296話 ただいま
「空君や海ちゃんを傷付けた罪はちゃんと償ってもらうから」
現れたのはピンク色のロング髪の世界で一番可愛い少女。
その少女の手には水色の槍が握られ、背中からはどこまでも飛んでいけそうな白い翼。
そう、俺の嫁がこの場に華麗に現れた。
その白い翼の生えた背中は凄く力強かった。
彼女なら闇桃花を……
「私と戦うなんて新鮮だね」
「それはこっちのセリフだよ」
闇桃花が闇色の杭を飛ばしていく。
それを桃花は全て水色の槍で弾く。
その様は武術の達人のように正確な動きだった。
「ソロモンの指輪だっけ?」
「婚約指輪って呼んでほしいかな」
「ごめんね」
その瞬間、闇桃花の心臓を閃光が貫いた。
貫いたのは桃花の槍。
動きはあまりにも早く全く目に追えなかった。
「結婚指輪なら既に私の指に付いてるから」
「そっか〜」
しかし闇桃花はそのまま上に羽ばたいていく。
桃花はそれを何も言うことなく眺めていた。
「心臓を貫いても死なないなんて随分と化け物だね」
「愛の力だよ」
「ゲイボルグ・ディストラクション」
桃花が横に槍を振るう。
すると世界が真横に裂けていった。
その攻撃のスケールの違いに開いた口が塞がりそうもない状態が少し続く……
だが世界の自己修復力なのかすぐに裂けた世界は戻っていく……
「……化け物……でしょ?」
「私は凄く怒ってるんだよ。次はあなたの頭をそうしてあげる」
桃花が飛んだ。
それに合わせて闇桃花が飛び舞う。
桃花がゲイボルグと呼んだ槍を振るうとその度に闇桃花は大袈裟に動き回避していく。
「ソロモンの指輪だっけ? 随分と弱い神器だね」
「馬鹿にするな!」
「おいで、ミョルニル」
桃花がゲイボルグを真上に投げて武器を持ち変える。
次に持っていたのは黄金色の金槌だ。
それで闇桃花の半身を吹き飛ばす。
吹き飛ばしたあとは雷が降り注ぎ闇桃花の身体を力強く焼き尽くしていった。
「まだこのくらいじゃ死なないでしょ?」
「化け物!」
「お互い様でしょ?」
桃花が指を鳴らした。
すると地面から船が闇桃花を突き上げた。
その船はとても大きくまるで空飛ぶ大陸……
「ノアの方舟」
「次から次へと!」
「あなたはソロモンの指輪って一つの神器でイキってるみたいだけど私はゲイボルグ、ミョルニル、ノアの方舟って三つ保持してるんだよ」
「何を……」
「あなた如きじゃ準備運動にもならないって言ってるの」
桃花が再びゲイボルグを手に出す。
そしてそれを闇桃花に投擲する。
ゲイボルグは流星のように闇桃花の頭を貫いた。
「さよなら。もう一人の私」
それから桃花は俺の元へと振り返る。
満面の笑みで俺の方へ向かってくる。
「空君。ただいま」
「おかえり。桃花」
そうして俺は桃花を力強く抱き締めた。
桃花の体温が体に染み渡る。
この感覚をどのくらい待ち望んでいたか。
ずっと桃花を抱き締めたかった。
「やっと闇桃花を倒したよ。これで私も神崎家を名乗っていいよね?」
「もちろんだ」
「やった!」
少し見ない間に桃花は驚く程に強くなった。
まさか闇桃花をあんなに容易く倒すとは……
俺は桃花の成長を嬉しく思った。
「もう、絶対に空君と離れない!」
「俺もだ」
「絶対絶対絶対絶対絶対に離れないから!」
「あぁ」
「私、強くなったよ? 空君を守るために強くなったんだよ」
「知ってる」
「もう誰も傷付けさせない!」
それから桃花は俺から離れる。
少しだけ歩き、闇桃花が落ちた場所へと向かう。
そしてソロモンの指輪を拾った。
「桃花?」
「もう一人の私。あなたの意志はしっかりと私が継ぐからね」
それから桃花はソロモンの指輪を身に付けた。
桃花はそれを付けて俺に微笑みかける。
「せっかくの神器なんだから使わなきゃ勿体無いでしょ」
「そうだな」
ソロモンの指輪一つでも化け物レベルに強いのにそれに加えて三つの神器。
もう俺の嫁一人で世界征服出来るのではないか……
ただ間違いなく言えるのは夫婦喧嘩でもしようものなら絶対に桃花には勝てないな。
「……桃花!」
それからルプスを呼びに行った海が戻ってきて桃花にぎゅっと抱きついた。
とても力強くどうやっても離れそうにないほど強く桃花に抱きついている。
その様はどこか微笑ましさがあった。
「海ちゃん。久しぶりだね」
「ずっと会いたかったですよ」
「心配かけてごめんね」
桃花も海を抱き締め返す。
やっといつもの三人が揃ったな。
一番大好きな時間がやっと戻ってきた
「ママ!」
「ルプス! 大丈夫だった?」
「はい!」
いつもの三人に加えてルプス。
俺の一番大好きな空間。
長かったけどやっと……
「もう絶対に誰にも離れさせないし壊させはしない」
「桃花?」
「ごめんね。私が弱かったから色々と不自由させて」
「そんなことありませんよ!」
「でもやっと納得いくくらい強くなれた。もう大丈夫だよ」
今の俺達は最強だ。
だって大好きな人達と一緒なんだから。
もう怖いものなんか何も無い。
「それじゃあ帰ろっか。私達の家にね」
「そうですね。でもその前に……」
「なんか用事があるんだね。手伝うよ」
やっといつもの日常が帰ってきた。
そんな気が強くした。
「……空君」
「どうした?」
それから桃花が近付いてくる。
互いの吐息が顔に当たる。
そんな距離まで……
「……いつもしてるのに少し恥ずかしいね」
そうして桃花の唇が俺の唇に重なる。
優しいキスを桃花とする。
俺はそれを受け入れて桃花を抱き寄せる。
とても愛しくて絶対に離したくない。
そんな感情が強く芽生えてくる。
「私を改めてお嫁さんに貰ってくれますか?」
「当たり前だろ」
今度は俺から桃花にキスをする。
桃花もそれを抵抗することなく受け入れる。
こんな時間がいつまでも続いてほしい。
俺は心の底から強くそう思った。
そう思いたくなるほど心地よかった。
桃花のサラサラした髪の感触が好きだ。
桃花のほんのりと暖かい体温が好きだ。
桃花とこうしてずっと抱き合っていたい。
「桃花。こんな俺を旦那さんにしてくれるか?」
「空君だから良いんだよ。私が初めてカッコイイと思えた空君だから旦那さんにしたいんだよ」
「桃花……」
「はい。空君だけ……ってわけでもないけど空君の桃花だよ」
本当に桃花は可愛い。
ピンク色の血色の良い唇に整った骨格。
それに誰よりも優しそうだから芯のしっかりした目。
髪はピンク色に染めているがそれがより一層、桃花の個性を強く引き出していて本当に可愛い。
こんな美少女を俺の嫁なんだ。
「これからも末永くよろしくお願いします」
「あぁ」
それから桃花が息を軽く吸った。
息を吸い終わると優しい笑みを浮かべる。
その笑顔を見たら嫌なことなど全て簡単に忘れることが出来るだろう。
そんな見てる人を幸せにする笑みだ。
「改めて、ただいま」
「おかえり」
そうして俺達は晴れて日常へと帰ってきた。
周りより一足早く帰ってきた。
周りに問題は山積みだ。
でも今くらいは忘れてもいいだろう。
ちょっと新人賞に挑戦したいので休載します