281話 銀の狼と金の狼
現れたのはレイと名乗った銀髪の男。
それに犬耳まである。
恐らく彼は言う通り獣人族の始祖だろう……
見た目はまるで狼だな。
銀の狼だ……
「どれ、ちょっと様子見」
そんな彼から軽く右腕が振るわれる。
ドキピシャバシャンと氷の割れる音がした。
恐る恐る見るとそこには大きな地割れが……
攻撃力だけで言うなら天邪鬼さんクラス……
いや、それよりも上か。
下手したら始祖最強すらもありえるな。
「この程度で動揺すんなよなー」
近づいてきた。
速い! まったく目に追えない!
「お兄様!」
それから俺の身体が吹き飛ばされた。
……ったく。痛てぇな。
なんて馬鹿力だよ。
これはちょくら本気でやるか。
「鬼化」
「お、やる気になったか」
「その前に一つ聞かせろ。ここに親父はいるのか?」
「いるよ。とは言ってもオリジナルじゃねぇ偽物。まぁもう付き従う理由もねぇし俺の単独行動だと思ってもらって構わねぇよ」
「そうか」
一気にケリを付けてやるよ。
……加速!
「へぇ」
「お前、天邪鬼さんより遅いな」
そのまま頬を蹴り飛ばす。
それから連続的に殴り込みをかけていく。
レイは避けるすべがないのか全てダメージを真っ正面から受けている。
「やれやれ」
「……悪くないね」
これは強敵だな。
あの威力の高い攻撃にそのタフさ。
ちょっと長期戦になるかもな。
「海、白愛。力を貸せ」
「わかりました」
こっちは数的有利を取っている。
それをなんとか活かしたいところだな。
ただあいつの能力が不明なのが怖いところか。
まぁそれでも倒すことには変わりない!
「……さてと俺の能力を教えてやるよ」
「自ら情報というアドバンテージを捨てるだと!?」
「サービスは大事だからな」
それから彼は告げた。
彼の恐ろしい能力を……
「俺の能力は剣。自由自在に剣を出す事が出来る」
それから彼の背後から剣が出てくる
それは俺の方を向いていた。
「またその数に一切の上限無しだ」
剣がミサイルのように飛んでくる。
俺はそれを体を捻りながら回避。
だが速い! 回避が精一杯だ!
それなのにやつは疲れ一つ見せない……
「そんな俺は【終】の使徒よ」
そんなのどうでもいい!
今はこの剣雨の攻略を考えねば……
「お前らってクソゲーをやったことあるか?」
「なにを!」
「クソゲーを楽しめるようにならないと人生は楽しめないぜ?」
剣雨は勢いを増していく。
こいつ一体何を言いたいんだ……
「海!」
「ダメです。私も剣雨が抜けられません!」
「白愛!」
「海様に同じです」
幸いなのは和都さんに見向きもしないってことか。
戦う気がないやつとは戦わない主義なのか?
それとも和都さんは弱いから興味すらないのか?
まぁなんであれ好都合だ。
「くそっ……」
「人間族の始祖ってそんなものなのかい?」
舐めるなよ!
そう叫びたいがこの剣雨が突破出来ない……
氷の盾を作ろうにも作る隙すら与えてくれない。
「海! 蝶化しろ!」
「はい!」
「加速!」
俺は海の元へ駆け寄り、蝶化する時間を稼ぐ。
一気にここでケリをつけにいくぞ!
「待たせましたね!」
海から展開されるは赤い蝶の羽。
これは鬼化もしているのか……
「一気にやりますよ!」
俺の体が海に攫われる。
海にお姫様抱っこされて空中を飛ぶ。
剣雨は全て海のバリアによって弾かれる。
「ここから投げて大丈夫ですか?」
「問題ねぇ」
それから海に落とされる。
座標はレイの真上。
なんて理想的な場所だ。
「ダン・アイス・アブソリュート・ソード・アポカリプス!!」
剣雨にはこちらも氷の剣を作り切り開いていく。
切れ味はこっちの方が上だ!
「剣勝負ね。そういうの好きだよ」
「もらった!」
レイはどこからともなく日本刀を出してくる。
俺はそのまま落下に身を任せてレイに切りかかる。
しかしレイはそれを日本刀で抑えた。
「な!?」
「この剣でも切れない剣は初めてだよ」
「お兄様! 退いてください!」
「おう」
レイの力を利用して俺は後ろに距離を取る。
その瞬間、海が現れて靴底でレイの日本刀を蹴る。
「くっ……」
「白愛!」
そして剣雨が止んだ瞬間を突いて白愛が飛び出す。
白愛のナイフがレイの首元に襲いかかる。
しかしレイは大剣を出してその腹で受け止めた。
「危ない危ない。今度はこちらから」
それから大剣でそのまま白愛を切り裂く。
白愛は回避が間に合わず血が当たりに舞い散る。
レイもそれで足を止めることなく次は海へと……
「海!」
「私にはバリアが……」
「そんなの切り裂くよ?」
「あああぁぁぁぁぁ!」
「海さん!!」
和都の方から叫び声が聞こえる。
動揺のあまり“さん”付けになっているな。
それから海の腹から鮮血が舞い美しい赤の花を空中に作り出していく。
バリアを破壊してそのまま大剣で切り裂くか。
こいつ強いぞ……
「加速!」
俺はその間に白愛に近寄る。
幸いにも今は海に気を取られている。
その隙を活かしたいところだ……
「癒せ!」
それからすぐさま白愛の傷を塞いでいく。
……ん、なんだこの心臓部にある黄色の宝石は?
いや、まぁなんでもいいか。
とりあえず白愛はなんとか生きている。
しかし意識を失って戦闘復帰は不可……
「回復持ちか。でも海さんだっけ? 彼女も早く回復させてあげないと死んじゃうよ」
なめるな。
海がこの程度で死ぬわけないだろ。
「……誰が死ぬですって?」
「なんでこの傷で動ける!?」
「幼少期は腹が裂けるとか日常でしたからね」
海が鮮やかにレイを蹴り飛ばす。
レイもその不意をついた一撃には対応出来ず蹴りがクリーンヒットしてしまう。
「……お兄様……早く傷を……」
「あぁ」
俺は海に駆け寄り傷を癒していく。
しかしなんて高い運動神経だ。
こっちは向こうに殆ど決定打を与えられていない。
これは撤退した方が良さそうだな。
飛べば恐らく追ってはこれない。
そして剣雨で海のバリアの破壊は無理だろう。
「……海。逃げるぞ」
「その必要はありませんよ」
「なにを……」
その瞬間、肌がピリピリとした。
今まで感じたことない覇気を体で感じた。
俺は思わず顔をあげる。
するとそこには……
「グルルゥゥゥゥ」
金色の大きな狼がいた。
その姿に俺は酷く見覚えがあった。
彼女は神獣フェンリル……
俺が前にグレイプニルの試練の時に戦った狼。
そして俺と桃花の娘だ。
「こりゃまいったね」
「ガルッ!」
「くっ……」
フェンリルが軽く右手を振るう。
それによりレイの腹が大きく割かれた。
バックステップをしたが間に合わなかったようだ。
「……今日は……引いてやる」
レイは大剣を出してそれに乗る。
そして大剣を飛ばして撤退していった。
「……助かったよ。ルプス」
「……パ……パ……」
しかし出たのは可愛らしい声ではなく獣の唸り声で無理矢理発音したような低音ボイス。
そうか、この姿だと上手く喋れないのか。
ちょっと不便だな。
まぁなにはともあれ俺達は無事にルプスとの再会ができたわけである。
今はそれを喜ぼう。
P.S.
これから少しワケあってオーストラリアの方へ行かせてもらいますので帰ってくるまでの間は18時の予約投稿にさせていただきます




