278話 新たなる課題
「なるほどね」
私はノアの方舟を色々と弄っていた。
大体掴めてきた。
基本的に目的地を入れたら自動操縦。
つまり私が離れていても動くと。
「……じゃあ南極に着くまでやりますか」
恐らく今の私なら出来る。
私は戦乙女だ。
私にはあれが出来ると本能が告げている。
「桃花。何をやるつもりだ?」
「神器との契約だよ」
使ってて分かった。
ミョルニルは私のスタイルに合ってない。
だからこそ自分に合った神器が必要だ。
今の私に足りないのは攻撃力
その攻撃力を補える神器が必要だ。
「正気か?」
「もちろん」
私は横になり、睡魔に体を任せる。
そのためにはまず嘘の神の元へと行かないとね。
さてと無事に帰ってこれるかな。
だけどこの程度も耐えられないなら私は空君のお嫁さんには相応しくない。
「響。あとは任せたよ」
「おう」
そうして私は体を流れに任せた。
もう既にどの神器と契約するかは決めている。
あの最強の槍をこの手に……
◆ ◆
「桃花」
「嘘の神。神器の契約をするわ」
「君ならそういうと思ってたよ。おいで」
嘘の神の案内に身を委ねる。
連れていかれた先には様々な武器が落ちていた。
盾に銃に鎌に剣に……
「自分に見合った武器を選ぶこと……」
「ごめんね。もう決まってるの」
どんな状況だろうとひっくり返せる一手。
最大の破壊力でどんなものでも粉砕できるもの。
それが今の私には必要だ。
「その武器はなんだい?」
アイルランドの説話に登場した槍。
投げれば30の鏃となって降り注ぎ、それで突こうものなら30の棘となり相手を破壊するだろう。
私が考えうる中でもっとも使いやすくてもっとも強力な武器である。
私は子供の時から銃や剣、それに弓にヌンチャクなど様々な武器を使っていた。
その時に一番使いやすかったのは槍である。
その槍の中でも最強と名高い武器……
「ゲイボルグよ」
最強の槍ゲイボルグ。
投げれば必中、刺せば必ず死ぬ。
付けられた傷は一生治ることはない。
そんな最強の槍だ。
私はそれと契約してみせる。
「……それを選ぶとはね」
「何か問題が?」
「ゲイボルグは神器の中でもトップクラスの強さを誇るだろうね。だけどその分、試練は大変であるよ。いくら桃花と言えど突破出来る可能性は一割にも満たないだろうね。いや、君だからこそ難しい」
「それでも突破してみせるわ」
「ならやるといいよ」
私の前に槍が落ちてきた。
目の前に存在するだけで強い覇気を放つ。
これは桁違いだね……
「そういえばゲイボルグ。赤色じゃないね」
私の前に落ちてきたのは水色の槍。
ちょっとだけ予想外だった。
「赤色?」
「いや、日本だとゲイボルグが出てくる有名作品があってね。その作中だとゲイボルグは赤色だったからてっきり赤色なのかなって勝手に思ってただけだよ」
「なるほど。悪いが実物は水色だ」
まぁなんでもいいけど。
そもそも創作物なんて想像でそれと同じカラーリングであることの方が稀だろう。
「桃花。ほんとにゲイボルグと契約するのか?」
「もちろんよ!」
私はゲイボルグを力強く握った。
体に強い力が流れ込んでくる……
これがゲイボルグ……
なんて力……
「それじゃあ試練。頑張ってね」
私の意識は落ちた。
あれから何十時間経っただろうか……
私はふと目を覚ます。
すると目の前は……
「え?」
私は何かに踏みつけられた。
体がメシメシと悲鳴をあげる。
痛い! 痛い! 痛い!
「な、なによ……」
体に力が入らない……
これが試練……
一体内容は……
「……え?」
しかし痛みは突然止まった。
私はキョロキョロと周りを見渡す。
一体何が……
だがそんなのも一瞬。
「……え?」
バチンと大きな音が響き渡った。
私は何かに潰される。
体が破裂する。
痛みを感じる暇すらない。
だが後々から体に痛みが駆け巡った。
痛みのあまり目がギョロりとなる。
しかし叫ぼうと思ったら真っ黒な空間。
「桃花。一つヒントだ」
「な、なに?」
「ゲイボルグの試練は過去に自分がありとあらゆる生き物に与えた痛みを受けるというもの。一度目は君が気付かずに踏んだ蟻の痛み、二度目は君に潰された蚊の痛みだ」
う、うそでしょ……
無意識のうちに殺した虫……
そんなの何体に及ぶか……
考えただけでゾッとする。
しかもその痛みに全て耐えるなんて……
「しかも桃花の場合はそれだけじゃない。君は人に対して様々な拷問を行った。それもそのうち体験することになるだろうね」
「クリア条件は!?」
「心が折れることなく全ての痛みの返済を行うことだね」
果たして私は耐えられるだろうか?
それは不明だ。
だけどやるしかないだろう。
私はそう決意した瞬間、体中が焼かれた。
私は痛みのあまり声を上げた。
だがそんなのは誰にも届くことはなかった……
◆ ◆
「はぁ……はぁ……」
うーん。退屈。
私は早く空くんに会いたいの。
私の空くん!
私だけの空くん!
早く彼の元に行きたいわ!
そして今度こそ愛の巣窟を作ってみせる。
「……も……もか……」
私の名前を気安く呼ばないでほしいな。
ダークナイト君。
君は私より弱いの。
分かってるのかな? ほんとに分かってるのかな?
ほんとに生意気だよね。偉そうだよね。
私よりも格下の癖に。
「……燃え尽きなよ」
「あああぁぁぁぁぁ」
幸いにも今は真央はいない。
それどころか私を縛れるスーもいない。
こんな願ってもない最高の状況。
そうなったらもう行くしかない!
空君の元へ!
そう、南極に!
そしたら空君のグレイプニルで私と真央の共有を打ち切って真央もスーも海もみーんな皆殺し!
改めて空君と私だけの世界を作るんだ!
そう、一周目の世界の時みたいに!
あぁ空君! 私の空君!
今度は絶対に逃がさない。
私、そのために前よりもっともっと強くなったよ?
もう誰にもこの恋路は邪魔させない。
私は空君が大好き。世界で……いや、宇宙で一番大好き! 私は空君を抱いて! 抱かれて! 愛して! 愛される! そのためだけに生きてるのよ! 他には何もいらない! もう空君だけの物! 空君以外のことなんて考えたくない。空君だけしか考えられない。私は空君の愛の奴隷。いいえ、空君が私の愛の奴隷。私と空君は見えない赤い糸に繋がれてるの。みんなどうしてそれが分からないのかな? ほんとに狂ってるよね。どうして大人しく祝福出来ないのかな? みんなおかしいよね? 頭悪いよね? だって空君は私が愛するためだけに産まれてきたんだよ? なんでそれがわからないかな? ほんとにふざけてるよね。それなのにどうして生きてるのかな? 生きる価値すらないよね? ほんとにみんな狂ってると思う。生きるなら私と空君に一生ひれ伏すべきだよね? そうだよね? なんでそれをしないのかな? やっぱりキチガイしかこの世界には生きてないよね? なら死ぬしかないじゃん。なのに死のうとしないじゃん。みんな怠惰だから自殺しないじゃん。だから私がこの手で殺すしかないじゃん。もう私の手を煩わせないでほしいよ。私の手は空君のためだけのものでキチガイのために使うものじゃない。それなのに使わせようとする。まぁその当然のことすらわからないからキチガイなんだけどね。ほんとにほんとにほんとにほんとにこの世界はキチガイしかいないと私は思うよ。だから滅ぼすの。空君の目にそんなキチガイを入れさせるわけにはいかないからね。なのに大人しく首を差し出しもしない。ほんとに死ぬ時くらい迷惑をかけるなって話だよ。私は空君が大好き。まずそれすら理解できないおバカさん揃いなのかもしれないけどそんなおバカさんは生きる価値ないよ。つまりどう考えてもこの世界は皆殺し以外はありえないんだよ。あれ、もしかして私って正義じゃん! そうだよね。空君のためにすることが正義じゃないわけがないもんね。もう分かりきっていたことだもん。それなのにこんな正義の邪魔をするなんておかしいね。色々とおかしいよね。やっぱり世界には私と空君以外の誰もいらないね。もうそう結論が出てるんだから悩むことなんて何もないよね。あぁ空君! 私の空君! 愛してるよ! 宇宙で一番愛してる! 空君の敵は世界の敵! もし空君に興味を示さないならそれは絶対悪で滅ぼすに値するよ! 私は一目見たあの日から空君が大好きだった! あのクールで鋭い目に綺麗な唇、それに男の子らしいカッコイイ髪の毛。もう全てが大好き! そして私は完璧な美少女! 私と空君はベストカップルなの! そうだ! 新婚旅行はどこにしようか? アメリカ? フランス? 中国? オーストラリア? それとも国内旅行? 今度、空君に聞かないと!でもその際は私達を理解できないキチガイを予め殺しておかないとだけどね。これから出てくる空君の敵になるかもしれないもの? 人類を全て滅ぼせばそんなのは出てこないよ。よくある全世界の全てを敵に回しても君を守る。私だったらその敵を全て滅ぼせる! 私にはそれだけの力がある。ドラキュラ王だって天邪鬼だって神崎真央だって私の敵じゃない! 私は最強なんだ! やっと空君と会えたと思っても真央とかいうキチガイのせいで全然会話が出来なかった。ほんとにイラつくよね。空君も同じだよね。だって私達は夫婦だもんね。同じじゃなきゃおかしいよね? ね? そうだよね? だから空君も真央に相当イラついてるよね。でも、大丈夫! ちゃんと私が殺してあげるから! 見るも無惨に串刺しにして自由の女神の真上に吊るしてあげるね。それとも月にでも突き刺した方が良いかな? まぁ相談だね! 空君に早く会いたいよ。あの空君の声を聞きたいよ。空君の吐息を嗅ぎたいよ。だから私は今からそっちに行くからね。それまで大人しく待っててね。私がちゃんと迎えに行ってあげるから空君は何の心配もしなくていいんだよ。だって私がちゃんと助けてあげるからね。空君には私がいるから大丈夫だよ。だから間違っても他の女の子と話しちゃダメだよ。私は空君だけを見てるから空君も私だけを見ててね。私以外の女なんて見ないでね。だって空君は私だけの空君なんだからね。ちゃんとそこを理解しておいてね。そうしないと私、怒っちゃうよ?
「さよなら」
私は指を鳴らす。
そうして南極……いいえ、空君の元へと向かった。




