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世界調整  作者: 虹某氏
1章 【愛】
35/305

35話 終末(仮)

「遅くなってすまない」


 彼の声がとても心強く聞こえる。

 彼ならなんとかしてくれる。


「来ると思ってたよ。ルークさん」


 桃花がそう答える。

 ルークさんが来るのは彼女の想定内だったらしい。


「今度は殺させてもらうよ」


 ルークさんがそう言った次の瞬間だった。

 彼の体が遠くに吹き飛んだのだ。


「ルークさん!」


 彼はおそらく時間を止めて桃花を殺そうとした。

 しかし攻撃を受けたのは桃花ではなくルークさん。

どんな手品を……


「ソロモンの指輪の第三の能力に概念への干渉っていうのがあるの」


 桃花が種明かしをする。


「時間停止は概念になるみたいで干渉出来るみたいなの」


 時間を止めても桃花だけは動けるというわけか。

 それだったら魔法使いたい放題の桃花の方が有利だ。

 しかし俺はまだ希望を捨てていない。

 ルークさんならこの状況を変えてくれる。


「まぁ私から時間を止める事は出来ないけどね」


 つまり桃花は時間が止まった中で動けるだけだ。

 自分から止められるわけではない。


「空。僕の元に来い」


 その言葉と共にルークさんが火球を飛ばして俺を捕まえてた氷の檻を溶かす。

 彼の手からは灰がこぼれる。

 使ったのは宝石魔法だ。

やはり彼も使えるのか……


「なんか策があるんですか?」

「出来るだけ足掻いてみせるが策はない。彼女には多分この世界では誰も勝てない」


 勝てないとは認めつつもルークさんから戦意は消えていない。

 策はなくてもなんとかする手立てはあるみたいだ。


「だから君を過去に飛ばす。それでソロモンの指輪を手に入れる前に彼女を殺してくれ」


 なるほど。

 彼の能力には他人を過去に送るというものもあった。

 しかしどうやって彼の元まで行ったものか。


「私がそんな事をさせるわけないじゃない」


 問題は桃花だ。

 彼女が俺をルークさんの近くまで行かせてくれるとは思えない。

 やはり彼女の魔法使いたい放題が強すぎる。

 桃花がルークさんに火球を投げつける。


「反射!」


 しかし火球は方向転換したかのように桃花の元へと行った。

 でもそれは桃花が新たに出した火球で相殺される。


「鏡魔法ですか?」

「さぁな」


 ルークさんは答えをぼやかす。

 まぁ手を明かすわけがないよな。

 俺は一目散にルークさんの元を目指して走り始めた。

 ルークさんと桃花の戦いは先程から似たような展開が続く。

 桃花が火球を放ちそれをルークさんが跳ね返す。

 しかしルークさんは魔法で打ち返している。

 もしも媒体にしてる物が切れたら勝ち目がなくなってしまう。

 それまでになんとしてもルークさんの元まで行かねば。


「空君。ごめんね」


 そして目の前で地面が迫り上がる。

 桃花の妨害だ。

 そして土の壁の高さはビル一つ分ぐらいだろう。


「……そう簡単にはさせてくれないか」


 この壁を掘り進めてもいいが厚さは不明だ。

 それなら登ってしまった方がいいだろう。

 俺は迷うこと無くその壁を登り始める。

 土に指を食い込ませて落ちないようにする。

 そして体勢が整ったら次の手を突き立てる。

 その繰り返しだ。

 自分の重さに耐え切れず指から血が出始めるが気にする時間はない。


「ホントに間に合うのか?」


 今は一刻も争う。

 少しでも遅くなったら手遅れになる。

 なんとしても行かなければならない。

 この地獄を変えるにはそれしかない。

 それが出来るのは俺だけだ。

 俺が諦めてどうする。

 ルークさんだってこの絶望的な状況で諦める兆し一つ見せていない。

 だったら俺も諦められない。


 待ってろ!

 俺が必ず助けてみせる!


 俺はそこからは考える事なくひたすらに登る。

 大丈夫だ。

 まだルークさんは生きてるはずだ。

 俺はなんとか土の壁の頂上に着いた。

 あまりにも高く街が一望できる。

 しかし街は壊滅状態だ。

 家は粉々に壊れている。

 前に白愛と行ったショッピングモールだって原型を留めていたない。

 しかし学校だけはとても不気味にそびえ立っている。

 もうそこは廃墟と言っても過言ではないだろう。

 そして足に何かがぶつかる。


「なんだこれは?」


 俺は足元にある物が落ちてる事に気づいた。

 それは白愛が使ってたナイフだ。

 おそらく戦いの最中に使用したのだろう。

 俺はそれである作戦を思いついた。

 これならより確実にルークさんの元に行ける。


「白愛。ありがとう」


 俺は今亡き白愛にお礼を言う。

 この作戦が思いついたのは白愛おかげかもしれない。

 間違いなく狂気的だがこれなら桃花の気を引ける。

 狂気に対抗したいならこちらも狂気の手段を取るしかない。

 俺は下を見てルークさんを確認する。

 ルークさんの体には大量の火傷後がある。

 それでも彼は諦めずひたすらに回避する。

 あと数分もすれば殺されてしまうだろう。

 そしてその場まで行くにはこの壁を降りる時間を考えて五分は欲しい。

 しかしそんな時間はない。


「お兄様」


 そんな海の声が聞こえる。

 そして目の前には海がいる。

 とっても可愛らしいいつもの海だ。

 それは間違いなく幻覚だ。

 だって海は死んだのだから。


「後悔しないでくださいね」


 海が俺の覚悟が揺らがないように背中を押す。


「……分かってる」


 俺はナイフを力強く握る。

 しかしまだ覚悟が決まらない。

 勇気が足りない。


「それと私達を助けてくださいね」

「あぁ。必ず助け出す」


 海の言葉。

 それが俺に覚悟を決めさせた。

 もしかしたら今のは幻覚じゃなくて幽霊かもしれないな。

 でも覚悟はおかげで決まった。


「桃花!」


 俺は桃花の名前を思いっきり叫ぶ。

 生涯で一番大きい声だ。

 桃花はそれに気づいたようでこちらをチラッと見て手を振る。


「さよならだ」


 俺は誰にも聞こえない声で一人でボソッと呟く。

 まだ少しだけ怖い。

 でもやるしかないのだ。


「俺を見ろ!」


 今度は桃花に聞こえる声だ。

 桃花が俺に注目した。


 桃花は俺を愛してる。

 なら、少なからず動揺はするはずだ。


 そして俺は握ったナイフを自分の右目に突き刺して抉り出した。


「アアアアァァァァァぁぁああ……あ……ぁ」


 とても痛い。

 めちゃくちゃ痛い。

 まるで焼かれるような痛みだ。

 でも白愛や海の受けた痛みに比べればどうって事は無い。

 痛みのあまり俺はナイフを捨てて右目を抑えてしまう。

 左目で落ちたナイフを見る。

 そこにはしっかりと自分の目が突き刺さっていた。

 ちゃんと抉れたようだ。


「空君!?」


 桃花の声は聞こえないがそう言ってるって推測するのは容易い。

 ちゃんも動揺してくれたらしい。

 そして運良いことに桃花は硬直までしてる。

 刺激しない限りは当分は動かないだろう。

 俺は痛みに耐えながら目玉が刺さったナイフを拾う。

 今のところは作戦通りだ。


「準備は出来た」


 俺は飛び降りる。

 地面にぶつかった瞬間に俺は死ぬだろう。

 この高さなら即死だ。

 しかし万に一つ助かる可能性もある。

それなら今はそれに賭けるしかない。

 ルークさんはしっかりとこちらに向かっている。

 全て順調だ。

 俺は地面にぶつかり思いっきりバウンドする。

 全身の骨が砕けた感覚はあるがまだ辛うじて生きてる。


「君には驚かされたよ。それじゃあ頼んだよ」


 そしてルークさんの手が俺に触れる。

 さて、ここからが本番だ。


「任せてください」


 敗北は認めない。

 なぜならそれは望む結末ではないから。

 今回はたしかに負けたかもしれない。

 でも次こそは勝つ。

 勝って笑い合う未来を掴み取る。

 それが俺の選んだ道だ。


 これは俺の物語。

 主人公は俺。

 書き手も俺。


 そして今回はバッドエンドだった。

 なら書き直そう。

 次に書くのはハッピーエンドだ。


 ハッピーエンドにするために次は負けない。

 今度こそは勝ちを掴み取る。


 俺は世界に再戦(やりなおし)を申し込んだ。

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