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世界調整  作者: 虹某氏
6章【生命】
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266話 ソフィアVS海

 あれから無事に夕食が終わり、私ソフィアは真央に呼び出しをくらっていた。


「さて、ソフィア。一体何を見たんだ?」

「……海さんを見た」

「それで?」

「海さんは魔神王だった! あの姫ちゃんより上位の自我のある魔神! ほっといたら……」

「海の考えが分かるか?」

「視たけど無自覚だった……海さんは無自覚のうちに魔神王に飲み込まれている。だから暴走する前に殺さないと……」


 私は真央に全てを話す。

 真央はそれになんて反応するだろうか。

 今の私には検討がつかなかった。


「ソフィアに海が殺せるのかい?」

「う……」

「まぁそれがソフィアの最善だと思うならやってみるといいよ」

「いいの?」

「どうせソフィアじゃ海は殺せない。それにこれは良い経験になりそうだからね」


 真央から驚くことに殺害の許可が得た。

 私が海さんを殺してみんなを救うんだ!


 そうして私は準備を始めた。

 決行は今夜。

 何通りもパターンを考えた。

 まずは……


「海さん!」


 私は廊下を歩く海さんに話しかける。

 海さんが振り向き私の方を見る。

 やはり海さんはお人形さんみたいに可愛くて……

 いけない! そんなことを考えてる場合じゃない!


「なんですか?」

「一緒に寝てくれませんか?」

「仕方ないですね。いいですよ」


 やった!

 これで間違いなく殺せる。

 海さんを確実に……


「ていうか私はもう寝ますけどソフィアはどうしましょ?」

「私ももう寝ます」

「それじゃあ私の部屋に……」

「ごめんなさい! 私は自分のベッドじゃなくて寝れなくて……」

「そうですか。ではソフィアのベッドに行きますか」


 私の作戦は怖いくらい順調に進んでいった。

 全て計画通り……

 私はベッドに事前に準備済み。

 そして私の部屋にあるドールは259体。

 私の能力はドールや人形を自由自在に操る能力。

 すなわち259体の兵隊が海さんに襲いかかる。

 それも睡眠中に襲ってくるのだ。

 流石にこればかりは海さんと言えど対応は難しいのではないだろうか。


「ソフィアの部屋はどこですか?」

「あっちです!」

「分かりました」


 私は海さんを順調に誘導していく。

 少しだけ罪悪感が湧いてくるが仕方ない。

 海さんだけは殺さないと……

 そうして私は海さんを部屋に招いた。


「わぁ! 凄いドールの数ですね……」

「そうかな?」

「私も前からドールは気になってはいたんですよ。でも色移りとか服探しとか凄く大変みたいで中々手を出せなんですね」

「あーもしかしてキャストドールとかソフビドールを買おうとしてるの? あれはたしかに色移りとか大変なんだよね。だから基本的にはサランラップとか使ったり黒の服は撮影の時にしか着せないようにしたりするんだよ。で、色移りが気になるならビスクドールがオススメだよ。水に濡らさなければ基本的には色移りはしないしね。また、あれは陶器だから基本的にはそこまで気にしなくてもいいんだよ。ただ壊れやすいから扱いは少し慎重に……」


 やばい!

 つい語りすぎてしまった!

 ドールオーナーが増えると思ったら興奮して……

 いや、仕方ない。

 スーと言い真央と言い天邪鬼さんもみんな興味を持たないのだから。

 だから……その……


「なるほど。教えてくださってありがとうございます」

「こ、このくらいならいつでも聞いてくれて大丈夫です……」

「また困ったことがあったらお聞きしますね」


 うー海さん……好き……

 なんて良い人なんだろうか……

 出来れば殺したくはない。

 でも殺さないと……


「ソフィアはどうやって服を集めてるんですか?」

「そんなの手作りだよ」

「全部手作りなんですか! 凄い!」

「物によってはサイズ合うのなかったりするから仕方ないよ。このくらい普通だよ〜」

「こ、これが普通……もはやプロとして生きていける域ではありませんか?」

「そ、そうかな?」

「そうですよ!」


 まさかここまで褒められるなんて……

 ほんとにこんなの大したことじゃないのに……

 慣れたら誰でも出来ることで……


「ていうか海さんの絵の方が凄いですよ」

「そうですか?」

「うん……」


 夕食の時に海さんが芸の一環で絵を描いた。

 その時に描いたのは日本特有の萌え絵というやつだけど凄く可愛かった。

 それを見たドナちゃんが必死に勧誘していた。

 どうもダンジョンタワーに出す魔物やその中の背景を描く人が足りてないとか。


「私なんて女の子しか書けないからまだまだですよ」

「それでも凄いですよ!」

「ではありがたくその言葉は受け取っておきましょう」


 さてそろそろベッドに誘導しなければ。

 今日の私は無敵だ。

 なぜならブラックコーヒーを浴びるように飲んだ。

 つまり眠くなるわけがないのだ。

 それで海さんが寝静まったところを……


「ではそろそろ寝ます。明日またお話しましょうか」

「おや、もう眠くなりましたか?」

「はい」

「それじゃあ寝ましょうか」


 そうして私は海さんとベッドに入った。

 私はそれから海さんが寝静まるのを静かに待つ。

 今か今かと静かにだ。


「……すぅ……すぅ」


 そして海さんが寝静まったのを確認する。

 私はそれを見て腰に隠していたナイフを出す。

 それで心臓をズブリと!

 そう突き刺そうとした時だった。


「な!?」


 海さんが人差し指と中指を使って止めたのだ。

 ナイフはピクリとも動かない。


「もうなんですか……」


 海さんは目を擦りながら起きてくる。

 完全にまずい!

 まさか今のが反応されるとは。


「カナシ! サナリィ! メス!」


 私は端っからドールの名前を呼び海さんの元に突っ込ませていく。

 ドールの手には毒が塗られたナイフが握られていく。

 そしてドール達は海さんを刺さんとばかりに来る。

 それを回避するなど……


「……ん……んん」


 まだ寝惚けてる!

 今殺らないと!


 しかし海さんは寝ぼけながらも全て回避する。

 ドールの数は増えていき百を超える。

 それらを全て寝ぼけながら捌いていたのだ。

 改めて人外じみた身体能力だと実感させられる。


「めっ!」


 そして海さんが駆け出してきた。

 空気がバァァァァってなる。

 あまりの速さに私は呆気に取られる。


 そして……コツンと頭を軽く叩かれた。


 あまりに軽すぎて一切の痛みはない。

 何が起こった……


「ドール大切なんでしょ? 人殺しの道具に使っては可哀想ですよ」


 そして再び海さんはベッドへと戻っていった。

 私は負けたのか?

 間違いなく負けたのだろう。

 あのコツンと叩いた時。

 もしその気になればあのまま脳天をカチ割れた。

 しかし海さんはそれをしなかった。

 私を見逃したのだ。

 しかも殺そうとした理由すら聞かずに……

 なんて器の大きい人……

 そしてなんて優しいのだろうか……

 私はなんて人を殺そうとしていたのだ!

 思わず後悔が込み上げてくる。


「あ……」


 考えてみたらあの時に海さんならドールを破壊だって出来たはずだ。

 それなのに破壊をしなかった。

 それはまさか私のことを思って!?

 だとしたらほんとに謝らねば……

 私の作戦は失敗に終わり後悔だけが残された。

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