275話 桃花の復活
「今!?」
「当たり前さ。場所は割れてるんだ」
よし、異論は無さそうだ。
では攻めるとしよう。
私は手を翳して転移門を開く。
「おい、真央! 人の話を……」
「さて、行くぞ」
開いてしまったのだから攻め込むしかないだろ。
まったく。そんなことも分からないのか……
私は心の中で愚痴りながらもそのまま転移門に体を頬り投げた。
周りもそれに続くかのように入っていく。
「さて、ここはどこだろうか」
転移した先は敵の本拠地の近く。
本拠地内に転移しなかった理由としては色々だがやはり一番は入り切らないという理由が大きい。
さて、ここから一気に攻め込むとしようか。
「まず転移で敵の本拠地にそのままヒュドラを送り込み敵を壊滅状態に追い込む。そして君たちの仕事は逃げてきた敵を倒すことにある」
基本的には私一人だ。
だがもしも戦線が崩壊、すなわちヒュドラに対抗する手段を持っていたとしたら……
いや、考えるのはやめておこう。
「いくよ」
私は転移門を開き、ヒュドラと共に移動した。
もちろんその際は夜桜とスーも一緒だ。
二人が近くにいるならばなんの問題もないだろう。
だって二人は最強なんだからな。
「真央。あれをやるのか?」
「あれはさすがにしないよ」
「そうか」
あれをやる気は一切ない。
あれは本当に追い詰められてそれに見合う敵が現れた時だけで今回は違う。
「それで真央さん。俺達は何をすればいいんだ?」
「まずは桃花と合流だな」
「了解」
そのためには桃花の居場所を割らねば……
しかし一体どこにいるだろうか?
そんなことを考えてると私達の目の前にゴスロリの男が現れた。
「あああぁぁぁぁ! なんでぇぇすか! これは!」
「……スー」
「何故か洗脳出来ないよ」
つまりあれがオニキスか。
ちゃんと使徒の反応もある。
つまりやつの近くで能力は使えない。
だがそのためのヒュドラだ。
「ヒュドラ頼んだよ」
「クシャァァァァァ!!」
それからヒュドラが飛びかかった。
当然ながらオニキスは回避出来ない。
オニキスの腕がヒュドラに噛まれていく。
「ああああぁぁぁぁぁぁぁぁ! ああぁぁぁ!」
オニキスの腕が腐敗していく。
腐敗は止まることを知らずどんどん行われる。
ヒュドラの毒は強力無慈悲。
そんな毒に対抗できるわけがなかったのだ。
「終わりだね」
そうしてオニキスはあまりに呆気なく死を迎えた。
なんの戦果も残すことなく死んだのだ。
「さてと次に行こうか」
しかしオニキスも大したことなかったな。
ちょっと初見殺しなだけで対策してれば意図も簡単に倒すことができる。
まぁ所詮はその程度の相手だということだ。
「……真央。どうした?」
「いや、少し退屈だと思ってね」
思ってた以上に手応えがない。
こんなの退屈過ぎる。
相手をしていて非常につまらないのだ。
「退屈か。いつもの真央からは聞かないセリフだな」
「実際問題として退屈なんだから仕方ないだろ」
「そうだな。なら本でも読むか? 退屈しのぎにはなるだろ」
「そうだね」
私は夜桜から本を受け取る。
ちょっとしたラノベだ。
何故こんな場所に持ち込んでるか聞きたいところであるが今はどうでもいい。
「人は平等であるか否か……か」
私はラノベに書かれた最初のセリフを音読する。
これはよくよく考えれば難しい問題である。
だが答えは恐らく不平等に行き着くであろう。
この世界に置いて平等なんてものは存在しない。
だからこそ社会主義などといった平等を人々は求めていくのだ。
無いものであるからこそ求めるのだ。
「夜桜が読まなそうなラノベだけど誰から?」
「響からのオススメさ」
「なるほどね」
これなら退屈しのぎにはなりそうだ。
しかし戦場で本を読むとは如何なものかと私は思うところでもあるけどね。
しかしあれだな。
命の危険を一切感じずラノベを読みながら戦う者と必死に生き残るために戦う者。
もうその二つの立場に分かれた時点で平等とは言い難いのではないだろうか。
私達が人は不平等であると遠回しに説明してしまったのではないだろうか。
「さて、俺達は魔王様がラノベを読んでる間に全て終わらせるとしますか」
「夜桜。ちゃんと完結済みのラノベ渡したでしょうね?」
「いや、未完だが……」
「はぁ……あとで怒られても知らないわよ」
何かを思考するのは最大の暇つぶしである。
そして本とは思考するテーマを与えてくれる。
だから実に良いものだと私は考えている。
ただ本に人格が飲み込まれないように気を付けねばならないと私は思うが……
「しかしあの学校を滅ぼしたのは残念だ。せっかく何人かラノベやアニメについて話せる友達がいたのによぉ」
「おや、言ってくれれば生かしたのに」
「いや、そこまでしなくてもいいよ」
しかしあの学校は色々と役に立った。
あの学校のおかげで色々な情報が手に入った。
それに何より空と海、それに桃花を手元に置けた。
しかしあの三人が同じ学校で揃いなおかつそれが私の管理する学校だなんてすごい偶然だ。
「……真央」
「どうした?」
「恐らくあの部屋が……」
「なるほどね」
ここが神崎陸のいる場所か……
よし、入ろうか。
私はラノベを一旦閉じてドアに手をかけた。
そうして中に踏み込んでいく。
「おい、も……桃花」
「いい加減その名前をお前の口から出すな」
中では常に争いが起こっていた。
桃花と神崎陸だ。
「おや、私じゃないか」
「……自分と話すとは奇妙なものだと私は思うよ」
それで早速だが頭が痛くなってきた。
まさかこんな体験をすることになるとは……
今の桃花の中身は私である。
「それで状況は?」
「物音がしたから攻め込んだのかと思ってちょっとそこのクズを懲らしめていたところだ。しかし桃花の体は本当に動きやすいね」
「そうかい」
うーん。
なんて反応したらいいのか……
「それで早く私の記憶は消さないのかい?」
「もうちょっと抵抗とかするものだと私は思うのだが……」
「抵抗してもスーの洗脳があったら無駄だろ」
「そうかい。スー頼むよ」
「任せて」
スーが神崎陸を洗脳して操る。
神崎陸の右手が桃花の頭に触れる。
そうして桃花の記憶を消していく。
私はそのタイミングを逃すことなく桃花の記憶を戻していった。
「あれ、私は……?」
「おはよう。桃花」
「……ちょっと何がどうなってるのかな?」
そうして桃花は完全復活を遂げた。




