276話 桃花さんの試練
「なるほどね」
まさか私の記憶が消されるとは予想外。
私は真央からの説明をのんびりと聞いていく。
しかし脳内にマイクロチップ。
一体いつの間にそんなものを……
「マイクロチップ入れたのはヒュドラによって気絶した時だよ」
「それでそのヒュドラが後ろにいるのですが」
「あのあと研究して私が人工的に作った」
「ふーん」
果たしてどこまで信じて良いのやら。
しかしまぁ助けられたのは事実だ。
次は絶対にあんなヘマはしない。
「天翼解放」
私はそっと呟き白い羽を出す。
よし、ちゃんと出来るな。
もう完全にこの技は身に付いている、
なら恐れるものはなにもなしだ。
「そういえば響は?」
「もう回収済みだ。そしてペッシェが『嫉妬』の魔神と融合したという話も聞いてるよ。だから今は怠惰の心臓探しさ」
なるほどね。
恐らく魔神の心臓は残り三つ。
魔神王に乗っ取られた海ちゃんが指先は二つと言った。
指先とは恐らく魔神と融合した人のこと。
それであれから綾人が憤怒、ペッシェの嫉妬が生まれたからそこに二つ追加。
すると合計は四つになる。
また七つの大罪に基づいてると考えて合計七つだとするとそこから四引いて残り三つだ。
その四つの内約としては姫の強欲、綾人の憤怒、ペッシェの嫉妬、そしてあと一つは不明。
一体その一つを誰が持っているのか……
まずはその特定が最優先ね。
「もしかしたら陸以外の第四勢力がいるかもね」
「……まさか」
まぁ無いとは私も思うけどね。
もしありえるとしたらエニグマ。
エニグマが魔神との融合者を隠している可能性もあるだろう……
「それより真央」
「なんだい?」
「ノアの方舟ってどこにあるかな?」
とりあえず魔神という未知なる脅威。
それへの対抗策を見つけねばならない。
だから私は真央に問いかける。
「ギリシャのエニグマ支部だね」
「了解。ちょくら落としてくるね。それと空君と海ちゃんは?」
「南極だ」
「うわ、それまた面倒なところに……」
南極か……
空君と海ちゃんなら大丈夫だとは思うけどあそこは魔物の巣窟でドラゴンとかトップクラスの魔物がうじゃうじゃいるし何より寒いし色々とめんどくさい。
ちょっと中学時代に一度お父さんに駄々をこねて連れていってもらったことがあるけどまぁ強ければ良い感じにハンティング出来て楽しいところだよ。
きっと空君や海ちゃんなら楽しめてるよ!
◆ ◆ ◆
「な、なんだこの力は……」
「つまんないね。エニグマってこの程度だっけ?」
崩壊した建物。
震え上がる人々……
そしてその上に立つは私“佐倉桃花”だ。
「……おいで。ミョルニル」
あれからエニグマのギリシャ支部に移動。
それでノアの方舟をよこせって言っても動かなかったので少しだけ懲らしめたのだ。
「……桃花」
「やりすぎとは言わせないよ。響」
オマケに響を連れてきたが意味はない。
しかしこんなんじゃ準備運動にもなりやしない。
いくらなんでも弱過ぎる。
「き、きさまぁぁぁぁぁ」
赤髪の男が走り込んでくる。
彼は【空間】の使徒で能力はブラックホール。
これでもここの支部長をしてるみたいだが……
「……凍ってね」
私はサファイアを投げて凍らせる。
魔法も数段階上のレベルに進化した。
ちょっと宝石を投げれば天候すら変えられる。
私は魔法を使って辺り一面を氷漬けにした。
「……さぁ響。ノアの方舟探そっか?」
うーん。準備運動にもなりやしない。
今の私なら国の一つや二つ簡単に落とせそうだ。
まぁそんなものに興味もないけど……
「桃花。お前、焦ってないか?」
「焦る?」
「オニキスに負けたことで魔神に勝てるか不安になって焦ってるんじゃないか」
「まさか」
そんなわけない。
私が焦ってるわけがない。
私は早く強くなりたいだけ……
もう二度と負けないように……
「それより響こそ平気?」
「急にどうした?」
「右腕が前より酷くなってる」
「気にするな」
だから今はまずノアの方舟だ。
話はそれからである。
しかし建物を破壊してもそれらしきものが見当たらないということは……
「探知」
私は音を鳴らして散策する。
音の反響である程度の地形が分かる。
これは間違いなく地下室があるはずだ。
「みーつけた」
私は少しだけ周りと違う反響をした位置を見つけてそこに近づき地面を足で抉る。
「ほら、やっぱり地下室に続く階段が出てきた」
「お、おう……」
もはや脅威になるものはないと思う。
だが用心棒の一人や二人いてもおかしくはない。
もちろんそれに私が負けるかどうかと言われたら否であり間違いなく勝てるだろうが……
「……桃花?」
「離れて!」
私は叫ぶ。
それと共に熱線が飛んできた。
これはゴーレムか!
やはりそういった兵器はあるか。
「ちょっと待っててね」
私は思いっきり駆け出してゴーレムに近づく。
熱線を連続して放ってくるものの私にそれらは掠りもしなかった。
私は背後に回り込むなら手で首を叩いて落とす。
素材はダイヤモンドでしかも全てに反射の術式が刻まれているね。
魔法で攻撃しようものなら跳ね返る。
しかし物理はダイヤモンドの硬さが邪魔する。
普通なら一筋縄ではいかない相手だ。
だが今の私ならダイヤモンドを砕くくらい容易い。
「行こ?」
恐らくこれで脅威は無くなった。
私達はそれから地下へと向かって歩いていく。
それから少しすると大空洞に出た。
目の前には大きな木製の船がある。
間違いなくあれがノアの方舟……
ここまで長かった。
綾人の単身特攻により無理な鬼ヶ島攻略戦にその後はドラキュラ王の城での面会。
それを終えたらペッシェさん達を連れてモンゴルまでの旅でモンゴルに着いたら謎の地下のダンジョン。
地下のダンジョンを抜けてようやくアララト山に行けると思ったら神崎陸が待ち受けていて負けて私は記憶を奪われた。
そんな長い道のりの末にやっと辿り着いたノアの方舟だ。
「……やぁ待ってたよ」
そんなノアの方舟の前に白髪の美少女。
いや、あれは男だ……
あんな見た目だが男である。
「何の用かな。ルーク・ヴァン・タイム」
「これでもエニグマでは二番目に偉いんだ。そんな僕がこんな惨状で黙ってるわけがないだろ」
「……使徒の反応。ホムンクルスじゃないオリジナルね」
「そうだよ」
最後にして最大の強敵か。
ルークの時間止めをどう攻略するか……
前みたいな小細工は通用しない。
もしも時間を止められたらその瞬間、死ぬ。
これは厄介な敵だ……




