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世界調整  作者: 虹某氏
1章 【愛】
33/305

33話 ソロモンの指輪

 陽が落ち始めて海様の演劇部の見学が終わった頃合でしょうか。

 私、白愛はきっかりと掃除をしてます。

 とは言っても海様は綺麗好きなのでゴミを探す方が大変なぐらいですが……

 それと折角ですのでプリンでも作っておきましょう。


 ピンポーン


 そんな事を考えてると呼び鈴がなりました。

 一体誰でしょうか?


「はい」

「あ、私だよ!」


 どうやら呼び鈴を鳴らしたのは桃花様みたいです。

 しかしどんな要件でしょうか。

 桃花様が私を尋ねるなんて珍しいですね。


「ちょっと教会まで来てもらっていいかな?」


 教会ですか。

 まぁ明日結婚式もありますし下見もしたかったところですから丁度良いのですがどうして桃花様が教会に行きたいのでしょうか?


「……ダメかな?」


 少しだけ嫌な予感がします。

 でもあくまで予感ですし問題ないでしょう。


「ええ。分かりました」


 それと気になるのはこの気配です。

 間違いなく桃花様は使徒になっています。

 前に桃花様と会った時は使徒ではありませんでした。

 一体いつ使徒になったのでしょう。

 もしかしたら使徒について聞きたいのかもしれませんね。

 それで人目の少ない教会を選んだっていうのなら一応の筋は通ります。

 でもまだ少し腑に落ちませんが。


「ねぇ白愛さん」

「どうしました?」

「空君についてどう思う?」


 ……空君?

 おかしいですね。

 最後に会った時は空様の事を“神崎君”と呼んでたはずです。

 一体何があったのでしょうか?

 それはとりあえず置いといて質問に答えましょう。


「大好きですよ」

「それじゃあなんで海ちゃんと結婚するの?」


 そう言われると凄く返答に困ります。

 正直結婚に関しては悲しむ海様を見たくないというのもあります。

 あの方に泣き顔は似合いませんから。


「まぁいいや。さて、着いたわね」

「それでご要件は何でしょうか?」


 私は到着と同時に桃花様になぜ呼んだのか問いかけます。

 その瞬間桃花様の表情がまるで別人のようになりました。


「単刀直入に言うね。死んで」


 桃花様はいきなり宝石魔法で私に五発程の風の弾丸を打ってきました。

 その程度ならまだ余裕で対処できます。

 なので私はとりあえずすべて避けました。


「なぜそんな事を?」


 私は桃花様に問いかけます。

 どうして私を殺そうと……


「貴女が生きてると空君がいつ取られるか不安すぎるの。だから私と空君の愛のために死んで」


 なるほど。

 そういえば桃花様は空様に恋をしてましたね。

 しかしそんな事は私が死ぬ理由にはなりません。


「よく分かりました。なら桃花様に教えてあげましょう。貴女は私に適わないという事を」


 桃花様は身体能力は特にそこまで凄いわけではありません。

 少し使徒になった事による超能力が気になりますがそこさえ気をつければ問題ないでしょう。

 それに相手の能力が分からないのはいつもの事です。

 魔法は使えませんが経験や身体能力。

 間違いなく私の方がこの場は有利でしょう。

 それにそんな醜い愛の前で私が敗れるわけがない。


「そう。なら分かってると思うけど言ってあげるわ。私は【愛】の使徒よ。貴女も使徒だよね?」


【愛】の使徒ですか……

 神はこんな歪んだ愛をお望みというわけですか。

 仕方ありません。

 全力で相手してあげましょう。


「おっしゃる通り私も使徒です。私は【死】の使徒にして暗殺姫。今、この場であなたを否定しましょう」


 普通に考えれば私が負けることはまずない。

 しかし妙にある彼女の自信がとても不気味だ。

 間違いなく何かある。


「【死】の使徒ね」

「それがどうかしましたか?」

「数え切れない程の屍を積み命乞いをする子供に言葉を知らぬ赤子を躊躇いなく殺す。そんな貴女にピッタリだと思ってね」


 そんなのは昔から理解している。

 暗殺姫なんて名で呼ばれようがただの人殺しだと言うことも。

 私がこの現実から逃げ出した事も。


「さて、そんな貴女に一つ朗報だよ。実は空君と体を重ねたのよ」

「……それが?」


 どこまでが本当だろうか?

 空様は何故この女を?

 しかし今は考えることではない。


「それで私のお腹には赤ちゃんがいたの」


 彼女はそうお腹を優しく撫でながらそう言う。

 でも何故過去形なのだろうか?


「それで私は貴方を殺すためにこんな事をしたの」

「……何をしたんですか?」

「その子供を成長(グロース)の魔法でお腹の中で胎児まで育てて吸収(アドソープション)の魔法を使って私の体の一部にしたの」


 一体なぜそんなことを?

 まぁこの際はなんでもいいです。

 正面から叩きのめして彼女を否定するだけでいい。

 私は人を殺さないと決めたが精神的となれば話は別だ。

 私は彼女を倒して醜い部分を殺してみせる。


「さて、虚偽魔術展開」


 その一言で彼女の体が不気味な紫色で光り始める。

 足元に光で術式が描かれていく。

 この術式はまさか!?


「神器情報取得」


 間違いなく。

 この女はやるつもりだ。


「仮想神器展開」


 この女は神器をこの世に現界させる気だ。

 使徒になる事で神に認識された。

 空様の子供という神崎家の血を引いた者を材料に自分の体を神崎家と同格にして神の申子となった。

 神器は神の血を引く者が使徒になる事によって使えるようになる物。

 しかしこれは理論上の話。

 未だに成功させた者はいない。

 しかし彼女は狂気的な方法で神器を現界させた。

 間違いなく今の彼女は強敵だ。


「これで貴女と戦えるはずだよ?」


 彼女の指には先程までなかった指輪がついている。

 おそらくあれが神器だ。

 しかもよりによってそれを召喚してくるとは最悪だ。


「“ソロモンの指輪”ですか?」

「正解!」


 ソロモンの指輪。

 それは様々な天使や悪魔を使役出来るというソロモン王の指輪。

 しかし能力がそれだけとは思えない。

 間違いなく神器の中でも最強クラスの物だ。


「さて、それでは噂の悪魔とやらを召喚してみようかな」


 彼女の指輪が光り始める。

 悪魔がどの程度の実力か分からないのが少し不安だ。


「お願い悪魔さん。忌まわしい殺人鬼の腸を貪り尽くしてね」


 その言葉と共に来たのは私が二人分くらいの背がある頭が体よりも大きい肌が死体色の人の赤子だ。

 しかし脳天は開いておりそこからウジ虫が湧いている。

 よくよく見れば目のところが空洞になっている。

 その気持ち悪さのあまり吐きそうになる。

 それになによりこの生き物は危険だと本能が訴えかけている。


「……なんですかこれは?」

「悪魔だよ」


 私はナイフを異空間から出して迷わず悪魔の元に近づき悪魔の首を切り落とした。


「なるほど。それが貴方の能力なのね」


 初めて彼女に見せた私の能力の一部。

 この一瞬で私がずっと隠し通していた能力を見抜くとはなんていう洞察力だ。


「貴女の能力は“収納”って言ったところね。物を自由に出し入れ出来るだけの能力」


 しかし彼女は私の能力を間違って認識している。

 でもだからと言ってそこまでアドバンテージがあるわけではない。

 私の能力は知られようが知られまいが関係のないものだから。


「さて、そろそろ本気でいくよ」


 そう言うと形が全て異なる悪魔が十大ほど出てきます。

 どれも先程のと同じくらい醜い。

 一つは犬なのに手足だけは人だ。

 そして私と同じくらいの背丈がある鳥。

 それは羽が全て人の手になっている。

 しかも足掻くようにその手が動いている。

 よくよく見ると他の悪魔も人の体の一部が使われている。


 そして首を跳ねて分かった事だが悪魔の実力は大体空様が戦ってなんとか倒せるか倒せないかのレベル。

 そんなのが十体も……

 もし一体でも街に行けば大量の死者は間逃れない。

 仕方ありません。

 ここは私の能力の出番です。


「桃花様。貴方は危険です。亜空間で貴方の醜い部分を殺しましょう」


 景色は色々なものが散乱した真っ白の空間になる。

 私の能力は簡単に言えば収納。

 イメージとしてはポケットで良い。

 だからポケットをひっくり返すイメージで使って桃花様を私の亜空間に誘った。

 ここなら悪魔を逃がすことはない。

 私が物を突然出したりしてるのはここから物を出してるに過ぎない。

 この中では時間経過による状態の悪化がないため普段は食材だってここにぶち込んでいる。

 そのため色々なものが散乱しているのだ。


「これが貴女の本当の能力なんだね」

「ええ」


 私は落ちてるナイフを拾いそれを桃花様に投げる。


「防護結界」


 それは桃花様に遮られしまう。

 しかしおかしい。

 何故彼女は術式もなく魔法を使えた?

 そもそも防護結果は術式が複雑でイメージもとても難しい。

 出来る人は世界に数人いるかいないかのレベル。

 しかも使ったとしても精神をすり減らして動けなくなるって話を聞いた事がある。


「ソロモンの指輪の二つ目の能力。それは全ての魔法を術式と媒体無しで使う事が出来る」


 全ての魔法を術式無し。

 つまり魔法をデメリット無しで使える。

 戦闘面においては最強の能力と言っても過言ではない。


「それに貴女はどう対処するの?」


 そして悪魔もどんどん増えてくる。

 一秒に二、三匹のペースだ。

 今では数百匹……

 このままではジリ貧……

 私は駆け出して悪魔の喉元にナイフを突き立てて殺して次の悪魔に向かう。

 そして次の悪魔の腹をナイフで割き殺す。


「えいっ!」


 桃花がそう言うと雷が雨のように降ってくる。

 しかしその程度を躱すのは造作もない。

 私は雷を避けながら悪魔を順調に殺していく。

 殺して回るが増えるペースの方が早い。

 桃花は魔法を使いながらも悪魔をどんどん召喚している。

 悪魔の召喚数に上限はないだろう。

 そして地面から氷が生えてくる。

 しかも先端は剣のように尖っている。

 氷の剣と言ったところか。

 当たったら即死は免れないだろう。

 私はバックステップで避ける。


「やっぱり暗殺姫は一筋縄じゃいかないか。それじゃあ飛行(フライ)


 桃花が遥か上空に飛ぶ。

 飛行(フライ)は術式の難しさの割に三秒くらい宙に浮くだけの大した事ない魔法。

 しかし今の彼女はソロモンの指輪により制限無しで使えるため効果時間なんて関係ない。

 あらためて厄介さが身に染みて分かる。


「これはどう?」


 その言葉と共に桃花は巨大な火球を落とす。

 間違いなくあんな大規模魔法を人は使えない。

 使えたとしても術式を書くだけで一年近くかかるだろう。

 しかしソロモンの指輪でそれを可能にしている。

 私は思いっきり駆け出してなんとか回避する。

 このままではジリ貧と言ったが訂正。

 今生きてるのがやっとの状況だ。

 それに悪魔だって数えるのが馬鹿馬鹿しい数になっている。


「もう一発いくよー」


 桃花はさらに先程の巨大火球を落とす。

 私は再び火球が落ちる前にその場から離れて回避する。

 その際に道を阻む悪魔は足を止めることなく全て切り落としていく。

 今のところ回避はギリギリで可能だがいつまで体力が持つか分からない。

 早く桃花に決定打を加えなければ。

 そういえばアレがあった。

 私はすぐに先程の氷の剣のところに向かう。

 そして氷の剣を駆け登る。


「しまった!」


 気づいた時にはもう遅い。

 私は最も高いところで跳躍する。

 なんとか彼女のところまで飛べた。

 そして私は彼女を思いっきり蹴り落とす。


「……グヘッ」


 幸いにも彼女の防護結界は間に合わず無事に入ってくれたようだ。

 そして彼女の身体が何度かバウンドする。

 この高さから落ちたのだ。

 もう動けないだろう。

 そして悪魔も彼女の集中が乱れたのか消えていく。

 悪魔は彼女の意識とシンクロしていたのか。

 さて、ゆっくりと言葉で彼女の醜い部分を殺すとしましょう。


「桃花様。そんな歪んだ愛では私を殺せませんよ」

「……」


 おそらく痛みのあまり喋れないのだろう、

 しかし私はお構いなく進める。


「そんな事をして空様が喜ぶと思ってますか?」

「ねぇ……白愛」


 彼女は不気味に私の名前を言う。

 そして私は彼女の目を見て気づく。

 彼女はまだ私を殺すつもりでいる!

 それに先程の傷はいつの間にか回復している。

 おそらく魔法だ。


「蹴り落とした時に私をナイフで突き刺すべきだったわね」

「と言いますと?」

「こうなるからだよ」


 そして彼女は思いっきり地面を焼いた。

 しかし地面には燃えるような物はないはずだ。


「本当は使いたくなかったけどソロモンの指輪の第三の能力。それは私が概念に干渉出来るようになる。例えばどこかの誰かさんが時間を止めたとしても私は動けたりするわけだよ」


 まさか!

 そうだとしたら私は!


「察しの通りだよ。ここは貴方の概念世界って言ってもいい。ならソロモンの指輪の第三の能力で干渉できる」


 この世界はある意味私の概念世界である。

 つまりこの世界のダメージは私のダメージになる。

 例えばこの世界は焼却したら私も焼却される。


「それにしても貴女がここに導いてくれてよかったよ。そうしなきゃ勝てなかったもん」


 この女は地面に落ちた時からこれをすると考えていた。

 そもそもあの巨大火球に概念干渉を付与されていたら私はその時点で死んでいた。

 この世界に彼女を導いた時点で私は詰んでいたのだ。


「もしも貴方が躊躇いもなく人を殺せる現役で平和ボケしてない暗殺姫だったら私は負けてたわ。さよならだね」


 私は遅かれながら世界をシャットダウンする。

 なんとか完全焼却はま逃れた。

 しかし世界は殆ど燃えてしまった。

 私の内蔵が殆ど燃えカスになっている。

 もう残り少ない命だと嫌でも分かる。


「あら、意外とタフなのね」


 桃花様は勝ち誇った表情でそれを言う。

 もちろん逆転の一手なんてない。

 今の私は生きてるのが奇跡な状態だ。

 そして今になって思い出します。

 空様との思い出が鮮明に……


 ごめんなさい。

 貴方様の全てを守りきれなくて……

 空様は私に色々としてくれました。

 それを思い出して涙が流れ始めます。

 不思議ですよね。

 体の中を全て焼かれても涙が出るなんて……


「それじゃあ外からも焼いてあげるね」


 そして桃花様は私に魔法で火を放ちます。

 その火はとても大きく教会全てを包み込みました。

 もちろん桃花様は魔法で身を守ってるので火傷の一つも負いません。



 とても悔しい!

 まだ死にたくない。

 せめて最後に空様の顔だけでも見たい!

 私は強くそう思った。

 焼けた体を転がし教会の扉を開ける。


「なんでお前がそんなになってるんだよ!」


 外に出た瞬間そんな声が聞こえます。

 最も愛しき空様の声です。

 最後に聞けてよかった。


 そして私はここで生涯を終えました。

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