに短いのにやる必要があるのだろうか?

 まぁやらないわけにはいかないのだろが。


「空! 化学の宿題見せてくれ!」


 ホームルームの終了と共にやってくる拓也。

 それにしてもこいつは相変わらずだな。


「これでいいか?」

「サンキュー!」


 宿題って写して意味があるのだろうか?

 あれは自分でやるから意味のあるような気がする。

 そして彼は素早く答えを写して俺に返す。

 もしかしたら答えを写すのは彼の数少ない特技の一つかもしれない。

 そんな事を考えてると先生が入ってきて授業が始まった。

 授業の行われてる間、俺は授業をそっちのけでひたすら桃花を殺すシュミレーションをしていた。

 刺すタイミングはどうするか。

 背後から近寄ってブスりと刺すか。

 正面から告白を受ける振りをして刺すか。


 答えは無事に決まった。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 放課後になり俺は校舎裏に向かう。

 桃花に呼び出されたからだ。

 それにしても桃花が告白する舞台に人がいない所を選んでくれて助かった。

 誰かに見られると面倒だ。


「神崎君」

「桃花」


 まだこの世界の桃花は狂っていない。

 ただの少女だ。

 本当に殺していいのか迷いが生じる。

 いや、ほんのひと握りでも危険があるなら殺すべきだ。

 俺はもう一度覚悟を決める。

 殺す覚悟を。


「言いたい事は分かってると思う」


 もちろん分かってる。

 告白をするつもりだろう。


「私ね。前から神崎君が大好きだったの。頭も良くて体育の授業とかでも凄くカッコいい。そんな神崎君が大好きなの」


 それも知っている。

 前の世界で何度も聞いた。

 その度に俺は自分に自信が持てた。


「だから、付き合ってください!」


 前と一言一句変わらない同じ告白だ。

 しかしそんなのはどうでもいい。


「なぁ桃花」

「なに?」


 桃花は首を傾げる。

 それによりさらに迷いが生じる。

 間違いなく今の彼女は無害だ。

 でも、もう引き返せない。


「俺はお前が大嫌いだったよ」

「……え?」


 桃花の目から光が消えていく。

 殺すと決めた。

 なのに何故こんなにも心が痛いのだろうか。


「俺から大事な物を全て奪って。俺の声も聞かないで勝手に話を進めて……」

「なんの話をしてるの?」

「あったかもしれない世界の話さ」


 この桃花が前の世界での出来事を知るはずがない。

 桃花が知らない話だ。

 でも俺は知っている。

 桃花の知らない一面を俺は知っている。


「お前なんて大嫌いでとても殺したいはずなのにそれでもまだ完全に嫌いになりきれねぇ」


 まだ心のどこかで桃花を殺すなって言っている。

 今ならまだ引き返せると。

 でも引き返しちゃダメだ。

 桃花は予想通り立ち竦んでいる。


「でも、ここで死ね」


 俺は“死ね”と言う。

 言う必要のない言葉だろう。

 でもそれを言うのは俺の覚悟が鈍らないためだ。

 ナイフを胸ポケットから出し桃花に向ける。


 俺はようやく桃花に王手をかけた。

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