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世界調整  作者: 虹某氏
6章【生命】
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286話 能力

「ちょっとこれ貸して!」

「はい」


 海がアリシアに冥府の笛を渡した。

 それからアリシアの手が光る。


「私の能力は擬人化。人で無ければ虫でも龍でも無機物だろうと人にすることが出来る。これでフェンリルをルプスちゃんにしてるって言えばどんな感じかイメージは出来るわよね」

「あぁ」

「そして冥府の笛は冥府の祭壇で使わなければ意味が無い道具」


 俺もそれは記憶している。

 それと冥府の祭壇がどこにあるか誰も知らないということも同時に記憶にある。

 だからこそ扱う場所が無くて今の今まで忘れられていたのが冥府の笛だ。


「冥府の祭壇の位置って“冥府の笛”なら知ってると思わない?」

「まさか!?」

「そう、冥府の笛を擬人化するのよ!」


 アリシアの光が笛へと移る。

 その瞬間、黒いゴスロリ服に銀髪ポニテールの幼女が現れてちょこんと座る。


「……ん?」

「か、可愛い! めちゃくちゃ可愛いですよ!」


 それに一際興奮するのは海である。

 これが彼女の能力……

 擬人化は誰にも出来ない。

 これは彼女にしかできない仕事だ……


「……私、眠っていたんだけど何か用?」

「冥府の祭壇の位置を聞きたいんだけど……」

「それならトルコの地下深くにある神々の神殿って場所にあるはずだよ……ただブラック・ラグーンって言う神の使いが守ってる……」

「ブラック・ラグーンですって!?」


 声を海とアリシアが同時に張り上げた。

 耳元でそう叫ぶなよ……

 鼓膜が破れるだろ……


「海ちゃん。知ってるの?」

「はい……戦いましたから。そしてブラック・ラグーンと戦ったのはトルコの地下にある謎のダンジョン。もしかしてあそこが冥府の祭壇?」

「嘘でしょ!? あの一頭で世界を滅ぼすと言われてる大災厄と戦ってどうして生きてるわけ!?」

「まぁ色々と……」


 ふーん。そんな魔物と戦ってたのか。

 しかし海の顔から察するに勝てた……というわけでもなさそうなのが分かるな。


「ただアリシア。あそこに行くなら気を付けてください。あそこは最低でもSランク越えの魔物の巣窟ですも地下深くですから地熱でめちゃくちゃ暑いです。たしか地下5000mですから単純計算で温度は150℃に達します」

「なるほどな。そんなの全て氷で囲えば解決だろ」


 海達がポカーンとする。

 やれやれ……なにを驚くというのだ。

 暑いなら氷で温度を奪えば涼しくなるって言うのは小学生でも知ってる事だぞ。

 たしかに氷は一瞬で溶けるがそれすら上回る冷気で辺りを冷やしていけば全て解決だろ。

 俺は日頃から気体を凍らせて色々な武器を作っているが気体を凍らせるとなると-220℃くらい冷やさないとダメになるんだぜ?

 そんなことすら知らないとかお笑いだな。


「たしかに……お兄様がいれば……」


 まぁ実際は-220℃くらいまで出してはおらずいろいろと別の化学が関わってくるがそんな専門的な話はお求めではないだろう。

 桃花でも同じことが出来るとは思うがやってればいつか宝石が尽きるのが関の山だろう。

 だが俺は宝石を使うことなく魔法を使える。

 つまり今は俺がいればどんなに暑い場所でも一瞬で快適に過ごせるということだけ理解しておけばいい。


「問題はブラック・ラグーンですが……」

「ぶっちゃけ魔物如きが闇桃花より強いとは思えねぇ。闇桃花に勝てるようにさえなってれば簡単に蹴散らせるんじゃねぇかる」

「そうですね……」


 ていうか俺達が勝てないとしてもSSSランクのフェンリル様がいれば勝てるだろ。

 だって相手はSSランクでフェンリルはSSSランク。

 Sが一つフェンリルの方が多いんだぜ?

 負けるわけがないだろ。


「とりあえずここを抜けたら次はトルコのその神々の神殿って場所でアリスを蘇らせるってことだな」

「はい」


 当面の方針は決定したな。

 だが今はまずこの極地を抜け出さないとな。

 どうにかして闇桃花に勝たないとならない。

 それは思った以上、大きな課題だ。


「そういえばアリシアは何の使徒なんですか?」

「言ってなかったかしら。私は【生命】の使徒よ」


 へぇ……

 “生命”ってことは白愛の“死”とは対照だな。

【知】の使徒である俺に加えて【嘘】の使徒の“桃花”、【愛】の使徒“闇桃花”、【王】の使徒“真央”、【死】の使徒“白愛”、【調停】の使徒“ルーク”、【生命】の使徒“アリシア”、【物語】の使徒アリス。そして【妹】の使徒である夜桜。

 他にも何人かいるがその【〇〇】は何か。

 ちょっとだけ推理する材料が増えてきたな。

 ちょっと面白いことを聞けたぜ。

 もしかしたらこれらに全て意味があるのかもな。


「アリシアはこの“生命”は何を意味すると思う?」

「意味なんてないんじゃないかな。たとえば桃花なんて【嘘】の使徒なのに能力は音って噛み合ってなかったりするし、空の【知】だって私からしたら真央の方が相応しいように思う」


 アリシアの言う通りだ。

 たしかにこれらには一見すると意味は無い。

 だが、本当にそうか?


「それがアリシアの答えか」

「えぇ」


 さて、ここで一つ思い出さなければならない。

 それは能力の獲得方法だ。

 一つ目は神崎家が二十才近くになると目覚める血筋によるもの、二つ目は使徒に選ばれるという王道的なもの、そして三つ目は異世界に行くという謎の方法。

 恐らくそこに鍵があるのだろう。

 そしてここで大きく鍵になるのは百年に一度だけ開かれるという神のお茶会だ。

 さて、そろそろ考察も終わりにしよう。

 これ以上、真央に手の内を晒すのは愚策だ。


「さて、少し覚悟を決めますか」

「空!?」


 俺は脳に手をぶち込み弄り回す。

 それから脳内に仕込まれていたマイクロチップを強引に取り、破壊する。


「……癒せ」


 そしてすぐに傷口を塞いでいく。

 俺達はあのヒュドラの時から真央の手の平だった。

 恐らくヒュドラは真央が仕掛けたものだろう。

 根拠は特になかったがあの時から怪しいとは心の奥底では思っていたのだ。


「なにこれ……」

「マイクロチップ。これで記憶は全て真央に常に閲覧されていた。もし何か考え事してそれが記憶に残ったら真央に全てバレる仕組みだ」


 恐らくこれが仕組まれたのヒュドラの時。

 あの時だけ俺達は気絶して無防備になっていた。

 だからあの時以外は考えられない。

 だが今はそんな事どうでもいい。

 エニグマ総本部の場所は神器バベルの塔である。

 それは真央の場所で調査済みだ。

 この中では一切の能力を使う事は出来ない。

 しかし俺達はここで能力を使って修行していた。

 それどころかアリシアも擬人化能力を使っていた。

 さて、ひとつ疑問が生まれるわけだ。

 何故、能力が使えない場所で能力が使えた。

 答えはたった一つだ。


「それとここはエニグマ総本部、すなわちバベルの塔じゃないだろ?」

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