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世界調整  作者: 虹某氏
6章【生命】
302/305

294話 ちょっとした孤児院

「随分と速いですね!」


 海の声が風に掻き消されていくが何とか拾う。

 しかしそれをなんとか拾う。

 それにしても本当に速いな……


「さすが……SSランクだな……!」

「あれが孤児院ではないですか!」

「そう……かもな!」


 しかし風で声が掻き消される。

 ちょっと話すのにも大声を挙げないと……

 とりあえずあまり大人数で行くのもあれだし今回は白愛と俺と海とシャーロットちゃんの四人だ。

 一体孤児院でどうなるか……

 戦闘とかにならないと良いが……


「さすがに……戦うことはないと思いますよ!」

「こういう場所って大体そういうのに巻き込まれるじゃねぇか!」

「何か言いましたか!」

「なんでもねぇよ!!」


 ダメだ……

 ちょっと速すぎて落ち着いて会話も出来ねぇ。

 降りたらゆっくり話すとしよう。

 まぁそんな時間があればだが……

 そんなことを話して数十秒後。

 ジャバウォックがいきなり止まった。

 いきなり止まったことによって発生した衝撃に俺達の体がドタンバタンと揺れる。


「きゃっ!」


 俺は思わず慣性に負けて転倒。

 その結果、海を押し倒してしまう形になる。

 すると手に堅い何かが当たった。

 まるで木の板のようなものだ。

 しかしそれにはどこか柔らかさもある。

 これは一体……


「……お兄様」

「あぁ。海の胸か。本当に“まな板”なんだな」

「死ね!」


 俺はそんな海を放って起き上がり辺り一面を見る。

 するとそこには協会のような建物があった。

 恐らくここが孤児院……


「ジャバウォックありがとな」

「グギャァァォォォォ!!」


 見た感じ新しそうだな。

 一応、アリシアからエニグマの名を出しても問題ないという許可は取っている。

 まぁ許可など無くても出すつもりだったが……


「……お兄様!」

「なんだよ」

「ごめんなさいの一言もないんですか!」

「それはこっちのセリフだよ! お前あまりにまな板だからこっちは突き指しかけたんだよ! 謝るとしたらお前だろ!」

「ほっんとクズですね!」


 クズはどっちだよ!

 あんな凶器を体に身に付けておいて……

 まったく。少しは反省しろ。


「お二人共。兄妹喧嘩は後にでもしてください」

「うぅ……私の女性としての尊厳が……」

「知るか。なら代わりに俺の触るか?」

「ほんと死ね!」


 せっかく人が解決案を提示したというのに……

 まぁそんなことはどうでもいい。

 ぶっちゃけ海じゃ何とも思わねぇしな。

 もちろん貧乳だからというのもあるが可愛いってだけで実の妹にそんな感情を抱けるかって話だ。


「とりあえず俺が呼び鈴でも鳴らすからお二人さんはここで待っててくれ」

「このくらいして当然ですよ」


 それから俺は建物に近寄って呼び鈴を鳴らした。

 しかし誰も出てくる気配はなかっと。

 鳴らしてから数分待つも誰も出てこない。

 これは困ったな……


「お兄様」

「……まだなんかあるのかよ」

「違いますよ」


 海が扉に近づき勢い良く蹴り飛ばす。

 扉はもちろん呆気なく破壊される。

 なんて乱暴な……


「怒られたらどうするんだよ」

「そうですね……一つ目はお兄様が全責任を負う、二つ目は殴って黙らせる、三つ目は全力疾走で逃げるでしょうか」

「どれ一つとして良案が無いな」


 なら二つ目が一番マシか。

 困ったら武力行使だ。

 幸いにも南極だから殆ど人はいねぇし黙らせればこっちのもん、それに後々に大問題になったとしてもアリシアという強力な後ろ盾があるなら揉み消しも容易いだろう。


「失礼します」


 俺達は海が乱暴に蹴り壊した扉から入る。

 そこはホコリとかがたくさんある。

 これは少なく見積もっても半年は人がいた痕跡はないと見ていいな。


「……椅子なんてコケだらけですよ」

「ていうか南極にコケなんてあるんだな」

「さぁ?」


 まぁどうでもいいか。

 しかし古びたステンドグラスから光が差し込んで少し幻想的な光景ではあるな。

 今風に言うならインスタ映えしそうな光景。

 昔風に言うなら写真映り良さそうな光景。

 そんなことを考えていた時だった。

 なんとシャーロットちゃんが発狂した。


「うぅ……ぅぅぅぅ……うううう!」

「シャーロットちゃん! どうした!」

「うわぁぁぁぁぁぁ!!! マオ! 真央!」


 真央!?

 どうしてその名前がここで出てくる?

 まさか真央が関係してるのか?


「……お兄様!」

「どうなってやがる! なんでシャーロットちゃんから“真央”の名前が出てくるんだよ!」

「まだ同名のだけの別人の可能性も……」


 その可能性も少しはある。

 だが間違いなくそんなことはない。

 南極の少女の幽霊という普通ではない事態。

 それなら普通ではない人物が関わってると考えるのが普通だろう。

 そして真央は普通ではない人物。

 そんな普通ではない人物に真央という名前が二人もいるとは考えにくすぎる!


「……空様。海様。落ち着きましょう!」

「そうですね……」


 間違いなく神崎真央が関わってる。

 なら真央は彼女に一体何をした?

 ここは彼女の何なんだ?


「……マォ……は……私が殺す!」

「殺す?」


 いや、真央が関わってると考えるのは早すぎるな。

 誰かがシャーロットちゃんに真央の事を強く記憶に植え付けただけの可能性もある。

 それこそ親の仇とでも言って……


「……ですよね……マイさん?」


 そうしてシャーロットちゃんは倒れた。

 しかし最後のマイ。

 それは一体誰だろうか?


「お兄様。どう考えますか?」

「マイという女性。恐らくそれが関わってる」


 マイの名前だけじゃ何も分からない。

 外国人の名前でもおかしくないし日本人にいてもおかしくない名前だ。

 国籍まで不明な人ときた。

 そんな時に俺の脳裏にある言葉が過ぎった。


 “裏からって言うのは正体を明かさねぇのが肝心”


 それは親父の言葉だ。

 そしてマイという名前は一度も聞いたことがない。

 つまり今この時まで正体を明かしていなかった。

 その事実は裏からの立ち回り方を把握している。

 そう裏付ける他ならない。

 もしかしたら最悪の敵なのかもしれない……

 とりあえず“マイ”という名前に嫌な予感がする。

 それにどこか自分と関係ありそうな……


「……マイ。一体何者なんでしょうかね。もしかして神崎陸の切り札とか」

「それは無い」

「何故そうと言いきれるのだ?」


 しまった。

 口が滑ってしまった。

 もし親父がマイという人と関わってるならこのシャーロットちゃんにもう少し情報があるはずだ。

 しかしそれらがまったくない。

 他にも色々と判断した理由はあるが置いておこう。

 つまり言いたいことはあれだ。

 海が親父と俺の関係を知らないのに俺が明確に自信満々に否定してしまったのが大問題ということだ。


「もっとマイを切る場面があったはずだからだ」

「本当にそうでしょうか?」

「少なくとも俺はそう考える」


 しかしマイ。

 エニグマならアリシアから話が出るはず、それで親父の一派でも無い。

 真央なら隠してるという線も考えられるがその場合だと“殺す”という言葉に説明つかない。

 つまりどれにも属さない人物だ。

 それだと対応も厄介極まりないことになる。

 ただ分かるのは真央を殺したいと思っているということくらいだろうか。


「まぁとりあえずここを漁るか。その“マイ”という人物についても分かるかもしれないしな」

「そうですね」


 それから俺達は隈無く色々な所を漁った。

 しかし何一つとして答えは出なかった。

 それどころか一切の痕跡が出てこない。

 それこそ不自然なほどに……

 こんな状態なら意図的に隠したと考えた方が自然。

 恐らくそれはマイという人の仕業。

 どうやらマイは相当自分の姿を隠したいらしい。

 なら暴きたくなるのが人の性だろう。


「……お兄様」

「どうした?」

「そういえばあそこに写真がありますね」


 海が示す方向を見るとそこには古びれたボロい写真がそっと置かれていた。

 近すぎて気付かなかったな……

 俺は物を探すのが下手なのかもしれない。


「幸いにもカラー写真ですね」

「この少女はシャーロットちゃんだな。この白髪に白いゴスロリの女性は?」

「さぁ?」


 そこにいたのは白い女性だった。

 その顔立ちは驚く程に真央と似ていた。

 ただ色が全て真央と正反対。

 まるで白の魔王……


「おや、裏に英語でメッセージが……」

「……近いうちに会おう?」

「そう書かれてますね。まるで会うことが前提のような……」

「誰に向けたメッセージだろうな……ん?」


 それから指を退かす。

 すると存在しない名前が書かれていた。

 なぜ、この名前が……


「お兄様?」

「嘘だろ?」


 from:神崎 麻衣


 そう書かれていたのだ。

 それも名前は英語じゃなくて丁寧に漢字だ。

 なぜ、ここにきて神崎家の苗字が出てくる!

 まだ神崎家の生き残りがいるというのか!


「……嘘ですよね」

「ブラフってことは考えにくいだろうな」

「そもそも麻衣って女性名ですよ! 神崎家の女性は間違いなく殺されます! 真央と私が少し例外過ぎただけです。そして神崎家が生きてるのですら意外だと言うのにさらに女性だなんて一体何がどうなってるんですか!」

「分からねぇ……だけど一つ言えるのは五人目の神崎家……いや、五人目の人間の始祖の血筋がいるってことだ」

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