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世界調整  作者: 虹某氏
1章 【愛】
34/305

34話 絶望

 俺にはメイドがいた。


――しかしもういない。


 そのメイドは料理も出来る。


――でもたった今その人は死んだ。


 そのメイドは運動も出来る。


――彼女の卓越した運動神経を持ってしても殺された。


 そして知識も豊富。


――相手はその知識を活かしても勝てず。


 一言で言うなら“万能”だ。


――その相手は狂気により万能を凌駕した。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「おい! 白愛!」


 俺は声を張り上げるが返事はもちろんない。

 でもそれを認めたくはない。


「目を覚ませよ!」


 死んでるのは分かってる。

 こんな状態で生きていられるわけがない。


「ずっと傍にいるって言ったじゃねぇか!」


 白愛は前にそう言っていた。

 なのになんでもう離れてるんだよ!

 しかしそれに対しても返事が返ってくる事は無い。


「なんでお前がこんな姿になってるんだよ!」


 俺はこの事実を受け止められなかった。


「お兄様は白愛の傍にいてあげてください」


 海が突然そんな事を言い始めた。

 俺にはなんとなく海がなにをするか察しがついていた。


「私は白愛はこんなにした外道を殺しにいきます」


 俺はその言葉で冷静さを取り戻す。

 おそらく一番心が荒れてるのは海だ。

 俺がしっかりしなくてどうする。

 それに海を教会に行かせるわけにはいかない。

 今回の間違いなく殺人と見ていいだろう。


「お前に人を殺させるわけにはいかない」

「……でも!」


 俺も教会の中に行き犯人をぶち殺したい。

 しかし教会に入るという事は火の中に飛び込むこと。

 それは愚策にすぎない。

 それになにより……


「相手は白愛を殺せるような化け物だぞ」


 白愛はこんなにしたということは白愛より強いのは間違いない。

 そんな相手に俺達が適うわけがない。

 なら一回引いて作戦を練るべきではないだろうか。


「あら、空君!」


 突如そんな声が聞こえた。

 少し前まで聞いていて心地よかった声だ。

 しかしその声はこの場にいるはずのない人物のものだ。


「……桃花?」


 その声は桃花のものだった。

 彼女が何故ここにいる?

 それにどうして教会の中から出てきた?

 まさか……


「お前が白愛を殺ったのか?」

「そうだよ! 私達の愛に邪魔だったからね!」


 予感が確信に変わる。

 そして彼女は満面の笑みだ。

 彼女は悪い事をしたという自覚すらないみたいだ。

 それこそゴミをゴミ箱に捨てた時のような感じだ

 間違いなく白愛を殺ったのは桃花だ。


「そうか」


 今の桃花は別人のようだった。

 でも中身は間違いなく桃花だろう。


「さて、次は海ちゃんを殺すね」


 桃花は海に火の矢を飛ばす。

 海は難なくそれを避ける。


「桃花!」

「なに?」

「どうして海まで殺す!? お前の目的はなんなんだ?」


 俺は声を荒げて問いかける。

 桃花が海を悪く思ってるとはとても思えない。

 それじゃあ何故殺しそうとするのだろうか?


「私の目的は空君と幸せな家庭を築く事だよ」


 だめだ。

 話が噛み合ってない。

 海が口を開き桃花に分かりきった事を問いかける。

 おそらく最終確認だ。

 海の濃密な殺気が肌を震えさせる。


「あなたが殺ったんですね」

「そうだよ。今から同じところに行かせてあげるから安心していいよ」

「死ぬのは貴方よ。桃花」


 戦いの火蓋が切って落とされた。

 そこからの海の対応は迅速だった。

 海は自分の指を噛み血を出して胸元に垂らして魔法を発動させる。

 海は急激な加速をして桃花に蹴りを入れた。

 しかし蹴りは桃花に届きかけるが目の前で止まってしまった。


「防護結果よ」

「クッ」


 海が一旦引き構え直す。

 あの防護結果はおそらく攻撃を全て無効に出来るだろう。

 しかし常に張られてるわけではなさそうだ。

 今の彼女を倒すには奇襲が一番だ。


「海! 時間を稼いでくれ!」

「策があるんですね。分かりました」


 悪いがそれは策と呼べるようなものではない。

 ただの他人任せだ。

 今の桃花には間違いなく勝てない。

 でも、彼なら勝てるかもしれない。


 時間停止というチートを持ってるルークさんなら勝てるはずだ。

 彼の時間停止に桃花はおそらく対応出来ないだろう。

 俺は彼に急いでメールをしておく。

 電話番号を聞いていなかったのが悔やまれる。

 この状況なら電話の方が好ましかった。


「空君はちょっと待っててね」


 そんなことしてるうちに俺の足元から氷が生え始める。

 あ、死んだ。

 俺はそう思った。

 しかし氷は俺に突き刺さる事なくそのまま上に行った。

 まるで鳥籠を作るように……


「しまった!」


 気づいた時には遅かった。

 俺は氷の檻に入れられている。

 壊そうと思いっきり蹴るがヒビの一つも入らない。


「お兄様は何やってんですか!」


 海が俺に悪態をつく。

 しかし彼女は彼女で桃花が飛ばす火球を避けるのに精一杯だ。

 俺を助ける余裕なんてないだろう。


 おそらく殺されるのも時間の問題。

 しかし、桃花はなぜ海を殺そうとする?

 さっき桃花は俺との家庭を築くためと言ったがそれと海を殺す事になんの関係がある?


「さて、疲れたし海ちゃんの相手は悪魔達に任せるか」


 そして桃花の背後からゾロゾロとグロテスクな化け物達が出てきた。

 軽く五十はいるだろう。

 一体この化け物はなんなんだ?


「空君。待たせてごめんね」


 そう言って桃花が俺に近づいてくる。

 海は化け物に苦戦を強いられている。

 海がナイフを投げたり蹴りを入れようとするが全て難なく回避。

 人の女の顔を持つ獅子が海に牙をかけるが何とか回避。

 しかし後ろから背中から人の手が生えた人間サイズのゴキブリに殴り飛ばされる。

 今の海があの化け物に勝つのは絶望的……


「なぜこんな事をする?」

「邪魔だからだよ。空君が好きなはずなのに海と結婚する白愛さん。復讐するとか言ってるのに一向にその兆しを見せずそれどころか仲良くしてる海ちゃん」


 たしかに二人とも矛盾してる。

 まさか不快だから殺したと言うのか!


「それなのに空君はその二人に好意を持ってる。そしてあの二人は可愛いし私の空君をいつ取られてもおかしくない。だから殺すんだよ」


 桃花がそう語ってる間に悲鳴が響き渡った。

 間違いなく海の悲鳴だ。

 俺は声を張り上げる。


「海!」

「アアアアァァァァァァァァぁぁぁ」


 海の右手は人型の化け物に引きちぎられる。

 左足は虫型の化け物に現在進行形で食われ続けている。

 その凄惨な光景から目を背けたくなる。

 あんな海は見たくない。


「桃花! ここから出せ!」

「ダメだよ。 出たら空君も危ないもん」


 そして海の右耳が引き剥がされる。

 海の体はどこもかしく欠陥している。

 可愛い顔は痛みと絶望に歪み。

 綺麗な手は片方は無くもう片方はあらぬ方向に曲がっている。

 腹は裂けて隙間から内蔵が見える。

 間違いなくあの化け物達はいたぶって殺している。


「いやぁ悪魔って結構エグイ事するんだね」

「やめろ……やめてくれ」


 俺は桃花に悲願する。

 それでも桃花は止める兆しをみせない。


「空君。大丈夫だよ。傷ついても私が癒してあげるから」


 その言葉は海に対してではない。

 俺に対してだ。

 彼女は海の心配ではなく俺の心の心配をしている。


 そんなやり取りをしてるうちに海の体がダランと落ちる。

 先程まで必死に足掻いていたがもう動かない。

 海は死んだのだ。

 悪魔達は死体には興味ないのか海の屍から散らばり始める。

 おそらく町の人達を殺しまわるだろうが止める手段はない。


「空君! 良い事を思いついたの!」


 俺の目の前は真っ暗になった。

 もう彼女の言葉は聴きたくない。

 今の俺にとって彼女は憎悪の対象でしかない。

 しかしお構いなく彼女は話す。


「今からこの町の人たちを全員殺して私達二人だけの楽園にするの!」


 彼女はおぞましい事を笑顔で言う。

 その笑顔は不気味でしかなかった。


「そうと決まれば急げー」


 桃花がまた化け物を召喚する。

 さらに増える。

 辺り一面が化け物に覆われる。

 町中から悲鳴が聞こえ始める。

 無理もない。

 あの化け物は海に勝てるぐらいには強い。

 一般人がどう足掻いても勝てる相手ではない。


「うわぁ……ちょっとグロイね」


 桃花がそう言う。

 そんな状態にしたのはお前だろ。


「崩壊した街なら灯りの一つもなくて綺麗な星が見えそうだね」


 話が一変して桃花はキラキラした目でそう語る。

 一体何がそんなに楽しいのだろうか?


「それと話戻すけど殺すならもっと綺麗に殺してほしいよね。悪魔って勝手にやってくれるからよいんだけどそこら辺が不便」


 もう彼女にとって俺以外の人はゴミでしかないのだろう。

 命としてではなく物として扱っている。


「そういえば今日の晩御飯どうしよっか?」


 桃花はいつもの会話をいつもの表情で行っている。

 もう桃花の考えが読めない……

 誰でもいいから桃花を殺してくれ。


「でもこんな光景見たあとだとお肉はヤダな」


 誰が彼女を殺せる?

 国か?

 核を落としても防がれる未来しかイメージ出来ない。

 なら数で攻めるか?

 どうせあの化け物に蹂躙されて終わる。

 そもそも数でも負けている。

 間違いなく今の桃花は最強だ。


「あの化け物はなんなんだ?」


 俺は憎悪を押し殺して桃花に問いかける。

 桃花を殺すには情報が不足しすぎだ。

 まだあの化け物の正体すら掴めていない。

 もし情報があれば運良くここを抜けられた時に対策を立てて殺せるかもしれない。


「あれは“悪魔”で私のソロモンの指輪を使って出したの」


 桃花は中指に嵌めた指輪をこちらに見せてそう言った。

 おそらくこれがソロモンの指輪なんだろう。

 そのソロモンの指輪が白愛を殺せるレベルまで桃花を強化している。


「どうやって入手した?」


 俺は一番重要な事を聞く。

 もしソロモンの指輪がなければ彼女はそこまで強くない。

 それこそ宝石魔法にさえ気をつければ俺や海でも秒殺出来るだろう。


「こういうのを神器って言って仮想現界させたの」

「その仮想現界をどうやってやった?」

「仮想現界は神の血を引く者が使徒となると使える技なの」


 なるほど。

 なら俺も使徒にさえなれば使えるのか。

 少しだけ勝機が見えた。

 しかしどうして桃花は神器を展開出来ている?


「実は私のお腹には空君との子供がいたの」


 あの時に子供を作っていたのか。

 しかし時間的にまだ受精卵にもなってないはずだ。


「私は帰ってすぐ“成長(グロース)”の魔法を使って無理矢理胎児にしたの」


 魔法か。

 そして今日の用事はそれをする事だったのか。


「そしてそれを魔法で分解してその後にちょっと頑張って私の体の一部にしました!」


 なんとなく方法は分かった。

 まさしくそれは狂気だ。

 そんな事は誰も考えもしないだろう。


「結果として私は神の血を引くことに成功して神器を展開出来るようになりました!」


 これは彼女の狂気がなし得た技だ。

 俺達は狂気に負けたのだ。

 そしてその説明を終えたと同時に彼がやってくる。


「なるほど。神器が出てると思ったらそういう事か」


 その声と共に悪魔達の首が落ちて悪魔の死体の山が出来る。

 俺が呼んだあの人。

 最後の希望のあの人。

 頼むから桃花を殺してくれ。


「さて、佐倉桃花。【調停】の使徒にしてエニグマ局長の僕が断罪しよう」


 エニグマ局長にして時間止めという最強能力の所持者であるルークさん。


 この世界の命運は彼に託された。

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