3話 妹様
彼女は誰だ?
鍵はちゃんと閉めたし家には入れないはずだ。
それにお兄様とはどういう意味だ?
「……何故、海様がここに?」
白愛は知ってるみたいだ。
一体この少女は誰なんだ?
頭の中で凄くこんがらがってくる。
「お兄様とは初めましてですね。私は神崎海です。一応、あなたの妹にあたります」
間違いなく僕の苗字だ。
一体彼女は何者だ?
僕は妹がいるなんて聞いたことがない。
「そして白愛。久しぶりね」
「海様。大体二ヶ月ぶりですかね?」
「大体そのくらいよ」
二ヶ月前と言えば白愛が僕の元へ来た時だ。
つまり彼女と白愛の関係は僕の所に来る前にあったものだ。
「この方は間違いなく貴方様の妹でございます。それは私が保証します」
白愛がそう言うなら間違いないだろう。
でも妹とはどういう事だ。
僕は一人っ子のはずだ。
誰も声を出さず沈黙が訪れる。
一瞬の気の緩みすら許さない空気になる。
先に動いたらやられる。
そんな気すらする。
しかし沈黙はいつか破られるもの。
沈黙を壊したのは海と名乗った少女だった。
「さて、私はそろそろ帰らせていただきますね」
なんと海は荒すだけ荒らして帰ると言い始めたのだ。
ホントに彼女は何をしにやってきた?
謎が謎を呼ぶ。
「……海様はどうしてここに?」
白愛が僕の疑問を代わりに聞くように尋ねた。
しかし海から出た答えは混乱を招くだけであった。
「私のフィアンセの顔を久しぶりに見ようと思ってね。それじゃあまた来るわね」
「待ってください。フィアンセって――」
白愛の声は届く事なく扉の閉まる音がなる。
海は答えることなく行ってしまったのだ。
あまりに咄嗟の出来事に頭の整理が追いつかない。
結局海は何がしたかったのだ?
本当に顔が見たかっただけなのだろうか?
「間違いなく貴方様と海様は初対面です。でも紛れもなく彼女は空様の妹でございます」
「……フィアンセってどういう事だ?」
妹なのはもう受け入れるしかない。
しかし謎は多い。
フィアンセという言葉も謎だし海の事を今まで僕が知らなかったのも謎だ。
「それに関しては私も分かりません。でも、もう私達の関係も終わりかもしれませんね」
「それってどういう事だよ!?」
「もう貴方様のメイドでは無くなるかもしれないという事です」
白愛がメイドではなくなる?
どうしてそうなった。
海は一体何者なんだ。
海と白愛の関係性は?
疑問は上限を知ることなく頭の中に湧いてくる。
そしてそれらは白愛なら答えられるはずだ。
「教えてくれ。白愛は何者なんだ?」
「……私はメイドになる前になんて呼ばれてたご存知ですか?」
「いや、知らない」
「私は“暗殺姫”と呼ばれる殺し屋でした」
……殺し屋?
それは流石に飛躍しすぎではないか。
それに暗殺姫は本格アクションで話題の映画だ。
ネットの片隅では実話という噂があった。
「私は依頼をミスした事は一度しかありませんでした。どこかの国のトップでも人類最強と謳われる強靭な男性でもあっさりと殺せました」
語るのは映画のシナリオと同じ。
つまりあの映画は本当に実話で白愛をモデルにしていたのか?
しかし疑問は残る。
「……それがどうしてメイドなんかに?」
「そう言えば空様は私と出会った時の事を覚えてますか?」
「あぁ。二ヶ月前に白愛が突然やって来て……」
「それより前です」
それより前?
僕と白愛の始めては二ヶ月前のはずだ。
それより前には会っていない。
「覚えてませんよね。もっと言えば中学後半の記憶が所々抜けてるはずです。だって貴方様は部分的な記憶喪失なのですから?」
一体何がどうなってる?
僕が記憶喪失?
そんな事がありえるのか。
それじゃあ白愛は……
「私がメイドになった経緯は貴方様との出会いが大きく関係しています」
「……詳しく聞かせてくれないか?」
「ここまで話してしまっては仕方ありません。それに遅かれ早かれ神崎家に産まれた以上知らねばならぬ事ですから」
神崎家について。
僕が十八歳になったら話すと言ってたやつだろう。
一体何があるのだろう。
「まずは海様について。海様は空様の双子の妹でございます。そして産まれてすぐに貴方様と海様は離されました」
離された?
つまり会うのは本当に始めてだったのか。
「……どうしてだ?」
「それは女性だったからです。神崎家で女性が産まれると不味いので……」
神崎家で女性が生まれるとまずい?
どうしてだ?
何がまずいというのだ?
「とりあえず神崎家について話します」
ようやく知れる。
長年の謎だった神崎家について。
自分の家系について……
「神崎家は人によって差がありますが二十歳前後になると超能力が使えます」
……超能力?
そんな馬鹿な!
僕がそういった家系。
まるで漫画やアニメみたいじゃないか……
「超能力。基本的には能力と省略して呼ばれます。能力というのは人によって違いますがどれも人理を超えた力です」
「例えば?」
「そうですね。見た人を石にしたり火を自在に操ったりするのがあります」
もはや魔法。
もしそんなのに目覚めたら……
「予想通り色々な人が空様を狙うでしょう。だからこそ神崎家の人は多少は戦えないとダメなのです」
それで口うるさく言ってたわけか。
たしかに白愛のお陰で多少は戦えるようになっただろう。
まさかそんな理由があるとは。
そして話を聞くに連れて頭が落ち着いてきた。
「概ね分かった。神崎家で女児が産まれるとまずい理由はなんだ?」
一つ一つ潰していく。
それが理解への近道。
「神崎家の女子は呪われてると代々信じられており女子が産まれれば殺されるのです」
「……ふざけるな!」
なんだよそれ……
そんな事がまかり通るのかよ。
「空様。この世界はありえないに満ちています。能力だってあれば勿論魔法もあります」
「そうかよ」
胸糞悪い。
一体人間をなんだと思ってる。
そんなの女児に生まれた瞬間に詰んでるようなものではないか。
あまりに酷すぎる。
「そしてあなた様のお父様は海様を守るため信用できる人に預けました。そのため海様の事を知ってるのはその信頼出来る人とお父様と私だけです。だから貴方様は海様の事を知らなかったのです」
それで海の存在が表舞台に出なかったのか。
しかし本当にそんな事が可能なのか?
そこまで隠し通すのはほぼ不可能だろう。
きっと何かある。
しかしそれは後回しだ。
「大体分かった。それで他の神崎家は今どこにいるんだ?」
「……お父様と海様と貴方様を除き全てある男により殺されました」
……は?
つまり全て解決した後なのかよ。
神崎家がいないということは女児殺しはない。
考えてみれば超能力を使えるなんて危険すぎる。
普通に考えれば国とかが皆殺しにしてもおかしくはない。
「……どうして殺されたんだ?」
「……それは完全に別件なのでまたの機会に」
「わかった」
犯人がどうしてるか等をもっと知りたいところだがそんな事より先に聞くことがある。
「海と白愛はどんな関係なんだ?」
「それも話すと長くなりますのでまた明日にでも」
「……そうか」
「それでは私は寝ます。おやすみなさい」
「おやすみ」
白愛が先に寝るなんて珍しいな。
おそらくそれほどまでに動揺してるのだろう。
でも僕は少し安心した。
やっと自分について知れた。
超能力とかもうわけが分からないことだらけだ。
でも僕に妹がいる。
それが少しだけ嬉しい。
そしてその妹は僕をフィアンセと言った。
つまり僕と結婚するという事なのだろう。
それは少なからず好意を抱いてるわけだ。
まだ海がどんな人物か知らない。
だったら前向きに考えよう。
それに白愛が説明するのは明日と言った。
だったら早く眠りについて明日に備えよう……