282話 一難去ってまた一難
「ルプス。エニグマ総本部の場所って分かるか?」
「ガルッ!」
それから乗れって合図するかのように首を振る。
ならお言葉に甘えて乗らせてもらうとしよう。
俺は気絶してる白愛を抱き抱えて乗る。
「海。手はいるか?」
「結構です」
「そうか」
腹が裂かれた後だと言うのに強いものだ。
少し強すぎて怖くなるな。
「……海さん」
「なんですか? いつも通り呼び捨てでいいんですよ」
「いいえ……なんでもありません」
そして和都はどこか変だった。
まるで海との距離感を掴めていないというか……
まぁあんなのを見てしまえば無理もないか。
彼にとって大量の血なんて見るのは初めて。
ましては彼女さんが血を吹き出すなんて……
それなのに海は何事もピンピンしている。
そんなの距離感がわからなくなるに決まってるか。
まぁ本人達の問題であり俺が口出しすることではないから俺は何も言わないが。
「それよりも海はルプスの上で零すなよ」
「分かってますよ」
ルプスに乗りながらホルモン鍋を食べる海。
まぁ食べようとしたらすぐに襲われたのだから仕方ないといえば仕方ないだろう。
「しかしあれ、相当強いですよ」
「だな」
軽く戦った獣人族の始祖レイ。
あれは始祖の中でも最強クラスだな。
まぁ敵に回したら一番厄介なのはスーなのだが戦闘能力だけで言うならレイも相当だ。
天邪鬼とどっちが強いかと言われたら難しいところだが遠距離攻撃も兼ね備えているレイに軍杯が上がるだろうか。
ただ天邪鬼の能力無効も相当に厄介。
それにダメージを負えば負うだけ身体能力が上がるとも言っていた。
やはりそういう面を考えると天邪鬼の方が強いか?
「……お兄様。前見てください」
「塔だな……」
「ガルッ!」
「ルプス曰くあれがエニグマ総本部みたいです」
あんなそびえ立つ塔だったのか……
少しだけ予想外である。
まぁだがそんなことはどうでもいい。
今は無事にエニグマ総本部にさえ行ければいい。
そう思った矢先だった。
「空君! 空君! 空君! 空君! 空君!」
巨大な火球が飛んできた。
その火球をルプスは高い身体能力で飛んで回避。
「先に行け!」
こいつはヤバい。
ここで襲ってくるとは……
完全に予想外だ。
「……闇桃花」
「あぁ空君! 私の空君! やっと会えたね。もう絶対に離れないから安心してね。もう空君は私だけのもの」
こいつの狙いは俺。
こいつの戦い方は全体を巻き込む範囲攻撃。
もし戦おうものなら周りを巻き込んでしまう。
それに何より闇桃花の底が知れない。
下手したらルプスにすら匹敵するかもしれない。
だからここは俺一人が残るべきだ。
それに闇桃花は俺を殺さないように手を抜くはず。
つまりここは俺が適任……
「……プロミネス」
……嘘だろ!?
なんだあの熱量の火球。
目の前に現れる太陽。
前に見たときの比ではない。
「今の空君ならこのくらい大丈夫でしょ? だって私の選んだ人だもんね?」
「くそっ……」
その時だった。
俺の体がフワリと宙に飛んだ。
否、誰かに抱き抱え上げられたかのような……
「まったく! 一人で戦うなんて無茶ですよ!」
「海!?」
「ええ、お兄様の最愛の妹“海ちゃん”ですよ」
なにはともあれ助かった。
海がいなければ回避はできなかった。
「もう邪魔!」
闇桃花が吠える。
だが今はそんなことを気にしてる場合じゃない。
まずは闇桃花の攻略を……
「冗談はさておき闇桃花は最強の敵ですよ。それこそレイなんかと比較にならないくらいに」
「マジ?」
「マジです」
ここは冗談ですって言って欲しかった……
しかし闇桃花の実力は本物……
「来て、悪魔さん」
桃花の後ろから目玉が現れる。
目玉には全て羽根が生えていて血走っている。
見ているだけで吐き気を覚える容姿。
「お兄様!!」
「全てを払う地獄の火焰!!」
だがこんなの今の俺の敵じゃない!
俺は全て焼き払っていく。
そこまで耐久は無さそうだな。
「私には範囲攻撃はありません。悪魔が来たらお兄様に対処を任せます」
「任された!」
悪魔の対処は俺がする。
だから海が闇桃花の対処を……
「闇桃花。あの時の私とは一味違いますよ」
「どう違うのかな? まさかあの時に本気を出したまでも思ってるのかな?」
闇桃花の表情が曇る。
まるで舐められるのを不快に感じた。
そんなことを表情から察しられる。
「天翼解放」
それから闇桃花から黒い翼が生えた。
どこまでも飲み込みそうな暗黒の黒い翼。
「さぁ始めましょ。処刑という人生最大の花舞台をね」
それから闇桃花が消えた。
突風が肌を襲い、それに釣られ振り向くと闇桃花が真後ろにいた。
それから闇桃花の膝蹴りが海の腹に入る。
「くっ……」
「遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い」
その顔にはどこか苛立ちを感じさせる。
それから拳の連打が海に襲いかかる。
しかし海もすぐさまバリアを展開させて防ぐ。
これはどうみても海が不利。
完全に闇桃花に遊ばれている。
「本気で私に敵うとでも思ってたのかな?」
なんて化け物……
どこをとっても最大級の敵だ。
こんなの正面から戦って勝てるわけがない。
それほどまでに彼女は化け物過ぎる。
「ねぇ教えてよ。ねぇ」
茶髪のツインテを風に靡かせながら強気の目でこちらを睨みつけてくる。
その姿はまるでラスボスのようだった。
あんなのどうやって勝てば……
いや、どうやって逃げれば……
「もう絶対に逃がさないよ」
「……お兄様。ジャッジ・パンチ撃てますか?」
「あぁ」
「あれを当てて一発KOを狙いに行きますよ」
「任せろ」




