30話 授業
「桃花。起きろ」
俺は桃花を起こしている。
結局昨日も桃花の家に泊まってしまった。
そして桃花も昨日は疲れたのか中々起きない。
仕方ないな。
「大好きだぞ」
そう桃花に話しかける。
そしたら桃花は飛び起きた。
やっぱり桃花は甘い言葉に弱い。
起こすにはそれが一番だ。
「私もだよ」
「知ってる」
そんな甘いやりとりをする。
そして朝イチのキスをした。
「ご飯出来てるぞ」
「ありがとね」
それにしても朝飯を作っただけでお礼を言ってくれるとは桃花は優しいな。
白愛はこういう時はどうしてくれたっけ?
イマイチ思い出せない。
まぁいいか。
「今日はなに作ってくれたの?」
「とりあえず焼き鮭と味噌汁といった王道を行く和食だ」
「ありがとう!」
桃花がお礼と共に抱きついてくる。
本当に可愛いやつだ。
「ほら、下行って食べるぞ」
「そうだね」
ダイニングに行き俺達は朝食を済ませる。
桃花は今日も美味しいと言いながら食べてくれた。
それ程嬉しいことはない。
「ねぇ空君?」
「どうした?」
「そろそろ学校行こ?」
「そうだな」
時間はもうそろそろ家を出ないと学校に間に合わない時間だった。
桃花と一緒にいると過ぎる時間も早い。
俺達は食事を終え学校に向かった。
そして登校中に海を見つけ桃花が話しかけた。
「おはよう。海ちゃん」
「おはよう。それにしても登校中に会うなんて珍しいわね」
「いつもは出る時間違うしね」
登校中に海と会うとは珍しいな。
そういえば海の家はどこなのだろうか?
「そういえばお兄様」
「どうした?」
「実は今日演劇部に見学しないかと誘われてまして……」
見学と言ってるが実際はスカウトが目当てだろう。
それにしても海はそんなに演技上手いだろうか。
たしかに可愛いが演技が出来るかは不明。
それとも海を脚本家としてスカウトしようとしてるのかもしれないな。
「それで?」
「お兄様も一緒に見学しないかなと思いまして」
「なるほど」
海から誘うなんて珍しいな。
それと海がただの見学を受けるとは思えない。
おそらく面白いなにかがあるのだろう。
「あぁいいぞ」
それに可愛い妹からの誘いだ。
断るわけがない。
「良かったです。桃花さんはどうですか?」
「ごめんね。今日は放課後に用事あるからパスで」
「……そうですか」
海が心なしか少しだけ寂しそうな表情をした。
海もやっぱり桃花と行きたかったのだろうか。
「ホントにごめんね」
「……用事なら仕方ないですしね」
そういえばウチの学校の演劇部はどのくらい規模だっただろうか?
たしか六人くらいだと思うが記憶が曖昧だ。
「それにしてもあの学校の演劇部凄いんだよね」
「そうなんですか?」
「うん! なんか賞を取ってたって話だよ!」
桃花がそう語っていく。
桃花は詳しいな。
「それじゃあ私は行けないけど楽しんで来てね!」
「あぁ」
少しだけ演劇部の見学が楽しみになってきた。
俺達はその演劇部の話をしながら学校に着いた。
「おう。やっと来たか」
「どうした? 拓也」
教室に着くと同時に珍しく拓也が話しかけてくる。
一体どうしたのだろうか?
「お前の話題で持ちきりだぞ」
「俺、なんかしたか?」
「実は竹林の退学の件にお前が関わってるんではないかという話でな」
いつの間にそんな話になっていたのか。
まぁ関わってるといえば関わってるが微妙なところだな。
「それで?」
「実際どうなんだ?」
凄く答えにくいところだ。
曖昧にしとくか。
「想像に任せる」
「そうか」
どうせこの話は噂止まりだろう。
俺の気にすることではない。
「そろそろホームルーム始まるぞ」
「そうだな」
俺は席に着く。
そういえば今日の一時間目は化学だ。
まだ前のテストが返ってきてない。
おそらく今日返ってくるのだろう。
チャイムが鳴り先生が来る。
「ホームルームの開幕だよ」
いつも通りの学校が始まった。
桃花は真面目に話を聞き。
海は眠そうに欠伸しながら話を聞き。
拓也は机に伏せて寝る。
そんな変哲のないいつも通りの光景だ。
「とりあえず僕からの忠告はそろそろテスト前だから勉強しとけって事くらいかな」
先生がそう言った。
そういえば最近は忙しすぎて勉強してなかったな。
帰ったら久しぶりにするか。
そしてすべて言い終えたのか教室を後にする。
「お兄様」
海が俺に話しかけてくる。
最近は海から話しかけてくる事が多いな。
「今日化学のテストが返ってきます。その点数で勝負しませんか?」
海はホントに勝負事が好きだな。
勝負事をしない海なんて海ではないが……
「あぁいいぞ」
「でも何も賭けないというのもつまらないものです。何を賭けましょうか?」
たしかに賭けない勝負はつまらない。
そこは海に同意見だ。
少しだけ沈黙が流れる。
「いい案思いつきました!」
海が興奮気味にそう言う。
どうやら賭けるものを思いついたらしい。
「勝者は敗者に好きなセリフを言わせるっていうのどはですか?」
「好きなセリフか……」
海にしては優しい内容だ。
さて、なんて言わせたものか……
無難に“お兄ちゃん”とかもありかもしれない。
それとも厨二みたいな痛いセリフを言わせるのもありかもしれない。
海になんて言わせるかを考えるとワクワクが止まらないな。
「それでは授業が始まるので私はこれで」
「そうだな」
そして運命の化学の授業が始まった。
さて、何点だろうか?
「それじゃあ前にやったテスト返すぞ」
出席番号順にテストが返されていく。
テストでこんなにもドキドキするのは久しぶりだ。
「神崎空」
「はい」
先生に名前が呼ばれたのでテストを取りに行く。
そしてそこには100の数字があった。
これなら間違いなく海に勝ったな。
「神崎海」
「はい」
海も呼ばれる。
そして海はテストを受け取ると表情一つ変えずに俺の元に来る。
さて、海は何点だろうか?
「お兄様は何点でしたか?」
「100点だ」
海が聞いてきたので俺は丁寧に優しく答えてあげる。
さぁ海よ! お前は賭けに負けた!
醜態を晒すとよい!
「奇遇ですね。私も100点です」
「ほへ?」
あまりの衝撃にマヌケな声が出る。
考えてみればこの程度のテストなら100で当たり前だ。
「引き分けで賭けは持ち越しですね」
そして海が席に戻っていく。
……こんなのってあんまりじゃないか。
「それじゃあ平均点言うぞ」
先生が平均点を言おうとする。
しかし俺にはショックが大きすぎる。
まさか同点とは……
「平均点は32.8点だ。ちなみにトップ3は神崎空の100点と神崎海の100点の同着一位と佐倉桃花の96点だ。ちなみに4位以下は全員50点未満だった」
桃花もそこそこ良い点だったのか。
身内がトップ3を占めるとは……
それにしても平均点低すぎじゃないか?
クラスからは俺達に呆れた声が聞こえ始める。
「さすがに私も授業外から出るなんて予想外だったよ〜」
桃花がそう愚痴るように話しかけてきた。
とは言うものの彼女も悪くない点数を取ってたはずだ。
「でも所詮は高校の内容だろ?」
「いや、私達は高校生なんだから高校の内容からじゃなかったらおかしいから」
「それもそうか」
しかし愚痴ってはいるが良い点を取っている。
なかなかやるものだ。
「……お前らホントに化物だな」
拓也がそう話しかけてくる。
化物とは失敬だ。
真面目に勉強すればそれくらい行くだろ。
「そういうお前は何点なんだ?」
「34点だ」
「一応平均は超えたんだな」
正直驚きだ。
拓也は20点前後かと思っていた……
「席に戻れ。テスト返却も終わったし授業するぞ」
そして授業が始まった。
簡単な内容で前に白愛に教えてもらった所だ。
しかし内容が分かってるとはいえノートを取らねば成績が落ちてしまう。
寝る事は出来ないのだ。
「おい空! この問題解け!」
ボケっとしたのを見つかったのか先生に指されてしまう。
しかし簡単な問題だ。
俺は前に出てスラスラと解いていった。
「……正解だ」
どうやら合ってたらしい。
その後は特に何もなく1時間目、2時間目と授業が終わった。
「空君!」
「桃花。どうした?」
「次の時間の組も?」
そういえば次は家庭科で調理実習か。
桃花と組んだとしてもあと二人必要だな。
「海」
「何かしら?」
「調理実習一緒に組まないか?」
「ええ。いいわよ」
海も組んでくれるらしい。
さて、あと一人……
拓也でいいか。
「おい。拓也」
「どうした」
「調理実習一緒にやらないか?」
そう尋ねると拓也は海の顔をまじまじと見た。
一体なんだと言うのだ?
「断る理由がないな」
「そうか」
どうやら拓也も組んでくれるらしい。
これで四人揃ったな。
「さて、そろそろ家庭科室行くか」
「そうだね」
俺達は移動する。
それにしても誰かと何かを作るのは久しぶりだな。
桃花と俺は料理出来る。
海は出来ないと考える方が不自然だろう。
拓也は正直料理が出来るイメージ湧かないな。
「そういえば今日の調理実習って何を作るんだ?」
「たしか麻婆豆腐だったと思うよ」
麻婆豆腐か。
それなら何度も作った事があるし簡単だ。
「さて、みんな来たわね。それじゃあ調理実習始めるわよ」
先生がそう言うと調理実習の授業が始まった。
先生が麻婆豆腐の作り方を説明するがその位なら頭に入ってる。
そして先生の話も終わり麻婆豆腐作りが始まった。
「さて、分担するぞ」
「そうだね」
「海は食材を……」
海に包丁で切ってもらおうと思って頼んだその時だった。
「お兄様は私が料理出来るとでも?」
「……まさか、出来ないのか?」
「ええ。出来ませんよ」
海がまったく料理を出来ないというハプニングがあったのだ。
かなりの予想外だ。
「そもそも料理なんて白愛以外の誰が作っても大差ないんですし冷凍食品で良いではありませんか?」
海がドヤ顔でそう言うが痛いな。
でも逆説的に言えば冷凍食品の解凍くらいなら出来るというわけか。
まぁそれは置いといて誰が料理出来るか整理しよう。
「この中で料理出来る人いるか?」
「私は出来るよ!」
桃花が可愛らしい声で答える。
さすが桃花だ。
どこぞの妹とは訳がちがうな。
とりあえず頭を撫でておこう。
そしたら桃花が今までにない笑顔になった。
しかし桃花以外に手を挙げる人はいないな。
「まさか料理出来るのって俺と桃花だけか?」
「そうじゃね?」
拓也がアホ面でそう答える。
少しだけイラッと来るがとりあえず収めよう。
「それじゃあ俺が包丁で食材をカットと下処理するから桃花が炒めてくれ」
「了解したよ!」
さて、残りの二人にはなにをしてもらうか。
正直桃花と俺だけで事足りるんだよな……
「私は味見役するわ。拓也君は後片付けでいいんじゃない?」
海は拓也の事を君付けするのか。
新しい発見だ。
「よしそれでいくか」
「おいおいちょっと待て!」
何故か拓也がツッコミを入れる。
今のに一体なんの問題があったというのだ?
「一人だけおかしい役がいるぞ!」
「たしかにみんな頑張ってるのに後片付けだけとかおかしいよな」
こいつは自分で墓穴を掘るのが得意なのか?
まぁなんでもいいが……
「そこじゃない! なんで味見役なんているんだよ!」
そこか。
だって海に後片付けとか頼んだら後で何されるか分からないしな。
そして料理も出来ないときた。
そうなると消去法てま海は味見役しかなくなる。
「お兄様。さっさと始めましょう」
「そうだな」
「話を逸らすなぁぁぁ!」
拓也がなんか叫んでるが無視だ。
とりあえず食材とかを取ってこよう。
しかし問題が発生した。
「先生。なんで俺達の班だけひき肉がブロック肉なんですか?」
「それは簡単な事だよ。そうでもしないと空なら五分で完成させてしまうではないか。私は前回の調理実習のハンバーグ作りを十分で終わらせて一時間近く暇してたのを忘れてないぞ」
そういえばそんな事もあったな。
ハンバーグなんてそんな難しいものじゃないしな。
「まぁ分かりました」
とりあえずブロック肉でも問題ない。
ひき肉なんて肉をミンチにするだけだしな。
この工程が一つ増えただけだ。
「桃花」
「どうしたの?」
「悪い。二分かかるわ」
本来なら炒める時間を除けば三十秒で終わったものを……
とりあえず一分あればミンチに出来るだろう。
頭の中で文句を言いながらとりあえず言った通り2分以内に食材の下準備を終えた。
「空君?」
「どうした」
「普通は二分でブロック肉をひき肉に出来ないから!」
「白愛なら十秒かからないぞ」
挽肉にするなんて二分もあれば十分だろ。
さて、あとは桃花が炒めて完成か。
「白愛さんと比較するのやめよ? ちょっとあの人は規格外だと思うから」
周りも何故か頷き始める。
たしかに白愛と比べない方がいいか。
もうあれは人外の領域だ。
「桃花。あとは頼んだぞ」
「任せて」
そして桃花が炒め始める。
この様子だと五分で出来るな。
「空。ちょっといいかな?」
「どうしたんですか?」
何故か先生に呼ばれた。
なんか問題あったのだろうか?
「なんで君は五分以内に終わるかな!君が料理を終える時間を周りと同じにするには豚一頭を生きたまた連れてこないといけないわけなの!」
先生が半ギレ気味でそう言う。
早く終わってしまうものは仕方ないではないか。
たしかに解体の知識はあるがやった事ないから少しばかり不安が残る。
「空君! 出来たよ!」
どうやら桃花が炒め終えたらしい。
いつも通りの天使の声で俺を呼びに来た。
「それじゃあ少し早いけど……」
「ダメ!」
しかし俺が言う前に海に遮られてしまった。
もう麻婆豆腐は完成して終わりのはずだが……
「まだ美味しくない! 作り直しよ!」
そういえば海は味見役だったな。
味見役がそう言うなら仕方ない。
「いいわよ海ちゃん! その調子で時間を稼ぎなさい!作りすぎた分は後で他の先生方に配ったり学食に回すから!」
「分かりました。いつもより辛口評価しますね」
何故か海と先生の間に謎の関係が出来ている。
それはそうと海は何時でも辛口だろ。
あまり手間でもないしなんでもいいが……
「さて、お兄様。頑張ってください」
「あいよ」
そして最終的に海にOKは貰えず学校の食材が切れて終わってしまった。
「とりあえず今回やったのはテストに出るから忘れずに復習しておくこと」
先生がそう言う。
麻婆豆腐の作り方は頭に入ってるしいいだろう。
「それじゃあ解散」
授業が終わりみんな教室に戻っていく。
そういえばもう昼休みか。
それと余談だが今日作った大量の麻婆豆腐は昼休みを凄く反響を呼びすぐに完売したとか……
「……お兄様」
「どうした?」
「食べ過ぎて気持ち悪いです」
そりゃあんなに食べれば無理もないだろ。
しかしそれを俺に愚痴られてもどうする事も出来ない。
「どう責任とってくれるですか?」
「いや、知らねぇよ」
そもそも最初ので妥協しとけばそんな事にはならなかったはずだ。
半分自己責任と言っても過言ではない。
「優しくないお兄様なんて嫌いです!」
「いや、元々お前は俺の事嫌ってるだろ!」
思わずそう突っ込んでしまう。
「それはそれ。これはこれです。とりあえず私は適当に消化も含めてどこかの運動部に試合申し込んできます」
そう言うと海はどこかに行ってしまった。
まぁちょっと運動するぐらいの時間もあるだろう。
今思うと海ってかなり力を誇示するよな。
まぁ悪い事ではないが。
「空君」
「どうした?」
「ちょっともう用事の時間だから早退するね」
「おう。気をつけてな」
それにしても学校よりも優先する用事とはなんだろうか。
帰ったらメールで聞いてみるか。
「すみません!」
そして見知らぬ女生徒が話しかけてきた。
一体なんなのだろうか。
それにしてもこの学校で金髪とは珍しいな。
見かけない生徒だ。
「あなたと一緒にいた女性って誰ですか?」
「佐倉桃花。俺の彼女だ」
「……佐倉。そういう事でしたか」
そしてその生徒は一人で勝手に納得している。
一体桃花がなんなのだろうか。
「それじゃあさようなら!」
女生徒はそう言い残すと走って去ろうとした。
なんかあると厄介だ。
後で調べられるように名前くらい聞いておこう。
「待ってくれ!」
「なんですか」
「君の名前は?」
「アリス・ローズベリー。物語が好きなただの女の子よ」
彼女はそのまま去っていった。
一体彼女は何者だろうか。
何故か彼女のことが異様に気になって仕方なかった。
それからしばらくすると昼休みが終わり授業が始まった。