288話 一方その頃
「あああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
私の爪が剥がされていく。
私はそれを必死に堪えて耐えていく。
そしてそれが終わったと思うと次は頭がトマトが潰れるかのように“ぶちゅっ”と音を立てて潰れた。
当たりに血が舞い散り、吐き気の催す空間が生まれていることだろう。
それから私の意識は元に戻る。
「はぁ……はぁ……」
考えろ。桃花。
この試練の攻略方法を……
痛みに耐え続けるのも限界がある。
あとどのくらい持つだろうか。
あれからどれくらいの時間が経ったか。
そう聞かれたら私は三十六時間と四十三分に加えて三十五秒と答えられる。
頭の中で正気を保つために常に時間を数えている。
時計などなくても経過時間くらいは分かる。
「あああぁぁ! ああぁぁぁぁ!」
目玉に串が突き刺さる、
痛い! 痛い! 痛い! 耐えろ! 耐えろ!
それからすぐに身体が潰された。
大きな足のようなものにブツリと。
そうして再び私は痛みを味わう。
なこのような地獄な何度も何度も続く。
ほんとにグングニルは痛みに耐えるのが見たい?
神器が痛みに耐えるだけなんて簡単なわけがない。
だったら何を私は見られている?
考えて……考えて……
「あああぁぁぁぁ! ああぁぁぁぁぁ!」
再び爪がメシメシと剥がれていく。
それから髪が上に引っ張られる。
そうして私の腹に拳が練り込んでいく。
その威力は想像以上に高く思わず吐いてしまう。
「ごほっ……ごほっ……」
しかしそんなことをしてる暇すらなかった。
次は私の皮膚がブルブルと震え始めた。
これは音による振動だ。
それから私の身体は音によって破壊された。
考えろ。私。
ここで気付いたことが一つある。
身体が崩壊すると二秒程度の休憩時間がある。
恐らくそれは身体を再生させているから。
その二秒間の間だけ私は痛みに気を取られることなく思考することが出来る。
つまりその二秒で答えを見つけなければならない。
これは間違いなくレースだ。
痛みに私の心が壊れるのが先か私が答えを見つけ、試練をクリア出来るのが先か。
答えは既にあと一歩のところまで来ている。
問題はその条件をどうやって満たすかだ。
「ああぁぁぁぁぁぁ!」
身体が焼かれる。
その痛みは尋常ではなく気が狂いそうになる。
だが思考をやめるな!
答えはあと一歩まで来ている!
「くっ……そうか!」
分かった。
この答えがようやく導き出された!
私はやっとこの試練を終えたのだ。
問題はそれをどのタイミングで行うか。
「……今しかない!」
ここは精神世界だ。
つまり自分の肉体は思い通りになるはず。
イメージしろ。
自分が立てに八つ裂きにされる姿を……
それが私の導き出した答えだ。
恐らくこの問題は二通りの答えがある。
一つ目は痛みに全て耐え抜く正当法。
これは悪いけど却下だ。
海ちゃんならいけるかもしれないが私は私の精神が持つとはとても思えない。
そして二つ目は誰も傷付けずに生きていく。
それはもう手遅れと言っても過言ではない。
間違いなく論外だ。
でも私は三つ目の答えを導きだした。
これは間違いなく裏技だ。
私は汚い女なので正当法では攻略しない。
「ゲイボルグ! あなたの試練は“過去に自分がありとあらゆる生き物に与えた痛みを受ける”のはず。だけどその対象は私がその痛みを受けるとは一言もいってない!」
頼む!
これで合っててくれ!
一応、理屈は通ってはいるが所詮は屁理屈。
ゲイボルグの気分を損なったらそれで終わりだ。
だから私は祈るしかないのだ。
「今さっき生み出した私の半身が私に代わり痛みを受ける!」
その瞬間、身体に痛みが走ることはなかった。
青空のような透き通った水色の槍が落ちてくる。
私はそれを優しく受け止めた。
「契約よ。ゲイボルグ。私の武器となりなさい」
ゲイボルグが光った。
体によく馴染んでくる。
間違いなく契約には成功した。
これはもう私の武器だ!
私は試練をクリアしたのだ!
「まさかこんな方法でクリアするとはね。さすが僕が見込んだだけのことはある」
目の前に現れるのは嘘の神。
私を使徒として使役してる神様だ。
「文句ある?」
「ないよ。早く行きなよ」
「行くなって言われてもそうさせてもらうわ」
やっと帰れる。
あの地獄から抜け出した……
しかしまさか拷問趣味が裏目に出るとは……
こればかりは完全に予想外だった……
これからは少し改めた方が良さそうね。
◆ ◆
「……終わったのか?」
「えぇ」
響が私に声をかけてくる。
様子や表情から察するにそこまで時間は経ってなさそうな感じである。
「来て。ゲイボルグ」
私は呼ぶとゲイボルグは手元に現れる。
私は軽くそれを振るう、
ゲイボルグはかなり軽くて扱いやすい。
これはかなり良い武器だ。
身体によく馴染む。
だけどまだ武器の性質を完全に掴めたわけではないのも事実だ。
「ちょっと奥の部屋でトレーニングしてるわ。着いたら教えて」
「おう」
私は奥の部屋に移動する。
さて、まだ私はスタートラインに立っただけ。
勝負はここからだ!
絶対にゲイボルグを空君の元に着くまでに手足のように使いこなせるようにしてみせる!




