表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界調整  作者: 虹某氏
6章【生命】
291/305

283話 放て! ジャッジパンチ

「問題は当てる隙があるか……」

「ないなら作るしかないじゃないですか」


 闇桃花がそんな暇をくれるとは思えないな。

 だがやるしかないのも事実だ。


「ねぇ? 作戦会議は終わったかな?」


 下から氷の山が串刺しにせんとばかりに襲う。

 俺達はそれをスレスレで回避する。

 だが先端から枝分かれするかのように氷の針が更に生えてきて俺達に襲いかかる。


「どんな作戦でも正面からたたきつぶしてあげるね」

「なぁ海。逃げね?」

「……逃がしてくれると思いますか?」


 やっぱりそうだよな。

 やるしかないよな。

 最初からそうなるのは分かってたはずだ。

 こいつはここで殺らなきゃどこまでも追ってくる。

 だからこそここで……


「串刺しにしてあげる」


 下から氷の山が幾つも生える。

 先端は恐ろしいまでに尖っていてまるで剣先だ。

 そんな氷の山が否応なしに襲いかかる。

 海はそれを飛んで回避するも先程と同じように各地から氷の針が生えて襲いかかる。


「へぇ。今のを回避するんだ」


 まるで氷の樹木だ。

 ここは氷の森。

 しかし氷の木は全て俺達を殺そうとしてくる。

 完全に闇桃花の手の上で転がされている……


「それじゃあこれはどうかな?」


 闇桃花が指を鳴らした。

 それにより氷の森が崩壊する。

 その氷の破片がこちらに飛び交い襲いかかる。

 なんて器用な使い方……


「海!」

「分かってますよ!」


 海が蝶化のバリアで全て防ぐ。

 それにより俺達はかすり傷一つ負わない。


「それってコンマ数秒、意識が私から離れるよね?」

「な!?」

「戦闘中にコンマ数秒も私から意識を離す余裕があると本気で思ってるのかな?」


 闇桃花が氷に紛れてやってくる。

 そして海に重い膝蹴りを一撃喰らわす。

 無論、バリアを張ってはいるが無意味。

 バリアなんて呆気なく壊される。


「キンキンキンキンずっと剣の撃ち合いでもして遊んでれば?」


 それから俺の身柄が闇桃花に抱き抱えられる。

 次は足裏で海を蹴り飛ばし地面に叩きつける。

 海の身体は氷の大地に強く練り込まれた。


「……凍死させてあげる」


 闇桃花は俺を持ったまま海に近づき、顔を握る。

 それから見せびらかすように持ち上げると指を鳴らして海の服を破っていく。

 恐らく風の魔法を使ったのだろう。

 それから海の白い肌は何かに隠れることなく露出。

 海は糸一つ纏わぬ姿となった。


「なにを……」


 闇桃花は海の問いかけに微笑みで返して地面から氷の杭を二つ作り出す。

 それからその杭の先端の方から腕のように二つ新たに生えてくる。

 その見た目は嫌でもわかる。

 間違いなく十字架だ。

 闇桃花はその十字架に海を押し付けて、手と足に氷の剣を突き刺していく。


「ああああああぁぁぁぁぁァァァァァァァ!」

「みっともなく凍死しなよ」


 事実上の完全敗北。

 そんな言葉が頭に過ぎった。  


「ねぇ空君。これからどうしよっか?」


 はっきりと分かった。

 今の俺達じゃどう足掻いても闇桃花には勝てない。

 勝ち目なんて一切ない。

 それほどまでに彼女は強かった。

 だが、だからこそ言ってやる。


「お前、本気で俺達に勝ったと思ってるのか?」

「もちろんだよ」

「なら敢えて教えてやるよ。お前は敗北者だ。そして俺は敗北者と付き合う気はサラサラねぇ」


 俺は闇桃花の手を払った。

 まだ俺は負けていない。

 負けとは戦いを放棄した時に発生するもの。

 勝ち目が無くなったとしてもそれは負けではない。

 勝ちを諦めない限り負けは存在しない!


「そっか〜。なら空君にも分からせてあげるよ」

「どうする気だ?」

「流石に一億回負かせば空君も私に勝てないって分かるでしょ?」


 その言葉に背筋がゾッとした。

 この女は理解している。

 相手に戦う意思がある限り自分の価値は永遠に訪れることなどないということを本能的に理解している。

 そして戦う意志はいつか折れることを。


「殺したら何も考えられなくなるから勝ち負けとか考えなくていいから楽なんだけど流石に私も空君を殺しちゃったら存在意義が無くなっちゃうからね」

「その発言、後悔することになるぞ」

「へぇ〜」


 闇桃花の腹を蹴り地面に降り立つ。

 腹を蹴っても表情一つ変えない。

 そこから闇桃花の強さが嫌でも分かる。


「癒……」

「凍って」


 俺が海の傷を治そうと近寄った。

 だが海が氷漬けにされてしまう。


「それって相手に声が届くっていうか、鼓膜を振動させなきゃ意味はないんじゃないの?」

「試したことないから知らん」

「ふーん」


 俺はそれから癒せともう一度発音する。

 しかし海の傷は塞がる気配を見せない。

 どうやら闇桃花の言うことは本当らしいな。


全てを払う地獄の火焰(ヘルフレイム)!!」


 なら氷を溶かすまでだ!

 それが最善手……


「凍って」


 だがそれは無意味に終わる。

 闇桃花は炎を凍らせて熱を奪ったのだ。

 あまりに合理的で力押しすぎる一手。

 その力押しを可能にする本人のスペックの高さ。

 改めて認識させられる。

 彼女の強さはもはや“ずる(チート)”の領域だと。


「さて、そろそろ本気を出そうかな」

「まだなにか隠してるのか!?」

「全て手の内を晒すアホが何処にいるのかな? 事実として空君も脳強化(ブレインブースト)にグレイプニルと言った手の内を隠してるじゃん」


 くそっ……

 完全にお見通しか……

 だったら開き直ってみせてやるよ!


「グレイプニル!!」


 黄金の鎖を腕に巻き付ける。

 グレイプニルを使えば他の一切の能力を使えない。

 それは大きすぎるデメリットだ。

 だがそれによって得られるメリットも大きい。

 触れた者を無造作に能力を使えなくする鎖。

 それが俺の神器グレイプニルだ。


「久しぶりに見た! その空君が見たかったの!」

「そうかよッ!」

「私も一つだけ見せてあげるよ。これが私の必殺技、第六術式闇夜の鎧(ノワール・アーマー)


 闇桃花の身体に影が纒わり付く。

 これは一体……


暗黒の杭嵐ダークネスプファールハリケーン


 それから闇は集まり杭を作る。

 それも一つや二つではない。

 百や二百の領域だ……


「死なないでね?」

「誰に向かって言っている?」

「フィナーーーーレ!!」


 その闇の杭が俺に降り注いだ。

 一つ一つが重く当たったら骨など軽く砕ける。

 質量から嫌でもそれがわかってしまう。


「マジかよ……」


 それが弾丸並みの速さで落ちてくる。

 俺は飛んだり跳ねたり回避するが常にギリギリの動きになってしまう。


「……加速(ブースト)

「どうして俺の技を!?」

「空君は受けた攻撃を全て再現する。私はどんな魔法でも使うことが出来る。そんな似た能力なのに空君にだけ出来て私ができないわけがないでしょ?」


 杭が加速して俺の脇腹を貫いた。

 まさかそのことに気付かれるとは……

 加速(アクセル)は俺専用じゃない。

 風の魔法を使えれば誰でも使える。

 闇桃花はいつからそれに気付いていたのだろうか。

 恐らくそれは最初からだ。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!! うわぁぁ!」


 それから目の前に海や白愛の死体が現れる。

 白愛は焼死体。

 身体中が焼かれ見るも無残な姿。

 海は四肢がもがれた痛々しい姿。

 それからその死体が動き出した。


「お……まえ……のせいだ!」

「ああぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 これを俺は見たことがある!

 あの周回での出来事だ!

 俺が弱いせいで死なせた!

 俺のせいだ!


「闇は掠っただけでも人のトラウマを呼びよこす。空君なら耐えられると信じてるよ」

「あぁぁぁぁぁぁ! ぁぁぁぁぁぁぁ!」


 見たくない! 見たくない!

 そんなの見たくない!

 俺はそのために強くなった!

 それなのにそんなの! そんなの!


「随分と楽しいゲームのご提供ありがとうございました。これからは――との戦闘をお楽しみください」


 真央の声が聞こえた。

 いつか真央に言われた言葉だ。

 俺はその声に心臓が掴まれたような感覚に陥る。

 これは嫌だ! これだけは嫌だ!


「なにが見えてるか私には分からないけど相当堪えてるね」


 ……怖かったのか?

 俺は真央が怖かったのか?

 自分でも気付いてないだけで真央が怖かった。

 だからこそ真央を受け入れた?

 無意識のうちに真央には勝てないと思い込んだ。

 だから俺は真央の下についた?

 嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。


「……戦意喪失かな?」


 俺はガックリと膝をついた。

 もう俺に立ち上がる気力はなかった。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ