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世界調整  作者: 虹某氏
6章【生命】
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293話 ジャバウォック

「それでこの可愛らしい子を連れてきたと」


 エニグマ総本部に帰宅してから少し経った。

 俺は現在、海に取り調べを受けていた。

 正直言ってめんどくさいところ。

 ちなみに海には外を散歩してたら記憶喪失の幽霊を見つけたので連れてきたと説明している。

 あくまで親父の存在は隠す方針だ。

 そっちの方が色々と都合が良い。


「まぁそういうところだ」

「しかし記憶喪失とはそれまた厄介ですね」


 俺もそう思う。

 ただこの幽霊の存在が意味することは海にも伝えてある。

 それを踏まえた上で海がどう思うか……


「なんか記憶喪失を戻す案はあるか」

「連れ歩くしかないんじゃないですか。それで記憶喪失になる前に訪れたことがある場所ならふと思い出す可能性がありますし」


 なるほどな。

 しかしシャーロットちゃんが前世でどのような場所に訪れていたのか全く分からない。

 そこが大問題である。


「それと幽霊になるということは前世にそれなりの未練があると考えるのが一般的ではないでしょうか」

「あくまで一般的な。まだ未練があるから幽霊になると確定したわけじゃない。なんで幽霊になるのかも不明なのが現状だ」

「なるほど……」


 ただなんかしら仮定して動かないと話が進まないだろうな。

 とりあえず未練があるという前提で動いてしまうか。

 未練なら愛する人がまだ生きてるとか凶悪な殺人犯に殺されてとかか。


「だが一番気がかりなのはこの南極にいたという事実だ。南極なんて永住者はそこのアリシアくらいで表向きはゼロ人とされてる世界だ。そんなところにいる幽霊というだけでこの上なく不自然だ」

「それもそうですね」

「一々南極に移動するとも思えないしここは南極で命を落としたと考えるべきだ。それなら南極に死体なり骨なりあるだろ。荒治療ではあるがそれをシャーロットちゃんに見せれば少しは進展するんじゃねぇか」


 ぶっちゃけそれしか思い浮かばない。

 他に良い案があるなら言ってほしいくらいだ。

 それに南極に骨なり死体がある可能性が高いだけで存在しない可能性もある。

 ただそんなマイナスの話をしても仕方ないしここは伏せておくべきだろう。


「とりあえず再び氷の大地を歩くんですね」

「そうだ」


 もしかしたら神器の一つや二つ見つかるかもしれないしな。

 そしたらそれを中心に闇桃花と戦うことだって出来ないことは無い。


「それなら少し怪しいところがあるよ」

「アリシア。それは本当か?」

「えぇ」


 そこからアリシアの話を聞くと南極には胡散臭い孤児院がありそこが怪しいという話である。

 どこが胡散臭いかと言うとなんでも外に出る子どもの姿をほとんど見ないとか……

 正直、南極が寒いからとか色々と無理矢理な理由をつけることが出来るが私的としてはこの時点で真っ黒に等しいとすら思う。


「ちょっと私の愛竜を貸すからそれで飛んでいきなさい。おいで、ジャバウォック」


 するとドラゴンが現れた。

 そのドラゴンの見た目はコウモリのような羽は鋭い牙などの体を持っているが少しドラゴンらしくない体のようや姿をしていた。

 例えるなら2~3倍でドラゴンにしては少ないような感じがするが、やはり見た目はドラゴンだな。


「不思議の国のアリスに出てくるドラゴンですね」

「よく知ってるわね。そうジャバウォックは不思議の国のアリスに存在する生き物、そしてランクはSSランクでエニグマ史上最高の戦闘能力を誇るわ」


 SSランクか……

 今の俺でも勝てるか五分五分の強敵。

 まさかそんなドラゴンがいるとは予想外。


「ちなみに私の可愛いペットよ。このバベルの塔という能力無効空間で勝てる人は何人いるかしら?」


 これがエニグマに攻め込む人がいない理由か。

 ただ闇桃花は話は別だろう。

 あそこは神器を封じる事は出来ない。

 つまり存分にソロモンの指輪が振るわれる。

 闇桃花には一切の制限がかからないのだ。


「ちょっとジャバウォック借りるぞ」

「どうぞー。ジャバウォックちゃんも宜しくね」

「グギャァァァアル!」


 それからジャバウォックは外へと出た。

 俺達もそれに続いて外へと向かう。

 外に出るとジャバウォックは外で乗れと言わんばかりに待っていた。


「シャーロットちゃんはお留守番だな。ジャバウォックに乗ろうにも体がすり抜けるだろ」

「分かった……」

「お兄様。そもそもシャーロットちゃんに孤児院を見せて記憶を思い出させようとしてるのにそのシャーロットちゃんを連れていけないのは本末転倒ではありませんか?」

「写真撮ればいいだろ」

「アホですか。その場の空気とか触れないと思い出せるものも思い出せませんよ」


 うーん……

 なら、歩いていくか?

 ぶっちゃけそれくらいしか俺は思い浮かばない。

 ただどのくらいの距離があるのか……


「シャーロットちゃんはただの人間の幽霊。あなた達みたいな化け物二人ならまだしもシャーロットちゃんのようなか弱い少女が一人、到底歩ける距離じゃないわ」

「背負うにも幽霊だから背負えないしな……」


 これは詰んだな。

 シャーロットをあそこまで連れていけるのも不可。

 いや、そうでもないか……


「黙り込んでどうしたんですか?」

「なぁ幽霊なのにどうしてシャーロットちゃんは足元が透けて地下に落ちないんだ?」

「言われてみれば……」

「もしかしたら透ける透けないは彼女の認識次第って可能性があると思ったんだ。それならどうにかなるんじゃないか?」

「そうですね。ジャバウォックちゃんにソリでも引いてもらいますか」


 どうして海はジャバウォックにちゃん付けしている。

 まったくもって分からない……

 まぁそんなことはどうでもいいか。


「白愛」

「はい。お呼び使わせ参上致しました」


 白愛の名前を呼ぶと何処からともなく現れる。

 そしてメイド服の裾を摘んで丁寧にお辞儀。

 その様は非常に上品な動きで目を奪われる。

 しかし先程まで視界内にすらいなかったのにこうもいきなり現れると少し心臓に悪いものがあるな。

 まぁそれを分かっていて呼んだのだが。


「今から三十分でかなり乱暴に扱っても壊れないソリって作れるか?」

「ソリ程度“十分”も頂ければ充分です」

「それじゃあ任せたぞ」

「承りました」


 さてと少し休むとするか。

 特に疲れたわけではないが休める時は休む。

 そっちの方が体に優しいだろう。


「そうだ。お兄様、これを……」


 俺が座って休んでいると海が赤面しそうな程に照れてモジモジしながら俺に手袋を渡す。

 それは黒い毛糸の手袋でとても暖かそうだ。

 しかし海がプレゼントなんて……


「グレイプニル。触れたらその時は能力は使えません。でも直にグレイプニルに触れなければ能力は使えます。それなら手袋を付ければと思いまして……それに何より手が少し冷たそうだったので」

「そうか! 手袋か!」

「どうぞ……」


 完全に盲点だった!

 たしかに手袋を使えば能力を行使できる。

 まさかそんな簡単なことに気付かないとは……

 自分が馬鹿すぎて呪いたくなってくる。


「とりあえず今は毛糸しかなかったので毛糸を編みましたが外に出たら毛糸の手袋は暑いと思うので皮の手袋を用意しますから……今はそれで……」

「ありがとな」

「私だってお兄様に強くなってもらわないと困るんですから……だって……私じゃ闇桃花に勝てませんし……」


 今度、海にプレゼント用意しないとな。

 素直に受け取るかどうか微妙だが一方的に海から恩を受けておくのも色々と面倒だ。


「あ、あとお兄様が炎系統の技とか使って手袋燃やしてもしりませんからね!」

「分かってるて」


 本当に心配性でツンデレだな。

 ちょっとツンの比率が多い気がするけど。

 正直もっとデレてくれた方がこちらとしても楽だしデレろとは思うところではあるがデレデレになったらそれが海かと言われると難しいところでもある。

 やはりツンの比率が高い方が海らしいか。


「それとお兄様」

「どうした?」

「……鬼ヶ島では完敗しましたが次は負けませんから。例えグレイプニルを使われようとも」


 これは照れ隠しなのか?

 随分と下手だな。

 それに生憎、俺も負ける気はしねぇよ。

 海は知らない一周目の世界。

 その時に海と剣道の試合という名目の殺し合いで俺は負けている。

 俺と海は現在一勝一敗。

 つまり引き分けなのだ。

 いつかもう一度、白黒はっきり付けないとな。

 それに何より兄として負けるわけにはいかない。


「だから私が勝つまで絶対に死なないでくださいね」

「お前こそ闇桃花に殺されんなよ」

「わかってますよ」


 それから白愛が呼ぶ声が聞こえた。

 どうやらソリが完成したらしい。

 それじゃあちょっとシャーロットちゃんの過去を解明しに行きますか。

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