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世界調整  作者: 虹某氏
6章【生命】
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291話 裏から

「つまり裏からって言うのは正体を明かさねぇのが肝心なんだ」


 俺は親父から授業を受けていた。

 その授業は非常にためになるものであった。

 やり方そのものは完全に悪役だ。

 だが身につければ……


「完全に眼中に無いところからの攻撃。それが裏から動くってことだ」

「……正体が割れた場合は?」

「そん時は負けだな。ただどうしても勝たなきゃならねぇ場合は相手の気を反らそらせ」


 分かってはいたが想像以上に難しい。

 具体的なイメージは浮かんでいる。

 しかし俺は良くも悪くも目立ち過ぎた。

 全ての始祖と既に顔合わせを行っている。

 つまり裏から暗躍しなければならないような敵は全て俺の事を把握しているのだ。

 裏から動くには既に時遅し。

 いや、真央がそういう状況を作り上げたのか?


「ただお前自身が裏で動く必要もないんだぜ」

「そうか!」


 俺を囮にして誰かを裏に使う。

 俺は指示を送り潜ませる。

 そうすることが出来る。

 そしてそれが出来る人物がいる。

 始祖からは殆ど目を付けられてないアリシア。

 彼女をこちらの手駒として操る。

 それで……


「ようやく裏で戦うの意味が分かってきたようだな」

「あぁ……」

「そうすれば裏で動く敵の動きも把握しやすくなる。まぁやらないにしろ覚えていて損はねぇ。いや、上を狙うなら必須のスキルとも言える」


 そう言いながら親父は酒をラッパ飲みする。

 何となく分かってきたぞ……

 しかし闇桃花に対応するには……


「それともう一つ大事な事を言わねぇとな」

「なんだ?」

「裏から動きたければ絶対に先手を取れ。後手に回ったら相手に振り回されてばかりになる。空の場合は常に後手に回らされるから裏から動く機会がなかったんじゃないか?」


 先手を取る、相手に気づかれない。

 この二つを常に意識する。

 これが裏から動くことのコツか……


「まぁとりあえず誰かと争う気のねぇお前には向かねぇよ。もしかしたらこいつは敵になるかもしれないから潰しておこうっていうのが裏から動くってことだ」

「たしかに……」


 怪しいだけで俺は動かないだろう。

 それこそ実際に危害を加えられない限りは……

 しかし危害を加えられた時点で後手に回る。


「裏から動くならまず人を疑うことから入れ」


 人を疑うか。

 念頭には置いておこう。

 ただ思ってた以上に裏から動くのも難しいな。


「とりあえず教えられるのはそのくらいだ。あとはポーカーフェイスとか嘘のつき方とかを覚えるくらいだな」

「そんなすぐに身に付くものじゃないと」

「そうだ」


 知識だけ詰め込んでもダメと。

 まぁ考えてみたら臨機応変に対応する能力が必要なわけでそれがやり方覚えましたから私は世界を手玉に取れますなんてできるわけがない。

 だがある程度の基礎知識は必要だ。


「ま、裏から操るなんて才能だ。努力して出来るようになる類のものじゃねぇよ」

「そうか……」

「ただ空ならさっき言った絶対に正体を明かさないのと先手を取るっていうのを念頭に置いて。なんて言ったって俺の息子だ」


 親父が俺の頭をくしゃくしゃと撫でる。

 あんまり子供扱いするな。

 ただ今はこんな優しそうな親父。

 だが忘れてはならない。

 こいつは海に虐待を仕向けた張本人で母さんを強姦した末に俺達を産ませている。

 しかも母さんを選んだ理由が鬼神族で俺達を鬼の神崎家にするためというもの。

 こいつらは俺達を道具としか思ってないクズだ。


「……どうした。空?」

「俺も桃花も親父の力が必要だしこれからも利用していくつもりでいる」

「おうよ」

「だがな、お前がやった事が人間としてクズでそれを俺は許してないってことは忘れるなよ」


 これだけは言っておかねばならない。

 俺だって本来ならぶち殺したい。

 だが桃花は親父を利用する道を選んだ。

 それが今後は必要だって判断したからだろう。


「あのなぁ……海を育てたのは誰だ?」

「海は誰にも育てられてない。自分で成長した」

「たしかに生まれてからずっとヤクザさんに拷問に近い虐待を受けてた、だが暗殺姫に助けられてから少しの期間だが育児ってちゃんと父親らしい人間らしいことをしたんだぜ? そんな人間をクズだなんて言うのはお門違いってやつじゃねぇか」


 こいつは何言っても無駄だな。

 悪いとすら思ってねぇ。

 なんて根っからのクズだろうか。


「少なくとも海はお前のことを相当恨んでたぞ。ふつー良い親父なら恨まれねぇと思うんだけど」

「まったく、こんな手を尽くしてやってんのに感謝もしねぇなんて海はほんとダメな娘だ。まぁそれが可愛いところであるんだけどな」


 ダメだ。この話は永遠に平行線だ。

 振った俺が馬鹿だった。

 だがここで引き下がるのもあれだ。


「それじゃあ前に言った失敗作発言は?」

「言葉の綾ってやつだ」


 はぁ……

 それじゃあ別方向で責めるか。


「西園寺華恋。その名に覚えはあるか?」

「僕の可愛い嫁だね」


 一人称をいい加減に俺か僕のどっちかに統一しろ。

 そして可愛い嫁ね。


「それじゃあ拉致して強姦して俺達を孕ませたのはどう説明する?」

「夫婦喧嘩だ。お前も結婚すれば分かる」

「夫婦喧嘩ね」

「あぁ。華恋は可愛かったし仕方ないね」

「夫婦喧嘩とは言え同意なく子供を作るのには賛同しかねるな」


 俺は手で合図して親父から酒を寄越せと合図する。

 そして親父も察したのか酒を投げてくれる。

 俺はそれをキャッチして一気に飲み干す。


「これ、結構イケるな」

「だろう?」


 酒のセンスはピカイチなんだな。

 出来ればナッツの一つや二つあればいいが……

 まぁ諦めるしかないか。


「しかし空、お前まだ未成年だろ」

「お前のしてることやしたことに比べたら飲酒くらい大した問題じゃねぇよ。それに体に悪影響出たら魔法でどうにかする」


 しかし母さんの一体を夫婦喧嘩で済ませるか。

 もし俺と海と母さんとそこのクズ親父とピクニックにでも行こうものなら大荒れする気がするな。

 いや、間違いなく荒れるだろう。

 なんと言っても二人も人生を狂わされ、心の底から恨んでる人物が二人もいる。

 間違いなく口が滑っても親父と関わってることは言えないな。


「それと親父」

「なんだ?」

「ひとつ聞きたかったんだがアリシアとはどういう関係なんだ?」

「肉体関係と言ったら?」


 そんな時の対応なんて一つに決まってるだろ。

 アリシアはまだ未成年だ。

 そして親父みたいなのが好みとも思えねぇ。


「おまわりさんを呼ぶ」

「こんな南極に警察が来るわけないだろ」

「タロとジロっていう南極で一年生き延びた犬がいるそうだ」

「犬のおまわりさんだって遠回しに言うなんてお前いいセンスしてるよ」

「あんまり犬のおまわりさんを舐めるんじゃねぇよ。お前なんてすぐさま牢獄に叩き込むからな」


 俺は軽い冗談を混ぜながら話す。

 それから親父が手でサインを送ってきたのでそれに応えて酒瓶を軽く投げた。

 そして親父もそれをキャッチして一気にゴクッゴクッと飲み干す。

 酒瓶が殻になると興味を無くしたのか近くに頬り投げる。


「まぁ期待させといて悪いがアリシアと肉体関係はねぇよ。恐らくあれは処女だと思うぜ」

「処女だからなんだよ」

「処女だったら抱くんじゃねぇのか? 顔も中の上くらいあるし抱くなら優良物件、しかもお前ほど強ければ無理矢理でも抱けるだろ」

「まだ犬のおまわりさんのお世話にはなりたくないんでね」

「未成年で飲酒してるくせによく言うぜ」


 それから新たな酒を出して再び飲む。

 一体どのくらい飲めば気が済むのか。

 それを一度問い詰めたいところではある。


「それでアリシアとの関係だが悪いが上司と部下の関係しかねぇよ」

「それにしてはアリシアにここを教えられたんだけどな」

「なるほど。アリシアは何かしらのルートを使ってここを割り出していたと。悪いが本当にアリシアと深い関係はねぇよ。今回のはアリシアが一方的に知ってるだけだ」


 恐らくそれに嘘偽りはないだろうな。

 あとでアリシアに問い詰めた方が早そうだ。

 まぁ素直に答えるかどうかは微妙だが……


「それと空。話は逸れるが犬のおまわりさんの最後は知ってるか?」

「迷子の子猫ちゃんは結局帰れなかったんだよな」

「実はそれには続きがあって迷子の子猫ちゃんと犬のおまわりさんは親を探してる間に人間様に食べられちゃったそうだ」

「……冗談だろ?」

「さぁな。お前もそうならないように気をつけろよ」


 俺はおまわりさんでも無ければ迷子でもねぇよ。

 一体親父はどんな意味を込めてそれを言ったのか。

 恐らくどんなに考えても無駄だろう。


「だがこの世界は“犬のおまわりさん”ではなくて“塔の上のラプンツェル”だけどな」

「それはどういう意味だ?」

「真央の生い立ちなんてラプンツェルそのものじゃねぇか」


 まぁそんなのはどうでもいい。

 ただせめてラプンツェルのようにハッピーエンドになってほしいものだな。


「さて、空に一つ質問だ」

「なんだよ。ていうかこっちがまだまだ質問したいこと山積みなんだが……」

「幽霊って存在、信じるか?」

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